ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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35話 山積みの不思議

 

 まつりの冒険序章を一通り聴き終えると、マリンは「なるほどね」と言いながら何度も頷いていた。

 これでぼたんの言葉に漸く合点がいった。

 あの時、フブキとおかゆに容赦ない言葉を浴びせたのは、以前の自分と重ねていたからだ。

 丁度今聞いた「嫌いな自分」によく当てはまる。

 つまり、あの時の言葉は辛辣に聞こえるが、仲間や周囲を頼れ、という彼女なりのヘタクソな助言だったのかもしれない。

 

「そう考えると……ホントに人付き合い苦手なんだなぁと思いますね」

「でしょ? なんか新鮮なししろんも可愛くない?」

「めっっっっちゃ分かる」

 

 しかし、納得行くのはそこまでだ。

 それだけでは、今もフブキと亀裂がある事が説明できない。

 こちらに関してはぼたんとも話したが、やはりフブキ側の何かを深掘りして追求する他無いだろう。

 

「ね、ね、船長はどんな冒険してきたの?」

「船長ですか? こっちもかなり過酷でしたよ」

「聴きたい!」

「いいでしょう。宝鐘マリンの勇士とくとご覧あれ!」

「聞くんだよ?」

「まあまあいいから、雰囲気大事」

 

 ノリノリなマリンはそう言って、咳払いすると、この短期間で起きた極めて濃厚な体験をまつりに聞かせた。

 それはもう、大層自分の勇敢さを誇張して。

 

 話は2人で随分と盛り上がった。

 そして、全ては目前の問題に帰着する。

 

「洗脳かぁ……」

 

 まつりが小さく呟く。

 マリンも相槌を打って難しい顔を並べた。

 

「すでにホロメンが結構歯牙にかかってるから、助けに行こうと思うんだけどさ――行く?」

「行く」

「おっけ、決まり」

 

 マリンの試すような問いに二つ返事で承諾した。

 味方の増員は心強い。

 だが、単に仲間にするだけでは正直心許ない。

 別に、2人が弱いと言っている訳ではない。

 いくつかの保険をかけておきたいのだ。

 

「ただ、そこでさ、まちゅり」

「うん」

 

 マリンが人差し指を立てた。

 

「目的地と集合地を教えるから、航路を別々にして行かん?」

「……アリだね」

「でしょ?」

 

 危険の分散と、仲間集めの範囲拡大。

 これがマリンの欲しい保険だ。

 

「集合場所はハングリー島ってとこで、日にちは……5月の11日」

「ほいほい!」

「島の場所は分かる?」

「分からん」

「どうしようか……地図一つしかないんだけど」

「それは何とかするよ」

 

 根性論でぶち破れ。

 まつりは拳を突き出して勢いだけは見せてくる。

 

「ホロメンはみんな助けたいしね」

「マジでな」

「じゃあ、11日にハングリー島に集合。仲間を連れてくる、でいい?」

「完璧」

「よぉぅし!」

「あ、気軽に人に話しちゃダメだかんね。洗脳に気をつけて」

「りょーかい」

 

 最後、何故か小声になったマリンに合わせて、まつりも声を顰めた。

 

 いいぞいいぞ。

 いい感じに方針が固まって来た。

 

「でもそう言えばフブキがこよりから地図貰ってたけど」

「地図? どこ行き?」

「えっと……ある……あるま……? アルデバラン?」

「宇宙行き?」

 

 島名を忘れたまつりからは、星の名前が飛び出した。

 まあ、実際の名称は地図を見て確認しよう。

 

「まあそれはそれとして、何でこよりから?」

「なんか、お友達が返して欲しければここに来いって……」

「お友達、か……ミオ先輩と『ころね』だね」

「まつり、行かなくて大丈夫?」

 

 向こうからのご指名で呼び出しを喰らった状況だ。

 待ち伏せは当然されている。

 十分高い勝算を持っているからこその挑発。

 確かに今のメンツでは戦力が乏しい。

 でも、見据えるのは最終的な勝利。

 目先の利ではない。

 恥などと言って据え膳を食えば、毒を盛られる可能性だってある。

 

「いや、まだ洗脳の能力者すら見つけてない。2人は気にせずに行って」

「分かった、けど、そこで船長たちがやられたら、元も子もないよ?」

「分かってる、全滅だけはしない」

 

 自分で口にして、正直安心できない言い回しだ。

 全滅しない、とはつまり、数名はやられる覚悟がある、と言う事。

 まさか殺されはしないだろうが、それこそ話題に上がる、洗脳に侵される可能性は非常に高い。

 

 まだまだ積もる話はあった。

 だがそこでお迎えが来る。

 

 コンコンとノック音。

 

「船長、もう夜になりますよ。いつまで待たすんですか?」

「「え! もう夜⁉︎」」

 

 ポルカの言葉への返事ではなく、驚嘆。

 シンクロして声を荒げた。

 勢いよく扉を開くと、ポルカがジト目で立っていた。

 

「随分仲良しですね、会ったばかりなのに」

「疑ってんなら、コイツだけは心配ないですよ」

「その心は?」

「バカだから」

「なにをう!」

「ほら、バカっぽいでしょ」

「夏島を楽しむのもいいけど、食事もあるし、そろそろ戻って来てください。場が持たん」

「――? 夏? まあ、そんな気候と風景だけどさ……」

「ほら、行きますよ、バカンず」

 

 バカ2人を催促する。

 後ろに2人を率いてポルカは甲板に戻った。

 いつの間にか日は傾き、間も無く夜が訪れる、そんな空色。

 

 海の中に沈んでいくような夕陽に照らされて、一同が介していた。

 あまり、空気は良くない。

 悪くもない。

 

「やっと戻ってきた」

「遅かったじゃん、随分と」

 

 マリンとまつりを連れて来たポルカに注目が集まった。

 その焦点をマリンに預け、ポルカは傍に避けた。

 

「すみません」

「ごめんごめん」

 

 2人して軽く謝罪する。

 

「ま、諸々は食事しながら」

「そうだね」

 

 全員で食卓へ移動した。

 食卓には大量の料理が並んでおり、非常に香ばしい匂いが混ざり合って押し寄せてくる。

 

「「「めっちゃ豪華」」」

 

 ポルカ、ぼたん、みこ以外が驚嘆の声を上げた。

 一流コック程ではないが、一般主婦のレベルは遥かに超えていた。

 

「誰⁉︎ 作ったの!」

「あたし」

 

 ぼたんが自ら名乗り出る。

 特に自慢などの意図はない。

 

「料理スキル強すぎる!」

 

 マリンが涎を垂らしながら目を輝かせた。

 他も同様だった。

 

「よくこんなに作れたね」

「それはあたしの能力」

「ほへぇ〜」

 

 まつりは日頃から食べている為、質より量に驚いていた。

 そちらは逆に、宝鐘の一味は眼中になかった。

 

「食べよ食べよ」

「じゃあ――」

「「いただきまーす」」

 

 合掌し、各々が料理に手をつけていく。

 

「もぐもぐ……」

「うまうま……」

「おかゆんの配信が始まる!」

「――?」

 

 黙々と食べる擬音などを口にすると、まつりが反応した。

 マリンだけが笑い、他は無視、または首を傾げる。

 

「で、はべなはらへいいんでふけど(食べながらでいいんですけど)」

「んー?」

「んぐっ……ぷへぇ……ぇっと、何でみこち、ずっといんの?」

「――?」

 

 マリンがながらで会話を始め、まずはみこに振る。

 水を流し込んだ後、口を拭う。

 服の袖が少し湿った。

 

 みこはきょとんとして食の手を止めた。

 咀嚼中の物を嚥下し、マリンを見つめながら――

 

「え、だってみこ、仲間に入れてくれるんでしょ?」

「「え⁉︎」」

 

 事情を知らぬメンバーから驚きの声がシンクロして聞こえた。

 中には驚きのあまり喉に引っかけたり、舌を噛んだりする者もいた。

 まつりとフブキだ。

 

「確かに次会ったらとは言ったけどね? みこちもやる事は終わったん?」

「あー……まぁ、終わったと言えば終わった、かも?」

「歯切れと滑舌が悪いなぁ」

「今のはそんにゃこと無かったよにぇ⁉︎」

 

 少し揶揄うとボロを出すように噛んでいた。

 

「やる事って『はあちゃま』と何か?」

「うん……2年くらい前から、様子がおかしくって……」

「様子がおかしい?」

「どんな風に?」

「んーとね……」

 

 みこの語調の変化から、事態の大きさを察知すると忽ち皆の手が止まる。

 集まる視線と質問に小さく唸って首を捻った。

 

「なんか突然雰囲気が暗くなって……それからは毎日思い詰めたような顔してて……」

「突然って、本当に突然? キッカケも見当たらずに、1日でコロっと豹変した感じ?」

「うん。もっと言えば、昼までは元気だったのに、夕方になったら急に」

「そんな突然……」

 

 何とも信じ難い証言だ。

 みこの主張とはあとの変化が事実なら、昼から夕方の間に何かが起きたのだろう。

 はあとの人格を変えてしまうほど重大な何かが。

 

「それからは『はあとちゃん』、島を出て、何かしてるみたい」

「えっと……色々不可解なんだけど、はあとちゃんがしてる事は知らないし、今までどこにいたかも知らないんだよね?」

「うん」

「でも、みこちゃんがここに居るって事は、連絡取ったんでしょ? どうやったの?」

 

 みこから『はあと』へ連絡を送る手段が無い。

 はあと側から交信するにしても、ポルカが持つような通信機が必要だが、ポルカ曰く世界に出回ってはいない。

 なら残る可能性は『能力』だ。

 

「能力としても、ニエニエじゃそんなことできんくね? としたらその、はあとさんの能力かなんか?」

 

 ポルカとぼたんが逸早くその見解に到達する。

 みこは少し戸惑いつつも頷いた。

 

「はあとちゃんはナウにゃ……にゃう…………な、う、な、う、の実の能力者で記憶にある人の『今』を知ったり――」

「た、タイム! ちょ、お、面白くて……ぷふっ、頭に入んない」

「むぅ…………!」

 

 噛みまくって、根絶丁寧に言い直すみこに笑いを堪えるまつり。

 堪えきれていない。

 いや、そこまで笑う?と周囲は呆れていた。

 膨れるみこそっちのけで席を外して笑いこけ、落ち着くまで1分ほど。

 

「はぁ……ごめんごめん、ナ行に弱いんだよね、ごめんごめん、知ってたはずなんだけど」

 

 笑い過ぎで目元に涙が浮かぶが、本当に笑いすぎただけか?

 まつりの内心が、マリンだけは理解できる気がした。

 

「えっと、にゃんだっけ……」

「おいオメェ」

「あ、そうだ、にゃうにゃうの実のはにゃしね」

「マジでぶっとばっぞ!」

 

 ダンっ、と食卓を叩き身を乗り出す。

 

「まちゅり〜、『き』が『ち』になる子どもと同じだって、一々気にしてたら大変でしょ」

「ま、マリンたんまで……」

 

 みこが悲しそうに瞳を潤ませてマリンを見つめた。

 純粋な可愛さにドキッとする。

 

「もういいから、早く話して」

 

 ぼたんが痺れを切らして催促した。

 みこがムスッとしたまま座り直す。

 

「はい、ナウナウの話」

「……ナウナウの実は――」

「あ、言えた」

「――記憶に残る人の『今』を知ったり、自分の『今』見たりしている事を共有したりできる能力だよ」

「効果範囲とかねぇの?」

「さあ、多分無いと思う」

 

 実質効果範囲無限大の能力。

 戦い向きではなく戦略構築向き。

 しかも、これで「はあと」と出会ったフブキ、おかゆ、まつりの位置情報を常に確認される可能性ができた。

 

「時と場合によっては相当重宝されますね」

「ま、能力なんて所詮ときとばだし」

 

 到底使い道のないと思っていたマリンの能力だって、あったおかげで延命したし、フブキの能力でポルカは一度やられている。

 使い難い能力も、相手によっては想像を絶する効果を発揮する。

 

「クロコさんも能力は相性みたいな事言ってたしね」

「誰だよクロコさん」

「あの日、星街が来るって分かったのも「はあと」ちゃんが教えてくれた……から、で…………」

 

 歯切れが悪くなる。

 何かに気付いたようだ。

 今頃になって漸くある可能性が頭を過り、みこは戦慄した。

 

「どした?」

「……はあとちゃん、いつ星街のこと……」

「知ってたら変なの?」

「船長。星街すいせいは明らかに敵だったでしょ? みこちにも敵意を向けてた。なのにその人とはあとさんが知り合いだったら、どう思う?」

「あー……でもさ、どっかで偶然見かけて、覚えてたとか」

「すれ違う人全員を覚える? 普通無理でしょ」

「ですよね……」

 

 はあとが敵の可能性を潰したいまつりとマリン。

 だが、考えれば考えるほどその可能性が低くなる。

 

「あとは、旅先で偶然怪しい動きしてるのを見かけて、知ってたとかだけど」

「それより敵説の方があるよな」

 

 みこやマリン、まつりが暗い影を落とす。

 それに乗せられて、皆も似た表情をする。

 だが、誰よりも早くマリンが復活した。

 

「とりま、一応はあちゃま要注意で、みこちは仲間になるって事で、いい?」

「おん、いんじゃね」

「えー、みこちウチに来なよ」

「や」

 

 談笑が再開され、和が戻ってくる。

 

「よーし、みこちの仲間入りにかんぱーい」

「え、あ、かんぱい」

 

 マリンの一声にみこだけがグラスを掲げて応えた。

 あらかわいい。

 

「本当にいいのかねぇ、ポンポン仲間を増やしても……」

「ぼーるーかー、捻くれ出てますよ」

「船長こそ、さっきまでの話聞いてた? はあとさんの正体とかも分からない中で、みこちを船に乗せて安全だと思う?」

「みこち強いし、寧ろ戦力アップだって」

「確かに強かった!」

 

 強さはまつり、フブキとおかゆの太鼓判付き。

 懸念がないわけではないが、みこが仲間になれば心強い事は確かだ。

 

「そこは否定しないけどさ」

 

 ポルカもそこだけは過去に目の当たりにしている為、評価している。

 

「そいえば船長、いつここ出る?」

「んー……今から出ても問題はないけど、夜から出航したくはないし」

「『出航』は夜中にするものでしょ?」

「それはまた別の『出航』ね」

「『出航』?」

「意味はわからんけど、卑猥な隠語だってことはわかるのが悲しいよ」

 

 フブキの疑問に答えるように、ポルカが嘆息した。

 

 そんな他愛もない話を食事中にも関わらず繰り広げていたら、いつの間にか食卓の皿は平らげられていた。

 

「まちゅりとぼたんさんがいなくなるのは寂しいけど、明日の朝くらいには出たいですね」

「あ、別々になるんだ?」

「そりゃあまつりは冒険家だしね。まだまだ海を回るよ!」

 

 と嘘でも意気込んだ。

 演技力はかなり高く、一見すれば嘘とは思えない。

 

「あ、そうそう、それでさ、ししろん」

「なんすか?」

「フブキ、地図貸して」

「は、はい」

 

 フブキからまつりへ、そしてまつりがぼたんに見せるように地図を広げた。

 おかゆは少しおかしくて、苦笑が漏れた。

 

「ここ、アルメンドラって島、知ってる?」

「アルメンドラねぇ……」

「何かしら知ってそうな口ぶりじゃん」

「知ってるけど、一応守秘義務ってのがあるんだよ」

「守秘義務? なんで?」

「あたし、元団長」

 

 王国の騎士団元団長として、決して漏らしてはならない情報がある。

 

「それなら船長たち、ルーナたんたちと協定みたいなの組んでるんで、安心してください」

「悪いけど、それが100事実だとしても、守秘義務を破っていい理由にはならん。姫から直接指示があれば別だけど、それ以外はノーとしか言えん」

 

 マリンたちが敵など、微塵も思っちゃいない。

 だが、敵味方、親友、戦友関係なく、守秘義務は絶対に守る。

 契約を破る事が、如何に重たい罪か、語るまでもない。

 

「ふん、固い奴」

「アンタみたいのが、こんな事の当て付けに漏らすかもしれないからな」

「ッ――! バーカっ!」

「はいはい、喧嘩しない」

「ふんっ、私もう寝る!」

 

 頑固なぼたんに悪態をつくと反発され、拗ねた。

 そして不貞寝。

 この世界のフブキは、精神が幼い。

 

「歯磨けよ〜」

「あ、僕も――」

 

 トワのジョークに隠れておかゆが立ち上がりかけた、だがマリンが静止した。

 その短時間でフブキは退室していく。

 それから数秒後――

 

「ポルカ、追ってもらえる?」

「はい? 何でポルカ?」

「勘ですね」

「何のだよ……ってか、追って何しろってんの?」

「まあまあいいから」

「はぁ……拗れても知りませんよ」

 

 続いてポルカも退室した。

 この船の中で、最も信頼できる存在がポルカだとマリンは考えている。

 そして、その考えは、間違いなく全員に伝播している。

 だからフブキも、ポルカになら心を打ち明けて話せるかもしれない、と淡い期待を寄せたのだ。

 ポルカでダメなら、もう誰もフブキの抱える悩みを共に抱えられる者はいない。

 

 ポルカが出ていくと、おかゆはバツが悪そうな表情で、浮かせた腰を下ろした。

 

「ねえ、折角だし、トワも話しときたい事あんだけど」

「話しときたいこと?」

「トワ、能力のやつ食った」

 

 おかゆだけが小さく声を漏らし、他のメンバーはただ黙って聞いていた。

 そして、トワの能力について、一同は耳を傾けた。

 





 皆様どうも、お久しぶりの作者でございます。

 いや〜、今回でみこちも仲間になりまして、いよいよ賑やかになりますね。
 ところで、今何話?
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