ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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36話 オーバーラップコンプレックス

 

 1人先に団欒を抜け、自室へと向かったフブキ。

 数秒後に、コンコンとノック音が鳴った。

 船長だと思った。

 

「フブちゃーん、ポルカだけど」

「え……ポルカ?」

「入っていいか?」

 

 フブキは動揺を隠せない。

 ポルカが自ら他人の悩みに介入する事がないから。

 扉を隔てている内に動揺を仕舞い込むと、返事して扉を開けた。

 

「珍しいですね、ぽるちゃんが来るなんて」

「それなー」

 

 その通りだとフブキに人差し指を向けた。

 

「何か用ですか?」

「船長が気にしてる」

「…………」

 

 途端に口を閉ざした。

 

「意外だよな、船長がああまでして気にかけるとは」

「――?」

「この船乗ってて感じるっしょ? 基本的に他人の事は深く追及しない」

「え……ぁ、確かに……」

 

 ポルカに指摘されて思い返してみれば、確かにそんな節は幾つかあった。

 でも、フブキはマリンにずっと心配されているため、実感がない。

 

「船長のスタンスが発端で暗黙のルールみたいのが出来てるけど、ちょっと船長の意向とは違うんだよなぁ……」

「そう、なの?」

 

 副船長としてか、はたまた僅か数日でも長い付き合いの賜物か、ポルカは鼻高々にそう口にした。

 

「船長は何も聞かないんじゃなくて、疑心がかからないように注意してんだよ」

「疑心……」

「おかげでトワ様も、みこちも、まつりさんも、フブちゃんやおかゆんだって謎ばっかでしょ?」

「そうかも……」

 

 だからいつも勝手にポルカは疑う事から入っている。

 

「このルールがあるからこそ、このメンバーなのかもしれないけど、ちょっと危ないよなぁ」

 

 仲間を知らないってのは、相当な危険を孕む。

 それこそ、今ポルカが最も懸念している…………。

 

 ポルカは首を小さく横に振った。

 

「遠回しになったけど、つまりみんな『暗黙のルール』を履き違えてる。その結果、フブちゃんに対しても深入りしない」

「えぇっと……?」

「船長だけじゃなく、みんな気付いてる。フブちゃんがヘンなこと」

「あぁ…………」

 

 バレない内は、と隠し通そうとする魂胆まで見抜ける。

 フブキが何をコンプレックスに持っているのか。

 何故ぼたんと反りが合わないのか。

 

「船長やおかゆんに言えないんでしょ? なんかこう、直接的じゃなくても話せる事ない? 解決できるかは別として、ちゃんと聞くし、ちゃんと悩むよ」

「……誰にも言わない?」

「言わない」

「じゃあ……ポルちゃんにだけ……」

 

 溜まりに溜まった感情を曝け出す対象として、ポルカを選んだ。

 ポルカとしては有難い話だが、その位置に船長がいないのは、一海賊として問題がある。

 

 椅子が一つしかないので、フブキはベッドに腰を下ろす。

 空気を読み、ポルカはその隣に腰を下ろした。

 

「私、弱い……」

「はぁ……?」

 

 紡ぎ出した一言目がそれ。

 ポルカはイマイチ理解できなかった。

 

「私……昔からずっと弱くて……」

「弱いっつったって、あたしはフブちゃんに負けてんだけど」

「え?」

「フブちゃんは覚えてないだろうけど、マジで指一本触れる事もできずに、秒殺されたよ」

「そうなんだ……。でも、それは私じゃないから」

 

 フブキの記憶にない2人の戦闘。

 いや、戦闘なんて呼べる大層な物ではない。

 なんせ、本当に秒殺だった。

 弱いと言うフブキに負けたポルカは最弱か?

 

「そりゃあ洗脳されてたけど、強さは変わらんでしょ」

「どう、かな……少なくとも、今の私はポルちゃんに勝てる気はしないよ」

「ふーん……まあそう思うんなら、そうなんかも知らんけど」

 

 実際に戦って実力試し、なんて面倒くさい。

 そもそも「強い」「弱い」なんて、個人の主観でしかない。

 

「弱いってコンプレックスがあるのは分かったけど、それだけじゃ説明つかんよね? なんか、後ろめたい事とかある?」

「…………」

 

 黙り込んでしまった。

 聞き方が悪かったか、とポルカを頭を掻きながらどう言い直すか考えていた。

 ところが、フブキはそんな事眼中になく、未だに答える事に躊躇している様子だった。

 

「……私、おかゆん誘ったでしょ?」

「おん」

「おかゆんも、弱いの……」

「あー……仲間が欲しかったって事?」

「んーん……もっと酷い方だよ」

 

 弱い仲間、それ以上に酷い言い方か……。

 

「勿論、本当の理由は『一緒に冒険がしたい』だよ。でも、強い中で埋もれる私を見ていたら……おかゆんを誘ったのは、自分よりも弱い人を近くに置いて、少しでも優位を保ちたかったのかもって……思っちゃって……!」

 

 必死に堪えてはいるが、節々で言葉を詰まらせて、涙を溢す。

 

「今日も、おかゆんから能力貰えるって聞かされて……素直になれなくて……私、ほんとにサイテーだって…………」

 

 両目を抑えて涙を流さぬように塞ぐフブキを間近で見て、ポルカは困り果てた。

 気の利いた言葉とか、あまり言える人間じゃあない。

 

「こんな自分が、もぅ……いゃ…………」

 

 自己嫌悪に陥った。

 閉塞的な船で病むと、そのまま簡単に廃人へと変わる。

 それだけは絶対にダメだ。

 

「いやまあ……言いたい事は分かるけど、皆そんなもんでしょ」

「そんな事ない……私みたいに友達の事……こんな風に…………」

「焦点をそこだけに当てるからそう感じるだけだって」

「ぐすっ……どういう、こと……?」

 

 解を求めるフブキに「そうだなぁ」と敢えて相槌を加える。

 

「人の良いとこ、悪いとこの捉え方の問題でしょ」

「…………??」

「えっと……なんて言やぁいんだ……?」

 

 例え方や言語化の方法を必死に考える。

 沈黙の間に向けられる視線が突き刺さり妙なプレッシャーを得る。

 すると余計に頭が回らない。

 

「友達の長所と短所くらいは言えるでしょ?」

「おかゆんの?」

「別におかゆんに限らず、それこそミオさんとか、仲間で言えば船長とか」

「うん……多分……」

 

「例えばポルカは、船長が誰も彼もを勝手に信頼して仲間を増やしてくのは、船長として、いただけないと思う。でも、これだけの人数を懐柔して、呆気なく仲間として引き込んだり、簡単に打ち解ける才能はかなり買ってる」

 

 分かる?と聞いたが、分からなくてもいい。

 だがフブキは頷いていた。

 

「利点を見れば嫉妬するし、欠点を見れば物によっては嬉しいもんよ。それこそ、戦闘能力と思考力は船長に勝ってる自信があるからね、そこんとこ結構愉悦感じてるよ」

「そ、そうなの……?」

「感じるって。同じようにフブちゃんに嫉妬する事だってある」

「え、え、どこに?」

 

 煽てた訳ではないが、少し持ち上げるとフブキは涙腺を修復しながら興味津々に尋ねてきた。

 

「恥ずかしいから言わんて」

「ええ……」

 

 暫く渋っていたが、仕方ないか、と納得した。

 

「つまりそれ」

「――?」

「皆友達だろうと仲間だろうと、敵であろうと、利点欠点を見てそれぞれ何かしら感じてる。でも、恥ずかしい、とか、悔しい、とかで本人には絶対言いたくない」

 

 だから、おかゆに、その欠点を見て、罪悪感を覚えるから、本人には言わない、という心理は至極当然で一般的だといえよう。

 

「大丈夫かな……?」

「それは最終的にフブちゃんが決める事でしょ」

「そっか」

「ただ、罪悪感を覚えてんなら、直ぐじゃなくてもいいから話すべきとは思うね」

 

 最後にすこーし助言した。

 その上でフブキが何を選択するかは自由だ。

 これで少しでも、フブキの中でこの問題が消化できたならいいが……。

 

「ん……ありがとぽるちゃん……」

「話せてよかったよ」

 

 まだ完全に飲み込めていない。

 この先も永遠に消化できない可能性すらある。

 それでも、ポルカと話した事で一時的に気持ちは落ち着いただろう。

 出来れば事態が大きくなる前に、フブキにはおかゆ本人に打ち明けて貰いたいが、そこはポルカの介入していい領域ではない。

 

「じゃ、ポルカは帰るよ」

「ん……考えてみるね」

「あいよ」

 

 そう言ってポルカは食卓には戻らず、自室へ向かった。

 

 

 

          *****

 

 

 

 一方食卓では――

 

「トワが食べたのはビビビビの実」

「ビビビビ? めちゃくちゃ言いにくいし語呂悪いね」

「んな事トワに言うな」

 

 水を差すまつりを適当にあしらう。

 

「ビビビビの実の電脳人間」

「電脳? 電脳って、脳みそが電気なん?」

「電脳ってのは確か……モーターとか、機械の核の部分じゃないっけ? 機械に電気を送る中心部分」

「そうそう、そんな感じ」

 

 マリンの疑問にぼたんが答え、トワも肯定したが、まつりは首を傾げた。

 工業高出身が関係するのか否か。

 主に電脳とはコンピュータのことだ。

 だが……技術が発展していないこの世界では「電脳」という単語が持つ意味も古いのかもしれない。

 

 おかゆがチラッとぼたんに視線を向けた。

 察したように視線を返し、ぼたんは小さく首肯した。

 

「んでんで、何が出来る?」

 

 食い気味にまつりが目を光らせる。

 周囲からも期待の眼差しが……。

 

『こんな事とか』

「うひゃーー! 頭ん中に直接トワちんの声がするぅー!」

「え、なになに?」

 

 まつりだけ、脳内から直接トワの言葉を処理した。

 他の面々はまつりの唐突な発狂にさまざまな視線を送った。

 主に冷たいものだ。

 

『ほら、船長も』

「おおーー……ゾクっとしますね」

「いい意味でね!」

 

 名状し難い感覚をマリンが名状すると、まつりが補足した。

 だが、それはただの興奮だろう?

 

「ねえねえ、僕にも」

『ほら、こんな感じ』

「うぅ……身構えてないとショック死しちゃいそう」

「寿命は縮まりそうだね」

 

 順々に能力を受け、各々が感想を口にする。

 まだ「みこ」と「ぼたん」は体験してないが、流石に用途は把握した。

 

「テレパシーってやつか」

 

 無音で言葉を伝達する能力。

 だが、様子を見るに縛りはかなり大きそうだ。

 

「雰囲気から、対象は1人だけってところか?」

「ああ、そう言う事」

「どんな理論?」

「え、そこまで聞く……?」

 

 首肯するトワにぼたんは詳細な情報を求めた。

 すると、マリンが拒絶反応を見せる。

 理論や原理など専門的な話は苦手なのだ。

 

「理論や原理は大事。そこさえ押さえれば、多方面への応用もできる」

 

 事細かに理論や原理を知る大切さを説くが、ぼたんの能力は大した応用ができるような能力ではない。

 

「なんか、常に人から脳波見たいのが出てんだよ。それと自分の脳波を繋ぐことでテレパスが可能になる」

「なるほど……種類の違う脳波を幾つも繋げられないのか」

「そんなとこ」

「私たちから送信できます?」

「できる……けど、脳波に不正アクセスして勝手に脳内見てる感じだから、トワから声かけんかったらまず気付けんと思う」

 

 つまり、敵にバレずに情報を盗める。

 圧倒的な、潜入や潜伏からの諜報向き。

 

「戦える?」

「うーん……微妙。ポルカの複製みたいに――こんなホログラムが作れるけど」

 

 トワが真横に自分の立体映像を創造した。

 

「すげぇ、能力被りだ」

「でもポルカのと違って……無実体」

 

 トワの動作に合わせてホログラムも動く。

 但し、ホログラムが何かに触れる事はなく、あらゆる物が貫通する。

 つまり、ソイツは攻撃できない。

 

「あと、自分自身がモーターみたいなもんになるから、エンジンの出力を上げたら身体能力も上がる、けど使いすぎるとオーバーヒートして色々大変」

 

 戦闘での実用性に関しては、ぶっつけ本番だ。

 実際に戦う事で見える利点と欠点はあるし、想定通りに能力が使用できない、なんて例は数多い。

 

「多分他にも使い方はあるけど、今はこんなとこ」

 

 ホログラムを削除して、どう?とマリンに尋ねた。

 

「いや……そう言われても、なんとも……」

 

 マリン的には羨ましい部類だが、わざわざ別の島に隠すほどの能力か、と訊かれると否定せざるを得ない。

 

 がたっ、と突如椅子が引かれた。

 ぼたんが立ち上がり、扉へ向かう。

 

「どしたのししろん?」

「――聞きたいこと聞けたし、寝る」

「――?」

 

 そんなタイプだっけ?とマリンとまつりが首を捻った。

 みこ、トワはおやすみと見送る。

 

 そのままぼたんは退室していった。

 

 束の間の静寂――そして、おかゆも立ち上がる。

 

「ぼ、僕ちょっと、トイレ行って来るね」

「え、ああ、はい、どぞ」

 

 おかゆが足早に続いた。

 

「…………あの2人、仲良いの?」

「さぁ……そんな場面、欠片も見た事ないですけど……」

 

 と、2人は疑問を抱く。

 しかし、考えても分からないし、尾行する気は毛頭ない。

 丁度人が減ってきたので、今日は解散とした。

 

 

 

          *****

 

 

 

 食卓を出たぼたんは自室ではなく甲板へ出て、船首側へ向かった。

 海を背にして淵に寄りかかる。

 星空が煌めくほど暗い夜で、浜や森はよく見えない。

 ザザァー、と波打つ音が静かに響き、少し冷たい夜風が背後から髪を攫う。

 

 僅か30秒ほどで、ぼたんの孤独は終わりを迎えた。

 

「ぼたんちゃん」

 

 おかゆが追ってきた。

 控えめな声量で声を掛け、足音を極力立てぬように歩み寄る。

 

「で、聞いた?」

「うん、お昼の探索中に……」

「察しはつくけど一応聞こうか」

 

 そそくさと話題を切り出し、率直に聞く。

 

「どっちつかずな感じだったけど……ちょっと反対寄り、だったかな」

「容易に想像できる。因みに理由はなんて?」

「僕たちの船には能力者が多過ぎるからって」

「それも無難だね。でもそれだと少し弱い」

 

 淡々と会話が進んでゆく。

 

 そう、実はおかゆは、フブキに能力の事を話す前に、ぼたんに相談を持ちかけていた。

 出会ってすぐだが、その判断を誰よりも的確に見極め、且つ一味でないため客観的に捉えられると信じて。

 ぼたん自身は賛成派だったが、おかゆはフブキにも話しておきたかった。

 だから、相談の続きを保留した。

 その続きが今だ。

 

「今でこそトワさんが能力者って分かったけど、昼間は知らなかったわけでしょ?」

「うん、多分。なんなら、フブちゃんは今も知らないと思う」

「居なかったからな」

 

 ポルカとフブキには、また後ほど情報共有する必要があるが、それはまた別の話。

 

「皆が海に落ちたとするじゃん? で、トワさんとおかゆさんが無能力とするよ」

「うん」

「そしたら対処は簡単な事で、無能力者の片方がマリンさんをなんとかして海から上げる。後はマリンさんの能力で全員救出」

「なるほど……」

 

 プランとしては完璧。

 その場に敵がいない場合の話だが、現実的で最も楽な手段である。

 この時、マリンを海から上げる誰かが居れば解決する。

 つまり、昼までの時点では、トワ1人で事足りていた。

 過去にラプラスを助けた事から、海で1人を連れて泳ぐ能力はあったようだし。

 

「それに、今じゃみこさんも仲間な訳だし」

「――あ、あの人浮けるんだっけ?」

 

 これだけの面子が揃って海に落ちるなんて状況は、まず起こり得ない。

 もしそうなった時は、おかゆ1人が泳げたとて打開もできまい。

 なら、おかゆも能力を得て、全滅の確率を下げる方向性で貢献するが妥当。

 

「結局はあんたの意思だけどさ、フブキに相談したせいで、余計に困ったりしてない?」

「――」

 

 痛い所を突かれてぐうの音も出ない。

 

「流石に何考えてるか分かったな……」

 

 自分自身全く腑に落ちていなかったが、漸く合点が行った。

 フブキがおかゆにどんな感情抱いているか。

 

「いいの? あんた、いいように使われてる感じだけど」

「――やめて」

「……」

「それは、僕も怒るよ」

 

 ぼたんにも物怖じせず、おかゆは怒気を紛らせて言い放った。

 さしものぼたんも怯む。

 他人を怒らせる趣味などない、ぼたんは「悪かった」と謝罪して話を切った。

 

「ただ、相談された以上言っとくけど、あたしは食べる事を勧める」

「――」

「関係性は度外視――っつーか、でないと、友達救えないんじゃん?」

「うん」

「この先あたしはまた船長――あー、まつり船長と行動するから、助言できるのは今日まで。食べるんなら、早めに食べときなよ」

 

 ぼたんはポケットに手を突っ込んで、船首から離れていく。

 

「んじゃ、寝る」

 

 後ろ手に手を振る。

 

「ありがとうぼたんちゃん」

 

 

 

 そして、静かに夜は明けていった――。

 

 

 





 登場キャラ設定プロフィール5

 博衣こより 
 所属と役職……秘密機構「希望の花」、中間管理職
 能力……マヨマヨの実
 能力名の由来……マヨネーズ
 出身……アルメンドラ
 好きな物……マヨネーズ
 嫌いな物……熱さ、寒さ

 戌神ころね 
 能力……ドキドキの実
 能力名の由来……縄文どきどき〜
 出身……ディアスケーダシティ
 好きな物……猫又おかゆ、パパラチアサファイア
 嫌いな物……人混み、インペリアルトパーズ
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