敵襲に備え、常に1人以上の見張りを立てたが、奇襲一つなく、静かに夜は更けていき――朝を迎えた。
「やあ、グッドモーニング」
「おはよ」
マリンの決まらない台詞に普通に返すまつり。
他のメンバーもぞろぞろと起床して何故か甲板に集まる。
「早いけど、まつり達はもう出発するね」
「本当に早いじゃん、朝は食べてかないん?」
「うん、2人分作るのが増えると大変だし、まつりの船も心配だから」
「そうですか……」
少し寂しそうに肩を落とす。
でも、自分が提案した事だ。
ぶんぶんとかぶりを振って、マリンは手を差し出した。
「じゃあまた、ハングリー島で」
「うん、次会う時は、ホロメン全員で」
握手を交わし、再会を約束した。
更に、ホロメン全員で集う事まで。
「是非そうしたいね」
まつりとぼたんは船を降りた。
まつりは振り返り、また大きく手を振る。
「じゃ〜ね〜!」
「ばいばーい! ぼたんさんも!」
「……ん」
マリンの呼びかけに対し、挙手するような控えめさで手を振った。
一瞬その視線がおかゆに向くが、特に言葉は交わさない。
そうして、まつりが見えなくなるまで手を振りながら見送った。
――。
「さて……では我々も出しましょう」
「誰か朝飯作るの手伝って」
「あ、僕手伝う」
「私も」
トワが1人手持ち無沙汰になる……。
「あれ、みこちは?」
「「…………」」
「トワ、みこち起こして来る」
暇人はとぼとぼとみこの部屋へ向かった。
そして、船を出航させ、食事が出来上がるのを待ち――。
出来上がると、みんなで揃って食事を開始する。
まるで家族団欒……いや、ただのホロメン食事会。
「さて、それでは会議を……」
「ナチュラルに始めんな。何でよりによって食事中になるんだよ」
時間は有限ではないが、次の島までまだ暫くかかる。
ことを急ぐ必要などない。
態々食事中に会議など……。
「時間節約だって、それじゃ、議題1、航路について」
「航路? アルメンドラ行くんじゃないの?」
「勿論行きます、が、フブちゃんの地図を見たところ、途中で別の島を経由できるんですよ」
然も自分が見つけたような言い回しだが、現在地と地図の方角が分からず、ポルカに聞いたところ発覚した事実。
「仲間集めに寄りたいんだね」
「その通り」
「居るとも分かんないのに、悠長だねぇ」
他人事のようにポルカが茶々を入れる。
フブキは強く頷いて反対の意を示した。
一刻も早く助けに行きたいと。
「フブちゃん達の気持ちも分かります、でも向こうが挑発してくる以上、下手な手は打てない。こよりが口約束とは言え1週間と言ったなら、それまで滞在していると見ていいはずです」
珍しく策を講じたマリンに、皆唖然として口が塞がらない。
「こちらから打てる手は正直乏しいので、簡単ですが、狙うは滞在最終日の前日、つまり今日から5日後です」
「…………ま、妥当だけど、何で?」
「何でとは?」
「5日後な理由と、突然頭を使い始めた理由」
「酷くない?」
珍しく本気なのかも知れない。
いや……いつも本気だが、いつも以上にやる気がある。
「まあいいや……こほん。いいですか、相手側はこれからアルメンドラとやらを出発するまで、常に警戒体制をとるはずです」
「そりゃあ、多分来るって思ってるだろうし」
「だから、可能な限り襲撃を遅らせることで、相手の疲労を少しでも増やすんです」
交代制としても、見張り役の人間は眠れず、体力が低下するはずだ。
その1人の憔悴の有無が戦況を左右するかもしれない。
「最終日にしない理由はどうして?」
「私たちが得た情報は、出発日だけで、時間が不明です。極小としても0時に出る可能性は有ります。そうなれば、もう追えません」
指を立てて少し誇らしげに鼻を鳴らす。
偉い、偉いぞ船長、と褒めてもらいたい。
「そうやな……同じ島に滞在すれば、偶然鉢合わせる可能性もあるし、その案はトワも賛成できるかも」
顎に手を当てて色々計算した結果、トワもそれが最善だと支持した。
ポルカとみこも既に賛成側。
おかゆはマリンに従うつもりだが、返答はフブキが答えるまで待っていた。
「むむむ……確かにそうかも…………うん、分かった、乗った!」
「ほっ……」
感情が先走らないか心配だったが、フブキはきちんと自制した。
その事に、おかゆも安堵の吐息を漏らす。
「全会一致でオーケー?」
「オーケー」
議題1、船長案可決。
続いて議題2。
「では次ですが……」
マリンは間を置き、おかゆとフブキ、そしてトワを見た。
「ミオ先輩、ころね、ねねち、シオンたんの能力を教えてください」
敵側にいると思われる4名。
AZKi、すいせい、こよりに関しては恐らく誰も知らないが、この4人に関しては、知っている可能性がある。
勝率を上げる為に、この情報共有は欠かせない。
「悪い……トワ、ねねちゃんとシオンちゃんの能力知らないんだよ」
「……そうですか。あ、あと、ねねちゃんじゃなくてねねねね?」
「ねが多いんだけど」
「ねねねって呼ぶの、いい?」
「あーはいはい」
トワの矯正を終え、真面目な視線をおかゆとフブキへ移す。
「私、ころねのは知ってるけど、ミオのは知らないの……」
「僕知ってる」
「――――」
フブキは少し残念そう。
ミオはフブキに隠していたのか、それとも1年間の何処かで得たのか。
「まずころさんね」
マリンはこくりと頷いた。
皆傾聴する。
「ころさんはドキドキの実の心拍感知人間」
「し、心拍感知……? 変わってますね……」
「出来ることは主に3つで、索敵、自身の強化、敵の弱体化」
「ポルカが戦った時も、そんなとこだったね」
記憶を手繰り、ポルカはころねの戦法と適合させて納得がいった。
「索敵は、周囲の心拍音を聞き分けて人の位置を知るの。一度顔と心音を記憶すれば、心音だけで誰か分かるんだって」
「索敵は厄介だなぁ……」
「隠密出来にぇじゃん」
「うん、でも欠点もあって、遠すぎると聴こえないし、周囲に人が密集してたりすると、心音が重なって酔っちゃうんだって」
「なるほど……範囲とキャパ制限」
「因みに人の密集って何人くらい?」
「正確な人数は聞いた事ないけど、多分10人でもキツいんじゃない?」
索敵に関しては、単独で動くと逆に危険、と言う事だ。
敵が一箇所に10人ほど固まっていれば、その心配も無いだろうが、折角のアドバンテージを捨てる真似はしないだろう。
結局の所、隠密は無しか。
「あと、強化と弱化だね」
「そっちも心拍を使ってる。運動量を上げると心拍数が上がるでしょ? ころさんはそれの逆をしてるの」
「ほうほう、つまり?」
「脈拍を無理矢理上げて、運動能力を向上させてるんだよ」
「そっか……じゃあ弱化はその逆?」
「うん、弱化は逆に脈を抑えてる」
突如脱力した理由や、人間離れした腕力もある程度合点がいく。
「普通にそれだと最強すぎるから、ポルカの見立てでは……操作できる心拍量に範囲があるんじゃない?」
「うん。心臓を破裂させるほどの脈拍にはならないし、心肺停止するほど抑える事もできないって」
「で、しかも相手に触る必要がある」
「――そうだよ。すごいね!」
一度の対戦からしっかりと学びを得ているポルカに感心する。
だが、最後だけポルカの読みはズレていた。
ポルカも間違いである事は察していたが、他にうまく表現する術が無かった。
「でも最後のは少し違って、正確には相手の脈を測ることが条件」
「脈を測る、か……」
ころねとの闘いの疑問が全て解消された。
パンチを喰らって接触しても、脈を測れないから、あの時ポルカは体の自由を奪われなかった。
「ころさんは特に腕の脈か、頸動脈に触れてくるよ」
戦い方の癖まで熟知しているよう。
確かにポルカの時も執拗に腕を狙われた気はする。
が、それは癖ではなく、血管が浮いているから脈を測りやすいだけだろう。
「ころねの能力も、解き明かせば万能とは言い難いものですね」
無知の状態で戦えば、その強さになす術もなくやられる。
ポルカのように目利きの得意な人間は戦闘中に弱点を探れるが、皆が皆そのスキルを持つとは限らない。
こんな些細な情報共有が、この先誰かの身を守るだろう。
「ころねさんについて他に知ってる事は?」
能力以外の弱点も聞き出そうと、トワが更に尋ねるが、戦いで使える弱点は特に浮かばなかった。
「……ころねは耐久戦に弱いよ」
フブキが口を挟んだ。
あまりこの会議の参加に積極的ではなかったが、漸く口を開いた。
しかも、かなり使える情報。
だが……マリン視点では意外も意外。
それはどうやら、おかゆも同感だった。
「え、でもころさん、体力凄いよ? 耐久戦は逆に不利じゃ……」
「んーん、確かに能力無しで戦ったらそうかも知れないけど、あの能力で心拍数を上げるって事は、普段より大幅に体力を消費するって事。だから、能力戦では長期戦に弱い」
「――知らなかった」
おかゆも聞かされていない弱点をフブキは知っている。
誰も知らない弱点を、フブキは知る事ができる。
「能力で心臓が強靭になってるみたいだけど、結局疲労は大きい。ころねは自慢の体力でいくらかカバーしてるから、上手くマッチして強いんだけどね」
「いい情報じゃにぇか」
「ああ、これはデカいぞ」
「…………昔ちょっと、見たから」
フブキは頬を赤らめて、満更でもなさそうに答えた。
おかゆは微笑を浮かべてフブキを見つめる。
その端で、ポルカは丁寧にノートに纏めていた。
なんと几帳面な。
「助かります。それで、おかゆせ……おかゆさん、続けて聞いてもいいですか?」
「あはは……うん、ミオちゃんだよね」
マリンの不慣れな呼び方に苦笑して頬を掻く。
その後小さく頷くと、もう一度、今度はミオの能力解説が始まる。
「ミオちゃんはウチウチの実の銃撃人間。名前の通り、銃撃ができる能力」
「ぼたんさんが言ってましたね。実際には誰も見てませんけど」
マリンはテキトーな事を呟きながら、笑いを堪えた。
ウチウチの実って事はつまり……うちうち、うちだよ、大神ミオだよ〜、ってコト⁉︎
なんて、バカみたいな事が頭に浮かんだから。
でも、そこから銃能力へ派生したのなら、バカにできない脅威だ。
「内容もシンプルで例えばこんな風に、小さな物を握るでしょ」
試しに、とおかゆはティッシュを丸めて握り込んだ。
そこから人差し指と親指を伸ばして、銃を構えるポーズを取る。
「これでセット完了。ミオちゃんはここから手の中にあるティッシュを銃の勢いで発射できるの」
銃の勢いで、とは随分内容にムラがあるが、それは目を瞑る。大方拳銃あたりの速度だろう。
「それ、何でも撃てんの?」
「多分。僕も石を撃ってる所しか見た事ないから」
「石でも十分凶器だって……」
近接のころねと遠隔のミオ。
2人でバランスを取れる優秀なコンビ。
しかもそれぞれの一撃は純粋に痛い。
アニメでは銃を何発か喰らっても余裕で生きているが、リアルはそこまで甘くない。
軟弱なマリンが食らおう物なら、一撃で死ねる自信がある。
「ミオの方は、能力を得てから弱点を見た事がないから、分からないよ」
フブキが一足先に、ミオの弱点は知らないと忠告した。
「あ、でもミオちゃん、エイムが悪いって自分で言ってたよ」
「エイムが悪い? 命中率低いんか?」
「うん、能力を得たばかりの頃は特に酷かったみたい。今はどうか分かんないけど」
「……向こうの状態に左右されるので、あまり使える弱点とは言えませんね」
「だよね……」
「でも、頭の片隅には置いとこう」
おかゆの聞き齧った曖昧な情報も、一応一片に寄せつつ頭に入れる。
何はともあれ、一先ず知れる範囲は情報が行き渡った。
たった2人、されど2人。
このデータが将来役立つ事を願う。
「それと、こよりって人の能力も聴いてるよ」
「へ? マジで?」
「うん――」
「それならみこも見た! マヨマヨの実の白濁液人間だって!」
「――⁉︎⁉︎――⁉︎⁉︎――⁉︎⁉︎」
みこの口から飛び出した卑猥な単語に3度ほど、マリンは目を飛び出させた。
フブキ以外のメンバーも、笑ったり、呆れたり、気色悪がったり。
「みこち……マヨネーズ人間だよ、下品な話はやめよう?」
宥めるようにおかゆがこれ以上の失言を抑えた。
会話の内容が恥ずかしいのか、おかゆは少し頬を赤らめて、声量も抑えていた。
マリンはほんのりニヤけて、ポルカとトワがそれを蔑視する。
そしてやっぱりフブキは首を傾げる。
「下品なの? 何の話?」
必要な情報と勘違いしたのか、単なる好奇心か。フブキが深掘りしてきてとても困る。
どうにかしろみこち。
「下品じゃないよ! 生物として何も――」
「黙れ」
失言でないと撤回を促すような言い分で失言を重ねるみこ。
トワのたった一言で黙った。怯えるように縮こまる。
「――? 何の話を……」
「あー、ほら、石灰水に二酸化マンガン加えたら白く濁るでしょ? あんな感じの話」
「――? そうは聞こえなかったけど……それに、それ下品なの?」
「いやいや、下品じゃないよ。あの人科学者みたいだったでしょ? だからそんな話」
「うーん…………」
仲間外れ感が否めない。
だがこれは優しい嘘だ、多少の疎外感は我慢してくれ。
「取り敢えず、船長とみこちは今後発言には細心の注意を払う事」
「仲間だねマリンたん」
「あのさ、今船長何も言ってなかったよね?」
「過去の行いと今の表情の結果です」
日頃の行いが悪いと、常日頃言われているが、大した事はしていない……と思う。
確かに最近、すこーしラインが下がってはいるし、発情しかけたりする事も増え始めてはいる。
これはこちらへ来てから様々な不満やストレスが溜まった影響だ。
「でもマヨネーズ人間って実際どうなん? 強かった?」
実態を知らないトワからの素朴な疑問。
聞く限りでは、果てしなく弱そう。
活用の幅もイマイチ思い浮かばない。
「僕からすればみんな強いから……」
「弱点は高温か低温だから、みこちなら優位に戦えるみたい」
と、2視点からの感想。
高温と低温に弱い、となると、確かに高温を放てるみこは有利だ。
でも、こより1人にみこをぶつけると、この場で決断できない。
他の敵の情報が少な過ぎて、下手に立案できない。
「ん、こよりはみこがやるよ」
「んー……そうは言ってもね……」
「多分あいつ、物理攻撃効かにぇから」
「マジで⁉︎」
「うん。風で切ったのに、傷一つなかった。多分全身マヨネーズにできるんだよ」
全身マヨネーズ人間。
名前だけ聞くと気持ち悪いが、それは即ち、体が流動体という事。
流動体は接触攻撃を全て受け流す。
半自然種的な能力。
因みに、一応補足すると、能力は「
超人系は、超人的な力を得る。
自然系は、電気、風、炎、気体、液体など、天然に関する能力を得て、更に実態がなくその身体に触れる事ができない。
動物系は、動物の力を得た上で、更に強靭な肉体を得る。
「物理無効が事実なら、確かにみこちを当てるしかないかも」
早速難航を極める。
先行きが不安だ。
「AZKi先輩とすいちゃんの方も気になるけど……」
「これと言った情報はないし」
「すいちゃんはブロックを使ってくる、AZKi先輩は浮いたり、粉使ったり、よく分かりませんし」
「――――」
何とも情報に乏しい……。
対して相手側は、マリン、フブキ、みこの能力を知っており、常時警戒体制。
この時点で勝機が見えない。
「これ以上はストレスですね。切り上げましょうか」
「――っすね」
食事も全員完食済み。
食器を流しへと運ぶ。
「にゃんか、あいつの料理の後だと味気にぇな」
「そりゃどうもすんませんね」
みこの小言をポルカは拾った。
チクチク言葉がポルカを刺す……事はない。
固より料理の腕に自信などない。船長が勝手に抜擢した役職であるため、一部からの不満は重々承知していた。
しかも、乗船直後のぼたんの料理から、ポルカシェフの料理への落差は大きい。それを鑑みればみこの独り言も、許容できる。
「でも確かに、一味も増えてきて色々大変になりましたからね……」
一流コックや、料理名人でもなければこの人数の3食分を調理する事は負担が大きい。
ポルカは自分の意思もあるが、スタートからかなりの負荷が掛かっている。
日記を書いたり、作戦を考えたり、諜報したり、一味の体裁を保つために機転を効かせたり……あと料理とかしたり。
「そろそろコックが欲しいですね」
誰よりも早く、フブキが言った。
皆同感。
副船長ばかり負担が掛かる一味は組織として頂けない。
「トワも料理手伝おうか? あんま得意じゃないけど」
「そりゃ助かるわ」
「他は誰かおらん?」
進言し、更に候補を募る。
「みこは料理できない」
「僕もあまり……」
「私も出来なくはないけど……」
といい返事はひとつもない。
「いいよ別に。元々1人でやってたんだし。これ以上増えるとキッチンが溢れるから」
と、場の空気を悪くしない様に上手く断った。
マリンはトントンとポルカの肩を叩く。
「ん?」
「――――」
振り返るポルカを正面から見つめ、マリンは自身を指差す。
まだ自分がいるよ、手伝うよ、と。
「いいよ、船長は」
「ガーン……」
電撃を浴びた様なショック!
擬音を大声で発するほどの衝撃的回答!
涙が溢れちゃう!
「いやでもめげない船長! 皿洗いはしますからね!」
「……はぁ、じゃあお願いします」
「任せろ!」
「お願いね」
「お願いしまーす」
「よろしく」
「ありがとマリンたん」
「え、ちょ、全部?」
皿が積もり、人は捌ける。
虚しく1人だけキッチンに残った……。
「なんでだチクショー‼︎」
マリンは泣く泣く食器を片付けた。