ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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アルメンドラ編
38話 農家とストーカー


 

 2日程かけて海上を進み、一味は目的の島へ辿り着いた。

 半日もかけずアルメンドラへ行ける近隣の島だ。

 島名は不明でその規模も不明だった。

 

 島が見えるとその実態は明らかになる。

 

「あー…………なんか、ザ・田舎って島やな」

 

 双眼鏡で島内の様子を確認するトワがそう評した。

 双眼鏡は次々に別メンバーに回される。

 そして全員がトワの言葉に納得した。

 

 見える限り、殆ど緑で覆われており、所々に一軒家が建っている。

 それも見える限りではほんの4、5軒ほどで、村とすら呼べない。

 もはや野原や森。

 

 こんな田舎に誰が住むかと、突っ込みたい程ど田舎。

 

「ここで仲間探すんですか?」

「うーん……」

 

 いつもポジティブなマリンも流石に言葉に詰まる。

 上陸し易い代わりに、ホロメンとの遭遇率も低い。

 そんな超辺境地。

 かと言って、今からアルメンドラへ行く理由もなく、まして引き返す意味もない。

 どんな過疎地であろうと、来た以上上陸して休息を取るなりすればいい。

 

「とりま停泊します」

 

 マリンの合図で皆が配置につく。

 帆を畳んだり、錨を下ろしたり……。

 

 全く整備されていない砂浜に船をつけ、下船した。

 

 すぅーっと潮風が吹く。

 更に正面の広大な野原からも風が吹く。

 2つの風が衝突し、霧散していく。

 

「でっっっっかい丘だね」

「丘というか……野原というか……村?というか……」

 

 ポツンポツンと点在する建築物の付近には畑の様な、僅かに整備された土地もあるため、人々の営みは感じられる。

 が、それが今も続いているかは定かではない。

 

 浜に船を止めしばらく様子を見たが、人っ子1人現れない。

 本当に、死んだ村なのか?

 

「家、訪ねてみる?」

「そうだな」

 

 幾度も風が吹き抜ける丘を、一同は登った。

 手前から順に、家の戸を叩いたり、窓から様子を伺ったりするが、人の息吹を感じない。

 でも何故か、どの家も畑だけは手入れされており、今尚収穫の時を迎えた野菜たちが並んでいる。

 

「天然……な訳ないよね」

「天然なら、ここまで規則正しく並ばんでしょ」

 

 野菜ごとに区画分けされ、支柱まで建てられる丁寧っぷり。

 家庭菜園にしては大規模すぎる。もはや農家だ。

 

「どうするんですか? このまま進んでも、人がいるかどうか……」

 

 体力の無駄遣いと言わんばかりにフブキが発言する。

 丘になっているだけあって、常に登りっぱなし。

 確かに足への負担はそこそこある。

 

「まあ、この先まで登って何も無かったら、そん時はそん時だって」

 

 ニコニコと笑いながら答えた。

 何か嫌な予感がする。

 

「船長さぁ……」

「あ! 今頭ん中見たでしょ! 絶対見たでしょ!」

 

 また子どもじみた真似を……とトワは呆れる。

 でも、少し楽しそうではあった。

 寧ろやってみたいかも。

 

 増員は望み薄となり、もはや気分転換の為だけに小さな丘を登る。

 登り切ると、丘の反対側が見えた。

 通ってきた側と同様に2、3軒だけ家が建ち、いくつかの畑が見える。

 でも、1つだけ明らかに異なるところがある。

 

「あの家! 煙が出てる」

 

 おかゆが差す指と視線の先にある一軒家。

 その煙突から小さくではあるが、もくもくと煙が立ち上っていた。

 

「料理でもしてるのかな?」

「……行ってみよう」

 

 廃屋だけが佇む広い丘の中、異彩を放つ家に吸い寄せられる。

 足早に、今度は丘を下って家に向かう。

 結局、マリンの考えた「船滑り作戦」は忘れ去られた。

 

「――! ねぇ、あれ」

 

 トワが一つの畑付近を指差した。

 目を凝らしてよくよく見てみると、畑で何かが動いている。

 恐らく人だ。農作業でもしているのか。

 

 恐怖心を煽る様だが、皆でゾロゾロと近づいてみた。

 

 かなり接近するまで気づく気配もなく、何やらぶつぶつと文句を言っていた。

 

「なんであてぃしがこんなこと……もぅ……。帰ってゲームしたいなぁ……もぅ……」

 

 文句を垂れながら、野菜を採取したり、伸びた雑草を抜いたりと、その姿はさながら農家のおばちゃん。

 やがて距離も縮まり、その少女に影が差すと漸く一味の存在に気がついた。

 

「うぇ……! なによ、あんたたち…………は、おかゆぅー!」

 

 一瞬威圧感を感じて臆したが、並ぶ面々の中に1人、意中の存在を見つけると忽ち笑顔に変わる。

 

「げっ…………」

「――⁉︎」

「おかゆぅー! 迎えにきてくれたんだね、相思相愛なんだねぇー!」

 

 野菜かごを放り投げておかゆに飛びつく。

 その少女は、正真正銘、湊あくあだ。

 

 放られた野菜かごをトワがキャッチし、かごから飛び散る野菜をその他数名が何とか確保した。

 

「おかゆん、知り合い?」

「えーっと……うん、一応、ね……」

 

 否定の言葉を必死に堪えて肯定した。

 と言うか、さっき、あくあを見て「げっ」って声を上げたような……?

 

「もう会えないかと思ったけど、やっぱり運命の赤い糸で結ばれてるって事だよね、そうだよね!」

「随分とご執心ですね」

「うん……ストーカーのスペシャリスト」

「ストーカー? まあいいや。ねぇストーカーさん。ここで何してるんですか?」

 

 おかゆの紹介は雑すぎた。

 犯罪臭の漂う単語が飛び出たにも関わらず、フブキは流して別の話題を展開する。

 「まあいいや」じゃないんだが?

 

「………………」

「……あの」

「………………」

「人見知りなんですよ、陰キャだし」

「陰キャじゃないですぅ!」

「おぅ……」

 

 普通に喋ったため、びっくりした。

 マリンとおかゆは話せそうだ。

 マリンはポルカに視線を向ける。

 

「……こんなとこで何してんですか? ストーカーさん」

「何でもいいでしょ。ストーカーでもないし」

 

 普通に返された。

 ポルカは肩をすくめてマリンに視線を返す。そしてフブキにドンマイ、的な表情を送った。

 フブキも運が悪い。

 今回ばかりは、一方的だが、「ぼたん」といい「あくあ」といい、反りが合わない。

 

「ねえ、無視しないでよ!」

「…………」

 

 あくあの態度は、フブキに対してだけ非常に悪い。

 悪態をつくぼたんはまだマシだった、と思えるレベルには。

 

「ちょっと! おかゆんから離れなよ!」

「…………」

「ッッ――‼︎ せんちょぉー!」

 

 泣きつかれても困る。

 可愛さに発情しかけて困る。

 

「あーい、あくたん離れてくださーい。あくおかアンチのフブキさんがお怒りでございまーす」

「…………」

「……手、離して?」

 

 無理矢理にでも剥がそうと、おかゆの腕にしがみ付くあくあを引く。

 しかし、予想以上に踏ん張りが効いていた。

 がっしりと腕を掴んで離そうとしない。

 

「いい加減にしてよ! ねえ、おかゆんも何か言って」

「うん……あくあ、ちょっと離れて」

「…………」

 

 また黙り続けて無視するかと思ったが、黙りつつもおかゆの指示には従った。

 あくあが腕を下ろす際に、マリンは何かが光る瞬間を見た。

 よく見ると人差し指にリング状の何かを嵌めている。

 指輪……しかないか。しかも、宝石が埋め込まれた高価そうな指輪。

 琥珀色に見えるが、琥珀ではなさそう。

 お宝は好きだが、宝石などを鑑定する目も知識も、マリンは持ち合わせていない。

 

「何でこんなとこに居るの? 1人?」

 

 あくあはそっと腕を上げて、すぐ側の、煙が上がる家を指した。

 その家が焦点となる。

 マリンとおかゆは顔を見合わせ、頷いた。

 そして、マリンが玄関の戸の前まで歩み寄る。

 

 緊張で少し身震いした。

 覚悟を決め、扉をコンコンと叩く。

 

「――お野菜取れた?」

 

 ガチャリと扉が開き、中から1人の少女が姿を現す。

 

「ぁ…………」

「わっ……どちら様でござる?」

 

 マリンの目前で、風真いろはがきょとんと首を傾げていた。

 

「風真いろは、お前の味噌汁が毎日飲みたい」

「――???」

 

 告白のような勧誘文句。

 ポルカ以外の全員が突然の告白に呆気に取られる。

 

 ポルカがマリンの情動を抑えようと近づきかけたが、それよりも早くみこが割り込んだ。

 

「みこがいつでも作ったげるよ!」

「料理できないって言ってたじゃん」

「マリンたんが望むなら、出来るようになるよ」

「美味しく無かったらみこちのこと嫌いになるかもよ?」

「マリンたんはそんなに酷くないにぇ」

「そっか、でも風真のがいい」

「むむ…………お前、ライバルな」

「はぁ……どうも……?」

 

 見知らぬ人達が目の前で口論を始め、しまいには突然ライバル視される。

 反応に困り果て、いろはは取り敢えず相槌を打っておいた。

 

 状況整理が付かないまま流れていく時間。

 ポルカがマリンの肩に手を置き、落ち着くように促した。

 

 きちんと、一つ一つ話を進めていこうか。

 

「そうですね……私たちは宝鐘海賊団です。さて風真いろは、仲間になれ、うちの料理人として」

「ちがうだろコラ」

「いだだだだだ」

 

 自己紹介はよし、だが最初の質問が間違っている。

 マリンの耳を引っ張ってポルカが強制終了させる。

 

「……海賊、でござるか?」

「ん、まあ名目上は」

「……」

「怖い顔しなくても、別に悪い事はしないですよ」

 

 海賊と言う単語を耳にして、いろはの顔が変化する。

 言葉など何の意味もないが、マリンはきちんと布石を打っておく。

 

「色々聞きたい事があるんだけど、いい?」

「風真に?」

「うん……と、そこの人とか、この島の事とか……」

「時間かかりますか? 風真いま料理中なんでござるよ」

「内容によるけど、多分かかる」(船長が変なこと言いそうだし)

 

 最後の一言は言葉にはせず、心の中で思うだけにする。

 所要時間を確認すると、いろはは扉を大きく開けた。

 

「それじゃあ、上がってください。料理しながらになりますけど、いいでござるか?」

「風真の家ー!」

 

 マリンが真っ先に突入した。

 

「すみません……」

「いいでござるよ。どうせ暇するだけだし」

 

 あくあとマリンの分をおかゆが謝罪する。

 いろはは快く一味を迎え入れてくれた。

 

「――!」

「……? トワちゃん、どうしたの?」

「……あの人、心が読めん」

「心って、脳波でどうこうっていう?」

「おん……」

 

 相手と脳波をコネクトしようと試みると、何故か遮断される。

 意図的なのか、無意識的なのか……。

 意図的なら、末恐ろしい。

 

 トワは誰よりも警戒心を高め、最後尾でその家に踏み入れた。

 

 

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