AZKi(と思われる存在)によってすいせいは連れ去られた。
この場合は誘拐ではなく、多分仲間として。
一難が去って……。
去った……よね?
「……」
みこは憂うように空を見上げている。
神社で3人、段に座って話し合う。
「ポルカ、私たちももう数日ここに残りましょう」
「ん、おっけ」
「え……」
マリンの決断にみこは声を詰まらせた。
そして、少しバツが悪そうに俯く。
「数日は懸念が残るから、みこちが落ち着くまではここにいようと思う」
「……いいの?」
黙れ、出てけ、とか言われると思った。
マリンは目を見開いてみこを見つめ返した。
少し、恥ずかしくなった。
「ま、なんかあったら怖いしね」
ポルカは異論なさげに桜を見上げていた。
「あ、ありがと……」
素直にお礼を言われた。
想像と……いや、記憶とは相反する態度。
正確に差が生じている。
でも、何にせよ……
「ヤバい、ムラムラしてきた」
「真面目に言ってんのに」
「真面目にいうからでしょうが」
「可哀想」
マリンの発情を真面に取り合っていては、話にならない。
「……でも、待ってくれても、その……」
「いいよ別に、仲間にならなくても」
「……」
強制はしないし、できない。
乗船してほしい気持ちはあるが、みこの現状と感情を考慮するなら、乗らないがベスト。
「ただみこちがここで元気にしてるなら、それでまあ、十分かな」
「そうっすね〜」
マリンの作り出すエモい雰囲気を、ポルカが意図的に壊す。
マリンに似合わないと見抜かれた。
わざわざ壊す必要もなさげだが。
「おめえ……いい奴、だ」
「何その、頭悪いモンスターみたいなの」
「またそうやって……」
みこが見直してくれているのに、マリンはお構いなし。
いらないんだ、マリンには。
新鮮だけど、そんな変な関係性は。
「3日くらいはこの島に滞在するけど、そこからは別の島へ行くよ」
「ん、分かったにぇ」
マリンはみこに多少ながら好意を寄せられてしまった。
それが恋愛的なものか、単なる友情的なものかは定かではない。
宿はみこに提供してもらい、3日間、サクラカゼに滞在した。
しかし、結局何も起こらなかった。
無論、それが平和であり、いいことではあるが。
たった3日だが、案外することのない島で、暇だった。
季節が春なら観光にもうってつけだが、残念ながら夏。
起床、船の点検、みこの観察、商店街を巡回、宿へ戻り就寝。
こんなルーティン。
繰り返して3日後……。
船出の前にと、マリンとポルカはみこの神社に再び呼ばれた。
「マリンたんも、ぽうぽうも、いい奴と見込んで頼みがあるにぇ」
神社から、一つの箱を持ち出してみこが頭を下げる。
急な依頼と誠意にマリンとポルカは戸惑った。
「これを、信頼できる奴にあげてほしいんだにぇ」
そっと開いた箱の中。
現れるのは、そう、果実。
紫に近い色をした、奇妙な果実。
「……マリンたんのいう悪魔の実だにぇ」
「見たことないって言ってなかった?」
「嘘だよ、見たことはある」
「まあ、あんな風に迫られたら嘘つくよね」
よくよく観察するが、やはり悪魔の実のようだ。
すいせいを欺くため嘘をついたが、実際はこのように、持っていた。
「どんな能力?」
「知らにぇ」
「おいおい……」
持ち主さえも知らない能力。
マリンの食べたもの、みこに食べさせたもの、そしてこれ。
考えてみれば、食べてみないと内容は分からない。
余程有名な能力でなければ、外見での判断は不可能だ。
「で、これは、どういう経緯?」
「んーと……ちょっと、詳しくは言えないけど」
「んじゃ、言える範囲で」
「これは、アクニンの手に渡っちゃいけない能力……らしいから」
「確かに禍々しいワ」
みことポルカが対話を重ねる中、マリンがいつの間にか箱を持っていた。
話も聞かずに預かった。
「これを食べさせる人を探せばいいんですね?」
「……そう」
「いいですよ、それくらい」
「船長、いいんすか? みこちは信頼を寄せてくれてるけど、こっち側は信頼できる要素ゼロですよ?」
「いいの、みこちだから」
「はぁ……」
ポルカの正論にはマリンの暴論。
マリンの暴論に、ポルカはため息。
だが、異論は唱えない。
本当に危険視していれば、異議を唱えるが、まっすぐな目線が真実を伝えているように見えた。
「もし、アクニンの手に渡るかもと思ったら、捨ててもいい」
「そんなに?」
「そんだけの価値はあるらしい」
場合によっては排除をも視野に入れるほどの強力……いや、凶悪な能力。
それを食べるに相応しい人が……いるだろうか?
普段の温厚さで考えれば……そら先輩、ロボ子さん、フブちゃん、アキ先輩、メル先輩…………。
「…………」
「どしたの?」
「や……なんでも」
頭に並んだ温厚そうなメンバーたち。
トントン拍子にホロメンが見つかるとは思えない。
そもそも、この世界にいるのかすら……。
ここまでに計4人。
2人は敵対、1人は仲間、1人は不明。
「とにかく! この実は預かります」
「ん、ありがと」
「船長が言うならしゃーない」
よって、新たな悪魔の実を船に置くこととなる。
だが、今回はニエニエの実のような、雑な譲渡はできない。
人を選ぶべきと、指示を受けた。
知らぬ人にしても、よく人を見て選ぶべし。
「……マリンたん」
「ん、何?」
「今の問題を何とかして、また会ったら……みこの事、仲間に入れてくれる?」
「……」
照れ臭そうにもじもじしながらマリンの目をチラチラ見た。
可愛さに胸打たれたマリンは発情しかけるが、我慢。
熱情をグッと堪え、みこの言葉に真摯に向き合う。
まあ当然、選択肢は一つだけ。
「勿論、その時は絶対仲間になってよ」
「うん! 約束!」
ここを仕切りに、みことは別れた。
悲しくなるから、海岸まで見送りには来ないそうだ。
海岸にて、マリンとポルカは出航支度を整え、持ち場に着いた。
悪魔の実に腐る概念はないため、金庫に錠をつけて保管した。
「さて、次はどこへ向かうのか!」
「南東が一番近くの大きい島って言ってましたよ」
「南東ってどーっちだ!」
「あっちですね、ちゃんと羅針盤見てください」
「読めません」
「何で海賊やってんの」
ホロメンの多くは方角がわからない。
上下左右の定まったゲームの盤面ですら分からないのだ、どちらが北かも定まらない中で理解しろなんて無茶苦茶だ。
出航し、舵を切り、次なる大地へ。
到着まで、1日以上はかかる。
いかに暇な時間を上手く潰すか。
「ねえポルカ」
「なーに?」
「ポルカはどう言う経緯で悪魔の実食べたん?」
「急にどしたんすか」
「いやさ、能力を知って食べたのか、そうじゃないのか、気になって」
「あぁ……そういうね」
視線をマリンから外して、首元に手を当てる。
少し戸惑ったように苦笑いを浮かべるが、向き直るといつもの機嫌になっていた。
「知らずに食べたよ、結構昔」
「むかし……か」
昔、と言われてもピンとこない。
マリンはつい先日まで、本来の世界でポルカと出会っているのだから。
「そう、むかし。親友と冒険に出て、そん時に見つけたのをじゃん負けのあたしが食べた」
「負けが食べたんか……」
「そりゃあね、毒はなさそうだったけど、得体の知れないもんだったから」
弱くはない能力だ、勝ちが食べても申し分ない。
まあ、もっと派手で格好いい能力をご所望なら、ハズレだが。
「その親友とは今でもたまに連絡取ってるよ」
「へえー、ケータイ?」
「……ケータイ? よく分からんけど、通信機ですよ」
無線のような機械を取り出す。
この世界にケータイ電話はないらしい。
変わりに通信機。
連絡のみに特化したものだろう。
「通信機って、どんな感じ?」
「対になる機械とのみ通信が可能な代物。もう一方は勿論、親友持ち」
「へえ…………」
代物?
ケータイの大々劣化版だ。
科学技術が進歩していない。
そう言えば、羅針盤である事にポルカは突っ込まなかった。
コンパスが存在していない……?
……いや、通信機を代物と評すると言うことは、この機械、世に出回ってないのか?
「凄いもんがあるんですね」
「まあ、ポルカの住んでた国は科学技術が他より進歩してたかんね」
色々とややこしくなってきたが、この世界の時代背景も段々掴めてきた。
マリンに歴史の優れた知識はないが、海賊が流行った時期であると分かる。
「てかさ、今更になって言うけど、食糧が減らなかったのって、ポルカが複製したもの食べてたからであってる?」
「あってる。料理や咀嚼して形が大きく崩れれば、複製物は消滅しないから」
「それって結局無限ってことじゃん」
「いやいや、本体を食べたら複製できなくなる。でも、本体を放置すればそれが腐る」
「時間制限付きか」
「しかも生ものは特に注意」
重要な話のネタは早々に底をつき、他愛もない話を並べて、時には1人の時間を過ごして暇を潰した。
やがて次なる島に辿り着いた。
海上からでも遠目に見える、高々と聳え立つ巨城。
それを小高い丘に置き、その麓で栄える街並み。
そのどれもがピンクやオレンジ、黄色など、イメージでは女児の好みの色彩。
細かく言えば、水色や黄緑など、淡い色や薄い色で統一された景観が、目に痛い。
正面には港がある。
島の玄関口のような発展具合。
甘そうに装飾された港だ。
「迂回して人気のないとこに停泊します」
「おけ〜い」
大きく半周ほど迂回して、未発達の浜へ船をつけた。
幸い、人は……
「おい! そこの船!」
残念ながら、見つかった。
しかも、温厚な雰囲気でない。
明らかな敵意を向けて放たれている。
「怪しいぞ! 出て来いよ!」
ここに船をつけたことに対してだろう。
港があるにも関わらず、人気の無い浜への停泊。
明らかに人の目を避けている。
賊の発想ではある。
だが、逆にこうも単純な停泊を本物の賊はしない。
「怪しいのは認めますけど、悪い奴じゃないです」
マリンは両手を上げて浜に人影を探す。
敵意の無さをアピールしつつ、様子見、のつもりだったが……。
何故、こうもトントンと、世界は彼女たちを引き合わせるのだろうか?
「貴様、1人か?」
「……ラプラス・ダークネス」
新天地にて、出会った人。
それは、牙を剥き出しに威嚇してくる、ラプラス・ダークネスだった。