ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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40話 失恋

 

 子どもの頃から、湊あくあは猫又おかゆが好きだった。

 理由なんて単純なもので、優しくてカッコ良かったから。

 出会い方も普通で、ただ公園で出会った、だ。

 取り上げて語る程大層な関係性ではない。

 

 ほんの少し、あくあからの想いが一方的なありきたりの関係性。

 

 

 

 その日も幼いあくあは、おかゆと遊びたくて、おかゆの家を訪ねた。

 おかゆに会うその瞬間を待ち侘び、わくわくと胸を躍らせ、全身を跳ねさせて、玄関の前で待っていた。

 ガチャリと扉が開き、幼きおかゆが顔を見せた。

 

「あくあ? どしたの?」

 

 予想外の来訪にきょとんとする。

 

「あそぼ、おかゆ!」

 

 子ども同士の一般的なコミュニケーション。

 アポも無く、気まぐれで訪問し、集まって遊ぶ。

 だからいつも発生するすれ違い。

 

「あー、ごめんね、今日はころさん達と遊ぶ約束があるから……」

 

 申し訳なさそうに視線を落とす。

 あくあも残念そうに俯くが開き直りが早い。

 

「んーん、あてぃしこそ、とつぜん来てごめんね」

「またこんどあそぼ?」

「うん、じゃあ……また次ね」

 

 この日はこうしてアタックは失敗。

 

 めげずに向かう翌日も――同様の成果。

 そんな毎日。

 だけどあくあは、決して約束を取り付ける事はない。

 おかゆも自ら予定を立てはしない。

 だからいつも、2人はすれ違う。

 

 次第にあくあは、おかゆの家を訪ねなくなった。

 

 代わりにいつもの様に尾行を繰り返した。

 暇な日は毎朝おかゆの家へ通い、静かに外出を待つ。

 出て来なければそれまで。

 でも出て来れば、その後を追う。

 追跡して、その行動を観察する。

 これが日課になってしまった。

 

 そんな事、おかゆは露知らず1年が経過した。

 

 おかゆが普段から遊ぶ仲間は、白上フブキ、大神ミオ、そして戌神ころね。

 この3人――特に戌神ころねが恋敵。

 その3人が突如、森へ入り始める。

 毎日のように森へ入っては探索を続ける。

 

 その風景を嫉妬の目で見続ける。

 幸か不幸か、尾行に適した能力のおかげで、誰にも見つからずに日々を過ごせた。

 

 そして、探検が終わり、その成果の品まであくあはその目で見ている。

 

 4人の親しげな姿にいつも嫉妬して、嫉妬心が燃える度に、おかゆの存在が自分から遠ざかっている気がしていた。

 

 

 ………………。

 

 

 ピンポーン――。

 

「……?」

 

 ある日、人生でも稀にしか鳴る事のないインターホンが鳴った。

 セールスや勧誘、集金、宗教関連なら居留守を使う。

 そう心に決めて覗き穴から覗いてみれば――

 

「おかゆ!」

 

 次の瞬間、扉を勢いよく開いて飛び出した。

 

「うわっ、びっくりしたぁ……」

 

 玄関の扉が閉まるほどおかゆとの距離を詰めた。

 あくあの猛進っぷりに仰天する。

 

「ど、どどどど、ど、ど、どどっ――!」

 

 激しく動揺し挙動不審になるあくあを、おかゆは面白い人と評して笑い流す。

 無意識だろうと、こんな所も好きだ。

 

「はいこれ、上げる」

「…………?」

 

 おかゆが両手で何かを握り、隠すように差し出す。

 あくあも手を伸ばして、おかゆの手の下で右手を開く。

 ぽん、と落とすように手渡された物は――

 

「これ……宝石……?」

「うん、えっとねぇ………………」

「な、なに?」

「ちょっと待ってね、名前、思い出そうとしてるんだけど……」

 

 石を見たり、空を見たり、地を見たりして必死に頭を回転させ、記憶を探る。

 宝石の名前、何だったか……。

 鑑定に出して、名前を聞いたが……これは確か……。

 

「んぐぐぐ…………………そう! インペリアルトパーズ‼︎」

「インペリアル、トパーズ……」

 

 宝石に興味は無かった。

 でも、飛び上がるほど嬉しかった。

 

「い、いい、いいの、こ、これ! 探検で見つけてきたんじゃ……」

「うん、そうなんだけど……あれ、何で知ってるの?」

「へ⁉︎ あ、いやそれは‼︎」

「――――?」

 

 有頂天になり、つい口を滑らせたあくあ。

 純粋な眼差しが突き刺さり、噤んだ口がゆるゆると開いてしまった。

 

「そ、の……こっそり……尾けてたから……」

 

 素直に白状するあたり、やはり根はいい子なのだと思える。

 時間や周囲との関わりもあって、関係を拗らせてしまっただけで……。

 

「ぅぇぇ…………」

「ああぁ! お願い引かないでぇ!」

 

 ざざざざっ、と距離を広げられ傷心するが自業自得。

 因果応報だ。

 

「…………いや、うん……」

「なにその歯切れの悪さ! いいよもう、引いてるんでしょ! あてぃしが悪かったから!」

 

 開き直り逆上。まったく、手に負えない。

 

「いや、その……プレゼントもそうなんだけどさ……。もう出会ってから1年以上経つのに、いっつもあくあの誘い断ってたから……」

「――もしかして、罪悪感でも感じてたの?」

「――うん。断るだけ断って、いつも遊ぶ約束とか立てずにいたから」

「いいんだよ! あてぃしそういうの苦手だし! それに、おかゆはあてぃしのやり方に合わせてくれてたんでしょ!」

「ぇ……なんで……」

「わかるよ! おかゆのやりそうな事だもん」

 

 あくあから約束を取り付けて来ないから、おかゆも敢えて約束していなかった。

 だからいつも、3人と遊び終わった後に決める次の集合日程が先に決まり、突然やって来るあくあと遊ぶ時間が設けられなかった。

 相手があくあでなければ、フブキ達と交えて遊ぼう、なんて誘ったが、あくあの人見知りを知っているおかゆは、それすらもしなかった。

 どうせ断る事を、知っていたから。

 

「ぅぇぇ……」

「ああん、だから引かないでぇぇー!」

 

 また距離を取られた。

 が、今度は冗談がほとんどだ。

 

「えっと……うん、今日は、それだけ……」

 

 おかゆは開いた距離を詰め直し、後ろめたい気持ちを露わにした。

 あくあはおかゆの顔が上がらないうちに、1人で落胆する。

 そして、直ぐに己を奮い立たせ振り向いた。

 

「うん、ありがとうね」

 

 玄関の扉に手をかけ、開く。

 そして、今にも帰る様子を――その背中を、おかゆに見せつけた。

 

「――うん」

「これ、一生大事にするね」

「うん、じゃあ……また」

 

 心残りがないわけじゃない。話したい事だって沢山ある。でも……

 

「…………」

 

 居心地が悪くなり、あくあはおかゆが場を離れる前に扉を閉めた。

 普段なら、直ぐに扉に張り付いて、覗き穴からその背中を眺める所。

 だけど今日は、そのまま力無く崩れて、ひっそりと泣いた。

 大切に大切に、貰った宝石を握り締め、涙を流した。

 

「やっぱり……あたしなんかじゃぁ…………」

 

 振り向いて来れない。

 振り向かせられない。

 

 知っていた。おかゆの好きな人はころねで、あくあなんて眼中に無い。

 それなのに、まるで慈悲を与えるように、こんな宝石なんかプレゼントに来て――。

 

 

 もっと好きになってしまった。

 

 

 10分ほど、悲しみに暮れていた。

 でも、1日を泣いては過ごせない。

 一生を泣いては過ごせない。

 

「ぐすっ……」

 

 鼻を啜った。

 腕を大きく使って涙を拭う。

 洗面所へ駆け込んだ。

 鏡には、赤く目を腫らした自分がいる。

 パチンと頬を叩いて、喝を入れる。

 

「――変わらなきゃ」

 

 顔を引き締め、心に誓った。

 

 

 

          *****

 

 

 

 そして月日は流れた。

 

 変わると決めたあの日から、ストーカー行為も「減らし」、自分の在り方を見直して、良い人間になろうとした。

 あれから、おかゆとは一度も話していない。

 おかゆは、あくあと会ってすらいない。

 あくあは1週間ほど前に尾行した日が最後。

 

 さて、今日は観察と研究の日。

 自分がどうあれば、おかゆを惹きつけられるのか。

 それを尾行する事で研究するのだ。

 

 現在のおかゆの好み、流行り、趣味。

 随時変化する好みを逸早く察知し、どんな傾向にあるのか、自分が口説き落とすとするなら、どんな手法が有効かを考える。

 

 今日もまた、手帳片手におかゆの家へ向かった。

 

「……?」

 

 しかし、いる気配がない。

 おかゆが側にいれば、恋愛センサーが働き感知できる。

 感知できない、それはつまり、おかゆは家にいない。

 

 もう、遊びに出たのだろうか。

 4人がよく集まる場所を、虱潰しに巡ってみる。

 公園、森の入り口、ゲームセンター、それぞれの家。

 どこもハズレだった。

 

「だったら……」

 

 後はあそこしかない。

 あの無人の砂浜しかない。

 

 少し森へ入り、直ぐに道を逸れると、誰も立ち寄らない砂浜に出る。

 そこには、推測通りあの4人がいた。

 

「……?」

 

 否、4人だけじゃない。まだ誰かいる。

 

「……また余計な虫が」

 

 あくあは恨めしそうに爪を噛み、木陰から見つめた。

 無論、能力で姿も消している。

 

 ……しかし、配置が妙だ。

 おかゆ、ころね、ミオの3人が、フブキ+3名と対峙している。

 今にも衝突しそうな、逼迫した空気。

 

「フブキ、何言ってるの?」

 

 仲間割れか?

 

「みんなも一緒に来てよ。ほら、こっちに」

 

 正気を感じられない笑みを浮かべるフブキ。

 そんな奇怪なフブキにミオは腕を掴まれたが、少し強引に振り解く。

 

「ちょっと、冗談はやめてよ。急にどうしちゃったの⁉︎」

「そうだよ、フブキちゃん。それに、その人たちは誰なの?」

「この人たちは私のナカマだよ」

 

 おかゆの指摘にも飄々と答え、はぐらかす。

 

「ふざけないでよ!」

「「「――っ!」」」

 

 フブキの解答にミオが激昂した。

 傍で見てきた3人には、その怒りが骨の髄まで伝わる。

 こんな本気の怒り、初めて見る……。

 

「お前ら――フブキに何をした‼︎」

 

 浜から幾つも石を拾い上げ、両手を構えた。

 その指先がフブキを除く対峙者に向けられる。

 ミオの逆鱗に触れたようだ。

 傍観者を気取っていた3人も、仕方なく臨戦体制をとった。

 

「おがゆ、逃げて!」

「え、でも――」

「守れる自信が無い!」

「そんな――2人は――」

「いいから行く!」

「っ――――‼︎」

 

 ころねとの押し問答に即刻挫かれ、おかゆは180度回転し、街へ走った。

 本人は全く気付かないが、あくあの正面からおかゆが走って来る。

 サッと道を開け、おかゆを通すとその後を追った。

 

 背後では人間業とは思えない戦いの音が響く。

 おかゆは振り返らないが、あくあは一度振り返った。

 すると、1人だけ追跡してくる敵がいた。

 

 おかゆより圧倒的に足が速い。このままでは追いつかれる。

 どちらにもバレぬように、おかゆを守らねば。

 

「混乱の紫」

 

 敵の身体にこっそり紫の絵の具を塗り付けた。

 途端にその女性は立ち止まり、何かに頭を抱え始めた。

 足止め完了。

 

 あくあは早急におかゆの下へ走った。

 間も無く森を抜け、街へ繋がる通路にある公園付近。

 

「うあっ!」

「――⁉︎」

 

 おかゆの悲鳴が耳を劈く。

 声を辿って、おかゆを探せば、なんと言う事だ。

 先まで浜にいた女性が、ここへ先回りしている。

 

「う、ぐ……なんで……」

「私、2人いるから」

 

 あくあの疑問を代弁したおかゆにニコッと笑って返した。

 どちらかが偽物で、どちらかが本物。

 

 ムキになったあくあが、こっそり殴りかかろうと、少しずつ距離を詰め始める。

 

「誰かいるね……君の知り合い?」

「――?」

「違うの?」

 

 おかゆはまるで心当たりが無いと、惚けている、ように見えた。

 9年近く会っていないと、存在を忘れてしまったのか。それとも、迫真の演技なのか。

 

「――!」

 

 弾かれるように周囲を見回すその挙動から、答えは出た。

 

「まさか、あくあ……」

「見えなきゃ捕まえられないね」

 

 と、据え膳を我慢するような表情で女性――AZKiはおかゆから手を離す。

 途端――

 

「わ、わわわわわわっ!」

「――おかゆ!」

 

 おかゆの身体が軽々と宙に浮く。

 そして、風もない中で浜へ向かって真っ直ぐと移動を始めた。

 このままではおかゆを取られてしまう。

 

「吸収の黒」

 

 地面に大きな黒丸を描くと、周囲のありとあらゆる物が特殊な引力で引き寄せられる。

 地形を破壊しかねないため、出力を上げられない。

 しかし、引力が弱く、浮遊で離れる速度と引力で寄せる速度が一定で、おかゆが空中で彷徨い始めた。

 更にそこへ、先ほどの女性も到着し、益々事態は悪化する。

 

「遅いよアキちゃん」

「ごめんごめん、森だと走れなくて……」

 

 途中、目的を見失って混乱したことは秘密に。

 そう内心隠し事をしながら現れたのは先程の追手――アキ・ローゼンタール。

 

「あれ、あの子は?」

「上」

「え、あー」

「ごめんアキちゃん、連れ帰ってくれる?」

「りょーかい」

 

 引力ではどうにもならず拮抗状態にあったおかゆ争奪戦は、アキの登場した瞬間決着がつく。

 

「よっと」

 

 跳躍したアキ。その高度、はるか15メートル。

 空中でおかゆを抱え、そのまま空を蹴るように直角に曲がり、砂浜の方角へ飛んで行く。

 

「そんな――くっ!」

 

 あくあは大至急浜へ戻る。

 僅かに振り返り、この場の敵の残り人数を確認すると――。

 

「――へ?」

 

 もう、誰も居なかった。

 

 紫色以上に混乱する展開に脳を焼かれながら、あくあは浜へ戻ったが、その浜にももう、誰も居なかった。

 

「ぇ…………お、かゆ……は……?」

 

 

 あくあ、恋の受難、第二章はここから始まった。

 

 





 登場キャラ設定プロフィール6

 「常闇トワ」
 所属と役職……宝鐘海賊団、諜報員。
 能力……ビビビビの実
 能力名の由来……ビビ(帽子)
 出身……シエロソニード
 好きな物……忍者、歌、宝鐘海賊団
 嫌いな物……お酒、騎士、満月

 「さくらみこ」
 所属と役職……宝鐘海賊団、戦闘員
 能力……ニエニエの実
 能力名の由来……にぇ
 出身……サクラカゼ
 好きな物……マリン、はあと、赤色
 嫌いな物……巫女の仕事、退屈
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