ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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42話 謎が深まる

 

 時は少し遡り、フブキ達が家を飛び出した直後、いろはの家――。

 

「話って、何があるん?」

 

 トワが首を傾げた。

 側でポルカは、マリンが自分と同様の違和感を覚えたのかと、淡い期待を寄せたが……。

 

「もちのろん、風真の勧誘です」

「はぁ……」

「まだ諦めてなかったんか」

 

 皆が落胆し嘆息した。

 

「諦めるわきゃぁないでしょうが、料理人TOP4に名を連ねるメンバーですよ!」

「じゃあ残り3人は?」

「ミオ先輩とちょこ先生と鷹嶺ルイ」

「どこで得た情報だよ」

「1人知らん奴おるし」

 

 深い接点の無い2人と謎の一名の名が上がり、トワとポルカは困惑する。

 更にみこが思い出したように口を挟んだ。

 

「ぼたんたんは?」

「あれは計算外なので幻の5人目です」

 

 寧ろ幻はマリンの妄想の方で、ぼたんの腕こそが現実だった。

 が、反論して余計な水掛け論をしたくはない。

 

「とーにかく、風真いろは!」

「……」

「あー…………」

「…………」

 

 いろはが真剣な眼差しでマリンを凝視していた。

 剣幕な表情に思わず言葉を収める。

 

「流石に怒ってるにぇ……」

「ぅぅ〜……」

 

 過去にみこやトワを勧誘しているマリンだが、ここまで本気で誘う事は初めて。その証拠に、珍しく幼稚にも瞳を潤ませて情に訴えている。

 トワとポルカは、奇しくも可愛いと思ってしまった。

 

「可愛い船長さんでござるな」

 

 いろはがクスリと微笑みかけた。

 

「悪いないろはさん、船長がここまで熱心に勧誘するのは初めてなんだよ。もし差し支えなけりゃ、理由だけ聞かせてもらえたりせん?」

「色々あったから、そう言うのはやりたくないんでござるよ」

 

 「色々」やら「そう言う」やらと、かなり抽象的。

 説明にならない説明をする、それ即ち、語りたく無いという意。

 

「初対面で風真の料理をこうも賞賛してくれたのは嬉しいでござる。でも、海賊はね……」

「いや、それが普通だし、気にせんくって――」

「なぁんで! 風真船長の事好きじゃ無いんか! 好きだろ、なあ? 船長は風真よりぽこべえの方が好きだけど!」

「また自分勝手な事を……」

「知らにぇ名前も増えた……」

 

 マリンは知っている。今でこそ生粋の星詠みと言われるいろはだが、初期の頃マリンも好きだと言っていた。ホロライブを知るきっかけがマリンだったそうだ。

 こちら側では、何の意味もない名誉だが。

 

「何度言われても海賊はナシ、で、ござる」

「いーやーだー! 風真いろはのご飯がいい!」

「他所様の家で駄々来ねんなよ恥ずかしい」

「こんなマリンたんもいいにぇ!」

「これでいいって……みこち、フィルター掛かってんね」

 

 床に転がり回って暴れたり、いろはに密着して離れなかったりと、否が応でも行くと言わせたい。

 

「いい加減にしないと、風真も怒りますよ」

「風真もって……さっき怒ってたじゃん」

「――ん、なに?」

「いえなんでも」

 

 基本的に穏やかないろはは、怒ると怖そう……と言うか、怖かった。

 鬼のツノを生やしたようで。

 それとも、あれは怒った内に入らないのか。

 だとすれば、「鬼を超える凶暴さ」を隠していると?

 

「じゃあ今すぐ海賊やめます!」

「いいんかそれで」

「所詮コスプレ。社長に生まれ変わった船長なので」

「はぁ……」

 

 いろは以外は最早マリンの説得に諦めモード。

 もう勝手に怒られればいい。

 

「風真の威嚇を無視する所、大した度胸だとは思うでござるな」

「――?」

 

 遂に風真が折れた、かのように一度下ろした腰を上げる。

 冷蔵庫まで歩み寄ると中を開き、在庫を確認する。

 

「ケーキ焼いたげるから、諦めて」

「けーき⁉︎」

「うっ……ぐぐぐぐ……!」

 

 目を輝かせ食いつくみこ。

 マリンはいろはを諦めるか、ケーキを諦めるかで葛藤を始めた。

 

「なんて薄弱な欲望……」

 

 あれほど駄々を捏ねたとは思えぬ葛藤ぶりに、トワとポルカは呆然とした。

 

「いろはさん、あんま気を使わんくってもいいんっすよ?」

「うーん……まあ、5月にね、お祝いのケーキを焼こうと思ってたんでござるよ」

「お祝いのケーキ?」

「1人だけでケーキ焼いても、食べるの大変だから、早めに焼いてお裾分けでござるな」

「1人でお祝い……?」

 

 …………………………。

 

「別にぼっちじゃないでござるよ?」

 

 説得力のない弁明が虚しく消えてゆく。

 

「あくあちゃんが帰ってくるまで、カレーも食べられないし、この間にケーキ作り始めるでござる」

「ま、待って、それ作って食べちゃったら、もう風真を勧誘できないんじゃ……」

 

 ペースに飲まれている事を危惧するマリン。

 実際その通りではあるが、今勧誘して仲間になるかと言われれば、ならないが現実だ。

 

「それとは関係なく諦めなって」

「そうだよマリンたん。みこの時とは違うんだから」

「ぐ、ぐぐぐっ!」

「なんちゅー顔してんだよ」

 

 葛藤と周囲の説得、そして状況の流れから観念したように渋々と頷く。

 苦虫を噛み潰したような、苦渋の決断とでも言うかのような、凄惨な表情で。

 

「仕方がない……風真いろはがダメなら、もう鷹嶺ルイしかいないな」

「だから誰だよ……」

「いや待て、ちょこ先生はキツくても、ミオ先輩ならワンチャンあるか……」

 

 ボソボソと独り言を呟き始めたので、マリンは無視する。

 トワとポルカはいろはに視線を向け直した。

 

「ケーキ、作らんでもこの通り諦めたんで」

「えー、みこはケーキ食べたい……」

「初対面なんだからもうちょっと遠慮というものをだな――」

「いやいや、それこそ気にしないで。風真も…………昔なら船長さんの誘い、受けてたかもしれないから、ちょっとした同情でござる」

 

 儚げに微笑んだ。

 

「…………」

 

 その表情を前にし、マリンは漸く、本気で諦めることができた。

 

 

 

 暫しの間、いろはの料理風景を眺め、妻に欲しいと思いながら時を過ごしたが、ふと疑問が浮かび静寂を破った。

 

「風真いろはは、食料ってどこで調達してんの?」

「基本的には畑のお野菜で生活してるでござるよ」

「広い畑がいくつもあったのは見たけど、全部管理してんの?」

「そうでござるな」

 

 それはもう、ただの農家だ。

 やっぱりナスを生食しているのだろうか。

 

「でもさ、小麦粉とか、砂糖とか、あとは肉とか? その辺はどうしてんの?」

 

 現在ケーキ作りに使用している、砂糖や小麦粉のような加工品は自分では作れまい。畑を見た所、小麦やサトウキビは栽培されていなかった。

 肉だって、家畜動物1匹いない。

 野生動物の肉を取っているなら、不思議はないが。

 

「それは……これ、でござる」

「――!」

 

 いろはが一台の小型機械を棚から取り出す。

 その製品、見覚えがある。

 今この場に、もう一つある。丁度、ポルカが持っている。

 視線が集まる前に、ポルカは同じ機械を懐から抜き取った。

 

「通信機……」

「あれ、知ってた? ひょっとして、アルマ出身でござる?」

「アルマ?」

「おいおい……」

「え?」

「マリンたん、アルマ知らにぇの?」

「え、え⁉︎ 何⁉︎ 有名なとこなの⁉︎」

 

 ここまで来てまたもや知らぬ常識に直面した。

 あのみこでさえ常識として認知するほどには常識で、周知の国名らしい。

 

「機械の国アルマ。世界で最も科学の発展した国。突飛な発明や、利便性の高い製品を多数排出していて、世界に最も貢献し、影響する国でもある」

「ポルカはそこの出身」

「それで通信機持ってんのか」

「確かに……出身国の工学系が発展してるって、言ってたような……言ってなかったような……言ってなかったような……」

「言ってたわい」

 

 記憶を掘り返して、ポルカの出身を聞いた日を思い出す。

 サクラカゼ出航直後だったっか。

 他より科学技術が進歩していた、と口にしている。

 

「……あれ、そ言えばトワ様も通信機知ってるって言ってなかった? 出身ちがくない?」

「トワの方は輸入に近いかも。正規ルートじゃないけど」

「もしかして、聞いちゃまずかった?」

「いや、別に。国の軍隊の上層部のメンバーはみんな出身国が違って、アルマ出身の人もいたから、その人伝で国が数個だけ持ってた感じ」

「異文化交流ってやつだにぇ」

「それは違うと思う」

 

 作為的に構成した人員なら、中々変わり者な王様だ。

 シエロソニードの王って、誰だろう?

 と言うかそもそも……シエロソニードって、どう言う意味?

 

「あー……えー……っとぉ……」

「ああ、すんません。この人が居ると秒で脱線しちゃうんですよ」

「航路は脱線しませんけどね」

 

 自慢するように取り出した通信機を手に、置いてきぼりだったいろはが、話の輪を乱すように小さく挙手をして話を戻す。

 一味は慣れっこだが、初見は動揺する。

 話題を戻そう。

 

「船長、話戻しますよ」

「え? ああ、じゃあ風真いろは」

「――?」

「仲間になってくれ」

「戻りすぎじゃ!」

「ぎゃふ!」

 

 マリンのボケにトワとポルカが力強く物理的に突っ込む。

 数日間でキレが増している。

 マリンが蹴り飛ばされ、勢いのまま床に転がった。

 

「んで、いろはさん。通信機で食品がどうこうって言いますけど、それって取り寄せって事でよい?」

「よい」

「じゃあ、資金はどこから出てんの?」

「仕送りだから無償でござる」

「ぜ、贅沢だな……」

 

 半自給自足で、残りは仕送り。

 実質永遠の0円生活。

 無限に資金が溜まる一方ではないか。

 

「しっかしまぁ……アルマ出身なら、なんでまたこんな田舎に?」

「風真の出身は別の国でござる。これは知り合いから貰った物だから」

「ふーん、じゃあ出身はここ?」

「んーん、おもちゃの国」

「おもちゃ? 玩具のおもちゃ? それが国名?」

「GAって呼ぶ人が多いかな」

「じー、えー?」

 

 おもちゃからは連想もできない2つのアルファベットに混乱する。

 一瞬、聞き間違いや、誤変換を疑った。

 

「Ghost is Anonymous」

「――????」

「幽霊は匿名である」

「ゆ、幽霊……?」

 

 また不穏な単語が飛び出してきた。

 おばけが怖いのか、みこがマリンにぴたりとくっつく。

 正直マリンもちょっと怖い。

 

「昔から、正体不明の幽霊が出るって有名な島でね」

「ほほう?」

「おもちゃとはどう言う関係? 人形が笑う的な?」

「いやいや、なんも関係ないでござるよ。おもちゃの国であり、お化けの国であり、って風に2パターンで呼ばれてるでござる」

 

 元々は人形やぬいぐるみなどを初めとする多種多様なおもちゃの往来が盛んな国だったそうだ。

 そんな国に、100年ほど前から様々な心霊現象が発生するようになり、正体不明の幽霊がいると囁かれ、その囁きが島名そのものへと変化していった。

 いろはの話を要約するとこんな所だった。

 

 いろはの謎を解明するために話し込んでみれば、謎は深まり、混乱する一方。

 通信機の所持、出身地の謎、ここへ移住した意味、マリンの勧誘を断る際の妙な言い回し。

 隠し事はありそうだが、悪人の線や洗脳の線はまずないだろう。

 

 話もひと段落ついたキリのいいタイミングで玄関がノックされた。

 配置的に最も遠いいろはが玄関まで足を運ぶ。

 

「おかえり」

「ごめんね、飛び出しちゃって」

「すみません」

 

 おかゆとあくあが帰還した。

 

「それはいいけど、もう1人の子は?」

「フブキちゃんは……1人がいいからって」

 

 おかゆが俯き、表情が陰る。

 

「1人で大丈夫ですかね……」

 

 不安定なフブキを1人で放置する事は少々心配だ。

 だが誰も行き先を知らぬ様なので、追いかけようもない。

 

「この島に危険はないから、安心していいと思うでござる。それよりあくあちゃん、ご飯食べよ」

「……うん」

 

 あくあといろは、そして残りの席に合わせて、おかゆ、トワ、ポルカが席に座った。

 

 2人の食事に合わせながら、次の話題へと切り替わる。

 

 

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