ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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43話 島に眠るモノ

 

 あくあといろはの食事中は、重要な話題は控え、世間話を展開させた。

 そして、食後になると再び剣幕な空気が漂い始める。

 

「いろはさんって、今無職?」

「まあ、そうでござるな」

「なら前職は何? わざわざ国を出るような仕事って、無くない?」

「それは秘密でござる」

「またか……」

 

 秘密秘密と隠し事ばかり。

 見知らぬ海賊相手に包み隠さず、とは行かないだろうが、色々不鮮明すぎる。

 それこそ、今の一味の誰かと比較してもずば抜けて。

 

 ポルカもトワも頭を抱えた。

 しかしマリンはそれ以上に、ずっと前から気になる事がある。

 この世界は、どう言うわけか、都合が良い。

 悪魔の実は各メンバーに合わせてあるし、メンバーの組み合わせも、大抵が何らかのユニットを彷彿とさせる。

 そして、一部の固有名詞もまた、意図があるように思えた。

 それは、島の名前。

 サクラカゼ、キャンディータウンと来て、次がイリス島?

 何か意味があるはずだ。

 

「あのさ、船長ずぅーーっと気になってたんだけど、イリス島って、どう言う意味?」

「また突拍子もない……」

 

 話題が大きくズラされ、ポルカは少し不満げに目を細めた。

 

「おかゆさん、知りません?」

「さあ……あくあ知ってる?」

「んーん、興味ないし」

「そっか」

「……フブキちゃんなら知ってるかも?」

「んー……知ってそう」

 

 フブキは雑学などの知識を豊富に持ってる方だ。

 自国の名前の由来なら、知っているやも?

 

「じゃあさ、『記憶の跡地』と『記しの島』って、何?」

「――!」

 

 続いてこの2つ。

 記しの島はポルカの日誌を見て知った。マリンが転移した時にいた島だ。

 記憶の跡地は先日まで滞在していた島。

 

「この2箇所だけさ、命名が特殊じゃん? しかもどっちも無人島。まだ証拠は少ないけど、何かあるんじゃない?」

 

 ホロメンと関連づけている分、マリンは不可解な点に他より早く気付ける。

 

「…………」

「記憶の跡地、記しの島、従属半島、魅惑の火山島」

「いろは?」

 

 ポツリと呟いた。

 何か、知っているようだ。

 

「有名な4つの無人島でござる」

「――?」

「あ、いや……従属半島は、ある意味無人じゃないでござるな」

「有名って、何かあんの?」

「各島は、どうやらそれぞれ『とある能力』と関わりがあるらしいです」

「とある能力……?」

「島が無人である意味や、関連する能力とか、各島に何が眠っているのかは、風真も知らないでござるが」

 

 それだけを独り言のように呟くと、ケーキ作りに戻った。

 マリンは顎に手を当て首を捻る。

 真剣に物事を考えている表情。

 

「そう言えば、ポルカは何であの島知ってたん?」

「サクラカゼ過ごしてる時に、島の人に聞いたんだよ。自分がどの辺にいるかとか、知りたかったから」

「あーね……」

 

 だから日誌に記せたわけだ。

 そして、もう一つは、ぼたんか。

 ぼたんは記憶の跡地の名前と所在地を知っていた。

 アルメンドラの事もある。守秘義務を含め、何か知っていた事は間違いない。

 ……とすると、ルーナが態々探したと言う「チアチアの実」か?

 もしくは、当時からルーナたちが詮索していた組織のトップの能力――

 

「洗脳の能力……」

 

 島それぞれが能力と関係する、のなら、どちらも?

 しかも、他に少なくとも2つは存在するのか。

 

「まずい……また不思議が増えちまった」

「ほんとだよ」

 

 ここへ来て謎の数が爆増中。

 ここからは謎を消化していきたいところ。

 

「んじゃトワ様」

「ん? トワ?」

「シエロソニードって、由来知ってる?」

「あー、知っとるよ。王に聞いてっから」

 

 知っていた。

 しかも、国王からの直々の伝聞。

 信憑性は高い。

 

「シエロソニードは別言語らしくて、『国王の苗字』と『音楽の国』を象徴した名前」

「――――」

 

 ドデカい情報が飛び出す予感に、固唾を飲んだのはマリンだけだった。

 そもそも、トワの出身国が『音楽の国』だなんて、初耳だ。

 いろはもケーキ作り片手間に耳を傾ける。

 唯一あくあだけは、無関心だった。

 

「シエロは『天』、ソニードは『音』。シエロソニードで国王の苗字『天音』を表してんだ」

「あまね…………!」

 

 名前だけだが、出てきた、ホロメンの気配。

 ナイスだマリン。良い直感。

 アルメンドラの次は、シエロソニードへ向かうと今決まった。

 お前にも、会いに行くからな、かなた。

 

 マリンはかなたの情報を得た事で、十分ご満悦。

 この中にアルメンドラを知る者もいないため、名前の話はお終い。

 

 パタン――

 

 いろはがオーブンをかけ、ケーキ生地を熱し始めた。

 

「今火をかけたから、食べるまで1時間くらい掛かります」

「あ、おお、ありがと」

 

 そう告げて、いろははつかつかと玄関口へ向かう。

 側の棚から刀を一本取り出して、腰に携えると振り返る。

 

「ちょっと出てくるから、火元だけ注意しててもらえますか?」

「いいっすけど、どちらまで?」

 

 カチャッと、軽く刃をちらつかせ、刀身の反射光を確認する。

 

「ちょっとお散歩へ」

 

 つまり、内緒、と。

 客人を残して、家主が家を離れていった。

 

「気になる……」

「なら追えば?」

「いやだって、刀持ってったし……なんかジャキンジャキンされそう」

「はぁ……」

「あくたんが追えばバレないんじゃない?」

 

 名案だと胸を張ってみこが右手を挙げた。

 

「いやよ、興味無いもん」

「えー」

「それに、あの人凄いからあてぃしでもバレるよ」

「うせやん……」

 

 まさか、覇気使い⁉︎

 と、マリンの脳にあの単語が過るが、この世界に「覇気は無い」。

 

「いるもんだなぁ、世界には化け物たちが」

 

 

 

          *****

 

 

 

 家を出ると、いろはは真っ直ぐ丘を下る。

 浜まで下ると、海辺を歩き「印」を探す。

 

「……?」

 

 その途中で、人の気配を感知した。

 浜辺で縮こまってひっそりと泣いている少女がいた。

 気配を殺して通り過ぎたいが、奇しくもそこに印がある。

 いろはは足音を立てて歩み寄った。

 

「っ――誰?」

 

 数メートルまで距離を詰めると、フブキはようやくいろはの存在に気付き、涙を大急ぎで拭った。

 その反応をしっかりと確認して、いろはは更に距離を詰め、声を掛ける。

 

「……フブキちゃんも、海賊なんでござるよな?」

「いろはさんか…………」

 

 正体をその目で確認し、安堵した。

 今の姿を、一味には見られたくなかったから。

 でも、それと同時に、質問には嫌悪感を見せる。

 

「マリンさんも、仲間のみんなもそうだけど、どうして海賊なんてやってるでござるか?」

 

 首は傾げず、視線も真っ直ぐ。

 人に物を尋ねている様子には見えない。

 

「私たちが海賊やってたら……悪い?」

「……」

 

 答えにならない返答に、いろはは嘆息した。

 

「自意識過剰でござるな」

「っ――」

「海賊をやってる理由を聞いただけなのに」

「そんな顔じゃなかったじゃん」

「本当にそう思ったなら、やっぱり自意識過剰でござるよ」

 

 人当たり悪く、いろははフブキを印の傍から追いやる。

 

「もっと良い人かと思ってたよ」

「海賊でしょ? 邪険にされて当然だと思うけど」

「……」

「ま、どうでもいいでござるが」

「――」

「それより、早く戻って帰る準備でもしてほしいでござるよ」

「帰る準備?」

「風真をしつこく勧誘するから、ケーキ食べて諦めてって言ったの。で、今焼いてる途中」

「――」

「人の家に何時迄も滞在されると困るんでござるよ。だから、食べたら帰って」

 

 捲し立てるようにフブキを押し返そうとする。

 それどころか、一味全員までも邪魔だと言い始めた。

 初対面の印象とはまるで違う。

 今でも、その穏やかな姿勢からは信じ難いギャップ。

 

「……」

「泣いてた事、黙っててあげるから」

「…………分かった。けど――」

「――?」

「それ……右の掌」

 

 偶然視界に入った、右手のひらに記された文字。

 いろはは一瞬隠すようなモーションを見せたが、今更と考え直し、その手を見つめた。

 

「ただのメモでござる」

 

 右手を突き出してその一文字を見せつける。

 手のひらに、ただ一文字記された「N」という字を。

 

「……そう」

「ほら、早く戻って」

「ぇ……?」

「――! 早く戻って!」

「は、はい!」

 

 先程まで辛辣な態度を貫いていたいろはの語気が突然和らぎ、フブキは面食らった。

 その様子を見て先までの自分の態度を思い返し、取り繕うように下手に怒鳴った。

 フブキはそそくさと退散する。

 それまで思い悩んでいた事も一瞬忘れて、浜を周り、丘を駆け上っていった。

 

「……よっしょ、と」

 

 いろははフブキを見送ると目印の付近に刀を通し、地面を切り開いた。

 そこから通路が現れる。

 中へ入ると、どういう訳か、地面は元通りに閉じて、その痕跡すら消してしまった――。

 

 

 そして、ケーキが焼けるまで、いろはは戻って来なかった……。

 

 

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