ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

47 / 144
46話 忘れていた弱点

 

 ポルカとトワを林道に残し、マリン、みこ、あくあは海辺へと辿り着く。

 何度も見たような浜の光景。

 何度も聞いたような、漣の音。

 

 林道から浜を見渡すが、船どころか、人1人見当たらない。

 

「……! マリンたん、あの岩の上」

「――――いますね」

 

 浜には誰もいないが、その浜の左奥に位置する岩場の天辺。

 そこに、1人の女性が佇んでいた。

 遠目からでも確認できる――こよりだ。

 恐らく背中を向けている。

 

「あくたん、靴消して」

「ん」

「行きますよ」

 

 全身を不可視状態にして、3人は浜を駆け、岩場へと気配を殺して忍び寄る。

 こよりは見張でもしているのか、体を回しながら双眼鏡で周囲を常に警戒していた。

 ミオところねが襲撃してきたのなら、当然敵には知れ渡っている筈。マリンたちがこの島へ到達した事を。

 

 ――――でも、どうやって?

 

 こよりが林を眺めて、その後さらに90度身体を回し、こちらの浜を向く。

 一瞬ピクリと肩が跳ねたが、こよりには見えない。

 精神を落ち着けるように言い聞かせながら進む。

 

「え――?」

「マリンたん!」

 

 岩場から突如として溢れ出る白い……液体?

 その流動体が、浜を流れてマリンたちに迫る。

 距離もあるため、早めに林側へと避け、なんとか難を逃れる事はできた。

 

「あっぶにぇ!」

「何今の」

「あれがマヨマヨの実のチカラか……」

 

 マヨネーズの大洪水。

 想像以上に厄介だ。

 

「…………」

「――!」

 

 マリンは汗を拭い、岩場を一瞥した。

 すると、いつの間にか2人の少女が岩場正面の浜に立っていた。

 マリンは初対面だが、誰だかは流石にわかる。

 その2人は、警戒するように浜を見つめているが、その場からは動こうとしない。

 

「でも、なんでバレたんだ?」

「下が砂だから、足跡で分かるんですよ」

「いやでも……双眼鏡使ったにしても、あの距離からは……」

「ええ……普通は…………気付けない、筈なんですよ――!」

 

 敵が消える事を知った上で、この場所を戦場に決め、待機場とした。

 こよりの今の行動や、岩場前から微動だにしない「あの2人」が何よりの証拠。

 

 もはや透明化はアドバンテージにならない。

 

「あくたん、色を戻して」

「ん」

 

 みことマリンも世界へと戻ってきた。

 

「行くよ、みこち」

「おぅ!」

 

 2人は堂々と敵2人の前へと足を運んだ。

 

「護衛の人と……あなたが船長さんかな?」

 

 高い岩場の頂上から睥睨するこよりを、2人は見上げた。

 

「こよりがボスって事でいい?」

「んー……この戦いは、こよが司令塔だから、それでいいよ」

「ミオ先輩ところね、そして……シオンたんとねねち」

 

 途中で遭遇した2人と、目前にいる2人。

 そしてこより。

 

「全部で5人――?」

「どうかなぁ……」

 

 惚けるように首を傾げた。

 

「そうか、ならいいよ。何人だろうと……全員取り戻しにきたんで」

「変だなぁ。船長さんには関係ない筈なんだけど……」

「関係大アリです、こより、お前も含めて」

 

 マリンが本気モードに入る。

 今までとは纏う気配が異なる。

 邪魔な海賊帽と上着を浜へ投げ捨て、身軽になった。

 

「みこち、まずはこの2人から」

「おぅっし! いくど!」

 

「頼むよ、2人とも」

 

 こよりの命令が下り、対峙するシオンとねねが動き出す。

 

大災害波(カラミティパールス)

 

 シオンがカエルのようなポーズをとった。

 ただ、両手を地面に付けただけ。

 合わせてねねは大跳躍。

 

 すると浜で突如、地割れが発生する。

 凄まじい破裂音を轟かせ、浜が引き裂け、その裂傷がマリンとみこへ蛇行して迫る。

 

 みこは浮遊で宙へ逃げる。

 マリンは斬新な方法で回避した。

 一度跳躍し、落ちる前に船の一部を生み出して空中に足場を生成、また跳躍。

 これを繰り返してシオンの頭上まで駆け上がる。

 

「ほらシオンたん、抱いたげる」

 

 シオンの頭上からマリンが降ってくる。

 下半身が顔面に迫ってくる。

 

「――? もう1人は?」

 

 遠目から見るみこが足りない1人を探して周囲を見回す。

 だが見当たらない。

 跳躍したきり姿が見えない――。

 

「え――」

 

 みこの前を一つの影が横切った。

 本当に、影だけが。

 

 見上げた時には遅かった。

 

「マリンたん――!」

「赤脚」

「っご――し……」

 

 天上から、隕石の如くマリンへと一撃を撃ち込む。

 背骨が砕けた様な腰への激痛。

 

 そんな攻撃、年寄りにしたらダメだから!

 まだまだマリンちゃんは若いけど。

 

 そんな事関係なく、腰が痛い――!

 

「ブリズ・プランタニエール」

 

 マリンへの攻撃で、ねねとシオンが1箇所にまとまった。

 みこはそのタイミングで陣風を巻き起こす。

 みこの思うままに風が騒めき、刄となる。

 風は倒れるマリンを避けて2人を薙ぎ、斬りつける。

 序でにこよりにも風を向けてみたが、マヨネーズが散るだけだった。

 

 しかし、ねねとシオンには効果あり。

 服が切れ、露出した肌にも複数の切り傷。

 特にシオンはねねを庇い、全身に深めの斬撃を受けた。

 

 少々過激だが、やむを得ない。

 

 血が飛散する。

 

「マリンたん! だいじょぶ⁉︎」

「だ、だいじょぅおおおお!」

 

 シオンがパタリと地に伏し、その側でマリンが腰を労っている。

 ねね1人なら相手にならないと判断して、みこはマリンの下へ。

 両手を翳し、呪文?のような単語を唱えた。

 

「ザクリナーニエ」

 

 マリンに自然の治癒力が、大自然の生命力が漲り、全身の痛みが引いてゆく。

 

「あ、ありがと……みこぢぃ……」

 

 体験した事のない腰痛だった。2度と御免。

 

「――! シオンたんは⁉︎」

 

 自分が復活すれば、即座に敵の心配。

 腹が引き裂けるほどの斬撃を喰らえば、致命傷に……。

 

裂傷波(パールス)

「ぶっ!」

「にぇ!」

 

 血を滴らせるシオンが、波動拳を放つ様に両腕を突き出すので、咄嗟に2人は全身を反らす。

 ピュッ、と、エア波動拳の進行路にぶつかったマリンの頬と、みこの服の袖に切れ込みが入る。

 

 あれだけ喰らって、シオンも随分元気なようで!

 2人はカウンターへ、出かけて思い留まる。

 

「――! またいない!」

「空か!」

 

 またねねが居ない。

 2人の思考は一瞬で纏まり、反射的に回避行動をとっていた。

 

「赫拉克勒斯」

 

 直後、2人の残像にねねが特大の踵落としを放った。

 砂浜が激震し、先程シオンが割った地面に、また砂が吸われた。

 波も益々不規則に揺れ始め、水面は荒れている。

 

 そのまま開幕時のように、両陣営分かれて距離を取る。

 

「だぁ、くっそ! なんにぇえ、ありゃあ」

「シオンたんは何となく分かったけど、ねねちが謎すぎる」

 

 マリンの苦言通り。

 ねねの動き方や戦い方が特殊過ぎて、能力名も効果も推察できない。

 

「お前ら、どんな能力だよ!」

 

 みこが地団駄を踏むと、また亀裂に砂が吸われた。

 

「そんな態々――」

「シオンはキズキズの実の損傷人間」

「ねねはタオタオの実の不均衡人間」

「いや教えるんかい!」

 

 呆気なく口を割ったガキ2人にストレートに突っ込む。

 素直なツッコミ役は久々だ。

 

 どさくさに紛れてマリンはシオンの傷口を見た。

 破れた服はそのままだが、傷口は全て塞がっていた。

 

「ふん……これ邪魔」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

 シオンが破れた服を脱ぎ捨てた。

 上も下も、下着だけ。

 

「うぶっ……まずい……」

 

 マリンへ1億ダメージくらい入った。

 懸命に鼻を抑えるが、ダバダバと鼻血が噴き出て止まらない。

 

「洗脳……戦いやすい様に羞恥心が削られてんのか」

 

 みこが洗脳の恐ろしさを別方向から分析する。

 その何気ない一言に、マリンは違和感を覚えた。

 それ……何かおかしいような……。

 

「――。邪念は払う!」

 

 今は戦いに集中。

 マリンは強くかぶりを振って頭を切り替える。

 正面を向き直し、ねねとシオンを捉え直――

 

「がふっ――!」

「ぎゃー! マリンたんが鼻血で倒れたぁー!」

 

「な……なんか怖い……」

「なんか釈然としない……」

「何よあいつ……あれが船長?」

 

 こよりも含め、敵側も困惑している。

 ではなく、ドン引きしている。

 

「変な勝ち方だけど、まあいっか」

「勝った? みこが残ってんだろ」

「――船長さんさえいなければ、こっちは負けない」

「――――??」

 

 こよりが自信を覗かせて、岩場の天辺から悠々とみこを見下す。

 

「あっそう……じゃあおめぇも――参加しろよ」

「悪いけどこよは中間管理職。洗脳下のみんなに指令を送る人だから、野蛮な争いに態々突っ込んだりは――」

「しないって?」

「――⁉︎」

 

 こよりが岩場から突き落とされた。

 背後から思い切り背を押されて。

 

 一般人が転落すれば、最悪死に至る高度だが、べちゃっ、と不快な音を立てて落下し、死どころか負傷すら免れる。

 

 落下の衝撃で、シオンとねねにマヨネーズが飛び散った。

 今のシオンを、マリンが見なくて良かったと思う。心の底から。

 

「よくも――! あんただね! 湊あくあってのは!」

 

 岩場の天辺から、あくあが姿を現した。

 

「…………おい待て」

「――」

「あくたんの事、誰から聞いた――‼︎」

「ふふっ、さぁね――誰だと思ぅ?」

 

 試すような発言。

 これで漸く一味全員に行き届いただろうか――この疑心暗鬼が。

 ポルカから始まり、マリン、トワ……そして今回の事件で、他4人へと。

 愈々これは、疑いようがない……。

 

 誰も信じたくない現実だが――これは……

 

「あくたん……これは、いるぞ……」

「うん……加入3日でもわかる」

 

 海賊歴たった3日でも分かるほど明白な事実。

 でも今は――この3人を取っ捕まえる事が先決。

 

「あくたん、いくど!」

「ん」

 

 鼻血を流すマリンを放置して、第二ラウンドが始まった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。