ポルカとトワを林道に残し、マリン、みこ、あくあは海辺へと辿り着く。
何度も見たような浜の光景。
何度も聞いたような、漣の音。
林道から浜を見渡すが、船どころか、人1人見当たらない。
「……! マリンたん、あの岩の上」
「――――いますね」
浜には誰もいないが、その浜の左奥に位置する岩場の天辺。
そこに、1人の女性が佇んでいた。
遠目からでも確認できる――こよりだ。
恐らく背中を向けている。
「あくたん、靴消して」
「ん」
「行きますよ」
全身を不可視状態にして、3人は浜を駆け、岩場へと気配を殺して忍び寄る。
こよりは見張でもしているのか、体を回しながら双眼鏡で周囲を常に警戒していた。
ミオところねが襲撃してきたのなら、当然敵には知れ渡っている筈。マリンたちがこの島へ到達した事を。
――――でも、どうやって?
こよりが林を眺めて、その後さらに90度身体を回し、こちらの浜を向く。
一瞬ピクリと肩が跳ねたが、こよりには見えない。
精神を落ち着けるように言い聞かせながら進む。
「え――?」
「マリンたん!」
岩場から突如として溢れ出る白い……液体?
その流動体が、浜を流れてマリンたちに迫る。
距離もあるため、早めに林側へと避け、なんとか難を逃れる事はできた。
「あっぶにぇ!」
「何今の」
「あれがマヨマヨの実のチカラか……」
マヨネーズの大洪水。
想像以上に厄介だ。
「…………」
「――!」
マリンは汗を拭い、岩場を一瞥した。
すると、いつの間にか2人の少女が岩場正面の浜に立っていた。
マリンは初対面だが、誰だかは流石にわかる。
その2人は、警戒するように浜を見つめているが、その場からは動こうとしない。
「でも、なんでバレたんだ?」
「下が砂だから、足跡で分かるんですよ」
「いやでも……双眼鏡使ったにしても、あの距離からは……」
「ええ……普通は…………気付けない、筈なんですよ――!」
敵が消える事を知った上で、この場所を戦場に決め、待機場とした。
こよりの今の行動や、岩場前から微動だにしない「あの2人」が何よりの証拠。
もはや透明化はアドバンテージにならない。
「あくたん、色を戻して」
「ん」
みことマリンも世界へと戻ってきた。
「行くよ、みこち」
「おぅ!」
2人は堂々と敵2人の前へと足を運んだ。
「護衛の人と……あなたが船長さんかな?」
高い岩場の頂上から睥睨するこよりを、2人は見上げた。
「こよりがボスって事でいい?」
「んー……この戦いは、こよが司令塔だから、それでいいよ」
「ミオ先輩ところね、そして……シオンたんとねねち」
途中で遭遇した2人と、目前にいる2人。
そしてこより。
「全部で5人――?」
「どうかなぁ……」
惚けるように首を傾げた。
「そうか、ならいいよ。何人だろうと……全員取り戻しにきたんで」
「変だなぁ。船長さんには関係ない筈なんだけど……」
「関係大アリです、こより、お前も含めて」
マリンが本気モードに入る。
今までとは纏う気配が異なる。
邪魔な海賊帽と上着を浜へ投げ捨て、身軽になった。
「みこち、まずはこの2人から」
「おぅっし! いくど!」
「頼むよ、2人とも」
こよりの命令が下り、対峙するシオンとねねが動き出す。
「
シオンがカエルのようなポーズをとった。
ただ、両手を地面に付けただけ。
合わせてねねは大跳躍。
すると浜で突如、地割れが発生する。
凄まじい破裂音を轟かせ、浜が引き裂け、その裂傷がマリンとみこへ蛇行して迫る。
みこは浮遊で宙へ逃げる。
マリンは斬新な方法で回避した。
一度跳躍し、落ちる前に船の一部を生み出して空中に足場を生成、また跳躍。
これを繰り返してシオンの頭上まで駆け上がる。
「ほらシオンたん、抱いたげる」
シオンの頭上からマリンが降ってくる。
下半身が顔面に迫ってくる。
「――? もう1人は?」
遠目から見るみこが足りない1人を探して周囲を見回す。
だが見当たらない。
跳躍したきり姿が見えない――。
「え――」
みこの前を一つの影が横切った。
本当に、影だけが。
見上げた時には遅かった。
「マリンたん――!」
「赤脚」
「っご――し……」
天上から、隕石の如くマリンへと一撃を撃ち込む。
背骨が砕けた様な腰への激痛。
そんな攻撃、年寄りにしたらダメだから!
まだまだマリンちゃんは若いけど。
そんな事関係なく、腰が痛い――!
「ブリズ・プランタニエール」
マリンへの攻撃で、ねねとシオンが1箇所にまとまった。
みこはそのタイミングで陣風を巻き起こす。
みこの思うままに風が騒めき、刄となる。
風は倒れるマリンを避けて2人を薙ぎ、斬りつける。
序でにこよりにも風を向けてみたが、マヨネーズが散るだけだった。
しかし、ねねとシオンには効果あり。
服が切れ、露出した肌にも複数の切り傷。
特にシオンはねねを庇い、全身に深めの斬撃を受けた。
少々過激だが、やむを得ない。
血が飛散する。
「マリンたん! だいじょぶ⁉︎」
「だ、だいじょぅおおおお!」
シオンがパタリと地に伏し、その側でマリンが腰を労っている。
ねね1人なら相手にならないと判断して、みこはマリンの下へ。
両手を翳し、呪文?のような単語を唱えた。
「ザクリナーニエ」
マリンに自然の治癒力が、大自然の生命力が漲り、全身の痛みが引いてゆく。
「あ、ありがと……みこぢぃ……」
体験した事のない腰痛だった。2度と御免。
「――! シオンたんは⁉︎」
自分が復活すれば、即座に敵の心配。
腹が引き裂けるほどの斬撃を喰らえば、致命傷に……。
「
「ぶっ!」
「にぇ!」
血を滴らせるシオンが、波動拳を放つ様に両腕を突き出すので、咄嗟に2人は全身を反らす。
ピュッ、と、エア波動拳の進行路にぶつかったマリンの頬と、みこの服の袖に切れ込みが入る。
あれだけ喰らって、シオンも随分元気なようで!
2人はカウンターへ、出かけて思い留まる。
「――! またいない!」
「空か!」
またねねが居ない。
2人の思考は一瞬で纏まり、反射的に回避行動をとっていた。
「赫拉克勒斯」
直後、2人の残像にねねが特大の踵落としを放った。
砂浜が激震し、先程シオンが割った地面に、また砂が吸われた。
波も益々不規則に揺れ始め、水面は荒れている。
そのまま開幕時のように、両陣営分かれて距離を取る。
「だぁ、くっそ! なんにぇえ、ありゃあ」
「シオンたんは何となく分かったけど、ねねちが謎すぎる」
マリンの苦言通り。
ねねの動き方や戦い方が特殊過ぎて、能力名も効果も推察できない。
「お前ら、どんな能力だよ!」
みこが地団駄を踏むと、また亀裂に砂が吸われた。
「そんな態々――」
「シオンはキズキズの実の損傷人間」
「ねねはタオタオの実の不均衡人間」
「いや教えるんかい!」
呆気なく口を割ったガキ2人にストレートに突っ込む。
素直なツッコミ役は久々だ。
どさくさに紛れてマリンはシオンの傷口を見た。
破れた服はそのままだが、傷口は全て塞がっていた。
「ふん……これ邪魔」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
シオンが破れた服を脱ぎ捨てた。
上も下も、下着だけ。
「うぶっ……まずい……」
マリンへ1億ダメージくらい入った。
懸命に鼻を抑えるが、ダバダバと鼻血が噴き出て止まらない。
「洗脳……戦いやすい様に羞恥心が削られてんのか」
みこが洗脳の恐ろしさを別方向から分析する。
その何気ない一言に、マリンは違和感を覚えた。
それ……何かおかしいような……。
「――。邪念は払う!」
今は戦いに集中。
マリンは強くかぶりを振って頭を切り替える。
正面を向き直し、ねねとシオンを捉え直――
「がふっ――!」
「ぎゃー! マリンたんが鼻血で倒れたぁー!」
「な……なんか怖い……」
「なんか釈然としない……」
「何よあいつ……あれが船長?」
こよりも含め、敵側も困惑している。
ではなく、ドン引きしている。
「変な勝ち方だけど、まあいっか」
「勝った? みこが残ってんだろ」
「――船長さんさえいなければ、こっちは負けない」
「――――??」
こよりが自信を覗かせて、岩場の天辺から悠々とみこを見下す。
「あっそう……じゃあおめぇも――参加しろよ」
「悪いけどこよは中間管理職。洗脳下のみんなに指令を送る人だから、野蛮な争いに態々突っ込んだりは――」
「しないって?」
「――⁉︎」
こよりが岩場から突き落とされた。
背後から思い切り背を押されて。
一般人が転落すれば、最悪死に至る高度だが、べちゃっ、と不快な音を立てて落下し、死どころか負傷すら免れる。
落下の衝撃で、シオンとねねにマヨネーズが飛び散った。
今のシオンを、マリンが見なくて良かったと思う。心の底から。
「よくも――! あんただね! 湊あくあってのは!」
岩場の天辺から、あくあが姿を現した。
「…………おい待て」
「――」
「あくたんの事、誰から聞いた――‼︎」
「ふふっ、さぁね――誰だと思ぅ?」
試すような発言。
これで漸く一味全員に行き届いただろうか――この疑心暗鬼が。
ポルカから始まり、マリン、トワ……そして今回の事件で、他4人へと。
愈々これは、疑いようがない……。
誰も信じたくない現実だが――これは……
「あくたん……これは、いるぞ……」
「うん……加入3日でもわかる」
海賊歴たった3日でも分かるほど明白な事実。
でも今は――この3人を取っ捕まえる事が先決。
「あくたん、いくど!」
「ん」
鼻血を流すマリンを放置して、第二ラウンドが始まった。