ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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47話 フブキ争奪戦

 

 時は少し遡り、奇襲作戦会議前の事。

 

「船長――」

「このタイミングでの呼び出し。要件は分かってますよ」

 

 もう間も無く戦いが始まる。

 その緊張の最中、おかゆからの呼び出し。

 理由は一つだ。

 マリンは一つの木箱をおかゆに手渡す。

 

「悪魔の実……食べるんですね」

「うん」

 

 慎重に木箱を受け取り、徐ろに蓋を開けると、紫色の禍々しい果実が顔を覗かせた。

 見た目から、美味しくはなさそう。

 でも、この禍々しさ――強そう。

 

「美味しくないんで、一思いに食べて飲み込んじゃって下さいな」

 

 長時間の咀嚼はお勧めしない。

 能力者であるマリンからのアドバイス。

 小さく頷くと、最後の決心なのか、一度息を呑む。

 そして、一口で食べきれないそれを、何度も齧り、一気に口に押し込む。

 グシャグシャと音が鳴り、おかゆがその不味さに悶絶する。

 吐きたいけど、飲み込んだ。

 

「――――」

 

 やはり、すぐさま変化は見られない。

 だが間も無く、何かしらの違和感を得るはずだ。

 

「これで、一味は晴れて能力者集団かぁ」

 

 海に生きる?女として、海に入れないことは口惜しい。

 ホロライブサマーも、この世界では到底開催できないだろう。

 

「船長……」

「はい、なんです?」

「……僕がこれ食べた事、皆には――特にフブキちゃんには言わないで」

「――? いいですけど、すぐ分かる事ですよ?」

「……そうなんだけど……せめて僕から言いたいの」

「そうですか? じゃあ何も言いませんよ」

 

 2人にもきっと、色々あるのだろう。

 2人の関係は深掘りせず、マリンは快く承諾し、そのまま部屋を出た。

 

「――――あ」

 

 おかゆは、自室で静かに笑った。

 

 

 

          *****

 

 

 そして、時は今へと戻る――

 

 船を停めた浜へ帰り着いたフブキとおかゆ。

 透明の船はすぐには目につかない。

 代わりに、到底無関係とは思えない1人の人影を見る。

 

「……あの人は!」

「――おかゆん?」

 

 両者、互いの存在に気付いた。

 そしておかゆは、その容姿に見覚えがある。

 あの日、こんな浜で、おかゆ達は捕まった。

 その時、おかゆを追って来た人。名前は覚えてない。

 

「やっほー、1年ぶり? 待ってたよー」

 

 相手は気さくに話しかけてくるが、おかゆとフブキには緊張感と焦燥感が同時に走り、まともに話せる余裕はない。

 

「1年ぶり……って、どう言う……」

「敵だよ。1年前に僕たちを襲った」

「――」

「凄いパワーだから、気を付けて」

「ん、分かった」

 

 おかゆはその目で見た事がある。

 目の前の人が――アキ・ローゼンタールが、爆発的な跳躍と、空中での切り返しを行う瞬間を。

 あれは、人間の為せる技ではない。

 増強型の能力。しかも超特化、と推察する。

 

 少しの時間を経て、フブキはアキロゼの不自然な一言を問い返した。

 

「――? 待ってた……?」

「そうだよ。待ってたの。2人が戻ってくるのを」

「「――――」」

 

 フブキが視線で強く警鐘を鳴らす。

 おかゆとアイコンタクトである可能性を共有した。

 

「AZKiちゃんがね、どうしてもフブキちゃんの能力が欲しいんだって」

「私の……?」

 

 奇しくも一度手放した能力。

 この機に乗じて、フブキを再び自陣へと引き込む腹積りなのか。

 ……つまり、この島には今――AZKiがいる、のか?

 

「どうして私なんかを……」

「…………」

 

 敵の弱点や好き嫌いを知る事ができる能力。

 他人が欲するほどの強能力とは思えない。

 現に、フブキはここまで何もできずに悔やみ続けている。

 

「理由は私も聞いてないけど、任意同行してくれたら嬉しいな」

「……断ったら?」

「仕方ないけど、ちょっと手荒に連れて行くよ」

 

 最後通告ともなる答えにフブキとおかゆは身震いした。

 サシでは確実に勝てない相手だろう。2対1でも、ほぼ戦闘未経験な2人では正直戦力は心許ない。

 

「フブキちゃん、逃げた方が……」

「ダメだよ。船だってあるし、逃げ切れる気がしない。それに、2対1なら、あるいは……」

 

 逃げる選択を提案するおかゆを、フブキが突っぱねる。

 勝つ見込みがあるならそれも戦うもアリだが……。

 フブキが戦う理由は理性に頼った選択ではない。

 プライドだ。

 捕まれば、再び洗脳に掛けられるだろう。

 その危険性を天秤にかけても、プライドが勝る。

 

 少しずつ、少しずつ、フブキの心の黒い澱みが……。

 

「私だって……やれるんだから……!」

 

 武器も持たない、能力だって弱点を見るだけ。

 

「じゃあ、3秒あげる。逃げるか、戦うか、選んでね」

 

 距離にして30メートル。

 大きな声を張り上げて、敵――アキロゼが指を3本立てた。

 1秒後、薬指が曲げられる。

 更に1秒後、中指が――

 

「倒す!」

 

 フブキがおかゆの静止も無視して砂を強く蹴った。

 姿勢を低くして距離を詰める。

 5メートル進むと中指が見えなくなっていた。

 11メートル進むと人差し指も消えた。

 20メートル進むと――

 

「――⁉︎」

 

 アキロゼが消えた。

 

 アキロゼが居たはずの砂浜から砂が舞い、風がフブキを正面から襲う。

 目に砂が入って痛い。

 両目を塞ぎ、手で何度も強く擦った。

 まさか目眩し?

 そんな姑息な手を使うのか?

 

「…………」

「…………」

 

 波の音が心地よい。

 

「――!」

 

 目が開いた。

 フブキは正面を確認するが、人はいない。

 背後を確認すると、アキロゼの背中が見えた。

 アキロゼで丁度隠れているが、奥にはおかゆもいる。

 2人が無言で見詰め合っている……のか?

 

「ぁ……」

 

 おかゆが小さく喉を鳴らした。

 

「おかゆん!」

 

 おかゆは、人と戦う怖さを目の当たりにした。

 強いとか、弱いとか……関係ない。

 おかゆは、こんな状況が、もう怖いんだ。

 

 殴られたら……痛いかな。

 捕まったら……何されるかな。

 やっぱり……怖いや。

 

「100Nパンチ」

 

 アキロゼの右腕が、消滅するかの如く振り抜かれ、おかゆの腹を穿つ。

 そう、穿つ。

 おかゆの土手っ腹に大穴が空いた。

 駆け寄っていたフブキにも、見えた。

 ダメだ、あんな大穴――

 

「……ぇ?」

「へぇ……」

「ぁぁ…………」

 

 おかゆは恐怖で震え続ける。

 大きな穴は、暫くそのままだったが、突如グチュグチュと音を立てて再生を始めた。

 

 怯えるおかゆ。

 不敵に笑うアキロゼ。

 ……戦慄くフブキ。

 

 フブキもアキロゼも、能力者は何人か見て来た、が――これは初めて。

 こよりのマヨネーズとは違う。

 そう、自然の力を持ち、無実体と化す、ロギア種。

 

 ドロドロの実の泥人間。

 

 おかゆが食べて、得た力は、覇気のないこの世界では重宝されて然るべき能力だった。

 

「これはダークホース」

 

 アキロゼが高く飛んだ。

 林の木々の数倍高く。

 

「アップ・L・フォール!」

 

 天が爆発するように空を蹴り、アキロゼが真っ逆様におかゆへ。

 

「おか――!」

 

 フブキの声は、アキロゼの攻撃音に上書きされる。

 

「ぅぐっ――!」

 

 凄まじい嵐のような爆風が、砂を乗せて辺りに吹き荒ぶ。

 そんな爆音に紛れて、びちゃびちゃびちゃ、と泥が飛散したような音も聞こえた。

 5秒かけて収束する風。

 フブキが再び目を開けば、おかゆの姿はない。

 だが周囲には大量の泥はねが……。

 

「……!」

 

 その泥が蠢き、フブキの足元へにじり寄って、大きく大きく成長して、やがて人としての形を再生させた。

 フブキの耳元でグチャグチャとなる音が、泥のようだ。

 

「ふ……フブキちゃん……」

 

 打撃は全て無効。

 傷一つなく、服すらも綺麗に再生される能力。

 怯える要素なんて無いのに、おかゆは戦いに消極的。

 自分が再形成されると、フブキの後ろへ身を隠した。

 

「おかゆん……」

 

 友達のはずなのに、行動が一切理解できない。

 攻撃が効かないのだから、勝てずとも負けない。

 戦えばいいのに。

 

「おかゆん、その能力……」

「う、うん……言おうと思ってたんだけど、あの果実食べたの」

「そう、なんだ……なんて能力?」

「ドロドロの実。見た通り泥泥、なんだけど……」

「――?」

「僕、どうしたらいい⁉︎」

 

 能力は得たが自分の意思で動けない。

 フブキからの指示さえあれば、その通り動く。

 何か、命令が欲しい。

 

「…………っ」

 

 フブキは背後のおかゆを一瞥し、アキロゼに向き直る。

 目を細めた後、目を伏せ、そして唇を噛んだ。

 少し、切れて、舌から血の味がする。

 

 ……。

 

 弱点はもう見た。

 今のおかゆなら、上手くやってくれるだろう。

 

 …………。

 

 ――畜生!

 何をしに、海に出たんだよ!

 バカ!

 

「――! よく聞いて。理由は知らないけど、あの人の弱点は無形物や壊れやすい物での攻撃。できれば物量勝負がいい」

 

 邪念を押し殺して、フブキはおかゆに耳打ちする。

 それをアキロゼは笑って見逃している。

 フブキの能力は当然知っているわけだが、知らないことが一つある。

 それは、おかゆの能力などでも無く、自分の弱点。

 フブキの能力で弱点がバレれば、それを突いてくる。

 アキロゼは、自分が負けない為に、今この場で自分の弱点を知りたい。

 

 実態こそあるが、アキロゼだって大抵の攻撃は無視できる。

 弱点がバレれば負け、なんてルールは存在しないのだから。

 

「無形物で物量? 物量は何とかなるけど……どうかな」

「とにかくやってみよう」

 

 アキロゼが体を大の字に開いて攻撃を望む。

 

「いつでもいいよ」

 

 心境を明かさないアキロゼ。

 フブキは舐められていると感じた。

 その鼻っ柱をへし折ってやりたくなった。

 

 それを行うのが、自分でない事が悔しい。

 

「すぅーー……」

 

 おかゆが大きく息を吸う。

 攻撃の、予備動作か?

 胸を張り、少しお腹が膨らんだ。

 

「ドロドロ・マシンガンしんどろーむ」

 

 口から大量の泥が放出された。

 水分を極限まで減らして固めた泥団子が、弾丸のようにアキロゼを襲う。

 無作為に放たれる泥の銃弾は、どれが命中するかおかゆにも分からない。

 さて、どうなるか――

 

「……?」

「あれ、当たってる?」

 

 アキロゼの正面付近で泥が破裂しているが、アキロゼへのダメージは見受けられない。

 

「――ああ、そういう事ね。確かに弱点だよ」

 

 これだけで、アキロゼは弱点を自覚した。

 数量、ランダム化、結合の弱さ。

 泥であるからこそ、体が汚れる程度で済む。

 これはいい情報が得られた。

 

「当たってない。全部弾かれてるみたい」

「増強型じゃないの?」

「違う……みたいだね」

 

 パワフル且つワイルドな攻撃手法から予測した能力だが、的外れだったようだ。

 今の現象は、腕力とは一切の関連がない。

 

「フブキちゃん、本当にいい能力だね。折角だから、弱点を教えてくれたお礼に私の能力も教えてあげるよ」

 

 全身の所々に付着した泥は意に介さず、アキロゼは屈んで少し大きめの石を拾った。

 それを握り、投石の構え。

 

「私はムキムキの実のベクトル自在人間」

「ベクトル……」

「自分と無機物に働くベクトルを自在に操作できる能力」

 

 ビュン、とアキロゼが小石を投げると、猛スピードでおかゆの左腕を貫いた。

 おかゆの左腕に穴が空け、石は海の上を10回ほど跳ねて沈んだ。

 左腕は何事もないかのように再生する。

 

「こんな風に、無機物なら触ってなくても操作できるよ」

 

 海に沈んだ石が、先ほどの軌道なぞってアキロゼの右手に戻って来た。

 まるでサイコキネシスのような使い方。

 

「じゃあ、攻撃が当たらない理由は、簡単に言えば反射……」

「そうか……方向を変えてるんだ」

 

 それなら、無形物に弱い理由も説明がつく。

 形が無いと、ベクトルの操作が難しい。

 そして物量も、操作限界に関係があるのだろう。

 

 なら、脆い物が効く理由は?

 

 おかゆの泥銃を見れば明確。

 例えばガラスが正面から飛んできて、その方向を突然右向きに変更すれば、壁に衝突したような振動が物質に働き、割れる。

 割れてしまえば、破片一つ一つに操作の意識を割かなければならない。

 だがそれは物量的に無理。

 

 様々な行動を起こし、その試行の上で相手の弱点を探る事が戦いの基本。

 だが、フブキの能力はそれを省いて一撃目から敵の嫌がる攻撃を打てる。

 確かにこの能力オンリーでは、使い難いが、誰かと共闘すれば、性能は格段に跳ね上がる。

 

「でも、能力を教えたって、もう遅いよね?」

「……?」

「フブキちゃん、貰っちゃうよ」

 

 アキロゼが全身を屈ませて、飛び出す体勢を取った。

 またあの速度で動かれたら、目で追えないし、逃げられない。

 

「ドロドロ・泥沼どーろ」

 

 アキロゼの踏み込みに合わせて、おかゆは砂浜に手を付けた。

 地に付けた右手を中心に、大地が泥へと飲まれるように侵食される、拡がってゆく。

 アキロゼの足元まで泥が流れる。

 が、お構いなしにアキロゼは真っ直ぐに飛び出す。

 普通に踏み込めば泥の奥底へ全身が嵌り、抜け出せなくなるが、ベクトルを操るアキロゼには無意味。

 泥を弾き飛ばしてアキロゼは空を進む。

 そしてフブキを捕まえる。

 

「じゃあ、フブキちゃんは――」

 

 おかゆとアキロゼと、あと1人しかいないから、アキロゼは掴んだ泥がフブキだと、錯覚していた。

 

「ドロドロ・ねんどろいど」

「これ――泥人形⁉︎」

 

 アキロゼが捕まえた者は、フブキの形を似せて作られた土塊。

 しかもその土塊はおかゆの制御下にある。

 

「ぶはっ! おかゆん! ばばばばばばば……」

 

 泥沼の中へいつの間にかフブキが埋まっていた。

 フブキをある程度泥に埋めて、泥人形と区別が付かないように立ち回った。

 泥塗れになっても、許してね。

 

「わわわ、ごめん!」

 

 息の続かないフブキが踠き始めたので、おかゆは急いで能力を解く。

 あわやフブキを底なし沼に沈めるところだった。

 

 泥沼から解放されたフブキは、泥塗れ。

 マヨネーズに溺れたり、泥に溺れたり……なんて不憫な子。

 

「ううぅ…………」

 

 フブキが涙を流すが、泥が目立って涙が見えない。

 フブキには悪いが、今は構っていられない。我慢してね。

 

「ドロドロ・ノードロック」

 

 視線を空へ移して意識を集中する。

 動きが俊敏な事が何よりも厄介。

 泥人形を破壊して泥をアキロゼに付着させる。

 そして、その泥で四肢を覆う。

 

「私には意味ないね!」

 

 右腕、左腕、右脚、左腕、と順に大きく振るって、纏った泥を勢いだけで吹き飛ばした。

 もっと過激に顔を泥で埋めて仕舞えば、どうにかなったのか……。

 でも、おかゆは、「そういう事」が苦手だ。

 そもそも、戦う事が苦手だ。

 

 今だって、フブキが居るからこそ、勇気を出して戦える。

 誰かが側にいないと、きっと戦えない。

 1人になった時、おかゆは……。

 

 一丁前に技名まで考えて、自分の使い方を研究したが、やはり戦場に立った時の心境は変化しなかった。

 

 でも……いや、だからこそ……フブキには自分の側から離れてほしくない。

 

 ここは、おかゆの人生初の、頑張りどころ。

 

「フブキちゃんの序でに、おかゆちゃんも、連れてったら、喜ぶかな」

「フブキちゃんは、絶対に渡さない」

 

 フブキ争奪戦は、もう少し続いた。

 

 






 登場キャラ設定プロフィール8


 「紫咲シオン」
 能力……キズキズの実
 能力名の由来……初代キッズ
 出身……キャンディータウン
 好きな物……勝ち、秘密基地、人助け
 嫌いな物……負け、特訓、勉強

 「桃鈴ねね」
 能力……タオタオの実
 能力名の由来……タオタオ星人
 出身……キャンディータウン
 好きな物……昆虫、勉強
 嫌いな物……将来、夢、お化け
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