ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

5 / 144
キャンディータウン(CT)編
4話 交錯


 

 浜辺で船を見上げて指を突き立てる、ラプラス・ダークネス。

 ホロライブ6期生、holoXの総帥、その人だ。

 

 こちらの世界では、やはり記憶の片鱗すらない。

 

「怪しくても、悪い奴じゃないです」

「うるさい! 貴様らみたいな奴らがこの島に入るな、出て行け!」

 

 歓迎されないの度を超えた圧倒的拒絶。

 表の港を見る限り、鎖国のような政策はない様子だった。

 この少女の自分勝手な愛国心か、マリンを海賊と見抜いてか。

 

「アイツの仲間か? 別の悪者か?」

「だから……いい奴とは言わんけど、わるもんじゃないって……」

「船長、諦めましょう? こりゃワケアリですよ」

 

 ラプラスの燃える敵対心と愛国心は収まることを知らない。

 ポルカもマリンの側に立ち、上陸の断念を進言する。

 けれども、マリン的には目の前のホロメンを置き去りに、訳も聞かず出航はしたくない。

 

「一歩でも足を踏み入れてみろ、吾輩がとっ捕まえてやるからな!」

 

 迫真の表情が想いの強さを物語る。

 何が彼女をここまで駆り立てるのか。

 しかし、マリンやポルカの言葉には耳を貸そうともしない。

 ここは潔く諦めて、寧ろ正面の港に船をつけるか……。

 

「おいラプラス‼︎」

「っ……」

 

 突如、浜の向こうからドスの利いた怒鳴り声が潮の音を掻き消して響いた。

 この声にも、聞き覚えがある。

 ラプラスは、声質だけで相手を判別すると、冷や汗を額に浮かべて突然萎縮した。

 

「話くらい聞いとけよ、そいつらも困ってんだろうが」

 

 きゅっ、きゅっ、と鳴る砂浜を踏み歩くその人。

 洒落た格好がよく目立つ。

 

「と、トワさん……」

「ま……マジ?」

「ん? 知ってんの?」

「あー……いや、例の世界の」

 

 見事に重なるこの2人の登場。

 ラプラス単独なら喜んで、それだけ。

 だが、トワとラプラス2人同時の登場となると、もはや世界が仕組んでいるとしか思えない。

 世界の創造神を疑う。

 言うまでもなく、良いことではある。

 

「いい奴かも知れんし、もし仮に今の国ぶっ飛ばすってんなら、トワ達には好都合。一先ず話くらい聞いとけや」

「で、でもトワさん! アイツの仲間だったら……」

「だったら正面切るわ普通。こんな辺境地には来んだろ」

「…………」

「お前、ピリピリしすぎなんだよ……。気持ちゃ分かるが、落ち着け」

 

 ラプラスの頭に手をポンと乗せると感情を抑えさせる。

 そして、もう行きな、とこの場を退散させた。

 この世界のトワは、どうやら天使レベルに拍車が掛かっているようで、優しさが尋常ではないと見える。

 

「あのー……降りていい?」

「ん? ああ、ええよ」

 

 ラプラスと真逆に速攻許可。

 安堵し、ばさっと梯子を下ろした。

 持つべき荷物を持って砂浜に降りると、きゅっ、と音が鳴った。

 

「お前らも変なとこに船止めるなあ、怪しまれてもしゃーないで」

「それは、ごもっとも」

「海賊かなんか? 変な旗じゃけど」

「その見解の上で上陸させたんですか」

「ん〜、まあ、海賊は全部悪いとは思わんし」

「普通はワルでしょ」

 

 海賊の偏見が案外柔らかい。

 トワだけか、世界共通か。

 

「トワ様、ここってなんて国?」

「様って何?」

「いいじゃん」

「……? ここはキャンディータウン、お菓子の国。ここはそのハズレだけど」

 

 様呼びには不慣れだった。

 それは一度スルーして、国名へ移ろう。

 この国名、嫌でもあの人が頭に浮かぶ。

 お菓子の国の我儘姫さまが。

 

「昔はどこもかしこもお菓子だらけの国だったけど、今じゃ面影もないただの国」

「さっきのガキンチョも喚いてたけど、なんかあったんすか?」

「が、ガキンチョて……」

 

 いちいち呼称が面白い。

 聞き慣れないあだ名も悪くないかも知れない。

 よし、元の世界に戻ったら試してみよう。

 

「王が変わったんよ」

「……⁉︎」

 

 マリンの驚愕は、自分自身でも底知れない迫力だった。

 お菓子を見る影も失くし、ただの国と化した国家。

 理由は政権交代。

 きっと、前任の王とは、かの姫さま。

 

「亡くなった……とか?」

「さあね、今の王に変わってから、一切合切情報が閉ざされとるけ」

「……そっか」

「でも、前から王の側近やってた2人は今でも働いてるの見るよ、街にたまーに出てきとるし」

 

 側近が2人、今でも継続して働いている、か。

 側近レベルなら、殉死してもおかしくない。

 その2人が今尚働いているなら……前任の王を生かす条件で、働いている。

 単に、命が惜しいだけかも知れないが。

 

「んじゃ今度はこっちが聞くけど、単刀直入に、何しに来たん?」

「特に大きな目的はないですよ」

「ま、情報と資源の調達、運が良ければ仲間も、って感じっすよ」

「そっか、そりゃ怪しいな、ここに停める利点が正直ねえわ」

「え……」

「言っとっけど、疑わんとは言ってないぞ。話聞くっつっただけ」

 

 手のひら返しを喰らった気分。

 しかし、正論ではある。

 ここに止めた理由は、海賊だから。

 髑髏を掲げるでもなし。

 ならば、下手な手を打たなければ、捕まりはしない。

 海賊という事実を伏せていれば、問題なく港に停泊できた。

 資源、情報、仲間。

 どれを調達するにしても、立地は最悪の辺境地。

 純粋に推理すれば、不自然さや不審点が多々目につく。

 

 念の為の措置が裏目に出た。

 

「どうせ、そんな強くもないんやろ? 人目避けるくらいやし」

「まあ、めっちゃ弱いけど」

「船長はね」

「ポルカ⁉︎」

 

 トワの目が鋭くなった。

 微かに敵意を向けて来ている。

 

「……船長、やっぱ諦めましょう」

「寧ろいやです」

 

 ラプラスとトワ、そして仮定の前任の王を想うと、無視できない。

 この国を変えた今の王が何者かを突き止める。

 そして、前任者の安否確認、今と昔の国の在り方の見極めをしたい。

 場合によっては……。

 

「トワ様、街を案内してください」

「は? ムリ」

「警戒してるんですよね、なら、ポルカを一旦人質にしてください」

「んな勝手な……」

「この船にポルカとラプラスさんを置いていって、何かあれば好きにしてください」

「なるほど、分かった、それならおっけ」

 

 ポルカの意志は全く尊重されず、進行する。

 船長命令に背かない従順な仲間。

 その仲間を一時的に人質として、マリンが軽く情報を集める。

 併せてトワの様子も観察していきたい。

 

 ポルカにも、ラプラスから情報を引き出すように頼んでおく。

 

 トワがラプラスを連れて来て、渋々見張りに着任する。

 その後、船に2人を残して、トワとマリンは街へ向かった。

 

 

 

 その街、キャンディータウンにて。

 

 ふんわりとした柔らかなタイルの道。

 淡い蛍光色だらけの住宅街。

 寂れた駄菓子屋や特定の菓子専門店。

 どうみても面影は十分にある元お菓子の国。

 

 至って普通の国がそこには形成されており、ラプラスが怒鳴るような、腐った光景は拝見できない。

 何を不満に思うのか、まずはそれを突き止める。

 

「ねえトワ様、政権交代って……」

「街でその話はやめろ」

「あ、はい……すみません」

 

 有意義に時間を使おうとしたが、トワが会話を嫌う。

 この件の話題は全て禁句なのか。

 

「じゃあ、トワ様って何者? あんな辺境地に住んで、ラプラスさんも……訳ありって感じで、普通じゃないですよ」

「……別に、トワは大した人じゃない」

「へえ……ラプラスさんは違うんですね」

「アイツも、一般人。お前の言う通り、訳ありやけど」

 

 その詳細は本人に聞けと無言で語られる。

 ならそちらは、ポルカを信じよう。

 

 まずは、近場のコンビニで新聞を手に取る。

 国内の情報を載せた新聞だ。

 数日前の強盗事件、交通事故、大学の新たな研究結果、有名な料理店の閉店、海上の幽霊のスクープなどなど……。

 目ぼしい情報は皆無。

 政権に関する情報が完全に遮断されている。

 新聞記事に政策関連が載らない日は普通ない。

 

 トワの反応から、他人からの情報収集は望めない。

 ならば、直に王宮へ行くしか……。

 

「おい」

 

 次なる行動の思案中、トワに肘で小突かれた。

 正面を顎で示す。

 甲冑を着た数名の衛兵、その中央に彼らを束ねる2人が歩いている。

 

 怪しまれない程度に近づいて、一般人を装う。

 そして、頑張って聞き耳を立てる。

 

「今日も見回り警備にあたれ」

「不審者がいれば、捕らえて構わない」

 

 おいおい……ウソだろ……。

 王の元側近、その2人って……。

 

「但し、一般国民には決して負傷者を出さぬよう心掛けろ。何かあれば、スバルか先生に随時伝達するよう」

「「「はっ!」」」

 

 側近2人……。

 スバルとちょこ先生だ。

 益々匂う。

 やはり、前任の王はルーナ姫で間違いないだろう。

 

 衛兵たちが四方へと散り散りになる。

 見回り活動の開始だ。

 

「……スバル、行くわよ」

「ああ」

 

 スバルとちょこ先生は見回りではなく、特定の場所へ向かうようだ。

 マリンはトワに目配せし、尾行する意向を伝えた。

 ご勝手に、と言ったため息をつかれた。

 

 少しでも情報を掴むためのストーキング。

 始めは当然街を歩いていたが、次第に過疎状態になる。

 人気は消え失せ、周囲に緑が増えていく。

 マリンは疑問に思うだけだが、トワの顔色は次第に青ざめていった。

 時間にして十数分は尾行を続けた。

 辿り着いたのは、風変わりな小屋。

 緑の中に佇む、まるで隠れ家のような。

 

「アイツら……」

 

 トワがボソッと怒りを込めて呟いた。

 ならあの小屋は、トワの隠れ家か。

 隠れ家はボロく単純な木造建築で、出入り口に鍵がないため、不法侵入し放題。

 スバルとちょこ先生は、互いに頷き合い、扉を開いた。

 

「おい待てや!」

「「っ……!」」

 

 その光景を目の当たりにし、我慢の限界を迎えたのはトワだった。

 尾行であるにも関わらず、自ら姿を晒し、国の権力者を恐喝する。

 謎の来訪者に、2人は絶句し、マリンも大胆な行動に唖然としていた。

 

「あなた……なんでこんな所にいるの?」

 

 ちょこ先生が開けた扉をそっと閉めながら、トワに語りかけた。

 スバルは周囲を見渡し、マリンの存在に気づく。

 

「それはこっちのセリフじゃ!」

「……ちょこ先、多分つけられた」

「い、いや〜、すみませ〜ん……私はこれで……」

 

 マリンはスバルの視線に当てられ、たじたじしつつ足を引いていく。

 

「テメェら、ここがどんな場所か知ってて荒らしに来たんか⁉︎」

「知ってるから来たんだ」

「クソ野郎かよ! 王が変わって頭でも狂ったんか!」

「な……! 何も知らないで滅多なこと言わないでよ!」

「お前らが何も言わねぇからな!」

「仕方ないじゃない、ちょこだって……!」

「やめろ、口にすんな」

 

 トワとちょこ先生の間で激化する口論をスバルが阻止した。

 できればうっかり情報を漏らして欲しかったが、スバルの冷静な対処に阻まれた。

 

「ちょこ先、行くぞ」

「……ええ」

 

 スバルの促しで、ちょこ先生は再び扉を開く。

 中を捜索する気だ。

 トワが突如、走った。

 

「待てっつってんだろうがっ!」

 

 ちょこ先生の顔面……右頬を狙い拳を振るった。

 殴り飛ばす勢いで。

 

 ガン、と音がした。

 

 トワの右手に打撃後の衝撃が走る。

 

「っ……! ってぇぇえ‼︎」

 

 地面に崩れ、赤くなった右手を必死に押さえていた。

 殴られたちょこ先生ではなく、殴ったトワに被害が出た。

 

「大丈夫、トワ様……?」

 

 スバルとちょこ先生が痛みに悶えるトワを見下ろす中、マリンがそっと駆け寄り、腕を回した。

 涙目で2人を睨み上げるトワは確実に激昂していた。

 

「はやく探そう」

「……そうね」

「っ、だから待て……!」

「トワ様……!」

 

 左手を着いて立ち上がるトワ。

 マリンの静止も聴かずスバルを掴んで行かせない。

 

「お前らのせいで……!」

「ちょこ先、探しといて」

 

 スバルはトワを押さえ、ちょこに捜索を任せる。

 

「頼むからじっとしててくれ、こっちにも事情があるんだよ」

「知るか!」

「……じゃあ強制だ」

「っ! んだこれ……!」

 

 スバルの宥めすらも振り切り、トワは腕を振り解いた。

 強情なトワを止める術は、強硬策しかないと判断し、スバルは手を打つ。

 

 トワを球状の空気の壁が覆い、その内に閉じ込めた。

 空気が凝固したわけでもないが、その球を超えることができない。

 

「テメェら、能力者だったんか!」

「国の戦力を公に晒すわけにはいかねえんだよ」

 

 そう言って視線をマリンにずらした。

 お前も反抗すんのか?と。

 

「……」

「おいお前、コイツら止めてくれ!」

「…………」

「頼む‼︎」

「………………‼︎」

 

 トワとスバルの反する目に心が侵される。

 現状見える世界が、狭すぎる。

 トワもスバルもちょこも、全員助けたい。

 成り行きも、事態も知らないマリンは、手も口も、出せない。

 トワの決死の叫びに応えない。

 その辛さに歯軋りして、目を伏せた。

 

「スバル、あったわよ」

「ん、今行く」

 

 ちょこ先生に呼ばれ、スバルも中へと足を運ぶ。

 中で話し合い、それが目的の物と判明したようで、2人が出てきた。

 手には何もない。

 ポケットにでもしまったか。

 

「おい何取ったんだよ」

「ちょこ先、行くぞ」

「……ええ」

「おい! おい‼︎」

「…………」

 

 空気の室内に閉じ込められたトワには声を張り上げることしかできない。

 マリンも、2人に手を出す勇気と理由が持てない。

 

「クッッソォォッッ‼︎‼︎」

 

 痺れる右腕といつもの左腕を力強く地面に叩きつけた。

 悲痛に満ちた怒りの声が、緑の中をこだまする。

 

 それから5分ほどして、ようやく空気の壁が壊れたが、もはや二人の後を追うことはできなかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。