「あくたんって、戦えるんだね」
「殴り合いは苦手だけど、戦える」
鼻血を流して倒れるマリンをみこが抱えている。
こんな大事な状況で、そんな倒れ方があるかと突っ込みたいが、グッと堪える。
「2対3にして、勝とうっての?」
岩場から叩き落とされ、少々頭に来ているこよりが、怒気を含んだ表情をチラつかせた。
確かに数的不利にはなるが、こよりの弱点は事前に聞いていて、相性的にみこが合う事も知っている。
こよりを戦闘不能にすれば、お互いに頭を庇いながら戦う2対2だ。
勝算はある。
「ん……!」
突如こよりが白衣の内ポケットに手を突っ込む。
中からは小型の無線機のような通信機が。
「何?」
『もうすぐ着くから、準備しておいてね』
「まだ船長さんもフブキちゃんも捕まえてないんだけど」
『仕事が遅いんじゃない? んー……ま、着いた時に捕まえてなかったら別にいいよ』
「ほんっと、あんたら嫌い」
『ザー…………』
口喧嘩して、一方的に通信を切られ、こよりに更なる燃料が投下される。
力強く歯軋りして、今にも通信機を握り潰しそうだった。
その衝動を一度押し殺し、通信機をしまうと、今度は銃口の大きいピストルのような銃を取り出した。
みことあくあは咄嗟に構えた――。
パシュン――
「――?」
銃口を天に突きつけ、打ち上げると赤い煙がひゅるひゅると立ち昇った。
先程の会話から察するに、これは集合のサイン。
間も無くここに、敵勢力が全集結する。
「2人とも! さっさと船長さんを捕まえるよ‼︎」
こよりの猛々しい号令が掛かる。
成果なしで通信相手と会いたくないのだろう(プライド的に)。
「あくたん、不味いにぇ!」
「うん」
敵の狙いがマリンとフブキである事が発覚。
しかも猶予が少ない今、全力でマリンを捕らえにかかって来る。
「逃げる?」
「うーん、どうしよう」
一瞬の迷い。
しかし即座に戦う方向へシフトした。
みこはマリンを抱えながらにはなるが、みこもあくあも、基本は肉体を酷使しない特殊な攻撃。
回避時以外、行動への悪影響はない。
「LIVボム」
着火したマヨネーズがみことあくあへ飛び散る。
マヨネーズは高温に弱い、と事前に聞いていたが、自ら火を使って、一体何を……
ぼぼぼぼん――。
と、マヨネーズが暴発するように爆発した。
「マヨネーズって爆発すんのか!」
みこが信じ難い化学反応に声を荒げる。
当然、日常生活ではまず爆発しない。
だが、かなり限られた条件下で、爆破させる事は可能。
そしてマヨネーズを操る能力なら、どんな限られた条件でも発動して来る。
先制攻撃による威嚇の意図もあるが、何よりこの技を見せる事で、みこの炎技を制限させた。
「Xeウェーブ」
重ねてマヨネーズの大波が押し寄せる。
これはあくあのインク使用を制限している。
あくあがインクで着色しても、これでは瞬間的に色が流されてしまう。
「高加索!」
「んにゃ!」
ねねが、まるでみこに引き寄せられる様に飛び掛かる。
紙一重、マリンに気を配りながら回避。
だが、直後、今度は逆方向に吸われるように、空中で180度方向転換し、ねねの蹴りが再びみこを襲う。
「もう一度、高加索」
動きが早すぎる、次は避けられない。
「
合わせて、シオンからあくあへ、裂傷を与える衝撃波が空気を伝って飛んで来る――――
「にぇぇ?」
ねねがみこから遠ざかり、自らシオンの攻撃へ向かった。
シオンの攻撃が、軌道を変え、ねねに寄せられるように動く。
ビシュ――
と、全身が裂傷したのは、ねねだった。
「注目の黄色」
あくあがとある一点に黄色の目印を立てた。
ねねもシオンの攻撃も、そちらに惹かれてしまった。
だから、2人の攻撃は一点で交差する。
「――――‼︎‼︎」
「ぅぇ……ぁ…………う、ぐ……あぁ――‼︎」
「チッ、こんな時に!」
ねねが地面に倒れ込む。
だが、呻き声を上げたのは傷を与えたシオンの方。
錯乱した様子で耳を塞いで目を閉じる。
「何……?」
「もしかして……洗脳の弱点か何かじゃにぇか?」
味方への攻撃が弱点なら、洗脳者にも突破口が見えて来る。
「でも今は――!」
「こよりをぶっ飛ばす!」
シオンは錯乱により一時離脱するが、ねねは負傷しつつも毅然として戦闘に参加する様子。
こよりは当然元気満タン。
怒り心頭で150パーセントの力を放つ。
皆それぞれ、思う事、考える事があり、誰1人気がついていないが、既に浜から水平線を眺めれば、一隻の船が見える。
タイムリミットはもう直ぐだ。
そのリミットまでに、お互いの利と正義を追求する。
――――。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」
「「今度は何⁉︎」」
みことこよりがシンクロした。
あくあとねねも2人とは別でシンクロして空を見上げた。
空に人影が……3つか?
1人が1人を抱え、更にその1人に誰かが必死に纏わりついている。
「もう! 君はやっぱりいいって言ったのに!」
「フブキちゃんは……渡さない……」
「た……た、たか……たかい……高いぃ……!」
こちらへ飛んでくるのは、アキロゼ。
アキロゼが掴んでいるのはフブキ。
そのフブキを離すまいと粘るは、おかゆ。
ズドンッ。
「ねねちゃん、お願い」
「寝符宙雲」
アキロゼがどっしりと着地する。
纏わりつくおかゆ、そして連行したフブキを一時的に気絶させたい。
特におかゆ。
攻撃無効で厄介だ。だからねねに頼む。
この至近距離なら、無形物だろうとねねは敵を容易く倒せる。
「あれっ……意識が…………?」
半径数メートル内。
フブキとおかゆの頭が昏倒し、パタリと倒れた。
「さっすがぁ!」
2人の気絶を確認するとアキロゼはフブキを手離し、2人を砂に寝かせた。
「よぅし、これで2人確保」
「おい、どしたんだよ2人して!」
「おかゆ……!」
多方面からの格闘術を攻撃の基本としていたねねから放たれる、突然の異能力。
タオタオの実と言っていたな。
「間近の人を無条件で昏倒させちゃうのかも」
タオタオとされる名前から、倒れる、を連想する。
恐らく的中。
だからなんだと、そう言われれば終いだが。
「こよりちゃん、これでい?」
「アキちゃんだけは本当に有能!」
「ありがとねー」
こよりのストレスを解消するアキロゼの立ち回り。
これで一味の戦力は3人分削れた。
しかも2人が敵の手中。
「お、船来てるじゃん」
「「え⁉︎」」
他意無くチラと見た水平線から徐々に迫る一隻の船。
視力が悪くても見える距離までは達した。
到着まで残り5分ほどか。
「アキちゃん、2人を連れて先に船に――」
「――‼︎ 行かしぇにぇえよ! ニエべ‼︎」
アキロゼの迅速な行動よりも素早く、みこが能力を放つ。
一度の瞬き、その後の視界に映り込む、雪景色。
フブキとおかゆを巻き込んで、敵全体の足元を凍り付かせた。
「しまっ――!」
こより、ねねは自力で氷を解けず。
錯乱から復帰したシオン、そしてアキロゼのみが自力で抜け出せる。
パキン、パキン、と2度音が鳴る。
「アキちゃん、全部壊してよ」
「また凍らされるから意味ないよ。それより、あの子を仕留めちゃう方が手っ取り早い」
自力で抜け出したアキロゼは、こよりとねねの束縛を解かない。
シオンも同様に。
こよりの願いは聞き入れず、シオンと2人で、交戦する意向を見せた。
「幸い2対1……⁉︎」
敵がみこしかいないから楽勝、と威勢よく勝利宣言しかけるが、思考を切り替え神経を尖らせる。
ここへ来た時は敵がもう2人いた。
1人は鼻血を垂らして倒れていたが、もう1人は影こそ薄いがピンピンしていた。
その子の姿が無い。
情報で得た「消える能力者」が、脳内でリンクした。
「ハッ!」
センサーが反応した途端、アキロゼはシオンを抱えて大跳躍。
足場が砂だろうと、氷だろうと、その脚力は変わらない。
「
天から不可視の刃が雨の如く砂浜に降り注ぐ。
いや、刃ではない。
シオンの能力からするに、触れると傷を与える空気、と言ったところか。
砂浜に刃が突き刺さるような衝撃が、何度も発生して、強い地響きが起こる。
もはや砂浜はボロボロ。
地盤が砕けそうだ。
「――⁉︎」
そんな傷の雨を回避したのか、みこが2人と同じ高度に達していた。
「飛べるのは、おめぇだけじゃにぇえぞ!」
勇猛果敢に近接技で挑もうと試みる。
「おりぁぁ!」
姿勢に見合わない可愛らしい掛け声で浮遊したまま右足を振り上げた。
アキロゼの脇腹を狙った一発は、左腕で容易くあしらわれる。
しかも、攻撃の威力がそっくりそのまま自らの脚に反射する。
ピキッ、と骨が軋むような音がして、右足が想定外の方向へ曲がる。が、折れてはいない。
「あっぶない――シオンちゃん」
「
「に゛ぃ……っ」
シオンの攻撃が直撃し、みこの腹部が服ごと裂かれた。
破れた服が舞い散り、腹からは血が噴出する。
「っが……」
口からもじわりと血を滲ませて、みこが自身の操作を失い砂へと落下。
転落死の直前に、もう一度、一瞬だけ浮遊を発動して、落下の衝撃からは免れた。
「っ――⁉︎ まさか囮」
「――?」
「もう手遅れだよ」
ぐっ、とアキロゼに負荷がかかって初めて気付く。
みこの背中にでも乗っていたのか――あくあは。
体を掴まれてからでは、ベクトル変更も真価を発揮できない。
「ブラックアウト」
「「――⁉︎」」
まずは目潰し、視界を奪う。
2人の両目に黒のインクをぶちまけた。
少し染みるが、人体に害のないインクだ。
「静寂の青」
続いて行動制限。
2人の背中に青インクを塗り付ける。
その瞬間、2人は何かに取り憑かれたように静かになる。
アキロゼが能力を切り、地上へ3人纏めて落下。そして丁寧に着地すると、シオンもアキロゼもボーっと、心が抜けたように動かなくなった。
「ふぅ……」
あくあは敵から離れ、軽く息をつくと負傷したみこの下まで小走りに駆け寄る。
そのみこは、血を流して、荒く苦しそうに呼吸していた。
腹や胸、喉の辺りが頻繁に上下する。
あくあは筆に緑のインクをつけて、みこの傷口に塗りたくる。
「生命の緑」
インクが傷口に溶けるように染み込むと、傷口はみるみる塞がってゆく。
基本色はカラーイメージで特定の効力を有する。
緑は生き生きとした生命を感じる色。そのイメージから、傷口などに塗りつければ、一定の回復力を発揮する。
「ありがとにぇ……」
「うーん、こっちこそありがとう」
みこも、自身や他人の回復はできる。
だが、この負傷はある意味あくあが負わせた。それに、あくあのインクよりもみこの能力の方が汎用性が高いため、温存するならみこの能力だ。
とは言え、あくあの能力も非常に活用の幅が広い。
そのため、一味内で能力にランクづけするなら、今のところ1位がみこで2位があくあ、となるだろう。
「マリンたんは……」
「大丈夫、安全なとこに寝かせてる」
興奮して鼻血が出る、と言うのは迷信だ。
確かに血圧が上がればそれだけ出血の可能性は上がるが、それは鼻に限ったことではない。
だから恐らく、鼻血の原因は「脱いだシオンへの興奮」ではなく、その前の戦闘中の何らかの衝撃であると考えられる。
興奮が、その衝撃で傷ついた鼻に強く血を流した可能性は否定できないが。
とにかく、マリンの意識も流石にそろそろ戻るはずだ。
それまではあくあの能力で姿を隠しておく。
「よし、じゃあ早く2人を助けよう」
「うん! あ、でも……あの人どうにかしないと」
「そうだにぇ、近付いたらみこたちまでやられる」
2人はこより以上に、ねねへの警戒を強める。
氷を溶かした所で、おかゆもフブキも意識がないため動けない。
だが、近付くにはねねをどうにかする必要がある。
例えばぼたんでも居れば、遠距離から特定の人を引き寄せられるが……。
あくあの吸収は全てを引き寄せてしまうため、扱い辛い。
「みこの能力、小技が苦手なんだにぇ……」
至近距離にいる2人の内1人を攻撃したい場面。
しかしみこの技は全てが特大範囲で大雑把。
殲滅には優秀だが、こんな時はむしろ仇となる。
その弱点に、初めて気付いた。
ここへ来て滞ってしまう。
敵船はもう、目と鼻の先に――
「何やってんの、アンタら」
考えが甘かった。
敵の一部は飛べるから、船の到着よりも先に上陸してしまう。
このように。
「星街!」
「あ? ああ、あん時の奴ね」
みこを見下す。
チラリと隣のあくあも一瞥するが、無視した。
「何でもいいから、これどうにかしてよ」
「――」
こよりが叫んだ。
氷に囚われる哀れな姿を、すいせいは無感情に見つめた。
「はいはい」
砂浜に降り立つと、氷に軽く触れた。
途端に氷がバラバラと崩れ、全員が解放されてしまう。
「やけに素直じゃない?」
「は、同情してやってんの」
「――ぁ?」
不穏な空気が流れる。
「――まあいいよ。ほら、2人ともしゃんとする!」
こよりがマヨネーズを飛ばしてシオンとアキロゼに付着した青インクを流した。
「おお……なんか、ぼーっとしてた」
「お、おいあくたん!」
「ん…………やべ」
敵が全て解放され、おかゆとフブキは未だ意識不明。
しかも、すいせいの登場と、船の接近。
「流石にチェックメイトだねぇ」
こよりがほくそ笑む。
ガサガサ――と、林から草木を掻き分ける音が響く。
そこから現れるのは――
「ころねちゃん、ミオちゃん」
またもや敵。
信号を受けて、2人もここへ帰還した。
「ぽうぽう……トワ様……」
2人がどうなったか、知る由もない。
最悪の事態を想定した。
完全に詰みだ。
「はい、とうちゃーく」
そして絶望を重ねるように船が浜へと停泊し、1人の女性が降りてきた。
「はろはろー、みんな居るかな?」
AZKi、アルメンドラへ到着――。
登場キャラ設定プロフィール9
「大神ミオ」
能力……ウチウチの実
能力名の由来……うちうち、うちだよ〜
出身……ディアスケーダシティ
好きな物……フブキ、料理、調査
嫌いな物……惜別、写真
「猫又おかゆ」
所属と役職……宝鐘海賊団、見習い
能力……ドロドロの実
能力名の由来……泥棒ねこ
出身……ディアスケーダシティ
好きな物……ころね、ゲーム
嫌いな物……戦闘、お化け