ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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50話 裏切られた者

 

「おおー、随分と荒れてるねー」

 

 砂浜の惨状を見たAZKiが、ここで起きた戦闘を想像して笑う。

 

「ほら、AZKiちゃん。フブキちゃんとおかゆちゃん」

 

 こよりは、見せ付けるように気絶した2人を指してAZKiに詰め寄る。

 これで文句ないか、と。

 

「そうだね、この2人を確保したなら満足だよ。でも、捕まえたのこよりちゃんじゃないんでしょ? 『嘘』は良くないと思うな」

「チッ、そんな事アンタが言うなっての! ってか、捕まえた人なんて誰でもいいでしょ」

「誰でもいいならムキにならないよね。『嘘』が下手だよ」

「一々五月蝿い! いいから早く行くよ」

 

 やはり、こよりはAZKiと仲が良くない。

 すいせいは2人のやり取りを面白く無さそうに見ていた。

 

「ふふふ……よし、それじゃあみんな、撤収するよ、乗って」

 

 AZKiが号令をかけると、ねねとシオン、そしてころねとミオが真っ先に乗船していく。

 そして、その間にAZKiとすいせいが何やらアイコンタクトを取っていた。

 最後にすいせいが素っ気なく視線を逸らしてコンタクト終了。

 

 あくあとみこは、常に隙を窺うが、多勢に無勢。

 それぞれの能力などの兼ね合いもあり、迂闊に手を出せずにいた。

 

「アキちゃん、2人を乗せて」

「りょーかい!」

 

 こよりの指示に従い、アキロゼがおかゆとフブキをそれぞれの腕に抱えて地面をひと蹴りすると大きく跳躍――

 

星の光線銃(アストロ・レーザーガン)!」

 

 ピキュン――。

 

「ウ゛ッ――⁉︎」

「何⁉︎」

 

 アキロゼの心臓近くに、光線が一筋。

 林の方からだ。

 

「トワ様!」

「アバドンDevilエンジン」

 

 足の痛みなんざ知った事か!

 

 自家発電でエネルギー出力を上昇させ、身体能力の強化。

 スピードだけを意識して、全速力で駆け抜ける。

 目にも止まらぬ……とは行かないが、相当速い。

 

 アキロゼが撃たれた今、この速度に適うものはいない。

 

「LIVボム」

 

 こよりが2人を回収させまいと、マヨネーズ爆弾で迎撃するが俊敏な動きで躱され、ものの見事に2人を奪い返された。

 

「間に合った!」

 

 意識のない2人を連れて、敵船から距離を取る。

 

「引き返してよかったわ、マジ!」

 

 一度船へ戻ると決めた2人だが、赤色の信号弾を見て、直ちに行動を変更した。お陰でタイミングも、ギリギリながら完璧。

 ポルカも早足で林から出て、仲間の下へ駆け出した。

 ――その一歩目。

 

「どへっ!」

「おっぶっ!」

 

 転んだ。

 何もない所……じゃないな……。

 今の声は……。

 

「あ」

 

 あくあが小さく音を鳴らした。

 あそこは丁度、透明化したマリンを寝かせた位置。

 つまり、今ポルカが引っかかり、恐らく下敷きにしているのは――

 

「お゛……おぼい……」

 

 マリンが目覚めた。

 あくあは早急に能力を解く。

 

「船長!」「マリンたん!」

 

 全員がマリンの下へ駆け寄った。

 敵との距離が更に開く。

 こよりが歯を噛み合わせ、地団駄を踏んでいる。

 

「アキちゃん、船に戻ってて」

「ちょっ、指示はこよが――」

「すいちゃんも」

「――――」

 

 アキロゼとすいせいに乗船の指示を出す。

 2人とも素直に従った。

 こよりだけが、AZKiに反発するが……あまり意に介さない。

 AZKiが大ボスなのだろうか?

 

 すいせいとアキロゼが、飛んだり跳ねたりして乗船したことを後ろ目に確認する。

 AZKiはうっすらと口角を上げた。

 

「じゃあこよりちゃん」

「なに――ぁぇ?」

「「え……」」

 

 AZKiが後退して浮遊し、乗船する。

 浮遊ができない者が乗船するための縄梯子も、船を停めるための錨も、どちらも上がっている。

 即ち――

 

 ――こよりの逃走手段が断たれた。

 

 船は無情にも出航する。

 

「ちょっと! どう言う事⁉︎」

「ごめんねー、実はこれがシナリオ通りなんだ」

「はぁ⁉︎」

 

 浮遊以外の手段では到底辿り着けない位置まで船を進めると、一度船を止めた。とは言っても、全員が能力者で、海に浸かれないため、大した距離はない。

 

「…………冗談ってなら……まだ、許してあげるけど」

「いいよ、許さなくて。ホントだから」

 

 撤回を求めて、こよりが眉を動かしながら焦燥気味にわらう。

 それでも一切遠慮せずに、AZKiは真実を突きつけた。

 

「アンタら、こんな事してタダで済むと思ってんの⁉︎」

「――――」

 

 もはや宥め賺すことも不要と知り、怒号を上げた。

 

 急な仲間割れに、宝鐘の一味は呆然と経過を見ていた。

 

「ボクに手を出して、『ぺこらちゃん』が黙ってないよ!」

「――⁉︎ ぺこら……?」

 

 傍観していた一味だが、こよりから放たれたある1人の名前に、マリンは過剰な反応を示した。今までになく敏感に。

 

「んー……そう来るとはね、思ってたよ」

「――あん?」

「ほら、それ」

 

 AZKiが一つの小型機械を浮遊させて、こよりの手元に落とす。

 一味はこよりにほんの少しだけ接近して、聞き耳を立てた。

 そう、その小型機械は、またしても通信機だった。

 

「――聞こえますか⁉︎ ぺこらちゃん!」

 

 通信機を見て、相手はぺこらだと確信したのか、早速ぺこらの名を叫ぶ。

 ザザっと、砂嵐のような雑音が響き、チャンネルが切り替わるように雑音が消えた。

 そして、相手が通信に応じた。

 

『ん、あー、こよりちゃん?』

「――‼︎ ぺこらの声だ!」

 

 こよりよりも素早く反応したマリンが、踏み出したので、咄嗟にポルカが抑止した。

 感情を押し殺して、今は傍観に徹する。

 

「そうです! こよりです! ぺこらちゃん、今AZKiちゃんがこよの事を――」

『あー、うん、知ってる知ってる』

「ぇ…………え?」

『それ、ぺこーらの指示だからさー』

「ぇ…………ぇ…………? ぅ……そ、です…………ね」

 

 硬直した身体が、わなわなと震える。

 現実を受け入れられない。

 

『アンタはいい部下だったぺこだけど、もう必要ねぇぺこだから』

「ぁぇ…………?」

 

 淡々と告げられるクビ宣言。

 理解不能な内容に、感情がバグって微笑が浮かび上がる。

 そして、涙が垂れてくる。少し酸味の強い涙が。

 

 ざく、ざく、ざく、ざく、ざく……。

 

「船長――」

 

 ぱしん、とこよりの非力な腕力で握られた通信機を奪い取った。

 

「ぺこら、お前随分と悪い事してるみたいじゃん」

『……アンタ、誰?』

「かわいい後輩虐めてんなよ」

『…………』

「あたしは宝鐘マリン。お前んとこ行って、抱いてやるから覚悟してろ!」

『ズズっ、ザっ、ザザザーー……』

 

 それを火切りに通信は途絶えた。

 

「「………………」」

 

 通信機の砂嵐に合わせて、漣も音を立てる。

 

「「なんじゃその捨て台詞は! かっこ悪りぃぃ‼︎」」

 

 一味が口を揃えて叫んだ。

 一生に一度して聴かないであろう、変態チックな売り言葉。

 ぶっ飛ばすとか、ぶん殴るとか、もっといい言葉があったろうに……。

 何故わざわざ、抱く、なんて如何わしい単語を選抜するのか。

 

「返します」

「――」

 

 マリンは通信機をAZKiに向かって投げた、が、船まで届かない。

 ので、途中でAZKiが能力で強制的に引き寄せた。

 

「今回も、見逃してあげます」

「――?」

「ですが、次会う時は――懺悔させちゃいますよ」

 

 何を意識したのか、マリンはそんな言葉選びで鋭く睨みを利かせた。

 物珍しい強気なマリンを見てAZKiはクスクスと笑い、楽しそうにしていた。

 

「なら船長さんに面白い事を教えてあげる」

「――――」

「ここであなた達と争った理由は3つ。ひとつは内緒、ひとつはこよりちゃんを追い出すため、そしてもうひとつは……」

 

 甲板の奥の方へ一度、姿を隠し、再び現れた時、その傍らには目を疑う者が――!

 

「ルーナちゃんの誘拐に、万が一妨害が入らないようにするため」

「「――‼︎」」

 

 キャンディータウンのお姫様。

 以前マリンと協定を結び、共にハングリー島で落ち合うと約束した相手。

 

 姫森ルーナ。

 

 目隠しをされ、能力の使用を封じられている、と思われる。

 

「ルーナたん……」

「そうか……だから、アタシ達の航路を変更させたのか」

 

 ポルカが真っ先に意図を読み取った。

 彼女の中で燻っていた疑念がようやく解消されたのだ。

 

「この子の能力があって、船長さんたちは、私達に勝てそうですか――?」

「必ず全員、取り戻します」

「へぇ……意外と自信があるんだね。それとも……妄言吐いてるだけかな?」

 

 敵は洗脳の能力者を有する。

 そして、その洗脳にかかった催眠兵達も。

 

 勝つにせよ、負けるにせよ、その人達は必ず正気に戻す。

 

 それが失敗した時は、一味全員が洗脳にかかるだろう。

 

「ふふ……次会うのが楽しみだね」

 

 AZKiがぼんやりと不敵な笑みを残して、船と共に遠ざかってゆく。

 

「ええ、船長も楽しみです」

 

 次戦う時、きっと互いに運命を賭けた戦いとなるだろう。

 一味側が勝利すれば、洗脳者達は解放される。

 敵側が勝利すれば、晴れてホロメンは洗脳兵となる。

 

 

 

 アルメンドラ、半島(ヘントウ)の戦い――閉幕。

 決着は着かず。

 得た物は、幾つかの情報と、ひとつの疑心。

 

 この先彼女達が進む海は、勢いを増して荒れ狂う。

 

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