ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

52 / 144
51話 撒かれた疑心

 

 AZKi達が去った後、一味は一度船に集まり、怪我の治療から始めた。

 フブキが誘拐されかけた際に受けた打撲、トワが負傷した足、ポルカが避けきれず負ってしまった擦り傷、などなど……。

 一部は程度の低い負傷だが、一部は数日間の日常生活に影響する負傷だ。

 治癒の優先度が高い者から順に、みことあくあの能力で回復を行い、軽度のものは洗って絆創膏の様な物を貼る。

 

 アルメンドラ、ヘントウの戦いは、一味の敗戦だ。

 事態全てが敵の思惑通りに進み、一味もある意味甚大な被害を受けた。

 全てAZKiとぺこらの計画通りに事が運んでしまった。

 この戦いは初めから仕組まれていて、一味は敵に操られていたんだ。

 洗脳で操るだけでなく、戦況すら操ってくるとは……。

 

 

 船上の空気は常に重かった。

 それでも、全員の怪我が治るまでは極力マイナスな話題を避けた。

 その期間はたった1日だが、当然、会話はまったく弾まない。

 

 そして体力と傷の回復後――ヘントウの戦いから丁度1日半後。

 4月23日。

 

 会議のために、一味は食卓へ集った。

 食事は一つとして出ない。

 

「まずは状況整理から行いましょう」

 

 マリンはポルカに視線を向けた。

 小さく首肯し合うと、ポルカへと進行操作権が譲渡される。

 

「まずは敵について分かった事。今回の目的だな」

 

 仲間の件を前述すると、この会議は即破綻する。

 だから敵情報から。

 

「一つ目が、ルーナさんの誘拐だ」

 

 ポルカは冷静に切り出す。

 そして、話題に上がるその人の顔を皆が思い浮かべた。

 あの時船にいた……目隠しをされたルーナを。

 

「我々の進路と意識をここに向ける事で、万が一の介入を防いだ」

「そう、言ってましたね」

「……ラプラスたちは、どうなったんかな」

 

 AZKiの言葉を想起する。

 それと同時に一つの懸念も生まれる。

 ルーナの側には必ず部下がいたはずだ。

 

「あたし達の進路を変えさせたって事は、多分ルーナさん達も海の上にいたって事だ」

「……つまり?」

「洗脳の事も考えると、大勢は連れてってないはずなんだ。だから、側に置きたいメンバーを絞るだろう」

「パッと浮かぶのは、ちょこ先生、スバル先輩、ラプラス・ダークネスですね」

 

 大勢を率いて洗脳と接触し、盤面をひっくり返されては敵に塩を送るだけになる。

 能力を抑え込むルーナと、優秀な精鋭数名での出航。これが妥当だ。

 

 だが、あの時AZKiが触れたのはルーナだけ。

 誘拐したのは、ルーナだけなのか、部下もなのか。

 

「最悪を想定するなら、3人とも捕まった、か」

 

 ルーナと面識のないメンバーは、会話について行けない。

 ただ黙って、俯いて、疑う事しかしない。

 

「他の3人の行方も気になるけど……次」

 

 強引に話を切る。

 3人の所在など、考えても分からないのだから。

 

「もう一つの理由はこよりさんの追放。正直これが1番驚いた」

「うんうん」

「仲は……悪そうだったけど」

 

 こよりをここで切り捨てる理由が、一味には本当に見当もつかない。

 

「そして、最後の理由は船長とフブちゃんの誘拐」

 

 これに関しては、率先して行う意識はない様子だった。

 だが、今後は2人の誘拐を目的として襲撃される可能性も捨てきれない。

 フブキの能力は確かに、援護として優秀すぎる。

 しかし、マリンの能力を欲する理由が見えない。

 

「船長を誘拐したがるあたり、やっぱ洗脳には何か弱点や解除方法が存在してる」

「船長の能力が、洗脳に強く出れるのかな?」

「自覚はなさそうですけどね」

 

 過去にフブキが洗脳から解放された件も絡めると、その線が濃厚だ。

 

「ま、正直今は、敵の事とかどうでもいいと、ポルカは思ってるけど」

 

 あれこれと考えて、まるで重要な問題から目を背けている様子に、ポルカは強く一石を投じた。

 

「…………」

 

 皆黙りこくった。

 

 

 

「いるだろ、裏切りモンが」

 

 

 

 ――――――。

 ――――――。

 

 誰も否定しない。

 全員同意見だ。

 

「一応聞いとくけど、自分がそうだって奴、名乗り出ろよ」

「「…………」」

 

 出るはずがない。

 

「あ、あの……」

「何?」

 

 フブキが重たい空気の中、小さく声を上げた。

 

「トワ様なら……分かるんじゃ……」

 

 ポルカが以前、トワ自身に尋ねた事を、フブキが取り上げた。

 すると、そうだな、と同調する声が多く上がった。

 が、トワとマリンは言葉を噛み殺していた。

 

「確かに手っ取り早い。けど、それでトワ様が裏切り者だったら?」

「――!」

「フブちゃんを裏切り者だと主張して、それをフブちゃんは否定する。もしそうなった時、おかゆんなら、どっちを信じる?」

「ぇ…………」

 

 つまりは、トワが裏切り者だった時、船が崩壊する、という事。

 

「それでも選択肢が2つに絞れるんだよ? やるべきだとあてぃしは思う」

 

 自分は決して裏切ってない自信があるのか、あくあが強く主張する。

 その意見は、ポルカの内心と同じであった。

 だが、ここでトワの我儘発言をそのまま伝えて通せば、疑心と不安はより伝染する。

 

「裏切り者が2人いたら?」

「…………それぁ」

「トワ様とフブちゃんの争いの結果、トワ様が裏切り者となったとしよう。そしたら船は安泰だ。と、思う?」

 

 裏切り者は何人いても不思議はない。

 

「そうかもしれないけど、聞くだけ価値はあると思う。ポルカちゃん、やけにトワちゃんの能力使わせたく無いみたいだけど、理由でもあるの?」

「理由は今述べた通り。敵を排除した瞬間の緩みが崩壊を招く」

「2人いればその時はその時。1人でも潰せるなら、やるに越した事はない」

 

 トワを庇ったが故に、あくあの敵と化す。

 口論が次第に熾烈を極めてゆく。

 

「け、喧嘩は……」

「これは喧嘩じゃない。重要な口論であり、敵探しだ」

 

 仲裁に割り込もうとするマリンをポルカが一蹴した。

 マリンの思考なんて、ポルカにはお見通しだ。

 どうせまだ、裏切り者はいないと、仲間に心酔しているのだろう。

 

「そ、そうかもしれませんが……ほら、この先の進路について――」

「悪いけど、今のまま船は出せない」

「ぅっ……」

「もしこのまま出発するってんなら、ポルカは船を降りる」

「あてぃしも、おかゆを連れて降りる」

 

 仲間を疑う行為を避けるマリンだが、もはや主導権は副船長の手に。

 

「な……」

「分かってんだろ、船長だって」

 

 敵は内側にも存在すると、今回の戦いを持って実感したはずだ。

 無条件に信じ続けたツケがやってきた。

 それを自覚してはいるが、未だに信じたくない気持ちが勝る。

 

「このまま航海を続ければ、次こそこの一味は壊滅する」

 

 次にAZKi達と出会うときはきっと、向こうも本気で潰すか攫うか、その気で襲ってくる。

 そのとき内側に敵が居れば、どうなるか、そんな未来、ポルカでなくても見えているはずだ。

 

「そんな事……」

「――! おい!」

 

 頷かないマリンにポルカが声を荒げた。

 

 

「あんた、船長だろ‼︎ 6人の命を預かってんだぞ!」

 

 

 力強く言い放つ。

 マリンが怯えたように顔を曇らせた。

 

「……ハッキリしてください。裏切り者は、いると思いますか、いないと思いますか」

「……ぁ」

 

 言葉を詰まらせる。

 それでも一味は、船長の言葉を待つ。

 待って、待って、待ち続けて、体感1分の10秒間。

 

「…………いると、思ってます……!」

 

 答えは出た。

 皆同様に、一味内に敵と通じる者がいると判断した。

 結論が出た以上、ここでこれからの作戦を立てる意味も消えたわけだ。

 

「どうする? 徹底的に洗うとは言ってたけど、どうにも証明はできんっぽいぞ」

「ああ……」

 

 トワとポルカが主導して裏切り者探しの手段を講じる。

 が、マリンが突如影を落としたまま立ち上がった。

 

「……1週間後の朝10時」

「――あ?」

「その時間になったら、船を出します」

 

 当然のことながら、マリンは裏切り者でない。

 極論、マリンが裏切り者探しを求めないのなら、ここにいる必要はない。

 

「まだ一緒に行く人は……その時間に、ここへ来てください」

「ま、マリンたん……どこ行くの?」

「私は、それまでこの島で生活します」

 

 マリンは船を後にした。

 

「…………」

 

 静寂の中、マリンの靴音が微かに聞こえた。

 

「仕方ない、今日は解散だな」

「それはいいけど、どうすんだよ、こん先は」

「船の出入りは自由にできるから、生活についてはどっちでもいいでしょ」

 

 船で過ごそうと、島で過ごそうと、個人の自由。

 生活については。

 

「この先……どうなるんだろう……」

 

 前途多難。

 一味全員、しばしの休息と、これからを見つめ直す時間が必要だ。

 ある意味、マリンの指示は的確だった。

 本人の意図は関係なく。

 

「それぞれこれからについて……主に、航海を続けるか否か、を考えておいた方がいい」

 

 ポルカは最後に宿題を課すと、真っ先に部屋を抜けた。

 きっと、ポルカが退室しなければ、皆動きづらいだろうと、思ったから。

 

 

 そしてその日はもう――マリン号に、人が戻ることはなかった。

 

 






 裏切りモン、誰だと思う?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。