AZKi達が去った後、一味は一度船に集まり、怪我の治療から始めた。
フブキが誘拐されかけた際に受けた打撲、トワが負傷した足、ポルカが避けきれず負ってしまった擦り傷、などなど……。
一部は程度の低い負傷だが、一部は数日間の日常生活に影響する負傷だ。
治癒の優先度が高い者から順に、みことあくあの能力で回復を行い、軽度のものは洗って絆創膏の様な物を貼る。
アルメンドラ、ヘントウの戦いは、一味の敗戦だ。
事態全てが敵の思惑通りに進み、一味もある意味甚大な被害を受けた。
全てAZKiとぺこらの計画通りに事が運んでしまった。
この戦いは初めから仕組まれていて、一味は敵に操られていたんだ。
洗脳で操るだけでなく、戦況すら操ってくるとは……。
船上の空気は常に重かった。
それでも、全員の怪我が治るまでは極力マイナスな話題を避けた。
その期間はたった1日だが、当然、会話はまったく弾まない。
そして体力と傷の回復後――ヘントウの戦いから丁度1日半後。
4月23日。
会議のために、一味は食卓へ集った。
食事は一つとして出ない。
「まずは状況整理から行いましょう」
マリンはポルカに視線を向けた。
小さく首肯し合うと、ポルカへと進行操作権が譲渡される。
「まずは敵について分かった事。今回の目的だな」
仲間の件を前述すると、この会議は即破綻する。
だから敵情報から。
「一つ目が、ルーナさんの誘拐だ」
ポルカは冷静に切り出す。
そして、話題に上がるその人の顔を皆が思い浮かべた。
あの時船にいた……目隠しをされたルーナを。
「我々の進路と意識をここに向ける事で、万が一の介入を防いだ」
「そう、言ってましたね」
「……ラプラスたちは、どうなったんかな」
AZKiの言葉を想起する。
それと同時に一つの懸念も生まれる。
ルーナの側には必ず部下がいたはずだ。
「あたし達の進路を変えさせたって事は、多分ルーナさん達も海の上にいたって事だ」
「……つまり?」
「洗脳の事も考えると、大勢は連れてってないはずなんだ。だから、側に置きたいメンバーを絞るだろう」
「パッと浮かぶのは、ちょこ先生、スバル先輩、ラプラス・ダークネスですね」
大勢を率いて洗脳と接触し、盤面をひっくり返されては敵に塩を送るだけになる。
能力を抑え込むルーナと、優秀な精鋭数名での出航。これが妥当だ。
だが、あの時AZKiが触れたのはルーナだけ。
誘拐したのは、ルーナだけなのか、部下もなのか。
「最悪を想定するなら、3人とも捕まった、か」
ルーナと面識のないメンバーは、会話について行けない。
ただ黙って、俯いて、疑う事しかしない。
「他の3人の行方も気になるけど……次」
強引に話を切る。
3人の所在など、考えても分からないのだから。
「もう一つの理由はこよりさんの追放。正直これが1番驚いた」
「うんうん」
「仲は……悪そうだったけど」
こよりをここで切り捨てる理由が、一味には本当に見当もつかない。
「そして、最後の理由は船長とフブちゃんの誘拐」
これに関しては、率先して行う意識はない様子だった。
だが、今後は2人の誘拐を目的として襲撃される可能性も捨てきれない。
フブキの能力は確かに、援護として優秀すぎる。
しかし、マリンの能力を欲する理由が見えない。
「船長を誘拐したがるあたり、やっぱ洗脳には何か弱点や解除方法が存在してる」
「船長の能力が、洗脳に強く出れるのかな?」
「自覚はなさそうですけどね」
過去にフブキが洗脳から解放された件も絡めると、その線が濃厚だ。
「ま、正直今は、敵の事とかどうでもいいと、ポルカは思ってるけど」
あれこれと考えて、まるで重要な問題から目を背けている様子に、ポルカは強く一石を投じた。
「…………」
皆黙りこくった。
「いるだろ、裏切りモンが」
――――――。
――――――。
誰も否定しない。
全員同意見だ。
「一応聞いとくけど、自分がそうだって奴、名乗り出ろよ」
「「…………」」
出るはずがない。
「あ、あの……」
「何?」
フブキが重たい空気の中、小さく声を上げた。
「トワ様なら……分かるんじゃ……」
ポルカが以前、トワ自身に尋ねた事を、フブキが取り上げた。
すると、そうだな、と同調する声が多く上がった。
が、トワとマリンは言葉を噛み殺していた。
「確かに手っ取り早い。けど、それでトワ様が裏切り者だったら?」
「――!」
「フブちゃんを裏切り者だと主張して、それをフブちゃんは否定する。もしそうなった時、おかゆんなら、どっちを信じる?」
「ぇ…………」
つまりは、トワが裏切り者だった時、船が崩壊する、という事。
「それでも選択肢が2つに絞れるんだよ? やるべきだとあてぃしは思う」
自分は決して裏切ってない自信があるのか、あくあが強く主張する。
その意見は、ポルカの内心と同じであった。
だが、ここでトワの我儘発言をそのまま伝えて通せば、疑心と不安はより伝染する。
「裏切り者が2人いたら?」
「…………それぁ」
「トワ様とフブちゃんの争いの結果、トワ様が裏切り者となったとしよう。そしたら船は安泰だ。と、思う?」
裏切り者は何人いても不思議はない。
「そうかもしれないけど、聞くだけ価値はあると思う。ポルカちゃん、やけにトワちゃんの能力使わせたく無いみたいだけど、理由でもあるの?」
「理由は今述べた通り。敵を排除した瞬間の緩みが崩壊を招く」
「2人いればその時はその時。1人でも潰せるなら、やるに越した事はない」
トワを庇ったが故に、あくあの敵と化す。
口論が次第に熾烈を極めてゆく。
「け、喧嘩は……」
「これは喧嘩じゃない。重要な口論であり、敵探しだ」
仲裁に割り込もうとするマリンをポルカが一蹴した。
マリンの思考なんて、ポルカにはお見通しだ。
どうせまだ、裏切り者はいないと、仲間に心酔しているのだろう。
「そ、そうかもしれませんが……ほら、この先の進路について――」
「悪いけど、今のまま船は出せない」
「ぅっ……」
「もしこのまま出発するってんなら、ポルカは船を降りる」
「あてぃしも、おかゆを連れて降りる」
仲間を疑う行為を避けるマリンだが、もはや主導権は副船長の手に。
「な……」
「分かってんだろ、船長だって」
敵は内側にも存在すると、今回の戦いを持って実感したはずだ。
無条件に信じ続けたツケがやってきた。
それを自覚してはいるが、未だに信じたくない気持ちが勝る。
「このまま航海を続ければ、次こそこの一味は壊滅する」
次にAZKi達と出会うときはきっと、向こうも本気で潰すか攫うか、その気で襲ってくる。
そのとき内側に敵が居れば、どうなるか、そんな未来、ポルカでなくても見えているはずだ。
「そんな事……」
「――! おい!」
頷かないマリンにポルカが声を荒げた。
「あんた、船長だろ‼︎ 6人の命を預かってんだぞ!」
力強く言い放つ。
マリンが怯えたように顔を曇らせた。
「……ハッキリしてください。裏切り者は、いると思いますか、いないと思いますか」
「……ぁ」
言葉を詰まらせる。
それでも一味は、船長の言葉を待つ。
待って、待って、待ち続けて、体感1分の10秒間。
「…………いると、思ってます……!」
答えは出た。
皆同様に、一味内に敵と通じる者がいると判断した。
結論が出た以上、ここでこれからの作戦を立てる意味も消えたわけだ。
「どうする? 徹底的に洗うとは言ってたけど、どうにも証明はできんっぽいぞ」
「ああ……」
トワとポルカが主導して裏切り者探しの手段を講じる。
が、マリンが突如影を落としたまま立ち上がった。
「……1週間後の朝10時」
「――あ?」
「その時間になったら、船を出します」
当然のことながら、マリンは裏切り者でない。
極論、マリンが裏切り者探しを求めないのなら、ここにいる必要はない。
「まだ一緒に行く人は……その時間に、ここへ来てください」
「ま、マリンたん……どこ行くの?」
「私は、それまでこの島で生活します」
マリンは船を後にした。
「…………」
静寂の中、マリンの靴音が微かに聞こえた。
「仕方ない、今日は解散だな」
「それはいいけど、どうすんだよ、こん先は」
「船の出入りは自由にできるから、生活についてはどっちでもいいでしょ」
船で過ごそうと、島で過ごそうと、個人の自由。
生活については。
「この先……どうなるんだろう……」
前途多難。
一味全員、しばしの休息と、これからを見つめ直す時間が必要だ。
ある意味、マリンの指示は的確だった。
本人の意図は関係なく。
「それぞれこれからについて……主に、航海を続けるか否か、を考えておいた方がいい」
ポルカは最後に宿題を課すと、真っ先に部屋を抜けた。
きっと、ポルカが退室しなければ、皆動きづらいだろうと、思ったから。
そしてその日はもう――マリン号に、人が戻ることはなかった。
裏切りモン、誰だと思う?