とある宿屋。
少し安めの部屋を1週間借りたあくあとみこ。
裏切り者探しが無意識に行われる今、大勢で行動する事を誰も善しとしない。
だから、3班に分かれた。
ただ、特に意識して分かれたわけではない。
何となく、船での居心地が悪くなり、外へ出る際に一緒になった3ペア。
あくあとみこ、フブキとおかゆ、ポルカとトワ。
この3グループ。
「みこちゃんは、これからどうするの?」
「みこは……」
宿屋の一室で、これからを話し合う。
しかし早速みこが行き詰まる。
「アレで船長してるんだから、驚きよね……」
「…………」
「どこが良かったの? 顔?」
一味加入から日の浅いあくあは、マリンの利点をあまり目にしていない。
易々とあくあを仲間にしたり、戦闘中に鼻血吹いて倒れたり、いろはをしつこく勧誘したり、ぺこらに妙な喧嘩を売ったり……裏切り者を最後まで探そうとしなかったり。
「変」の部分ばかり見てきたから、みこがマリンを追う理由が分からない。
今上げた通り、顔はいいと思ったが。
「マリンたんは、皆の事を考えてくれてるんだよ……」
みこは頭が悪いから、いつもマリンやポルカが話す内容が、イマイチ分からない。
でも、いつだってマリンは「仲間」を思って行動していた。
ただ、その「仲間」が、みことマリンでは括り方が異なると、薄々感じてはいた。
「皆の事を考えてる、ね…………自分の都合に合わせてる風に、見えたけど」
「…………」
否定はできなかった。
「それに、航海を続けるなら1週間後に来いって、言ってたけど、あてぃしとみこちゃんが来る事、想定してるよ、きっと」
「――?」
1週間。
大きな問題を抱えてるから、その決断の為の時間だと思った。
けれど、あくあは違う視点で捉えたらしい。
「あてぃしのインク回復時間、みこちゃんの体力回復時間。大体どっちも1週間くらいでしょ?」
「ん、あぁ……そうだにぇ……」
治療で2人の能力を使用し、それが完全回復するまでには時間を要する。
更に、みこはまだ傷が完全回復していない。能力を使いすぎない様に、少しずつ使っているためである。
だからマリンは1週間後に期限を設定し、2人がそのまま航海に出られるようにしていた。
と、あくあは推測した。
「でもみこは……マリンたんの優しさだと思うな……」
自信を持って言えないけれど……。
いや、きっと、そうあって欲しい、ただの願望なのだろう。
「…………」
「それよりあくたんは、みこで良かったの? 一緒にいるの」
「――フブキちゃんはおかゆを恋愛対象として見てないからいいの」
「……にゃはは」
「……それは勿論、おかゆと一緒が良かったよ? でもね……今は流石に」
裏切り騒動の他にも、あの2人には色々抱える物がある。
あくあやみこ、そしてマリン以上に繊細な時期だ。
おかゆを思うなら、今は距離を置くべきなのである。
「……ねえ、みこちゃんは、誰が怪しいと思う?」
「にぇ⁉︎」
「あてぃしはポルカちゃんとトワちゃん、怪しいと思うの」
「にぇぇ……2人とも?」
原因はあの口論だろう。
先ほど述べた通り、みこはあまり頭が良くない。
だから、こう言った考察の時は極力自論を提唱しないようにしている。
ただ、何か怪しい点や不可解な点が無いのか、と聞かれれば……。
「疑うってんじゃないけど……」
と、とても重要な前置きをする。
「ぽぅぽぅがにぇ……」
「――やっぱり?」
「んーん……あの、そうじゃなくて……通信機が……」
たった一つだけ、ずっと気掛かりな事。
みこでさえ、記憶して、不思議に思っていた事。
だが、みこ以上に一味歴の短いあくあは、ポルカの持つ通信機を記憶していない。
「ほら、あくたんのいた島でも、一回使ってたでしょ?」
「そう言えば……」
記憶を巡ると、何となく片隅に残っていた。
「誰と話してるのかは、みんな知らなくて。それが親友だって事くらいしか分かってにぇえの」
それが――言ってしまえば怪しい、とみこは言う。
「何それ、1番怪しいじゃん」
あくあは確信めいた風な目つきをした。
だからみこは慌ててあくあを宥めた。
「でもぽぅぽぅは、みこの事助けてくれたし、いつもマリンたんの事支えてるし……」
ポルカの外見上の善意を挙げるが、裏切り者でないと無責任に断言できない。
しかし、いざと言う時、いつも局面を挽回してくれたのは、ポルカだ。
ここの2人は知らないが、キャンディータウンでも臨機応変に対応し、イリス島では唯一敵の罠を回避して一味を救った。
「まあ、誰が犯人でも、あてぃしはおかゆに着いていくから」
「……みこも、マリンたんに着いていく、にぇ」
例え、マリンやおかゆが、その裏切り者だとしても、2人はそれぞれの想い人を追い続ける事を誓う。
しかし果たして、この2人は裏切っていないのだろうか……?
*****
一方、別日、別の宿。
ポルカとトワ――。
「今日も船長、見つかんなかったな」
「ああ、広くない島だってのに、どこに居るんだか……」
トワとポルカはあれ以来、ずっとマリンを探していた。
マリンのマーキングを外したせいで、船長探しも一苦労。
連日島を歩きっぱなしで、2人とも疲労が目立つ。
「早くしねえと、期限がきちまうよ」
ポルカがどうしても、マリンと話したいらしい。
その詳細はトワにも教えてくれない。
一度聞いて答えないなら何度聞いても同じ。
だから、初日以降は気にしない事にした。
トワだって、マリンと話はしたいので、自分の為に探している。そう言う事にした。
「……なあ、ポルカ」
「ん……?」
それとは全く関係のない話だが、トワはこの際にある事を尋ねておく。
「ずっと気にしない様にしてたけど、いつも言ってる、通信機の相手の友達って、誰なん?」
「…………」
マリンが聞かないから、誰1人として触れなかった話題。
無論、それが「誰なのか」なんて些細な問題だ。どうせ名前を言われても、マリンやまつりなどの、特定のメンバーしか分からないから。
肝心な事は、「そいつ」が敵か味方か、信用できるかできないか。
「ま、普通に考えたら、あたしが第一候補だよな」
「……や、別に、そんな意味じゃないけど」
ポルカは自覚があった。
特に隠す気は無かったが、話す必要も無かった。
トワは慰めにならない一言を補足する。
「相手の名前は『不知火フレア』。幼馴染」
また1人、新たな名前が明かされる。
しかし、トワには全く馴染みのない名前。
さて、その危険性は――?
「信頼度で言えば高い方だな。なんせ嘘とか、人を騙すとかが苦手な性格だから」
「へえ……でも、洗脳に掛かってたら、関係ないんじゃね?」
「多分関係ないね」
なら、100パーセント安全ではない。
そもそも、ポルカの発言すら、確実性に欠ける。なんせ、誰1人としてポルカが通信機で会話している所を、見た事がないのだから。
「ただ、大前提としてあたしは、フレアに作戦の事も、一味の能力とかの詳細も話してない」
「……そっか」
不知火フレア。
その名前だけは記憶して、あとは話半分程度で十分だ。
この段階で、信頼度を激しく上下させる事は危険過ぎる。
しかし、これが嘘ならポルカが犯人で決まりと、簡単なのだが……本当なら、それこそ有力犯人候補が上がらず、内側の敵探しがより難航する。
いや……ポルカが白なら、次の最有力候補はトワになるのか……。
「この話のついでにあたしもトワ様に聞きたいことがある」
「ん、何?」
「裏切り者探し。拒否した理由は何?」
「…………」
痛いところを突かれ、トワは口を噤んだ。
僅かに視線を落とすと、小さく深呼吸した。
「怖かった。ただ、純粋に」
ポツリと呟くが、それでもキッパリと言い切る。
ポルカは唖然とした。意外すぎて……。
「人の心を覗くのって、勇気が要る。もし、トワの事を疑ってて、ボロクソに言ってたら……悲しいし、怖い」
真偽を問いたく、ポルカは視線を向けたが、目を伏せ続けて一向に合わない。
「それに、トワの能力で見て、この一味が別方向に崩壊したらと思うと……やるせない」
トワの一言で、船の未来が変わる。
例え上手く敵を排除できたとしても、一定の混乱と波乱が起きる。
「船長が前に言ってたよ……『言葉は刄』って」
真意の汲めない発言で、聞き流したはずだったが、何故かハッキリと憶えていた。
あの時の言葉が、船長の声で、自分の声で、再生される。
「当時は小馬鹿にしてたけど、今は、言い得て妙だなって……思うよ」
言葉は刄。
それは、現代社会で様々な人が口にする。
形の無い凶器として、日々人々を傷つけ、癒す物。
人はその凶器を、普段は心の内に秘めている。
少なからず持つ悪意は、表に出さぬ様心掛ける物が多い。
トワの能力は、場合によってはそれすらも読み取り、勝手に自滅してしまう危険性を孕む。
「このまま放置しても、結局崩壊の運命にある。なのに、見ない方がいいって言うのか?」
他人の心はわからない。
だから人の内なる本心に怯える。その意思は尊重できる。
でも、一味の事を本気で案じているなら、その恐怖さえも打ち倒して、誰が犯人なのか、見るべきではないのか?
例え誰かが、内心トワの事を疑っていたり、嫌っていたとしても。
「それとも、自分が疑われる、心当たりでも――?」
その一言に、トワは顔を上げた。
目と目が合う。
そしてまた、逸らされる。
「信頼ってのは、自分が想像する以上に、されてないもんだって、知ってたか?」
「――どう言う意味?」
「…………」
その先は何も語らなかった。
結局、その後この話はすぐに打ち切られ、1日を終えた。
そしてまた、2人はマリン探しに勤しんだ。