ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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52話 周りの目

 

 とある宿屋。

 少し安めの部屋を1週間借りたあくあとみこ。

 裏切り者探しが無意識に行われる今、大勢で行動する事を誰も善しとしない。

 だから、3班に分かれた。

 ただ、特に意識して分かれたわけではない。

 何となく、船での居心地が悪くなり、外へ出る際に一緒になった3ペア。

 

 あくあとみこ、フブキとおかゆ、ポルカとトワ。

 この3グループ。

 

 

「みこちゃんは、これからどうするの?」

「みこは……」

 

 宿屋の一室で、これからを話し合う。

 しかし早速みこが行き詰まる。

 

「アレで船長してるんだから、驚きよね……」

「…………」

「どこが良かったの? 顔?」

 

 一味加入から日の浅いあくあは、マリンの利点をあまり目にしていない。

 易々とあくあを仲間にしたり、戦闘中に鼻血吹いて倒れたり、いろはをしつこく勧誘したり、ぺこらに妙な喧嘩を売ったり……裏切り者を最後まで探そうとしなかったり。

 「変」の部分ばかり見てきたから、みこがマリンを追う理由が分からない。

 今上げた通り、顔はいいと思ったが。

 

「マリンたんは、皆の事を考えてくれてるんだよ……」

 

 みこは頭が悪いから、いつもマリンやポルカが話す内容が、イマイチ分からない。

 でも、いつだってマリンは「仲間」を思って行動していた。

 ただ、その「仲間」が、みことマリンでは括り方が異なると、薄々感じてはいた。

 

「皆の事を考えてる、ね…………自分の都合に合わせてる風に、見えたけど」

「…………」

 

 否定はできなかった。

 

「それに、航海を続けるなら1週間後に来いって、言ってたけど、あてぃしとみこちゃんが来る事、想定してるよ、きっと」

「――?」

 

 1週間。

 大きな問題を抱えてるから、その決断の為の時間だと思った。

 けれど、あくあは違う視点で捉えたらしい。

 

「あてぃしのインク回復時間、みこちゃんの体力回復時間。大体どっちも1週間くらいでしょ?」

「ん、あぁ……そうだにぇ……」

 

 治療で2人の能力を使用し、それが完全回復するまでには時間を要する。

 更に、みこはまだ傷が完全回復していない。能力を使いすぎない様に、少しずつ使っているためである。

 だからマリンは1週間後に期限を設定し、2人がそのまま航海に出られるようにしていた。

 と、あくあは推測した。

 

「でもみこは……マリンたんの優しさだと思うな……」

 

 自信を持って言えないけれど……。

 いや、きっと、そうあって欲しい、ただの願望なのだろう。

 

「…………」

「それよりあくたんは、みこで良かったの? 一緒にいるの」

「――フブキちゃんはおかゆを恋愛対象として見てないからいいの」

「……にゃはは」

「……それは勿論、おかゆと一緒が良かったよ? でもね……今は流石に」

 

 裏切り騒動の他にも、あの2人には色々抱える物がある。

 あくあやみこ、そしてマリン以上に繊細な時期だ。

 おかゆを思うなら、今は距離を置くべきなのである。

 

「……ねえ、みこちゃんは、誰が怪しいと思う?」

「にぇ⁉︎」

「あてぃしはポルカちゃんとトワちゃん、怪しいと思うの」

「にぇぇ……2人とも?」

 

 原因はあの口論だろう。

 先ほど述べた通り、みこはあまり頭が良くない。

 だから、こう言った考察の時は極力自論を提唱しないようにしている。

 ただ、何か怪しい点や不可解な点が無いのか、と聞かれれば……。

 

「疑うってんじゃないけど……」

 

 と、とても重要な前置きをする。

 

「ぽぅぽぅがにぇ……」

「――やっぱり?」

「んーん……あの、そうじゃなくて……通信機が……」

 

 たった一つだけ、ずっと気掛かりな事。

 みこでさえ、記憶して、不思議に思っていた事。

 だが、みこ以上に一味歴の短いあくあは、ポルカの持つ通信機を記憶していない。

 

「ほら、あくたんのいた島でも、一回使ってたでしょ?」

「そう言えば……」

 

 記憶を巡ると、何となく片隅に残っていた。

 

「誰と話してるのかは、みんな知らなくて。それが親友だって事くらいしか分かってにぇえの」

 

 それが――言ってしまえば怪しい、とみこは言う。

 

「何それ、1番怪しいじゃん」

 

 あくあは確信めいた風な目つきをした。

 だからみこは慌ててあくあを宥めた。

 

「でもぽぅぽぅは、みこの事助けてくれたし、いつもマリンたんの事支えてるし……」

 

 ポルカの外見上の善意を挙げるが、裏切り者でないと無責任に断言できない。

 しかし、いざと言う時、いつも局面を挽回してくれたのは、ポルカだ。

 ここの2人は知らないが、キャンディータウンでも臨機応変に対応し、イリス島では唯一敵の罠を回避して一味を救った。

 

「まあ、誰が犯人でも、あてぃしはおかゆに着いていくから」

「……みこも、マリンたんに着いていく、にぇ」

 

 例え、マリンやおかゆが、その裏切り者だとしても、2人はそれぞれの想い人を追い続ける事を誓う。

 しかし果たして、この2人は裏切っていないのだろうか……?

 

 

 

          *****

 

 

 

 一方、別日、別の宿。

 ポルカとトワ――。

 

「今日も船長、見つかんなかったな」

「ああ、広くない島だってのに、どこに居るんだか……」

 

 トワとポルカはあれ以来、ずっとマリンを探していた。

 マリンのマーキングを外したせいで、船長探しも一苦労。

 連日島を歩きっぱなしで、2人とも疲労が目立つ。

 

「早くしねえと、期限がきちまうよ」

 

 ポルカがどうしても、マリンと話したいらしい。

 その詳細はトワにも教えてくれない。

 一度聞いて答えないなら何度聞いても同じ。

 だから、初日以降は気にしない事にした。

 トワだって、マリンと話はしたいので、自分の為に探している。そう言う事にした。

 

「……なあ、ポルカ」

「ん……?」

 

 それとは全く関係のない話だが、トワはこの際にある事を尋ねておく。

 

「ずっと気にしない様にしてたけど、いつも言ってる、通信機の相手の友達って、誰なん?」

「…………」

 

 マリンが聞かないから、誰1人として触れなかった話題。

 無論、それが「誰なのか」なんて些細な問題だ。どうせ名前を言われても、マリンやまつりなどの、特定のメンバーしか分からないから。

 肝心な事は、「そいつ」が敵か味方か、信用できるかできないか。

 

「ま、普通に考えたら、あたしが第一候補だよな」

「……や、別に、そんな意味じゃないけど」

 

 ポルカは自覚があった。

 特に隠す気は無かったが、話す必要も無かった。

 トワは慰めにならない一言を補足する。

 

「相手の名前は『不知火フレア』。幼馴染」

 

 また1人、新たな名前が明かされる。

 しかし、トワには全く馴染みのない名前。

 さて、その危険性は――?

 

「信頼度で言えば高い方だな。なんせ嘘とか、人を騙すとかが苦手な性格だから」

「へえ……でも、洗脳に掛かってたら、関係ないんじゃね?」

「多分関係ないね」

 

 なら、100パーセント安全ではない。

 そもそも、ポルカの発言すら、確実性に欠ける。なんせ、誰1人としてポルカが通信機で会話している所を、見た事がないのだから。

 

「ただ、大前提としてあたしは、フレアに作戦の事も、一味の能力とかの詳細も話してない」

「……そっか」

 

 不知火フレア。

 その名前だけは記憶して、あとは話半分程度で十分だ。

 この段階で、信頼度を激しく上下させる事は危険過ぎる。

 

 しかし、これが嘘ならポルカが犯人で決まりと、簡単なのだが……本当なら、それこそ有力犯人候補が上がらず、内側の敵探しがより難航する。

 いや……ポルカが白なら、次の最有力候補はトワになるのか……。

 

「この話のついでにあたしもトワ様に聞きたいことがある」

「ん、何?」

「裏切り者探し。拒否した理由は何?」

「…………」

 

 痛いところを突かれ、トワは口を噤んだ。

 僅かに視線を落とすと、小さく深呼吸した。

 

「怖かった。ただ、純粋に」

 

 ポツリと呟くが、それでもキッパリと言い切る。

 ポルカは唖然とした。意外すぎて……。

 

「人の心を覗くのって、勇気が要る。もし、トワの事を疑ってて、ボロクソに言ってたら……悲しいし、怖い」

 

 真偽を問いたく、ポルカは視線を向けたが、目を伏せ続けて一向に合わない。

 

「それに、トワの能力で見て、この一味が別方向に崩壊したらと思うと……やるせない」

 

 トワの一言で、船の未来が変わる。

 例え上手く敵を排除できたとしても、一定の混乱と波乱が起きる。

 

「船長が前に言ってたよ……『言葉は刄』って」

 

 真意の汲めない発言で、聞き流したはずだったが、何故かハッキリと憶えていた。

 あの時の言葉が、船長の声で、自分の声で、再生される。

 

「当時は小馬鹿にしてたけど、今は、言い得て妙だなって……思うよ」

 

 言葉は刄。

 それは、現代社会で様々な人が口にする。

 形の無い凶器として、日々人々を傷つけ、癒す物。

 

 人はその凶器を、普段は心の内に秘めている。

 少なからず持つ悪意は、表に出さぬ様心掛ける物が多い。

 

 トワの能力は、場合によってはそれすらも読み取り、勝手に自滅してしまう危険性を孕む。

 

「このまま放置しても、結局崩壊の運命にある。なのに、見ない方がいいって言うのか?」

 

 他人の心はわからない。

 だから人の内なる本心に怯える。その意思は尊重できる。

 でも、一味の事を本気で案じているなら、その恐怖さえも打ち倒して、誰が犯人なのか、見るべきではないのか?

 例え誰かが、内心トワの事を疑っていたり、嫌っていたとしても。

 

「それとも、自分が疑われる、心当たりでも――?」

 

 その一言に、トワは顔を上げた。

 目と目が合う。

 

 そしてまた、逸らされる。

 

「信頼ってのは、自分が想像する以上に、されてないもんだって、知ってたか?」

「――どう言う意味?」

「…………」

 

 その先は何も語らなかった。

 

 結局、その後この話はすぐに打ち切られ、1日を終えた。

 そしてまた、2人はマリン探しに勤しんだ。

 

 

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