ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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53話 惹きつける力

 

 アルメンドラ市内にて、フブキとおかゆ――。

 

「……フブキちゃん」

「…………」

「フブキちゃん……」

「…………どしたの?」

 

 船を出て、まだ数十分。

 心の整理は出来ていない。

 

「怒ってる……? 僕が、フブキちゃんの言った事聞かないで……あの実を食べた事……」

 

 以前、フブキにアドバイスを求めた。

 能力を得るべきか否か。

 

 その助言の後、ぼたんと話し合って能力を得る事を決意した。

 自分から言うと、マリンには口出ししない様懇願したものの、結局能力を見せるまで話す事はなかった。

 

「怒ってないよ」

 

 儚く紡いだ。

 寂寥感の溢れ出す姿とは裏腹に、声は大きくハキハキと喋る。

 それは、空元気に見えた。

 

「…………」

 

 気まずい空気が流れる。

 

「ねえおかゆん」

「な……なにかな?」

「このまま、この海賊団が無くなっちゃったら、どうする?」

「え……」

「もし、ぽるちゃんやあくあちゃんが船を降りて、他の人たちも辞めていったら、おかゆんはどうする?」

 

 話題が逸れる。

 どちらも重要度はマックスだから、この質問を無碍にはできない。

 

「…………」

 

 どうするか、特に考えていなかったので今から少し考える。

 今の一味が解散しようがしまいが、おかゆはフブキの選択に迎合する予定だった。

 悩むだけ無駄とばかりに、思考を放棄していた。

 

 フブキの答えを聞く前に、自分で答えろ、なんて、想定していなかった。

 

「……みんなが辞めるにしても、船長さんは続けるみたいだし……それに付いていく、かな」

 

 と、マリンの仲間として航海を続けることを明言した。

 ころさんとミオちゃんを助けたい。

 これだけは、どんな恐ろしい壁が立ち塞がろうとも変わりはしない。

 

「フブキちゃんは……?」

「私は、場合によっては別の海賊団を立ち上げてもいいと思う」

「え……そ、それって……」

 

 フブキはおかゆを正面から見つめて首肯した。

 

「私たちで新しい海賊団を作って、みんなを助けに行くの」

「…………すごく、いいと思うな」

 

 不可能だ。絶対に。

 フブキにはそもそも、誰かを救う力があると思えない。

 そして、おかゆ以外がフブキの下につくとも思えない。

 そうなれば、2人で航海して、AZKiたち全員を相手にする事となる。

 おかゆが稀有なロギア種を有していようとも、瞬殺だ。

 2人は、アキロゼ1人に苦戦を強いられていたのに。

 

 だけど、おかゆはその案に反対しなかった。

 今のおかゆが、フブキに反発して正論をぶつけても、きっと反感を買う。

 大喧嘩になって、きっと修復できなくなる。

 

「…………」

(……言わなくちゃ)

「…………」

(ちゃんと、言わなきゃいけない……)

 

 なのに……!

 なんで……!

 どうして……!

 

 

 1週間、2人はぎこちなく「親友」を演じ続けるしかなかった。

 

 

 

          *****

 

 

 

 ポルカとトワは、出航日前日までマリンを発見できなかったのだが、それまでマリンは、何処で何をしていたのだろうか?

 資金も僅かで、頼るあても無かったはず。

 それでもマリンは姿を眩まし続けていた。

 その理由は、解散直後の出会いにある。

 

 船を空け、マリンはトボトボと市内へと入った。

 目的地は無いが、目的はひとつだけある。

 偶然見つかればラッキー、とそう思った矢先、その人は現れた。

 

「……あ」

「うげっ……」

 

 市内でマリンは、こよりと遭遇した。

 マリンの顔を見た途端、こよりは踵を返す。

 

「あ、待ってこより!」

「いや」

「お願い、待って! 話が――」

「うるさい、付いてこないで」

 

 次第に早足になり、しまいには駆け出す。

 それになぞって、マリンも駆け出した。

 何度か声をかけるが中々応じない。

 しかし――

 

「ぺこらの事とか聞きたいんだって」

「――」

 

 ぺこらの名前に鋭く耳を跳ねさせ、足を止めた。

 無意識に飛び出した名前だったが、効果があって良かった。

 マリンは歩速を緩めながら、こよりの背後まで寄る。

 

「色々と話を……」

「……分かった、こっち」

「ぇぁ……はい」

 

 僅かな興味を覗かせて、こよりは首肯した。

 すると、どこかへ向かい始めた。

 やがて、市内から少し外れた住宅街、その中の一軒家へと辿り着く。

 

「ここは……」

「一応こよの家」

「一応?」

「ずっと家離れてたから」

「ぁぁ……」

 

 フブキたちの様に、家を空けて海に出ていたわけだ。

 

 人目につきたくないと言う意向に従い、マリンはこより宅へとお邪魔する。

 埃こそ溜まってはいるが、散らかってはいない。

 

「マヨネーズは出さないよ」

「え、ああ、はい、どうぞお構いなく」

 

 ささっとコップを洗い、こよりは自分用にマヨネーズを注いだ。

 

「それで……」

 

 こよりは注いだ内の半分程を一気に喉の奥へと流し込んだ。

 見ているだけで喉が渇いて、胃もたれしそう。

 マリンはそっと自身の腹に手を当てた。

 

「船長さんは、ぺこらちゃんとどんな関係?」

 

 まずはそこから。

 マリンへどの程度の情報を譲渡できるか。そして、この場を設け続ける価値があるかどうか。

 

「関係か……友達、とは言えないし……」

 

 一瞬だがマリンはぺこらと対話をした。

 その際に直感できた。ぺこらにはマリンの――ホロライブの記憶がない。

 だから、友達と認識できない。

 当然、知り合いとも言えない。

 ただ一方的に色々知っているだけ……。

 

「『理解者』ってどう?」

「こっちが聞いてんの」

「はいすみません」

 

 語感のいい表現を提案したら睨まれた。

 しかし、他に上手い表現は浮かばない。

 

「あー、でも、本当に理解者ってのが1番近いかも」

「あっそ……じゃ、どんな事知ってんの?」

「人参を刺してる。アーモンド。目の中にウサギが居る。太眉が可愛い。こんぺこ〜。どどんがどんどんどん。ぶんぶんちゃ。ぽえーむ書いてる。111歳。人見知り――」

「もういい。殆ど意味分かんないし」

 

 ホロライブ関連の「兎田ぺこら」情報を羅列したが、こよりから共感は得られない。

 しかし、殆どとは? どれか一つでも、引っかかる単語があったのか?

 

「なんか分かる単語あった?」

「……アーモンドは関連性がある――と思う」

「……その心は?」

 

 マリンとこよりは席に着いた。

 向かい合い、顔を見合わせる。

 

「この島の名前、アルメンドラって言うけど、アーモンドって意味らしいよ。本当かどうか知らないけど」

「へえ、そうなですね……。ぺこらがここ出身って事?」

「さあ、あの人の出身は知らないけど、こより達とはここで会った」

「――? そっかぁ……でも、それだけ?」

 

 関連性を感じる。そう口にする割には繋がりが薄い。

 もうひと押し、関係性を匂わせる何かが欲しい。

 グイグイとくるマリンに少々気圧される。

 

「秘密機構「希望の花」。これはこよ達の組織の名前」

「秘密機構? 絶妙にダサいね」

「鼻にマヨネーズ詰めるよ」

「はい、すみません」

 

 語呂は悪くないが、単語が微妙にマッチせず、弱そうな組織名。

 小馬鹿にしたマリンにマヨネーズを突きつけて脅す。

 テーブルに乗り出した身を引いて、座り直すと、続けた。

 

「命名はぺこらちゃん。詳しい名付けの理由は聞いてないけど「希望の花」はアーモンドの花言葉だから、だって」

「どこで調べたんだか……」

 

 マリンは毎度思うが、アニメや漫画、小説の主人公って、妙な所で妙な知識を持っていて不思議だ。

 ぺこらはどこでアーモンドの花言葉を知ったのだろうか?

 やっぱり、調べたのだろうか?

 

 ……いやいや、問題はそこじゃない。

 何故、アーモンドを選んだのか、だ。

 

「っつーか、組織名とかどうでもよくね?」

「あんたが関連するものあげろって言ったんでしょうが」

「あ、そういやそうだワ」

「っ……」

 

 こよりが額に手を当てた。

 ペチンと音が鳴る。

 どうやら、早速マリンの変人っぷりに悩み、惑わされている様子。

 自分の組織の頭がぺこらで良かったと、熟思った。

 

「それで、ぺこらのこと聞きたいんだけど――」

「悪いけど、ぺこらちゃんのことは話せない」

「え……」

 

 食い気味のマリンを片手で抑制する。

 手のひら返しを食らったようだが、こよりは一度も話をするなんて、言っていない。

 しかし、これではこちらの情報を、ほんの少しだが与えただけになる。

 

「でも、ぺこらはこよりの事を裏切ったんでしょ? 話していいじゃん」

「…………例えぺこらちゃんが裏切ったとしても、こよはぺこらちゃんを裏切らない」

 

 裏切られた事実は一定以上の精神的ダメージを与えたが、それでもこよりはぺこらを統領として尊敬している。

 だから決して、売ったりしない。

 

「健気なもんですねぇ……みこちじゃないのに」

「――?」

 

 みこを「にぇさん」と慕うような健気さが垣間見える。

 

「その変わり、あの2人の事なら教えてあげる」

「あの2人? AZKi先輩とすいちゃんの事?」

「――先輩?」

「あー、気にしないで」

 

 ぺこらの情報は引き出せないが、別の2人の情報が降ってきた。

 手のひら返しからの棚ぼた展開。

 いつもの調子で「先輩」呼びをすると、こよりは不審げに眉を寄せた。

 ので、慌てて取り繕う。

 

「そんなことより! 何故にぺこらの事は内緒で2人の事は教えてくれるんです?」

「嫌いだから」

「そ、そんな理由?」

「動機なんて、好きとか嫌いとか、基本は単純な感情論でしょ」

「…………」

 

 そう言われると、納得できる。

 マリンの今の行動の動機付けをするならば、ホロメンが好きだから、で片付いてしまう。

 人は理性を持つ生物だが、どんな事象でも、決断の時は必ずと言っていいほど感情が付き纏う。

 

「人は感情で動く生き物。だからこそ、それに干渉したり、操る能力は強い」

「…………」

 

 洗脳……の事を言っているのか?

 

「で、何が知りたいの? 全部とはいかないけど、2人に関して教えれる事は教えてあげる」

「能力! これは必須」

 

 この世界において、能力の有無と詳細は最重要。

 マリンは身を乗り出した。

 

「お、落ち着いて……教えるから」

 

 マリンの特殊なペースに、次第に流される。

 人を惹きつける力には、いろんな形があるみたいだ。

 

「すいちゃんは、パズパズの実のパズル人間」

「パズルかぁ……思ったより括りが広かった」

 

 テトテト、ブロブロ、とか、テトリス特化の能力かと思ったが、マリンの得意なぷよぷよや、その他パズル全般を引き込んだか。

 

「ブロック生んだりとかは見たけど、他に何ができる?」

「攻撃手段は基本的にそれで片付けてるよ。近接になると突然斧振り回したりするけど」

「斧……」

 

 めちゃくちゃ危ない。

 イメージはぴったりだけれども。

 しかし、過去数回に渡りすいせいと遭遇しているが、その手に武器を持っていた記憶はない。

 まさか、敵地にその武器を持たずに乗り込むわけはあるまい。

 

「そういう所はしっかり頭が回るみたいだね」

「へ?」

「すいちゃんは能力が覚醒してるの。だから、触れたもの全てをパズル化させる事ができる」

「覚醒者……!」

 

 遂に出てきたか、覚醒者。

 ルーナの能力は強制的に覚醒を引き起こすとしていたが、すいせいは無関係に覚醒している。

 ルーナの能力なしなら、覚醒者は初なのでは?

 

「斧は、基本的にブロックパズルにバラして、ルービックキューブみたいにコンパンクトにしてポケットにしまってるみたい」

「便利〜」

「自分自身をパズル化して分解する事で打撃系統の攻撃は受け流されるし、周囲の物体をパズル化、ブロック化すれば、敵の足場でさえ自在に操ることが出来るから、あの娘は強いよ、かなり」

 

 一定の嫌悪感を見せつつも、かなり高評価。

 それだけ、すいせいの戦闘能力は高いと伺える。

 

「応用は他にもあると思うけど、こよが知ってるのはこのくらい」

「なーほーね。そいじゃ、AZKi先輩は?」

「……能力名は分かんない。教えてもらってないから」

「そうなん?」

「うん。ただ、お化け関連の能力である事は分かる」

「え……お化け?」

 

 それは……そら先輩の専売特許だろ。

 

「ポルターガイスト、ドッペルゲンガー、人魂、幽体離脱。やってる事がホラーっぽいし、ホラホラの実ってとこかな」

 

 こよりは能力名を推察した。

 確かに、妥当ではある。

 しかし、AZKiがホラー能力を持つ違和感はどうしても拭いきれない。

 もっと別の……隠された力があっても不思議はなさそうだ。

 

「他に仲間はいない感じ?」

「居るよ、洗脳にかかった人が数人」

「……洗脳の能力者って、誰?」

「…………」

 

 答えたくない部分は断固として拒否される。

 無言を貫くとはそういう事だ。

 しかしこれで、こよりの知り合いが洗脳能力であると分かった。

 それこそ、ぺこらであっても不思議はない。

 

「それじゃあさ、AZKi先輩とこより達はなんで手を組んでたん?」

「ぺこらちゃんとAZKiちゃんの利害の一致って聞いた。詳細はこよも知らない」

「ああ……そっか」

 

 こよりの身分は高くなかったのか?

 ぺこらの部下でありながら、同盟の目的すら知らないなんて。

 それとも、こよりを追放するから、予め情報が回らないように手を打っていたのか。

 

「……他にまだ何かある?」

「あ、シエロソニードってわかる?」

「分かるよ、音楽の国」

「航路も分かる?」

「さあね。こよに航海術の知識は無いし」

「くぁ〜、ダメかぁ〜」

 

 マリンが次に目指したい島、シエロソニード。

 こっそりトワに航路を尋ねたが、彼女は知らなかった。

 当然その他、一味に航路を知るものはおらず、行き詰まっていた。

 ワンチャンに賭けたがハズレのようだ。

 泣く泣く諦めるしかないのか。

 

「そこに行きたいの?」

「いやー……できれば、そうしたかったんですけど」

 

 と、半ば諦めモードに入る。

 

「……前にあげた地図、まだ持ってる?」

「へ? 地図?」

「フブキちゃんにあげたやつ。ここの島を示した」

「あー、はい。多分フブちゃんが」

「それさえあれば行けるんじゃない?」

「え、マジで? でも、シエロソニードは乗ってないって――」

「近くの島が乗ってるはずだから、そこからどの方角へ行けばいいかは分かる」

 

 地図上には記されていないから、記されている別の島を目印に方角を見れば、辿り着ける、とこよりは言う。

 

「そっかー! ならよかったぁ……」

 

 よし、これで航路に変更はなしだ。

 進路は変わらずシエロソニードへの道を取ることとする。

 

 すると、マリンはチラチラとこよりに意味深な視線を数度向けた。

 

「――?」

「あのさ、こより。そこでひとつ交渉があるんだけど」

 

 

 マリンは人差し指と同時に、ある交換条件を提示した。

 

 

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