4月30日、朝10時。
マリン号には、一味全員が集った。
全員の顔は、解散前に比べると、随分と引き締まっていた。
「全員、来るんですね?」
皆が合わせて頷く。
「ポルカちゃん、このまま行くなら降りるって言ってなかった?」
攻撃的な言葉を使うあくあ。
嫌味ではなく、「このまま行っていいのか?」と尋ねている。
「あくたんこそ、おかゆん連れて降りるんじゃなかった?」
ポルカは冗談混じりに返した。
「おかゆが行くって言うなら、あてぃしは当然お供するからね」
おかゆの進む道を、あくあが舗装するのだ。
怪我しないように、露払いとして、どこまでも。
2人のやり取りを、唯一目を細めて見ていたトワは、話が終わると視線をサッと逸らした。
「それで……何で居るの?」
みこが、1人に指差した。
この場で、現在、唯一一味に属さない存在。
「はい、次なる島、シエロソニードへの案内人、博衣こよりさんでーす! 皆さん拍手ー……。わー、ぱちぱちー……」
以前の空気を取り戻そうと、マリンは調子を戻そうと奮起するが、場の空気はピリピリとしたまま。
弱々しい拍手が、とても虚しく感じる。
「紹介はいらん」
虚しさを蹴り飛ばすような一言。
マリンは凹んだ。
「この状況で、敵の1人を船に乗せるのはリスキーすぎます」
「敵に置き去りにされたんですよ。心配入りませんって」
「演技かもしれないよ?」
マリンも捨てていない可能性を、ズバッと切り込むあくあ。
「こよりは大丈夫!」
「――――」
また出た、と呆れ果てる一味。
しかし、その中から何故か溢れ出る安心感。
マリンはいつでもマリンだ。
「このマヨラーが、次の島への案内役かぁ……」
みこはとても不服そうに口元を曲げた。
こよりは特に反応しない。
「……シエロソニード、行くん?」
「はい、行きますよ! トワ様の故郷!」
いつも以上な低音ボイスにも、マリンはテンション高めに応えた。
「でも、どうやって?」
「それなんですけど、フブちゃん」
「――はい?」
「あの地図、頂戴」
「えっと……ここを示した地図ですか? この人に貰った」
「そうです」
「ええっと……取ってきます」
フブキが自室へ向かい、戻って来た。
手には円柱型に丸めたあの地図が握られている。
地図を開き、こよりを一瞥すると、マリンに手渡した。
「どうも――はい、こより」
マリンからこよりへと渡る。
「…………ここから真っ直ぐ北北東に向かうと、シエロソニードに着くはずだよ」
と、船を出す前だが、早速答えてくれた。
「よーし、それでは北北東へ向けて進みましょう。どっちが北北東ですか?」
マリンは水平線を指差しながら、誰かに尋ねた。
「船長が今見てる方向の右斜め後ろ」
ほぼ真逆だった。
ずずず……っと方向をずらして、もう一度、出発の合図を取る。
「シエロソニードへ向けて、出航〜」
「あほいあほい」
島が邪魔なので沿岸をぐるりと回って、直線航路に入る。
「因みにどれくらいかかる?」
「1週間くらい」
「え……そんなに?」
「当たり前でしょ。元々の航路上にあった島なんだから」
当初のルートを大きく外れてアルメンドラへ来た一味。
記憶の跡地からシエロソニードへ向かう航路とは、120度も異なる方向を通って来た。
直線距離を通れば、大凡それくらい。
キャンディータウンからハングリー島までの距離と、ほぼ等しい。
「1週間もね……」
ぼやいた。
「……大丈夫だって! ね? ね?」
へつらう。
治安が悪い。
「…………」
そんなタイプじゃないが、珍しくこよりが空気を読んで、客室へ篭ろうとした。
しかし――
「待った、こよりさん」
「――」
ポルカが呼び止める。
「こん中に、裏切り者はいんのか?」
「「……‼︎」」
こよりは敵からの刺客である可能性と共に、炙れた情報源の可能性もある。
適度な信頼と疑心が、またしても要求される。
「こよは犯人を知らない。けど、内通がある事は確かだよ。AZKiちゃんがそう言ってたから」
「そうか」
「精々、気を付けなよ。こよだって、ぺこらちゃんのとこまでは、送ってほしいからね」
そう残すと、今度こそ客室へと閉じ籠った。
「……一体、こよりさんとどんな協定を組んだんですか?」
「シエロソニードへの航路を教えてもらう変わりに、こよりをハングリー島まで運ぶ」
「う〜ん……まあ条件はいいけど。何でそこまでシエロソニードに拘る」
「トワ様の故郷だから!」
と言う建前。
本心は、そこで暮らすと思われる、かなたや他ホロメンを見つけ出すため。
でも、口にすればトワに不審がられる。
だから口外しない。
「トワは何も頼んでないけど」
寧ろ、今の一味を現在のシエロソニードへ、連れて行きたくはない。
だけど、トワもそれを言わない。
隠し事があるのは、何も2人だけではなかろう。
「まあまあ、そう言わず」
ここから更に1週間。今の一味には耐え難い期間だろう。
しかも、ずっと船内という閉塞的な空間では。
「さて皆さん、直線航路に入ったので、ここからは真っ直ぐ進むだけですが、定期的にどこかの島で休憩を挟みつつ行きます」
「……そんな余裕、あるのかな?」
「早く着き過ぎてもダメなんです。ほら、ハングリー島への襲撃日時まで、まだまだあるんですから」
ルーナ、まつりと定めた作戦決行日まではあと半月ほどもある。
シエロソニードからハングリー島までは、1日ほどの距離。
近場での滞在は、最小限に抑えたい。
「この空気が続いちゃ、一味も保たんしな」
「そ、だね」
決まりだ。
「……じゃ、何かあるまでは、どうぞ、自由に」
歯切れ悪く解散させられた。
それから、一味は島を転々としながら、約9日と言う長期間を経て、音楽の国「シエロソニード」へと到達した。
次回、とうとう到来、シエロソニード編。
初っ端から、新面子三昧なんで、乞うご期待。
そして一味の中で、暗躍する者が――!