ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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58話 策ならある

 

 下らないダジャレを放ったかのように凍えた空気のまま、マリンとラミィは港へ到着した。

 音楽の国なだけあって、道中には様々な楽器店、コンサート会場など、それらしい施設が散見された。

 しかし、港となればさしもの音楽国であろうと、関連施設は無いに等しい。

 

 30分置きに船着場に新たな船が到着しては、検問を受けている。

 

「……ここが1番人口の多いあくたん?」

「は?」

「もとい、港?」

「殴るよ、蹴るよ?」

 

 本当に下らないダジャレで場を凍らせるマリンをストレートに脅す。

 しかしマリンは靡かなかった。

 

「……港はここしか無い」

「え、そうなん?」

「入国制限ために検問を開いて、ここ以外から入国する存在はわためぇが即座に偵察、場合によってはその場で拘束になるの。あなた達みたいにね」

 

 実例は自分自身だった。

 非常に分かりやすい仕組みだが、強固な制度。

 瞬間移動可能なわための存在あってこそな気もするが。

 

「なーるほど」

 

 ぐるりと旋回。

 さて、どう聞き込みをしようか。

 

「……それで、手掛かりは掴んでるんでしょ。早く証拠を引き出しに行けば」

 

 思い悩むマリンを見透かして、ラミィからの力強い一言。

 皮肉が効いている。

 

「え、ええ勿論!」

「……」

「ら、ラミィは……ほら、酒でも飲んでていいよ」

「――」

「ぎ、牛丼でも食べてたり……」

「……」

「マヨネーズでも吸ってたり……」

「――」

「ポテチでも食べてたり……」

「……」

 

 記憶に新しいホロメンから適当に連想する。

 

「とにかく! 万事順調だから! ラミィはここで待ってて!」

 

 どピューん、と風のように去っていった。

 

「――」

 

 ラミィはいいお酒を探しに出かけた。

 

 

 

 それから約3時間……。

 

 

 

 聞き込みの成果はほぼ0と言っていいほど、有益な情報はなかった。

 1つだけ分かった事と言えば、トワはかなたと仲が良かった事。

 「到底あの事件が起こる関係ではなかった」と。

 それは、マリンからすればトワの無罪の証明に強く貢献するのだが、証拠品としては一切価値がない。

 そこから読み解ける事件の背景など、正直微塵もない。

 

 手詰まり感が半端ない。

 それでも、仲間のため、こよりのため、そしてかなた達のために、諦められない。

 

 ラミィももう、どこにいるのやら分からないし……。

 

「ふぅ……よし! めげずに聞き込み続行!」

 

 港で1人、気合を入れ直す。

 適当に歩き始める。

 

「ぉぁ――――!」

 

 突如呼吸器官に布を当てられ、全身を引っ張られた。

 その力の前になす術なく、マリンは一瞬で路地裏へ引きずり込まれた。

 

 路地裏で壁際に追いやられ、2人組の顔が目前に――!

 声は出せない。

 

「――⁉︎」

 

 声が出せない!

 出させてくれない!

 

「強引で悪い、静かにな」

 

 互いの顔を認識し合い、マリンが冷静になった事を確認すると、そっと布を口元から離した。

 

 呼吸器官が平常に戻って酸素が普段通り供給される。

 おかげで、2人の事を更に上手く脳内で処理できた。

 

 マリンを誘い込んだ2人は――

 

「……スバル先輩、ちょこ先生」

 

 指示された通り、マリンなりに声を抑えてその名を口にする。

 嬉しさに紛れて、戸惑いもある。

 だって……。

 

「おい、今この国はどうなってる」

「ぇ」

 

 真っ先にスバルに質問を受けた。

 頭が混乱しているのは、マリンだけでないらしい。

 2人の眼差しに当てられ、益々混乱する……。

 

「スバル、落ち着いて……簡潔にでも順序立てて説明しないと」

 

 理解力の高くないマリン。

 それを見越してか、ちょこがスバルに冷静になるよう促した。

 

「ああ……そうだな」

 

 スバルは大きく深呼吸する。

 潮風が口内から体内を巡った。

 

「……早めに島を出たんだが、ルーナ姫が連れ去られた」

「――それ、実はこちらも確認しました」

「え⁉︎」

「AZKi先輩が我々の前に現れて、ルーナたんを見せつけてきたんですよ」

「クッソ、あいつら……挑発のつもりか」

 

 静かに、と頼んだスバルが、ガンっと拳を壁に打ちつけた。

 鈍い音が響き、スバルの右手が赤らむ。

 

「そ、それで、この国がどうってのは……」

「それなんだがよ。信じられん事に、かなたさんが敵船にいたんだよ」

「――⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 マリンの想定とは異なる方面からの証拠が飛び出す。

 これはつまり、かなたが洗脳に掛かったことを意味する。

 

「海上で突然、一隻の船が接近してきて、甲板にかなたさんがいたんだ」

 

 当時の事を想起して、スバルは眉を顰めた。

 

「船を寄せてかなたさんと会話してたら、突然ルーナ姫が攫われて、スバル達も攻撃を受けた」

「……そうだったんですか」

 

 歯痒い思いが言葉の節々から滲み出る。

 AZKiが言っていた通りだ。

 ルーナの誘拐が目的だと。

 かなたを支配下に置いた理由も、恐らくはルーナの気を引くためだ。

 計画は、1年も前から、ずっと練られていたんだ……。

 

「攻撃のダメージで足止め喰らったけど、後を追おうとしたんだ。したら、今度はラプラスまでいなくなってて」

「え、ラプラス・ダークネスも連れてきてたの⁉︎」

「止めても聞かなかったのよ……」

 

 ……まあ、気持ちは分かる、か。

 ねねとシオンが洗脳下にある事は、マリンが確認した。

 ラプラスが出陣する理由は十分すぎる。

 

「……なるほど、大方は把握しました」

 

 マリンは顎に手を当て、数秒唸ると、首肯した。

 

「それで、話を戻すが、この国はどうなってんだ? かなたさん、多分いないんだろ?」

「はい、1年ほど不在が続いてるそうで」

「1年⁉︎ 少なくとも半年前に、ルーナ姫宛に文書が届いてんのよ⁉︎」

 

 ならばそれも、敵の策略だ。

 相当根深いな。

 

「今は団長が仕切ってるって言ってました」

「団長……ノエルさんか?」

「はい」

「ノエルさん、なんか言ってたか?」

「それが……」

 

 …………。

 ノエルが洗脳の件を一切知らなかった事を説明して、その序でにマリン達の現状も報告した。

 

「マジかよ……それはまずいな……」

 

 ルーナとマリンは洗脳討伐のため協力関係を結んだ。

 そのルーナは敵に囚われ、マリン以外の一味は全員監獄送り。

 更に、ルーナが予定していたシエロソニードの騎士団数名の助力も、今は望めない。

 

「ここへ来て検問受けた時はビックリしたけど……そのせいなのね……」

 

 この取り締まり政策は、ノエル主導の下行われているのだろう。

 王が不在の今、国内に不安因子を引き込めないから。

 

「……そ言えば、検問、どうやって突破したんです?」

「ああ、それは…………⁉︎」

「――――」

 

 答えかけて、ピタリと手と口が止まる。

 スバルとちょこは顔を見合わせて、以心伝心した。

 

「あるぞ、突破口!」

 

 スバルが、ここに来て最も大きい声を上げた。

 

「え……え――⁉︎」

「これだよ! 覚えてねぇか? トワ様がやった事」

 

 一つの紋章を象ったバッチ。

 マリンはその紋様を見つめながら、いつの日かのトワの行動を振り返る。

 …………。

 そう言えば以前……マリンとポルカが捕まって……。

 

「あ!」

「思い出したか!」

「はい……職権濫用」

「そうだけど言い方!」

 

 懐かしきあの頃。

 まだ海賊駆け出しで、仲間もトワとポルカだけの頃。

 確かにあの時、トワはシエロソニードのバッチで己の(偽りの)地位を証明して、2人を解放した。

 

「…………」

 

 そう言えばあの時、できれば黙っときたかった、って言ってた。

 それは、今変換すれば、極力を嘘をつきたくなかった、とも捉えられる。

 

「……まったく」

 

 悪い悪魔だこと。

 

「マリン、騎士団の誰かと今すぐ話したい」

「分かりました。丁度この辺にラミィが居るはずなんで」

 

 マリンは2人を連れて路地を出た。

 正確な位置は把握していないが、この近辺にいる事は確かだ。

 

 落ち合う予定だった場所へ戻りながら、ラミィの姿を探す。

 しかし、予定地まで戻ってもいなかった。

 

「城へ直接行ったほうが早くない?」

「――いや、多分……」

 

 マリンは近くの人に、この辺りでいい酒を売っている店はないか、と尋ねる。

 心優しい一般人の案内のもと辿り着いたその店のお酒コーナーに、見慣れた後ろ姿の女性を発見。

 

「ラミィ!」

「――――」

 

 遠方から呼び掛けると、敢えて焦らして振り向いた。

 細められた目が、マリンの背後の存在を見て少し開いた。

 

「……誰?」

「あんたがラミィさんか?」

「そうだけど……」

 

 2人に見覚えがない。

 きっと、出会ったことがない。

 

「あたしは大空スバルっつって、キャンディータウンで騎士団の団長をやってるモンだ」

「――――‼︎」

「私は癒月ちょこ。同じく騎士団の教官をやってるの」

「火急の用があるんだ、ノエルさんのとこへ案内してくれ」

 

 2人は迅速に身分証明を行い、要点だけを伝える。

 ラミィの役職は知らないが、騎士団員なら対応は決まっている。

 

「……分かった。けど、案内する前に連絡させて」

「あ、ああ、早めに頼む」

 

 ラミィは要求を飲むと、一度3人から距離を置き、通信機で連絡を取る。

 そして3人の元に戻ると、城へと案内した。

 

 

 マリンは、幸運にも仲間2人を連れて、再度城へと舞い戻る事に成功した。

 

 

 

          *****

 

 

 

 マリンが港で奮闘している頃、監獄でその他の一味とこよりは――。

 

「うっ……」

 

 穴の空いた腹部を軽く押さえるポルカ。

 触れると激しく痛む。それに悶えて、身体を捩れば更に痛む。

 

「大丈夫……?」

「っ……どうみても、だいじょばんだろ……」

 

 一応定型として、フブキが聞くが、ポルカはグッタリと壁にもたれかかる。

 そして、目覚めないもう2人の負傷者を一瞥した。

 

「っでぇ……」

 

 何度も呻き声を上げて、ポルカは大きく息をついた。

 みことあくあが起きない限り、治療できない。

 意識が戻ったせいでクソ痛い。

 早起きしただけ損した気分だ。

 

「複製で、どっちかをコピーできないの?」

「このダメージで、っ、体力持ってかれたから……人を複製する力は残っちゃいねぇな」

 

 複製するためには体力そのものを回復する必要がある。

 それには結局、どちらかの能力が必須だ。

 

「なあ、おい、看守……」

「――――」

「手当ぐらい、してくれよ」

「――――」

「せめて……包帯くらい」

 

 檻の前に無言で佇む看守――あやめ。

 頭だけ振り向いて、ギロリとポルカを睨む。

 鬼の形相とはこの事か。

 なんて冷徹な視線だ。

 

「放ってても死ぬ怪我じゃない。我慢して」

 

 もう、振り向きもしなくなった。

 

「ったく……」

 

 全身から汗が滲む。

 確かに死にはしないが、少しずつ体力が奪われる。

 座り続ける事すら、もうキツい。

 

「で……船長は?」

 

 獄内に見当たらない我らの頭。

 投獄に関しては、脳を整理すれば納得できるが、マリンの不在はどうにも不自然。

 

「私たちを解放するって言ってました」

「――?」

「交換条件を取り付けたんだって」

「――――また無謀な事してんだろうなぁ」

 

 流石は副船長。

 その交渉、マリンが圧倒的に不利だと、内容も聞かず察した。

 条件その物に興味はない。どうでもいい。

 それが実現可能か、が大切だな。

 

「期限とか、言ってた?」

「……翌日の17時までって」

 

 獄内の見える範囲を見渡すが、時計はない。

 

「看守」

「15時27分」

「どぅも」

 

 話は聞いているようだ。

 下手な作戦会議は不可能か……。

 

 ポルカは低い天井を見上げた。

 ずるずると持たれた背中が、滑って、地面に転がった。

 

 目を瞑る。

 

「トワ様」

「……ん?」

「ふぅ……話せよ、自分のこと」

 

 隅で縮こまるトワに、語りかけた。

 言葉の棘を最大限にまで削り取って。

 

「うん……ここまでされて、何も知らないのは……」

「僕たちも、さ……」

 

 フブキとおかゆもきっと、気掛かりだったんだ。

 でも、切り出せなかった。

 こよりは無関心だし。

 

「わかるだろ。少なくとも船長は……トワ様の事、信じてんだから」

 

 誰からの目にも明らかな事実。

 マリンだけが今、檻の外で奮闘している。それが何よりの証拠。

 他の仲間がトワを信頼しているか、なんて知らない。

 でも、トワは、1人じゃない。

 

「……あたしは信じてる。って、言わないのかよ」

「それはポルカ自身じゃ……決められねぇし……」

 

 自己評価を他人に押し付けられない。

 行動で示すことができれば、早いのだが、生憎その機会が今はない。

 それに、現在ポルカは、トワへの信頼度が定まっていない。

 

「いいから話せよ。冤罪ってのは、見てりゃ分かるから」

「…………」

 

 トワはあやめを一瞥した。

 常に背を向け、無関心を装っているが……。

 

 ま、いっか……。

 

「……事件が起きるまでは、トワも、向こう側にいたんだ」

 

 瞳の中であの日の満月が、あの日の炎が浮かび上がる。

 あの悲劇の夜が……。

 

「今でも、分かってねぇことだらけで……」

 

 残された謎も山ほどある。

 それを今なら……。

 こいつらも一緒に、悩んでくれるだろうか。

 

「うん、でも……そうだな」

「――?」

 

 

「確かあれは――」

 

 

 トワは事件の夜の全てを話した。

 

 

 

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