ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

61 / 144
60話 どっちつかずの羊

 

 かなた来島から1日が経過。

 ルーナはかなたとの協力関係を密かに結び、さまざまな条件を飲んだ。

 悪魔の実をふたつ預かり、一つは武器庫の奥深くへ、もう一つはルーナと3人の子どもだけが知る小屋へと隠した。

 能力を選ぶことはせず、かなたもルーナも、どんな能力か確認せずに隠したので、どちらが何を持っているかは、誰にも分からない。

 

 この島での目的は果たしたので、いつでも国へ帰還できるが、かなたはもう1日この島に残ることにする。

 理由は何となく。気分だ。

 折角なので、観光でも、とかなたはルーナ、ノエル、わため、を連れて街を回った。

 

「どこ行く? ってか、どこがオススメ?」

 

 先走りそうなかなたに肩を竦めるルーナ。

 2人が先頭で横並びになり、その後ろでノエルとわためが並んでいる。

 

 国家最高権力2名とその部下が纏って歩くのだから、住民は何事かと萎縮する。中には逆に、ニコニコと手を振る者もいる。

 主にルーナに向けて。

 

「特におすすめはねぇのらね」

「自国の利点も言えないのぉ? これだからお堅い姫様は」

「あまねちゃこそ、ずっとおちゃらけて、国中がおバカになっちゃうんじゃねぇの」

 

 思想が相反する2人はどうして仲がいいのだろうか。

 ノエルもわためも、不思議で仕方ない。

 

「ねえわためぇ〜、おすすめの場所はー?」

「うぇ⁉︎ あー、えっと……コンビニ?」

「――――」

 

 それはどこにでもある。

 かなたの国にも無数に点在する。

 

「あ、いえ! えっと――わたがし屋さん!」

「わたがし? どこにあるの?」

「あっちの方に……」

「じゃあそこ行こうか」

「はいはい」

 

 わためが捻り出したオススメのわたがし屋とは、どんな店だろう。

 一発目にコンビニを提案した意図は理解し兼ねるが、これも独特のセンス故、なんて事は無いだろうな?

 

「あまねちゃ、言っとくけど、わためちゃはポテチとわたがしが好きだから、自分の今行きたい場所を言っただけなのらよ」

「マジかよ、センスねぇなぁ!」

「ひぃ、ごめんなさぁい!」

 

 ルーナの補足で、かなたが罵倒して振り返るが、進路は変わらない。

 ノエルは振り向いたかなたから、視線を逸らした。

 

「ノエルちゃん?」

「いや何も〜」

 

 わためだけ、意味が汲み取れず混乱していた。

 きっと相反するかなたとルーナを前に、自分がどう振る舞うべきか決め兼ねているのだろう。

 

「あ、もしかしてあれ?」

 

 かなたが正面を向き直ると、視界にふわふわな店が映った。

 店の建材は軟らかくないが、形と色合いが和らかい店。

 

「うん、それそれ!」

 

 わためが素早く相槌を打つ。

 

「――――」

「ぁ……」

 

 ルーナの視線で縮こまった。蛇に睨まれた様。

 

「堅いよルーナ、僕が許可してるんだから」

「よそはよそ、うちはうち」

「おかんみたいじゃねぇ」

「それは、ノエルちゃん」

「そうかね?」

 

 わたがし屋前で喧嘩と談笑。

 きっと店主は気が気でないだろう。

 

「もういいから早く買えよ」

 

 ルーナが催促した。

 ルーナはもう、味を決めたようだ。

 

「わたがしに味があるんだね」

「あるものにはあるでしょ。屋台のとかはないけど」

 

 フレーバーは全4種。

 

 紫がかった色、グレープ味。

 黄色がかった色、レモン味。

 赤みがかった色、イチゴ味。

 緑がかった色、メロン味。

 

「これってかき氷的なやつじゃないよね?」

「違いますよ」

 

 わためが自信満々に答えた。

 きちんと言葉遣いを訂正して。

 

「だんちょはメロンかな」

「……っぽいねぇ〜」

「どこみちょる?」

 

 わための視線は明らかに胸に釘付けだ。

 

「ルーナは?」

「グレープ」

 

 すでに買っていた。

 

「わためろんにしたかったけど……不釣り合いだよね」

「だからどこみちょるん?」

「……それスイカ」

 

 自分とノエルの胸を見比べる。

 ぼそっとかなたが突っ込むが、反応は無し。

 

「…………」

 

 ルーナとかなたを見る。

 

「……レモンかなぁ」

「「おい」」

 

 味の話をしていた筈だが?

 1人だけ話題が違うのではないのか。

 

「じゃあかなたんはイチゴかな?」

 

 流れ的にはイチゴ一択。

 別にどんな理由であれ、巻かれてもいいとは思う。

 

「んー、ごめんけどグレープで」

「――? あー、あまねちゃイチゴ嫌いだったのらね」

「そうなん?」

「うん、自分でも分かんないけど、なんか食べれないんだよね」

 

 意外な苦手が発覚する。

 ルーナは知っていたようだ。

 本人曰く、嫌いな理由は明言できないそう。

 

「ツナも嫌いじゃったよね」

「ツナって、シーチキンの事?」

「そうそう」

 

 中々変わった好き嫌いだ。

 とは言え、他に嫌いな食べ物はない。

 そのふたつ以外は基本食べられるのだから、好き嫌いは無いに近い。

 

 まあ、そんな話はさておいて。

 

「わための好物の味やいかに」

「……」

 

 購入が最も遅いかなたが、誰よりも早く食べはじめた。

 少しベタベタする。

 でも美味しい。

 多分、かなり糖分が多いので、1日に幾つもは食べたくない。

 グレープの風味も強すぎない程度に感じる。かき氷シロップ原理とは異なると、食べるだけで分かった。

 

 かなたの評価を待つわためは、少しばかり緊張しているように見えた。

 

「美味しいね、流石お菓子の国」

「ほっ……」

 

 緊張の解けたわためが、ようやく手に持つわたがしを食べる。

 酸味が効いていて、美味しい。

 わためが自主的に選ぶ事のない味だが、これを機に今後は増えるかも。

 

 ルーナとノエルはペロリと完食。

 店主にお手洗いを借りて口元や手のベタベタを落としに行った。

 その小さな隙をついて、かなたはわために擦り寄る。

 

「ねぇわため」

「は、はい」

 

 かなたの小声に驚き、わためは大きな声をあげる。

 声を抑えるように身振り手振りで伝えて、かなたは……

 

「うち来ない?」

 

 と、勧誘した。

 

「――⁉︎」

 

 驚愕のあまり飛び上がって、わたがしを放り投げた。

 

「あー……!」

「あーあー……そんな驚く事じゃないのに、勿体無いなぁ」

 

 地面に落ちたそれを拾い上げ、店主に謝り、泣く泣く捨てた。

 

「あ、あえ……えあ……」

「そんなビックリしないでよ。別にちょっと誘っただけなんだし」

「えっ……いやでも……どうして?」

「さあね。丁度ここの国の人は、まだうちの騎士団にいないし、それだけかも」

「――?」

 

 ルーナたちがそろそろ戻る。

 ノエルはともかく、ルーナにこの話を持ち出せば、カンカンに怒られて、かなたでさえ島出禁を食らう。

 なので、ジョークとして流してもいいし、気が向いたら今日中に話をつけてよ、と囁いて、残りのわたがしをタイミングよく完食した。

 

「僕も手洗ってくるね」

「あいよ〜」

「ん」

 

 かなたが1人で手洗いへ。

 放心したようなわためが、2人の前に残る。

 

「わためぇ?」

「わためちゃ?」

「……、……、……」

 

 2人の声は聞こえた。

 自分の想定とは異なったタイミングで返答する。

 

「あ、うん……わたがし、落としちゃって……」

「あー、そりゃ残念じゃね」

「子どもみたいな事言わねぇのら、もう」

 

 早々にかなたが戻ってきた。

 

「わたがしでそんな落ち込んでないで。ほら、公費でまた買えばいいし」

 

 と、かなたは見事な演技で装った。

 誰も何も気付かない。

 

「何でお菓子に公費使わなきゃいけねぇんだよ。自腹にしろよ自腹に」

「えー、折角なのに、ね? 僕たちは当然公費で落とすよ」

「1人たった数百円じゃけどね」

「あ、あえっへへ……」

 

 わためは珍しい笑い方で笑う。

 

「――?」

「ポテチ買い貯めてるから、いいよ」

「わたがしとポテチは全然違うでしょ……」

「あー……わためも、手ぇ洗ってくる!」

 

 小走りにお手洗いへ。

 

「どしたんかね?」

「ね」

「――――」

 

 特に会話は弾まず、ただわためを待つ。

 用を足しているのか、3人よりも遅い。

 

 そこへ――

 

「あー! 姫様!」

「ん――」

 

 ルーナの事だろう。

 そんな陽気な声が響いた。

 一国の姫と知っていながら、恐れることも知らずルーナに駆け寄る約3名。

 

 ルーナと目が合うと、3人は一層笑みを深めて、ルーナを取り囲む。

 

「今日仕事はないの?」

「これでも一応お仕事なのらよ」

 

 かなたと接する態度とは一変――言葉の角が取れて、まるで幼児をあやすかのような包容力がある。

 かなたも見た事がないルーナの一面。

 

「今日は何してるのら?」

「勉強終わったから遊びに行くとこ」

「姫様も来ませんか?」

「今仕事中って言ってたじゃん。人の話聞けよー」

「う、うっさい。一応聞いただけだし」

 

 主に2名は、ルーナと親しげに会話するが、1人はじっとかなたを見つめていた。

 その様子に気付いたノエルとかなた。

 ノエルは不思議そうに首を傾げる。

 

「どしたん?」

「……偉い人」

「――?」

 

 少女は言葉をかけたノエルをチラリと見たが、すぐにかなたに視線を戻して、そう呟いた。

 

「昨日の……」

 

 宙返り少女だ。

 不思議ちゃんのように、1人だけ異彩を放っているが……。

 

「姫様、そっちの人は誰ですか?」

「偉い人だよ」

「偉い人? どういう事?」

「偉い人」

「だからぁ〜、どう偉いのかって」

「姫様と同じくらい偉い人」

「え、じゃあ王様って事?」

 

 kids間で話が纏まった。

 きゃいきゃいと会話が弾む様子を見ていたが、その時の宙返り少女は普通の少女に見えた。

 

「かなたん、何か話したん?」

「いや、なーんも話してない」

「何で分かったんかね」

「ま、滲み出るオーラっていうか。覇気? 迫力? そんなのがあるだよ、僕にはね」

「うーん……分からんね」

「…………」

 

 他2人の態度を見れば、かなたの名が通っている訳でないと分かる。

 あの少女だけが、かなたの何かを感じ取ったのだ。

 そして逆も然り――。

 

「ねえ、みんな、名前はなんていうの?」

 

 興味の湧いたかなたは、3人の輪に数歩歩み寄って微笑みかけた。

 

「吾輩はラプラス・ダークネスだぁ!」

 

 なんか偉そう。威張る、の意味で。

 

「私は紫咲シオン」

 

 何というか……ザ、子ども。

 

「ねねね、桃鈴ねね」

 

 ねが多い。

 

「僕は天音かなた、よろしくね」

 

 軽く挨拶を交わすと、3人はルーナとかなたに小さく会釈したりして、離れていく。虫取りに行くらしい。

 主にねねの希望で。

 

「ほらねねち、隣にクワガタいるけど捕まえないの?」

「そのネタいい加減やめろよ、しつこいぞ!」

「血液型聞かれてクワガタって答えたの自分じゃん」

「それを半年以上擦るなって。よくある冗談だろ」

「そうだよシオンちゃん。それに、本物のクワガタはもっと可愛いよ」

「ふんっ、吾輩は虫より可愛い自信がある」

 

 など、冗談を交わしながら、森の方へと……。

 

「……ルーナ、あの子達は?」

「ラプラスちゃんの友達」

「――? どういう事?」

「何が?」

「いやだから……え、何、ラプラスちゃんって、親戚?」

「どこをどう見たらそう見えんねん」

「いや、だよね? じゃあ何?」

 

 説明不足な答えを受けたかなたは、しっかりと詰問した。

 するとルーナは苦い顔をして、ラプラスの遠ざかる姿を見つめた。

 少しばかり、目が細まる。

 

「……2年ほど前に、浜辺で倒れてた子」

「え、倒れてた……?」

「自分の名前以外の記憶をほとんど無くしてたみたい」

「……漂着した子って事?」

「多分ね」

 

 突如重苦しい話が飛び出して、かなたは動揺が隠せない。

 ルーナが見つめる背を、かなたも見つめてみた。

 

「うちの騎士団の人に面倒を見てもらって、ルーナもたまに話したり遊んだりしてたけど、最近学校に行かせたら、あの2人と仲良くなってたのらよね」

 

 我が子を見守る母親のような眼差し。

 優しく微笑むその姿は、女神のよう。

 

「記憶喪失か……親も出身も分かんないって事だよね?」

「うん、名前以外は基本的に何も知らない」

「そっか…………ごめんよ、なんか悪いこと聞いたかも」

「んーん」

 

 ラプラス本人は今の生活に十分満足しているようなので、ルーナ達が特に気に病む必要はない。

 今はもう、殆ど自由にさせている。

 

「ふぃ……お待たせ……あれ?」

 

 ドンピシャのタイミングでわためが戻った。

 丁度3人組の姿も見えなくなったので、わためには今の空気の原因がさっぱり。

 

「どうかしましたか?」

 

 おずおずとルーナに尋ねる。

 勧誘された件や、言葉遣いで注意を受けた件など、機嫌が悪くなる要素がいくつか思い当たるので、すごく怖い。

 

「何怯えてるのら。子ども達の話をしてただけなのらよ」

「子ども……あ、お気に入りの?」

「――――」

「別に……お気に入りって訳じゃないけど……。ん、なんだよあまねちゃ!」

 

 わためから見た子どもたちの像。

 口元を曲げたルーナを見て、かなたがニマニマと笑っていた。

 

「いやー、子どもを可愛がるって……いや、うん、いいと思うよ〜」

「なんかうぜぇ……」

「そう言えば、あの2人のことも気に入ってましたよね。確か……」

「――」

「ぁぁ…………」

 

 もう何も言うなと、眼力で訴えられ、わためは口を閉じた。

 かなたは更にくすくすと笑った。

 

「ね、次はどこ行く?」

「ふん……んなたん、もう帰る」

「えー、何拗ねてんの」

「別に拗ねてないし。まだ仕事が残ってるから、あまねちゃみたいに遊んでる暇はないの」

「ちぇー、しょうがねぇなぁー」

 

 あまり時間も経っていないが、ルーナは城へ帰りはじめる。

 

「ほら、わためちゃも行くのらよ」

「はい。そ、それでは」

「あいよ。がんばって」

「じゃねー」

 

 それぞれその場を後にし、その日はもう、合わなかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。