かなた来島から1日が経過。
ルーナはかなたとの協力関係を密かに結び、さまざまな条件を飲んだ。
悪魔の実をふたつ預かり、一つは武器庫の奥深くへ、もう一つはルーナと3人の子どもだけが知る小屋へと隠した。
能力を選ぶことはせず、かなたもルーナも、どんな能力か確認せずに隠したので、どちらが何を持っているかは、誰にも分からない。
この島での目的は果たしたので、いつでも国へ帰還できるが、かなたはもう1日この島に残ることにする。
理由は何となく。気分だ。
折角なので、観光でも、とかなたはルーナ、ノエル、わため、を連れて街を回った。
「どこ行く? ってか、どこがオススメ?」
先走りそうなかなたに肩を竦めるルーナ。
2人が先頭で横並びになり、その後ろでノエルとわためが並んでいる。
国家最高権力2名とその部下が纏って歩くのだから、住民は何事かと萎縮する。中には逆に、ニコニコと手を振る者もいる。
主にルーナに向けて。
「特におすすめはねぇのらね」
「自国の利点も言えないのぉ? これだからお堅い姫様は」
「あまねちゃこそ、ずっとおちゃらけて、国中がおバカになっちゃうんじゃねぇの」
思想が相反する2人はどうして仲がいいのだろうか。
ノエルもわためも、不思議で仕方ない。
「ねえわためぇ〜、おすすめの場所はー?」
「うぇ⁉︎ あー、えっと……コンビニ?」
「――――」
それはどこにでもある。
かなたの国にも無数に点在する。
「あ、いえ! えっと――わたがし屋さん!」
「わたがし? どこにあるの?」
「あっちの方に……」
「じゃあそこ行こうか」
「はいはい」
わためが捻り出したオススメのわたがし屋とは、どんな店だろう。
一発目にコンビニを提案した意図は理解し兼ねるが、これも独特のセンス故、なんて事は無いだろうな?
「あまねちゃ、言っとくけど、わためちゃはポテチとわたがしが好きだから、自分の今行きたい場所を言っただけなのらよ」
「マジかよ、センスねぇなぁ!」
「ひぃ、ごめんなさぁい!」
ルーナの補足で、かなたが罵倒して振り返るが、進路は変わらない。
ノエルは振り向いたかなたから、視線を逸らした。
「ノエルちゃん?」
「いや何も〜」
わためだけ、意味が汲み取れず混乱していた。
きっと相反するかなたとルーナを前に、自分がどう振る舞うべきか決め兼ねているのだろう。
「あ、もしかしてあれ?」
かなたが正面を向き直ると、視界にふわふわな店が映った。
店の建材は軟らかくないが、形と色合いが和らかい店。
「うん、それそれ!」
わためが素早く相槌を打つ。
「――――」
「ぁ……」
ルーナの視線で縮こまった。蛇に睨まれた様。
「堅いよルーナ、僕が許可してるんだから」
「よそはよそ、うちはうち」
「おかんみたいじゃねぇ」
「それは、ノエルちゃん」
「そうかね?」
わたがし屋前で喧嘩と談笑。
きっと店主は気が気でないだろう。
「もういいから早く買えよ」
ルーナが催促した。
ルーナはもう、味を決めたようだ。
「わたがしに味があるんだね」
「あるものにはあるでしょ。屋台のとかはないけど」
フレーバーは全4種。
紫がかった色、グレープ味。
黄色がかった色、レモン味。
赤みがかった色、イチゴ味。
緑がかった色、メロン味。
「これってかき氷的なやつじゃないよね?」
「違いますよ」
わためが自信満々に答えた。
きちんと言葉遣いを訂正して。
「だんちょはメロンかな」
「……っぽいねぇ〜」
「どこみちょる?」
わための視線は明らかに胸に釘付けだ。
「ルーナは?」
「グレープ」
すでに買っていた。
「わためろんにしたかったけど……不釣り合いだよね」
「だからどこみちょるん?」
「……それスイカ」
自分とノエルの胸を見比べる。
ぼそっとかなたが突っ込むが、反応は無し。
「…………」
ルーナとかなたを見る。
「……レモンかなぁ」
「「おい」」
味の話をしていた筈だが?
1人だけ話題が違うのではないのか。
「じゃあかなたんはイチゴかな?」
流れ的にはイチゴ一択。
別にどんな理由であれ、巻かれてもいいとは思う。
「んー、ごめんけどグレープで」
「――? あー、あまねちゃイチゴ嫌いだったのらね」
「そうなん?」
「うん、自分でも分かんないけど、なんか食べれないんだよね」
意外な苦手が発覚する。
ルーナは知っていたようだ。
本人曰く、嫌いな理由は明言できないそう。
「ツナも嫌いじゃったよね」
「ツナって、シーチキンの事?」
「そうそう」
中々変わった好き嫌いだ。
とは言え、他に嫌いな食べ物はない。
そのふたつ以外は基本食べられるのだから、好き嫌いは無いに近い。
まあ、そんな話はさておいて。
「わための好物の味やいかに」
「……」
購入が最も遅いかなたが、誰よりも早く食べはじめた。
少しベタベタする。
でも美味しい。
多分、かなり糖分が多いので、1日に幾つもは食べたくない。
グレープの風味も強すぎない程度に感じる。かき氷シロップ原理とは異なると、食べるだけで分かった。
かなたの評価を待つわためは、少しばかり緊張しているように見えた。
「美味しいね、流石お菓子の国」
「ほっ……」
緊張の解けたわためが、ようやく手に持つわたがしを食べる。
酸味が効いていて、美味しい。
わためが自主的に選ぶ事のない味だが、これを機に今後は増えるかも。
ルーナとノエルはペロリと完食。
店主にお手洗いを借りて口元や手のベタベタを落としに行った。
その小さな隙をついて、かなたはわために擦り寄る。
「ねぇわため」
「は、はい」
かなたの小声に驚き、わためは大きな声をあげる。
声を抑えるように身振り手振りで伝えて、かなたは……
「うち来ない?」
と、勧誘した。
「――⁉︎」
驚愕のあまり飛び上がって、わたがしを放り投げた。
「あー……!」
「あーあー……そんな驚く事じゃないのに、勿体無いなぁ」
地面に落ちたそれを拾い上げ、店主に謝り、泣く泣く捨てた。
「あ、あえ……えあ……」
「そんなビックリしないでよ。別にちょっと誘っただけなんだし」
「えっ……いやでも……どうして?」
「さあね。丁度ここの国の人は、まだうちの騎士団にいないし、それだけかも」
「――?」
ルーナたちがそろそろ戻る。
ノエルはともかく、ルーナにこの話を持ち出せば、カンカンに怒られて、かなたでさえ島出禁を食らう。
なので、ジョークとして流してもいいし、気が向いたら今日中に話をつけてよ、と囁いて、残りのわたがしをタイミングよく完食した。
「僕も手洗ってくるね」
「あいよ〜」
「ん」
かなたが1人で手洗いへ。
放心したようなわためが、2人の前に残る。
「わためぇ?」
「わためちゃ?」
「……、……、……」
2人の声は聞こえた。
自分の想定とは異なったタイミングで返答する。
「あ、うん……わたがし、落としちゃって……」
「あー、そりゃ残念じゃね」
「子どもみたいな事言わねぇのら、もう」
早々にかなたが戻ってきた。
「わたがしでそんな落ち込んでないで。ほら、公費でまた買えばいいし」
と、かなたは見事な演技で装った。
誰も何も気付かない。
「何でお菓子に公費使わなきゃいけねぇんだよ。自腹にしろよ自腹に」
「えー、折角なのに、ね? 僕たちは当然公費で落とすよ」
「1人たった数百円じゃけどね」
「あ、あえっへへ……」
わためは珍しい笑い方で笑う。
「――?」
「ポテチ買い貯めてるから、いいよ」
「わたがしとポテチは全然違うでしょ……」
「あー……わためも、手ぇ洗ってくる!」
小走りにお手洗いへ。
「どしたんかね?」
「ね」
「――――」
特に会話は弾まず、ただわためを待つ。
用を足しているのか、3人よりも遅い。
そこへ――
「あー! 姫様!」
「ん――」
ルーナの事だろう。
そんな陽気な声が響いた。
一国の姫と知っていながら、恐れることも知らずルーナに駆け寄る約3名。
ルーナと目が合うと、3人は一層笑みを深めて、ルーナを取り囲む。
「今日仕事はないの?」
「これでも一応お仕事なのらよ」
かなたと接する態度とは一変――言葉の角が取れて、まるで幼児をあやすかのような包容力がある。
かなたも見た事がないルーナの一面。
「今日は何してるのら?」
「勉強終わったから遊びに行くとこ」
「姫様も来ませんか?」
「今仕事中って言ってたじゃん。人の話聞けよー」
「う、うっさい。一応聞いただけだし」
主に2名は、ルーナと親しげに会話するが、1人はじっとかなたを見つめていた。
その様子に気付いたノエルとかなた。
ノエルは不思議そうに首を傾げる。
「どしたん?」
「……偉い人」
「――?」
少女は言葉をかけたノエルをチラリと見たが、すぐにかなたに視線を戻して、そう呟いた。
「昨日の……」
宙返り少女だ。
不思議ちゃんのように、1人だけ異彩を放っているが……。
「姫様、そっちの人は誰ですか?」
「偉い人だよ」
「偉い人? どういう事?」
「偉い人」
「だからぁ〜、どう偉いのかって」
「姫様と同じくらい偉い人」
「え、じゃあ王様って事?」
kids間で話が纏まった。
きゃいきゃいと会話が弾む様子を見ていたが、その時の宙返り少女は普通の少女に見えた。
「かなたん、何か話したん?」
「いや、なーんも話してない」
「何で分かったんかね」
「ま、滲み出るオーラっていうか。覇気? 迫力? そんなのがあるだよ、僕にはね」
「うーん……分からんね」
「…………」
他2人の態度を見れば、かなたの名が通っている訳でないと分かる。
あの少女だけが、かなたの何かを感じ取ったのだ。
そして逆も然り――。
「ねえ、みんな、名前はなんていうの?」
興味の湧いたかなたは、3人の輪に数歩歩み寄って微笑みかけた。
「吾輩はラプラス・ダークネスだぁ!」
なんか偉そう。威張る、の意味で。
「私は紫咲シオン」
何というか……ザ、子ども。
「ねねね、桃鈴ねね」
ねが多い。
「僕は天音かなた、よろしくね」
軽く挨拶を交わすと、3人はルーナとかなたに小さく会釈したりして、離れていく。虫取りに行くらしい。
主にねねの希望で。
「ほらねねち、隣にクワガタいるけど捕まえないの?」
「そのネタいい加減やめろよ、しつこいぞ!」
「血液型聞かれてクワガタって答えたの自分じゃん」
「それを半年以上擦るなって。よくある冗談だろ」
「そうだよシオンちゃん。それに、本物のクワガタはもっと可愛いよ」
「ふんっ、吾輩は虫より可愛い自信がある」
など、冗談を交わしながら、森の方へと……。
「……ルーナ、あの子達は?」
「ラプラスちゃんの友達」
「――? どういう事?」
「何が?」
「いやだから……え、何、ラプラスちゃんって、親戚?」
「どこをどう見たらそう見えんねん」
「いや、だよね? じゃあ何?」
説明不足な答えを受けたかなたは、しっかりと詰問した。
するとルーナは苦い顔をして、ラプラスの遠ざかる姿を見つめた。
少しばかり、目が細まる。
「……2年ほど前に、浜辺で倒れてた子」
「え、倒れてた……?」
「自分の名前以外の記憶をほとんど無くしてたみたい」
「……漂着した子って事?」
「多分ね」
突如重苦しい話が飛び出して、かなたは動揺が隠せない。
ルーナが見つめる背を、かなたも見つめてみた。
「うちの騎士団の人に面倒を見てもらって、ルーナもたまに話したり遊んだりしてたけど、最近学校に行かせたら、あの2人と仲良くなってたのらよね」
我が子を見守る母親のような眼差し。
優しく微笑むその姿は、女神のよう。
「記憶喪失か……親も出身も分かんないって事だよね?」
「うん、名前以外は基本的に何も知らない」
「そっか…………ごめんよ、なんか悪いこと聞いたかも」
「んーん」
ラプラス本人は今の生活に十分満足しているようなので、ルーナ達が特に気に病む必要はない。
今はもう、殆ど自由にさせている。
「ふぃ……お待たせ……あれ?」
ドンピシャのタイミングでわためが戻った。
丁度3人組の姿も見えなくなったので、わためには今の空気の原因がさっぱり。
「どうかしましたか?」
おずおずとルーナに尋ねる。
勧誘された件や、言葉遣いで注意を受けた件など、機嫌が悪くなる要素がいくつか思い当たるので、すごく怖い。
「何怯えてるのら。子ども達の話をしてただけなのらよ」
「子ども……あ、お気に入りの?」
「――――」
「別に……お気に入りって訳じゃないけど……。ん、なんだよあまねちゃ!」
わためから見た子どもたちの像。
口元を曲げたルーナを見て、かなたがニマニマと笑っていた。
「いやー、子どもを可愛がるって……いや、うん、いいと思うよ〜」
「なんかうぜぇ……」
「そう言えば、あの2人のことも気に入ってましたよね。確か……」
「――」
「ぁぁ…………」
もう何も言うなと、眼力で訴えられ、わためは口を閉じた。
かなたは更にくすくすと笑った。
「ね、次はどこ行く?」
「ふん……んなたん、もう帰る」
「えー、何拗ねてんの」
「別に拗ねてないし。まだ仕事が残ってるから、あまねちゃみたいに遊んでる暇はないの」
「ちぇー、しょうがねぇなぁー」
あまり時間も経っていないが、ルーナは城へ帰りはじめる。
「ほら、わためちゃも行くのらよ」
「はい。そ、それでは」
「あいよ。がんばって」
「じゃねー」
それぞれその場を後にし、その日はもう、合わなかった。