ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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61話 ルーナへ

 

 かなた来島より2日。

 出立の時刻を回っている。

 

 ――――。

 

 シエロソニード騎士団の下に、1人の女性が駆けてきた。

 どうやら、一緒に行きたいようだ。

 

 荷物も揃え、準備万端。

 かなたたちも、受け入れ態勢はできている。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 船はあっさりと島を後にした。

 

 

 

          *****

 

 

 

 キャンディータウン、城の王室に、獅白ぼたんが呼ばれた。

 今まで役職もない、ただの一般衛兵を務めていた彼女にとって、この招集はかなり動揺した。

 しかも、入室すれば自分と姫の2人だけ。

 一体何をやらかしたのか、心配で心配で……。

 

「ぼたんちゃん」

「は、はい……!」

 

 緊張で声が上ずった。

 

「急な話なのらけど、今日よりぼたんちゃんを団長に任命するのら」

「は、はい!…………え?」

 

 勢いで返事したが、遅刻してきた情報で脳が一時停止した。

 

「訳あってわためが団長を辞める事になって、その後任はぼたんちゃんが良いって話になったのら」

「え……え? なんで、あたしなんかが……」

「純粋な能力値、人の見方、状況を俯瞰的に見て行える判断力。それらが団長に適していると、判断したのら」

「…………」

 

 ぼたんは不服そうな顔をしていた気がする。

 だが、ルーナはその顔を見ても何も言わない。

 

「あたしが……能力者だからですか?」

「んーん。関係ない。だってわためは、能力者じゃなかったから」

「でもあの人はこの国で唯一――」

「――不満?」

「いえ…………それは……」

 

 ルーナだって分かっている。

 わためを手放したくはなかった。

 でも、全てを振り切って行くと言うのだから。

 もう知らない。

 いいさ、わためがいなくたって――。

 

「……謹んでお受けいたします」

 

 ぼたんはまるで権力に屈したように、片膝をついた。

 わためからの指名、ルーナからの任命。

 それを引き受け、獅白ぼたんはキャンディータウン騎士団団長となった。

 

 

 

          *****

 

 

 

 シエロソニードへの進路を取るかなた達一向。

 船上でわための歓迎会が開かれ、みんなで乾杯した。

 

「ぷはーっ!」

 

 わためがお酒を飲んでいる。

 現実ではきっと、滅多にお目にかかれないだろう。

 だがそれ以上に酒を浴びる者がいる。

 酒豪ノエル。

 

「っぐ……ぐ……ぐ……ぁー……」

 

 まだ昼間なのだが、いいのだろうか?

 

「ほら、かなたんも飲みなって」

「いや僕はいいよ」

「飲みなよ〜」

「だからいいって」

「そんなこと言わずに、ほらほら」

 

 酒瓶やジョッキなどをぐりぐりと押しつけられる。

 部下からのアルハラにかなたは辟易していた。

 過去に何度も、ノエルからアルハラを受け、悉く逃げている。

 

 酒は嫌いだ。

 

 かなたは逃げるように輪を抜けて、端の方で座り込んで宴を眺める。

 ガヤガヤと騒々しい。

 が、今くらいは大目に見よう。

 

「…………」

 

 かなたは、わための様子を常に視界に入れつつ、ルーナのことを思い浮かべた。

 多分、今頃怒っている。

 いや……出航して時間が経っているから、寧ろ吹っ切れた頃だろうか?

 

 悪いとは思っている。

 だが、今はかなたの周囲を固める必要がある。

 信頼できるメンバーが欲しい。

 ノエルには絶対的な信頼がある。

 そして、ルーナの側にいたわためもそう。

 

 2、3人だけでも、背中を預けられる存在が必要だ。

 それが今、ノエルとわためになった。

 これで色々と動きやすくなる。

 

 ノエルに能力を与える事を決めていたが、この流れでわためにもあげていいだろう。

 

「片付いたら、ルーナには沢山お詫びしないと」

 

 かなたはルーナへのお詫びに何をしようか、と思い耽る。

 

 そうだなぁ……。

 やっぱりあま〜いお菓子を山ほど用意してあげないとね。

 周りには、僕とノエルちゃんの他に、わためや、あの子どもたち。それから、ルーナを慕うみんなが囲っていて。

 僕がちょっとつまみ食いして、ルーナが怒ってる。そんな姿が瞼の裏に浮かぶよ。

 

 あの時はごめんねって、冗談めかして謝ったら、ルーナはまた怒って、でも仕方なかったって、お菓子みたいに甘く許してくれるんだよ、きっと。

 それで、結局これからもよろしくねって。

 

 楽しみだなぁ……。

 次にルーナと会うのはきっと、洗脳を全て解決してからで、きっと1年よりも先なんだろうな。

 きっとその時、ルーナは泣いてるんじゃないかなぁ。

 やっと僕に会えて、嬉しかったってね。

 だから、そっと寄り添って、頭を撫でて、助けてくれてありがとうって、僕が笑うんだ。

 

 ………………。

 

 待ってるね

       」

 

 

 かなたは喧騒の中へと戻るのだ。

 

 

「あーい! そんじゃ、だんちょー! 食べちゃいまーす!」

「「うおおおお!」」

「あがっ…………む、ん……」

「「おおおお!」」

 

 ノエルが台の上に立ち、何かを頬張った。

 ぐしゃぐしゃと音を鳴らして、易々と噛み砕いて……飲み込んで。

 周囲からは歓声が上がる。

 

 何をしているのだろうか。

 座り込んでいるから、よく見えない。

 

「まっずーーーい!」

 

 絶叫したノエルが、更に酒を盛る。

 

「「あっひゃひゃひゃひゃ‼︎」」

 

 何だこの、むさ苦しい集団は。

 …………。

 え、待て、まずい?

 まさかノエル……。

 

「……まあいっか」

 

 2つ食べなきゃどうでもいい。

 酒の勢いで食べたそれが、当たりだといいね。

 

 ――――――。

 

 非常事態の発生だけ、危惧していたが、大波も襲撃も無く、宴は無事終宴を迎えた。

 

 視界は既に真っ暗闇。

 宴で騒いでいた者共は皆一様に眠りについた。

 宴会中の襲撃も怖かったが、今襲撃があっても困るな。

 

 かなたは宴会中も見張りや舵取りに付いていた心優しき兵士に温かい飲み物を、差し入れに回った。

 その後、甲板で倒れた者達にも、毛布を差し入れに回った。

 なんて気遣いの出来る女だ。

 

 皆の寝静まった甲板に、かなたも居てやりたいのだが、風邪を引くリスクを無闇に負うことはできない。

 温かい自室へ入り、眠る事にしよう。

 

 コンコン……。

 

「……? 入っていいよ」

 

 こんな夜分に誰だろう。

 緊急時以外で訪問に来るのは決まってノエル。

 だがこれは、ノエルではない。

 

 かちゃりと控えめな音を立てて扉が開く。

 

「かなたん……」

「わため、起きてたんだ」

「うん。あ、毛布、ありがとうね」

「いいよ、気にしないで」

 

 控えめに入室し、これまた控えめに扉を閉じる。

 

「それより、どうしたの?」

「えっと……わためを誘った理由をね、聞きたかったから」

 

 わためは半分ノリでこっちへ来たが、かなたなりの考えがあると見ている。

 実際、ルーナの側近であった事実が大きな信頼となるから、と言う勝手な理由がある。

 しかし、それは伝えるべきでない。

 ノエルにだって、一度たりとも信頼している、なんて伝えた事は無い。

 それに、信頼度云々の話をすれば、不信感や疑問を持たれてしまう。

 

「何となくだよ。堅いのが、似合ってないように見えたから」

「そう、なの?」

「そうだよ? もっと何かあると思ってた?」

「うん」

「結構自分の長所に自信があるみたいだね」

「ん、んーんーんー、そんな――!」

 

 ちょっと揶揄うと大袈裟に否定するので面白い。

 揶揄い甲斐のある仲間が増えた。

 

「へへへ、冗談。ほら、お酒も飲んでるんだし、もう寝なよ」

「うん、ありがとうね」

「いいって」

 

 もう一度お礼を言ってわためは静かに扉を開く。

 

「――あ、そうだわため」

「ん?」

「能力、食べない?」

「え……? ノエルちゃんが食べてたやつ?」

「そう、まだストックがあるからさ」

 

 丁度宴の最中に考えていた話。

 折角のタイミングなので、序でに話してしまう。

 

「でもいいのかな……。入ったばかりのわためが食べちゃって」

「僕の人選なら、誰も文句は言わないんじゃないかな」

 

 反対ではない。ただ、周囲の不満が予想できるから、少し怖い。

 確かに、わためが勝手に食べたとなれば、批判もあるかもしれない。

 だが、かなたの選択は間違っていないと、部下は信じている。

 だから、きっと文句は出ない。

 

「なら……うん、分かった。かなたんがそう言うなら、食べるね」

「ん、りょーかい。じゃあそれだけだから、おやすみ」

「うん」

 

 小さくパタパタと手を振って、わためは別の部屋へ向かった。

 もう遅いし、きっと眠りに行ったのだろう。

 

 わための消えた自室で、かなたは少しぼーっとしていた。

 

「……」

 

 そして、すぐに眠りにつくことにした。

 

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