ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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63話 joker

 

「ここが座学教室」

 

 ――――。

 

「ここが稽古場」

 

 ――――。

 

「ここはジム」

 

 ――――。

 

「ここ医療室」

 

 ――――。

 

「ここが浴場」

 

 ――――。

 

「ここが図書館」

 

 ――――。

 

「ここはトイレ」

「それはいい」

 

 ――――。

 

「ここ売店」

「ポテチも沢山」

 

 ――――。

 

「ここが監視室」

 

 ――――。

 

「あ、ここはこの前わためが転んだとこ!」

「わーわーわー! 言わないで」

「ふぎゃっ!」

「「「…………」」」

 

 ――――。

 

「ここが仮眠室」

 

 ――――。

 

「ここどーこだ?」

「いや知らんから」

「何でもない部屋〜」

 

 ――――。

 

「ここが会議室」

 

 ――――。

 

「ここは音楽室」

 

 ――――。

 

「そして最後、この先が王室」

 

 と、城の案内にかけた時間は約3時間。

 途中の休憩や、各部屋での体験や説明なども含めた時間だ。

 だがやっぱり、ジョークでかなり無駄な時間を過ごしていた。

 

「紹介してないけど、地下には監獄と宝物庫があるよ」

「宝物庫?」

「宝あんの?」

「いーや、ぜーんぜん」

「なぁんだぁ〜」

「盗む気だったの?」

「そんなまっさかぁ!」

 

 ラミィの目は光っていた。

 

「さて、それじゃ最後にかなたんに会っとこうか」

「そうだね、終了の報告も兼ねて」

 

 ノエルを先頭に、王室前まで。

 

「…………」

 

 中からは聞き取れない声がする。

 

「かなたーん、入っていい?」

「いーよー」

 

 声を張ると、綺麗な声が返ってきた。

 ガチャリと重たい扉を開くと、中にはかなたの他にもう1人いた。

 城に仕える者ではないが、ノエルとわためはその人を知っている。

 

「あ……こんにちは」

「あ、ども」

「ど、どうも」

 

 新人2人と、その1人が小さな会釈を交わす。

 彼女たちは初対面。

 

「えっと……どちら様?」

 

 その人が、目上なのか計り知れず、ラミィは丁寧に手のひらで示してノエルに尋ねる。

 

「常闇トワさん。最近かなたんとよくお話ししちょるんよ」

「お城の人?」

「んーん、一般市民」

「へぇ……」

 

 一般市民が何故王室にいるのか。

 その疑問は解消されないまま進行した。

 

「えっと……」

「ラミィちゃんとあやめちゃん、さっき話してた新しい子」

「あ、常闇トワです。よろしくお願いします」

「えあ、お、おん」

「よろしく」

 

 お互い接し方に難航していて、少し面白い。

 

「それで、案内は終わった?」

「終わったよ」

「そっか、じゃあ丁度いいからロッカールームに行こっか」

「あー、そうじゃね」

 

 かなたは席を立つと、部屋の端を通って出入り口へ。

 

「え、あの、トワは……」

「一緒に来ていいよ」

「……ん」

 

 良いのだろうか、と不安になりつつも、かなたの言葉に従い、トワもついてゆく。但し、最後尾で。

 王室を出ると1つ下の階へ。

 

 階段から少し行くと、ロッカーの並ぶ部屋へ到着した。

 

「ここはロッカールーム。新しく3人分のロッカーを用意したから」

「はい」

「……ぇ?」

 

 何で3人分?

 もしかして、ひとつはトワの?

 

「4桁の数字を暗証番号にして錠を作るから、決まったら僕に教えてね」

「「分かりました」」

「あ、あの!」

「ん?」

「トワも、ですか?」

「勿論」

「……」

 

 尋常でない場違い感。

 騎士団専用のロッカールームに、ひとつだけ一般人の枠があっていいのだろうか。

 

「分かりました」

 

 結局、はいとしか答えられない。

 何故トワは、かなたに目をつけられたのか。

 トワ自身もよく分かっていない。

 

「かなたんに教えるって事は、かなたんはみんなの番号を知ってるって事だよね?」

「そうだよ」

「つまり、かなたんだけは、いつでも中を覗けると……」

 

 ラミィは欠陥のような部分について言及するが、これは硬度すぎるセキュリティにしないためでもある。

 

「基本は見ないよ。突然その人がいなくなったりしたら、僕が開けたりとか、その時のためだから」

 

 と、情報は絶対に守るし、無闇に開けないと約束する――最中に、ノエルのロッカーに触れる。

 かち、かち、かち、かち、ガチャン。

 

 誰にも見えないようにダイヤルを合わせる『0、3、1、4』と。

 

「言った傍から何しとんの!」

 

 わぁー、とノエルが開いた扉の中身を全身で必死に隠した。

 中身は見えない。かなたも見ていない。

 パタンと閉めて、錠のダイヤルをぐちゃぐちゃにずらした。

 

「こんな風に、僕はみんなのを知ってる。って証明」

「焦るからやめて!」

「わためのも開けようか?」

「だめだめだめ!」

 

 だだだっ、と自分ロッカーの前に立ち塞がった。

 2人はこのロッカーに、何を隠しているのだろう?

 焦りすぎでないか。

 

「実際に開けたのは今回が初めてだから安心して。本当に大事なものとかを閉まっとくといいよ」

「今の見て信頼下がったけどね」

 

 無断で開ける現場を見て、信じろと言われても。

 かなた以外なら信じない。絶対に。

 

「それじゃあ決まったら僕のところに教えに来てね」

「「「はい」」」

「うん、それじゃあ今日は解散。ノエルちゃんとわためは仕事に戻って。ラミィとあやめちゃんは、今日はフリーでいいよ」

「あいよ」

「はーい」

「ん」

「りょうかーい」

 

 騎士団員4名は各々持ち場に戻ったりと、この場を離れ行く。

 残りはかなたとトワ。

 

「……部屋に戻ろう」

「……?」

 

 全員捌けると、かなたは足早に王室へ戻るので、トワも遅れて続く。

 王室へ入るとかなたは鍵をかけた。

 

「トワに話したい事があるんだけど、いい?」

「いや……いいですけど」

「言葉」

「……あー、はい」

 

 先ほどはスルーした敬語を指摘する。

 

「でも、何を話すんすか?」

「……滅茶苦茶重たい話」

 

 まだ若干敬語の名残があるが、そこはもう捨て置く。

 正直話題がビッグすぎて、トワには申し訳ないのだが。

 

「重たいって、内容が?」

「そう。因みに、どれだけ重いかって言うと、騎士団員誰1人知らないくらい重いよ」

「え…………それ、ホントに重大な事? 大した事ないんじゃ……」

「そう思うなら大丈夫だね。話すよ」

「…………」

 

 トワは大きく息を呑む。

 かなたに目をつけられて3ヶ月ほど。

 こんな空気を味わうのは、初めて。

 

「僕が今までに調べた洗脳能力の全てを」

「――?」

 

 洗脳能力、と言われても、ピンと来ない。

 その様子を見てもかなたは口を開き続ける。

 

 事の重大さが飲み込めていなかったトワ。

 聞き始めは訝しんだ様子で口をぽかんと開けていたが、次第に表情は引き攣ってゆく。

 能力の恐ろしさ、暗躍している現状、対策法の未解明。

 4大能力には触れず、洗脳能力についてだけ、事細かに説明していった。

 

 そして、全てを話し終えると真摯な瞳でトワを見つめた。

 

「最初に言ったけど、これはCTの姫と僕、そして今話したトワしか知らない」

 

 正確にはルーナの部下も1人ほどは知っているが、そこまで細かく話す必要はない。

 トワは顔面蒼白になる。

 情報は処理できているだろうか。少々心配になる様子。

 

「こんな大事な話、トワじゃなくて別の人に――」

「万が一の時、騎士団は当然標的にされる。そうなった時、トワの方がジョーカーとして機能する」

「じょ、ジョーカー?」

「万が一が起きたらの話だよ。その時は、トワの裁量に任せる」

「――?????」

 

 脳がパンクしそうだ。

 かなたの考えが全く読めなくて気持ち悪い。

 この様子では聞いてもはぐらかされる。

 勝手に嚥下するしかない。

 

「あー、そうそう」

「――」

「ノエルちゃんたちとは、仲良くなっとくと良いよ。いざって時、きっと助けてくれるし、頼りになるから」

「……分かった」

 

 言われるがまま、トワは全てを承諾して、飲み込めない事ばかり喉に詰まらせている。

 

「そうだ、折角だし、楽器でも触ってく?」

 

 唐突に話題が逸れたので、転倒しそうになった。

 

「え、ああ……おん」

「あれ、楽器に興味ない?」

「いや、そう言う問題じゃ……」

 

 簡単に適応できるかと、そう言いたかったが、かなたの目を見て思いとどまる。

 慣れろ、って訳じゃないが、それを顔に出すな、と言いたげだ。

 

「ジョーカーは、道化師。嘘と真実を使い分ける事。それと、ポーカーフェイスを忘れるな、ってね」

「…………」

「演技じゃなくてもいい。但し、必要に応じて真実を隠し、真実を貫く」

 

 かなたは最後に真剣な眼差しでトワを見つめた。

 

「これが僕の座学。たった5秒の特別講義。覚えといてね」

 

 にかっと笑って鍵を開けると、音楽室へ。

 

「……」

 

 何がしたいのかは、分からない。

 けれど、かなたからの厚い信頼と期待を感じる。

 かなたの事は、仲良くなる以前から、その人格が好きだった。

 だから、この期待と信頼には、応えたい。

 

「――!」

 

 パチンと両頬を叩く。

 ヒリヒリとする。

 

 トワの試練もまた、人知れず、あっさりと始まってしまっていた。

 

 

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