「ここが座学教室」
――――。
「ここが稽古場」
――――。
「ここはジム」
――――。
「ここ医療室」
――――。
「ここが浴場」
――――。
「ここが図書館」
――――。
「ここはトイレ」
「それはいい」
――――。
「ここ売店」
「ポテチも沢山」
――――。
「ここが監視室」
――――。
「あ、ここはこの前わためが転んだとこ!」
「わーわーわー! 言わないで」
「ふぎゃっ!」
「「「…………」」」
――――。
「ここが仮眠室」
――――。
「ここどーこだ?」
「いや知らんから」
「何でもない部屋〜」
――――。
「ここが会議室」
――――。
「ここは音楽室」
――――。
「そして最後、この先が王室」
と、城の案内にかけた時間は約3時間。
途中の休憩や、各部屋での体験や説明なども含めた時間だ。
だがやっぱり、ジョークでかなり無駄な時間を過ごしていた。
「紹介してないけど、地下には監獄と宝物庫があるよ」
「宝物庫?」
「宝あんの?」
「いーや、ぜーんぜん」
「なぁんだぁ〜」
「盗む気だったの?」
「そんなまっさかぁ!」
ラミィの目は光っていた。
「さて、それじゃ最後にかなたんに会っとこうか」
「そうだね、終了の報告も兼ねて」
ノエルを先頭に、王室前まで。
「…………」
中からは聞き取れない声がする。
「かなたーん、入っていい?」
「いーよー」
声を張ると、綺麗な声が返ってきた。
ガチャリと重たい扉を開くと、中にはかなたの他にもう1人いた。
城に仕える者ではないが、ノエルとわためはその人を知っている。
「あ……こんにちは」
「あ、ども」
「ど、どうも」
新人2人と、その1人が小さな会釈を交わす。
彼女たちは初対面。
「えっと……どちら様?」
その人が、目上なのか計り知れず、ラミィは丁寧に手のひらで示してノエルに尋ねる。
「常闇トワさん。最近かなたんとよくお話ししちょるんよ」
「お城の人?」
「んーん、一般市民」
「へぇ……」
一般市民が何故王室にいるのか。
その疑問は解消されないまま進行した。
「えっと……」
「ラミィちゃんとあやめちゃん、さっき話してた新しい子」
「あ、常闇トワです。よろしくお願いします」
「えあ、お、おん」
「よろしく」
お互い接し方に難航していて、少し面白い。
「それで、案内は終わった?」
「終わったよ」
「そっか、じゃあ丁度いいからロッカールームに行こっか」
「あー、そうじゃね」
かなたは席を立つと、部屋の端を通って出入り口へ。
「え、あの、トワは……」
「一緒に来ていいよ」
「……ん」
良いのだろうか、と不安になりつつも、かなたの言葉に従い、トワもついてゆく。但し、最後尾で。
王室を出ると1つ下の階へ。
階段から少し行くと、ロッカーの並ぶ部屋へ到着した。
「ここはロッカールーム。新しく3人分のロッカーを用意したから」
「はい」
「……ぇ?」
何で3人分?
もしかして、ひとつはトワの?
「4桁の数字を暗証番号にして錠を作るから、決まったら僕に教えてね」
「「分かりました」」
「あ、あの!」
「ん?」
「トワも、ですか?」
「勿論」
「……」
尋常でない場違い感。
騎士団専用のロッカールームに、ひとつだけ一般人の枠があっていいのだろうか。
「分かりました」
結局、はいとしか答えられない。
何故トワは、かなたに目をつけられたのか。
トワ自身もよく分かっていない。
「かなたんに教えるって事は、かなたんはみんなの番号を知ってるって事だよね?」
「そうだよ」
「つまり、かなたんだけは、いつでも中を覗けると……」
ラミィは欠陥のような部分について言及するが、これは硬度すぎるセキュリティにしないためでもある。
「基本は見ないよ。突然その人がいなくなったりしたら、僕が開けたりとか、その時のためだから」
と、情報は絶対に守るし、無闇に開けないと約束する――最中に、ノエルのロッカーに触れる。
かち、かち、かち、かち、ガチャン。
誰にも見えないようにダイヤルを合わせる『0、3、1、4』と。
「言った傍から何しとんの!」
わぁー、とノエルが開いた扉の中身を全身で必死に隠した。
中身は見えない。かなたも見ていない。
パタンと閉めて、錠のダイヤルをぐちゃぐちゃにずらした。
「こんな風に、僕はみんなのを知ってる。って証明」
「焦るからやめて!」
「わためのも開けようか?」
「だめだめだめ!」
だだだっ、と自分ロッカーの前に立ち塞がった。
2人はこのロッカーに、何を隠しているのだろう?
焦りすぎでないか。
「実際に開けたのは今回が初めてだから安心して。本当に大事なものとかを閉まっとくといいよ」
「今の見て信頼下がったけどね」
無断で開ける現場を見て、信じろと言われても。
かなた以外なら信じない。絶対に。
「それじゃあ決まったら僕のところに教えに来てね」
「「「はい」」」
「うん、それじゃあ今日は解散。ノエルちゃんとわためは仕事に戻って。ラミィとあやめちゃんは、今日はフリーでいいよ」
「あいよ」
「はーい」
「ん」
「りょうかーい」
騎士団員4名は各々持ち場に戻ったりと、この場を離れ行く。
残りはかなたとトワ。
「……部屋に戻ろう」
「……?」
全員捌けると、かなたは足早に王室へ戻るので、トワも遅れて続く。
王室へ入るとかなたは鍵をかけた。
「トワに話したい事があるんだけど、いい?」
「いや……いいですけど」
「言葉」
「……あー、はい」
先ほどはスルーした敬語を指摘する。
「でも、何を話すんすか?」
「……滅茶苦茶重たい話」
まだ若干敬語の名残があるが、そこはもう捨て置く。
正直話題がビッグすぎて、トワには申し訳ないのだが。
「重たいって、内容が?」
「そう。因みに、どれだけ重いかって言うと、騎士団員誰1人知らないくらい重いよ」
「え…………それ、ホントに重大な事? 大した事ないんじゃ……」
「そう思うなら大丈夫だね。話すよ」
「…………」
トワは大きく息を呑む。
かなたに目をつけられて3ヶ月ほど。
こんな空気を味わうのは、初めて。
「僕が今までに調べた洗脳能力の全てを」
「――?」
洗脳能力、と言われても、ピンと来ない。
その様子を見てもかなたは口を開き続ける。
事の重大さが飲み込めていなかったトワ。
聞き始めは訝しんだ様子で口をぽかんと開けていたが、次第に表情は引き攣ってゆく。
能力の恐ろしさ、暗躍している現状、対策法の未解明。
4大能力には触れず、洗脳能力についてだけ、事細かに説明していった。
そして、全てを話し終えると真摯な瞳でトワを見つめた。
「最初に言ったけど、これはCTの姫と僕、そして今話したトワしか知らない」
正確にはルーナの部下も1人ほどは知っているが、そこまで細かく話す必要はない。
トワは顔面蒼白になる。
情報は処理できているだろうか。少々心配になる様子。
「こんな大事な話、トワじゃなくて別の人に――」
「万が一の時、騎士団は当然標的にされる。そうなった時、トワの方がジョーカーとして機能する」
「じょ、ジョーカー?」
「万が一が起きたらの話だよ。その時は、トワの裁量に任せる」
「――?????」
脳がパンクしそうだ。
かなたの考えが全く読めなくて気持ち悪い。
この様子では聞いてもはぐらかされる。
勝手に嚥下するしかない。
「あー、そうそう」
「――」
「ノエルちゃんたちとは、仲良くなっとくと良いよ。いざって時、きっと助けてくれるし、頼りになるから」
「……分かった」
言われるがまま、トワは全てを承諾して、飲み込めない事ばかり喉に詰まらせている。
「そうだ、折角だし、楽器でも触ってく?」
唐突に話題が逸れたので、転倒しそうになった。
「え、ああ……おん」
「あれ、楽器に興味ない?」
「いや、そう言う問題じゃ……」
簡単に適応できるかと、そう言いたかったが、かなたの目を見て思いとどまる。
慣れろ、って訳じゃないが、それを顔に出すな、と言いたげだ。
「ジョーカーは、道化師。嘘と真実を使い分ける事。それと、ポーカーフェイスを忘れるな、ってね」
「…………」
「演技じゃなくてもいい。但し、必要に応じて真実を隠し、真実を貫く」
かなたは最後に真剣な眼差しでトワを見つめた。
「これが僕の座学。たった5秒の特別講義。覚えといてね」
にかっと笑って鍵を開けると、音楽室へ。
「……」
何がしたいのかは、分からない。
けれど、かなたからの厚い信頼と期待を感じる。
かなたの事は、仲良くなる以前から、その人格が好きだった。
だから、この期待と信頼には、応えたい。
「――!」
パチンと両頬を叩く。
ヒリヒリとする。
トワの試練もまた、人知れず、あっさりと始まってしまっていた。