ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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64話 稽古

 

 洗脳の情報がトワに渡り数週間。

 トワは卓越したコミュニケーション能力を駆使して、騎士団メンバーと仲良くなり、特別に稽古をつけてもらっていた。

 特に、かなたの挙げた4人との交流を深め、中々の信頼を得ている。

 

 洗脳云々とは関係なく、4人との交流は非常に楽しい。

 毎日のように城へ通っては、4人に混ざり稽古したり、座学を受けたり、他愛もない小話に花を咲かせたり。

 

「そーいや、2人はロッカーの番号渡した?」

「ラミィは当日中に渡したよ」

「余は次の日すぐに」

「そっかぁ……トワはさっき漸く出したよ」

 

 と、暗証番号についての話題。

 数字をたった4桁並べるだけだが、それが悩ましいのだ。

 突破しにくく、自身は覚えやすい番号が望ましい。

 なのでトワは『8、1、8、1』とした。

 まあ、トワはロッカーに何も入れていないので、バレたところで意味はない。

 

「番号なんて適当にちゃちゃっと決めちゃえばいいんよ」

 

 何事も行動の早いラミィ。

 あやめもそうだよと頷いた。

 

 

 5人は現在、稽古場へ向かっている。

 今日もまた、トワが稽古をつけてもらうのだ。

 

「それにしても、もう1週間だね〜。上達した自信はある?」

「そこそこ? 元が駄目だったけ、その分伸び自体は大きいと思うわ」

「最初は成長が目に見えるから気分乗るよね」

「最初だけよ……」

 

 わためとノエルの肯定的な反応に対し、あやめは釘を刺すような冷たい答え。

 きっと実体験。

 最強様の言葉はしかと心に受け止めよう。

 

「ラミィちゃんの講義はどう?」

「分かりやすいよ。基本の学問も、戦闘術に関する事も」

「でしょ」

「合間に挟む駄洒落はやめてほしいけど」

「なんでよ」

「いやだって……寒いし」

「はぁ〜、ほんならラミィより面白いこと言うてみぃや、えぇ?」

 

 この面倒くさい所が鬱陶しい。

 一つの魅力ではあるが。

 

「いやだわ、それ何言っても寒くなるやつだし」

「お、なんや、日和っとんのか? お?」

「マジでこれ酒入れてないんだよな?」

「残念ながらシラフでこれ」

 

 突如張り上げる声、絡み方のウザさ。

 酔っ払いのそれに近しいものを感じるが、他3人曰く、これが普通らしい。

 

 ……そんなこんなで、稽古場到着。

 

 あやめとトワが決闘方式で稽古する。

 ノエルが審判、わためとラミィは観客。

 わためはポテチを2袋用意していた。

 

 一定の距離感を保って対面。

 トワは武器を持たずに構えた。

 

「格闘主流にしたん?」

「はい。武器はやっぱり、トワに合わないので。これで行きます」

 

 その結論にあやめは理解を示す。

 だからこそ、対等に、腰に携えた刀を離れた位置に置いた。

 

「能力の使用は禁止。どちらかの降参、または団長が続行不能と見做した時点で終了とする」

 

 稽古場では基本、能力を行使した戦闘術の訓練を行わない。

 非常時や止むを得ない場合を除き、この場での能力行使は数日の謹慎処分に値する。

 ここで言う止むを得ない場合とは、主にロギア種による環境への干渉である。

 一部のロギア種は、歩くだけで地面に影響を与えたり、無意識的に攻撃を受け流したりと、オートで発動してしまう為、制御が難しい。

 

 まあ、この騎士団に、ロギアの能力者はいないので、あまり関係ない。

 

「それでは――はじめっ!」

 

 主審のノエルが大きく右腕を振り下ろし、決闘開始。

 先手はトワから。

 この稽古はトワの戦闘能力の分析に重きを置いている為、あやめから攻撃を仕掛ける事はない。

 あやめは基本、受けと迎撃に徹しながら、トワの動きの利と粗を探す。

 

「はっ!」

 

 安直な右拳。

 回避ならラッキー程度に放ったが、左手の甲で払われる。

 どうせ当たらぬ想定の一撃だ、流すように右手を引き戻して今度は左拳――を構えるだけ構える。

 左拳を放つように見せかけて、左脚蹴り上げ。

 いいスイングだ。

 

 しかし、右腕によるガードで威力は霧散。

 さあ、技能が測られるのは、ここからだ。

 

 蹴り上げた左脚を降ろしかけ――Uターン、もう一度左脚で上段蹴り。

 特殊なモーションに一瞬面食らったようにも見えたが、それでも悠々と受け止める。

 左手でパシッと。

 

 しかも、トワの脚を掴んだ手は、離してくれない。

 当然の迎撃として、あやめはその脚を引き、トワの全身を持ってくる。

 吸い寄せられるようなトワ。その顔面に右鉄拳を撃ち込む。

 

 咄嗟の判断で、トワは刹那の間だけ全身脱力した。

 勢いのまま足が引かれ、頭が床スレスレにまで落ち込む。

 

 その動きにさえ、あやめは反応し、拳の軌道を修正。

 ターゲットにブレはない。

 

 トワが、タタン、と両手を床につけた。

 腕を軸に、掴まれていない右脚を旋回。あやめの頬を狙った。

 防ぎきれないと判断したあやめは、トワの足から手を離し、鉄拳も引いた。

 

「っ……し」

 

 やった!

 と、思ったのも束の間、あやめが消えるような神速で半倒立状態のトワの両腕を足で払った。

 

「のぁわっ!」

 

 バランスが崩れ、トワの体は一回転。

 宙を舞うように背中から床へと叩き落とされた。

 

「っイ……!」

 

 背中全体に衝撃が走り、ビリッとした。

 一瞬の明滅――から覚めると、眼前にあやめの顔があった。

 地に寝そべるトワに跨り、動きを封じている。

 

「っ……」

 

 力比べで勝ち目はない。

 もう負けだ。

 

 それは明らかだが、主審のノエルは決闘終了を宣言しない。

 

「……降参」

 

 逡巡したが、結局諦念し、自ら降参を宣言した。

 

「そこまで」

 

 降参、の言葉を聞くや否や、ノエルは左手を振り上げ、決闘終了を明言。

 

「くっそ! 強すぎんだろ」

 

 右腕を床に叩きつけた。

 

 お互いに息切れするほど動いていない。

 そんな短時間で負けた。

 勝ち目はないと分かっていても、悔しい。

 

 あやめは立ち上がり、トワの上から離れる。

 そこへ、観戦していた2人と審判が寄ってきた。

 

「あやめちゃんと手合わせした感想は?」

「マジで勝てる気がせん!」

 

 エアマイクをわために突きつけられたので、大きな声で叫んだ。

 そんな様子に一切の興味を見せず、あやめは自身の刀を拾い上げ、腰に携えた。

 

「あやめちゃん、今のは本気の何%?」

「10%」

「知ってるよ‼︎ 一々言わすな!」

 

 新人いびりが始まった。

 今のトワは、全力10%のあやめより弱い。

 

「まあまあ……団長たちもあやめちゃんには勝てないから」

 

 些細な慰めが、トワを更にいじめる。

 

 過去に数度、騎士団全員あやめと決闘を行っているが、あやめの全勝。

 能力ありの実践形式でも、あやめの全勝。

 あやめの実力は揺るがない。

 だが、彼女のアドバイスのお陰で、騎士団が全体的に強くなった。

 ノエル、ラミィ、わためも、以前より30%ほどは能力上昇したと感じる。

 

 戦闘に関する分析を、戦いながらしているのが、末恐ろしい。

 

「正直な所、あやめちゃんがいればこの国安泰だよね」

「気持ちはわかるけど、言っちゃ駄目だよ」

「あ、ごめん」

 

 わための失言を嗜める。

 気持ちは痛いほど分かるのだが。

 

「それで、トワちゃんの能力はどんな感じ? アドバイスとか、ある?」

 

 ノエルが問いかけると、トワは急いで起き上がり、姿勢を正した。

 

「パワーは普通程度、判断力も過不足なしって感じ」

「普通かよ!」

 

 能力がない分、トワはこの判定が実力に直結する。

 ここで見込み無しとなれば、それまで。

 

「でも体幹がいいね」

「体幹? 倒立の話?」

「んなもんできても……」

 

 あやめが挙げた才。

 トワはパッとしない利点の評価に肩を落とす。

 

「体幹は重要。格闘を軸に戦うなら特に」

「――そうなん?」

 

 あやめは右手を突き出した。

 

「人の腕は2本だから、基本的に格闘での武器は左腕と右腕の2つ」

「脚は?」

「そう、その話」

 

 と、次は右脚を突き出す。

 

「脚を攻撃手段として組み込むこと自体は誰にでもできる。でも、例えば片脚蹴り上げをすれば、一本脚で立っている状態。素早い動きのできない人や体幹のない人には、結構扱い辛い武器なの」

 

 トワは黙って聞きに徹する。

 

「さっき余がトワちゃんの脚を捕まえたよね? あの時バランスが崩れなかったし、そこから上手く追撃まで打てた事は、中々だと思う」

 

「脚技は扱い辛い代わりに、腕を使うよりも威力が出やすい。体重がかかるからね」

 

「両腕両脚の連撃で相手を撹乱させて、トドメは脚技。トワちゃんにはこれがあってると思うよ」

「脚技……」

「対応や細かい戦術について、今後もっと研究していけば、いい線行くんじゃないかな。努力次第だけど」

「なるほど……」

 

 利点を伸ばせとアドバイスを貰った。

 ノートもメモ帳もないので、頭にしっかり叩き込む。

 

「刀や鈍器等の武器相手についてはノエルちゃんと余、銃や弓等の遠隔武器に関してはわため、能力者等特殊な存在に関してはラミィちゃんに教わるといいよ」

 

 まあ、教わると言うより、稽古で実践して学ぶ、が正しいだろう。

 

「分かった」

 

 様々な敵への対応策が立てられるか、これがその人の実力を左右する。

 トワがどこまで対応できる素質があるか。

 

「これからどうする? まだ稽古する?」

「んー……」

「明日は宴会だけど」

「え、明日だっけ?」

「明日だよ」

「宴会しとってえーんかい?」

 

 明日は騎士団の宴会。

 全員が酒を飲むわけではないが、全員宴会には参加する。

 なぜかトワも誘われている。

 宴会は意外と体力を使うので、早めに上がってもいいとは思うが。

 

「皆さえ良ければ、付き合ってもらってい?」

「だんちょは構わんけど……」

「ごめん、ラミィこれから明日用のお酒買って来ないといけなくて」

「わためも、明日用のポテチを買って来ないと!」

 

 2人は手を合わせて謝る。

 ラミィはまだしも、わためはなんだ。

 宴会にポテチは絶対にいらない。

 まあ、トワは最もカーストが低いので文句一つ言えた物でない。

 

「そっか、付き合ってくれてありがと」

「ううん、また気軽に頼んでいいよ。今度教えてあげるから」

「ラミィも誘ってよ?」

「おん、じゃ、また明日」

 

 ラミィとわためは2人で買い出しへ。

 

「あやめちゃん、どうする?」

「んー……ちょっと別の所で自主練してくる」

「あいよ」

「あやめちゃんも、ありがと」

「ん、じゃ……」

 

 あやめも、1人どこかへ向かう。

 

「あ! そっちは――」

「んぎゃ――」

「――ワックス塗りたて……」

 

 一歩遅く、ワックスで滑って転んだ。

 

「…………」

 

 立ち上がると、トボトボと去っていった。

 

 あやめに勝ち筋を見出すには、運ゲーしかないかも。

 と、思うトワである。

 

「じゃ、2人になっちゃったけど、練習しようか」

「お願いします」

 

 トワは練習に勤しんだ。

 

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