ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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65話 宴会

 

 宴会当日――――。

 

 宴会の日がやって来た。

 夜7時から、城の食堂にて宴会を開く。

 理由はよく知らない。

 

 でも、誘われた以上、楽しそうなのでトワも出席する。

 夕方6時半、会場へ赴くと、既に準備が進められており、殆ど手伝う事はなかった。

 

 ギリギリまで温めてある料理を時間になったら運ぶだけ。

 自分の席は、特に決まっていなかった。

 

「トワちゃん、こっちこっち」

 

 わために呼ばれた。

 人混みの中、声を頼りに見回せば、あの4人が固まって座っていた。

 駆け足で寄る。

 

「おらぁ! もっと飲めぇー!」

「っ!」

 

 1人で盛り上がり、既にぐびぐびと酒を煽る女がいた。

 もはや狂気。

 

「流石ラミィ、もう飲んでるね」

「かなたん!」

 

 かなたも開宴前に登場。

 仕事は終わらせたようだ。

 

「かなたぁ〜ん。一緒に飲もうょ!」

「いや、僕はお酒飲まないから」

「そもそも始まってないし」

 

 ラミィ以外、飲んでいる人はいない。

 あと数分待てなかったのか。

 

「4人は飲むの?」

「だんちょは飲むよ」

「わためもちょっと」

「飲む」

 

 トワ以外は飲むらしい。

 ジョッキやグラス等、既に準備はしてある。

 

「トワは……やめとく」

「そっか」

 

 酒は嫌いではないが、この場で飲む勇気がない。

 トワはまだ、騎士団員になれていないから。

 

 ――――。

 

 テキトウに時間を過ごして、開宴時間を待つ。

 そして残り30秒。

 

 かなたとノエルが中央へ向かった。

 

 2人が離れ、わためがぼそっと呟く。

 

「ここまできっちり時間守る必要ないのにね」

「確かに」

 

 準備は完了し、全員集合している。

 早めの開演も可能だったが、何故かここは几帳面。

 

 くすくすと笑いながら、カウントダウンを待つ。

 

「10! 9! 8! 7! 6! 5! 4! 3! 2! 1!」

 

「「「「「「かんぱぁーーい‼︎‼︎」」」」」」

 

 大歓声と共に宴が始まり、皆がグラスを掲げた。

 かちゃん、とガラスのぶつかり合う音が幾度も響き、突如周囲が騒々しくなる。

 

「乾杯乾杯!」

 

 ラミィは酒瓶から直に酒を流し込む。

 見ているだけで肝臓が焼ける。

 

 祝杯の挨拶を終えたノエルとかなたが戻って来た。

 

「ほらほらほら! 皆も飲んで飲んでぇ!」

「あ」

 

 ラミィが皆にグラス、湯呑みを渡す。

 酔っているクセに、かなたとトワにはきちんとお茶を提供できる判断力はあった。

 

「かんぱぁーい!」

「「「かんぱい!」」」

「「乾杯」」

 

 4人がグラスを打ち合わせる横で、かなたとトワは小さく湯呑みをコツンとぶつけてお茶を啜――

 

「あ゛っづ‼︎」

 

 僅差で先に口をつけたかなたが放るように、湯呑みをテーブルに叩きつけ、口元を押さえる。

 誰にも見えないが、小さく舌を出して空気に当てていた。

 火傷したようだ。

 トワはそっと湯呑みを卓上に置いた。

 

「おいラミィ! おめぇなぁ!」

「へぇ?」

 

 かなたが舌をチロリと出しながら、湯呑みを掴む。

 ズカズカと酔っ払ったラミィに突き出すと、飲んでみろ、と言う。

 警戒しながら、舌をちろっとつける。

 めっちゃ熱い。

 

「あつっ……」

「火傷!したんだけど!」

「ごめんってぇ〜」

 

 喧騒の中でもラミィの声は一際目立っていた。

 

「こんにゃろ!」

「あー!」

 

 ラミィが自分用に取り分けていた料理をかなたは腹いせに食べてやった。

 めちゃくちゃ美味い。

 

「それラミィの!」

「うっへぇ!」

 

 口に含んだまま喋るな。

 

「ラミィちゃん、ほらほら、これあげる」

 

 わためがつんつんとほっぺを触る。

 そして差し出す物は、案の定ポテチ。

 酒にポテチ。

 あまり合わない。

 

「合わない! さばー、うにー、みそー。せめてナッツー!」

 

 ベストマッチな極上の肴を求めて、ラミィは旅立っていった。

 受け取られなかったポテチをわためが食べる。

 

「おいちいのにねえ?」

「ねえかなたーん!」

「おお、どうしたん?」

 

 わためは放っておいて、ノエルに呼ばれたのでそちらを向く。

 と、涙目で酒を煽っていた。

 

「牛丼がないんじゃけどぉ……」

「ないよそんな重いもん」

「そんなぁー」

 

 と、涙を溢しながらぐいぐいとグラスの角度を上げてゆく。

 泣き上戸か?

 そんなわけない。

 

「ノエルちゃーん、代わりにこれ食べなよー」

 

 わためが擦り寄って、またポテチを勧める。

 狂気的なポテチ信者。絶賛布教中。

 

「いらんー」

「おいちいのにぃ」

 

 圧倒的カオスを目の当たりにして、トワは身震いした。

 これが、宴会……。

 地獄だ。

 

「――――」

 

 そう思い視線を逸らすと、その先にあやめがいた。

 この地獄の中で最も強い存在。地獄の王のような剣士。

 彼女は1人静かに、大きな盃にお酌して、適量を少しずつ飲んでいた。

 

「――――」

 

 トワが最も見習うべきは、あやめかもしれない。

 孤高の最強剣士。そんなイメージがあるからだろうか。

 追いかける背中はもちろん、酒を飲む後ろ姿さえ、様になる。

 

「――ッ゛! ぶふっー!」

 

 盃を傾けすぎて、酒が鼻に侵入する格好悪い瞬間を見てしまった。

 痛そう。

 涙目で鼻を擤む。

 誰も見ていないよな、と周囲を見回し始めたので、慌てて目を逸らす。

 

「――ほ」

 

 バレなかった。

 あの不幸体質さえなければ、完璧なのに。

 

「完璧な人はいないって事だな」

 

 この世に完璧超人はいない。

 あやめを見て、それを実感できるのは、何故だか少し嬉しい。

 

「トワちゃん、みて!」

「お、おお……」

 

 食糧調達から帰還したラミィの取り皿には、大量の肴が。

 主に魚介類。

 缶詰とか、合うよね。

 

 トワはどちらかと言えば、サラミやジャーキーなど、肉類派だが。

 

 ラミィは幸せそうな顔であやめの隣へ。

 独り酒を満喫していたあやめは、大層鬱陶しそうな表情だ。

 しかし、毛ほども気にしないラミィは、グイグイと料理を押し付ける。

 更に、勝手に盃に酒を盛る。

 

「ちょ、多い多い多い!」

「いけるいける!」

 

 溢れ返るほどトプトプに注がれた酒を、あやめは啜る。

 先ほど鼻に入った酒がまだ残っていたのか、鼻奥にツンと刺激が。

 

 なんやかんやで、あやめも酒は強い。

 だから、飲めはする。

 いざって時のために、飲みすぎないようにしたいだけ。

 

「…………」

 

 まあ、かなたが飲んでないだけで、十分か。

 

 あやめは諦めた。

 ラミィは疾うに3本目の酒瓶を開けている。

 酒とつまみに頰を蕩けさせ、幸せに満ちた顔をしている。なによりだ。

 

「ノエルちゃーん! わためずっとさぁ、ルーナ姫に悪いことしたなぁっておぼっててぇ〜」

「おおおお、よしよし、聞いちゃるけん落ち着いて、これ飲みながら」

 

 酔った末に謎の弁明を始めるわために、ノエルが渡した物はやはり酒。

 それをグッと一口喉に流す。

 

「でもさ! やっぱりわために団長向いてないしぃ。人とお話しするの好きだからさあー! かなたんとノエルちゃんの関係楽しそうだったし」

「そうかそうか」

「でもさでもさ! ルーナ姫怒ってるよねぇ。もう会えないよぉ!」

「だいじょぶじゃって。ルーナ姫は優しいし、分かってくれるって」

「うぅ〜……」

 

 ヤケ酒のように酒を追加し、そこへポテチまで投入。

 やけポテチ。

 

「や、やべぇ……」

 

 トワの身震いが増した。

 

 わためを抱擁するノエルに、かなたが歩み寄った。

 周囲の喧騒でトワまでは聞こえないが、何かを話すとトワの方へ来た。

 

「トワ、ちょっとこっち」

「――?」

 

 かなたにちょいちょい、と手招きされたのでゆっくり後を追う。

 食堂を出て、階段へ。

 階段を登り、登り、登り――最上階。

 王室へ。

 

 わざわざ宴会中に、一体どんな一大事だ?

 

 かなたは玉座前の机の引き出しから、バッチと書類を取り出す。

 

「これは騎士団員証明のバッチ」

「え……」

「そろそろかと思ってね」

「いやでもこれ……もっと式とか、ちゃんとした場所で渡すべきじゃ……」

「いいよいいよ、面倒だし」

 

 あっけらかんとして、トワは目を丸くする。

 そのトワへ追加で一枚の書類を手渡す。

 

「これは……?」

「開いてみ」

「……は?」

 

 名前と数字の羅列。

 名前は騎士団員全メンバー。

 その隣には4桁の番号。

 

 他言厳禁の個人情報が盛り沢山。

 

「ちょっ! これ――!」

 

 白銀ノエル、『0314』。

 角巻わため、『7662』。

 …………。

 

「それから、この机の番号は――」

「ちょっと!」

「――」

「何でそんな事」

「ここの番号は『5757』」

「かなた!」

 

 トワの意見は無視してかなたは淡々と告げる。

 様子がおかしい。

 

「トワ」

「――なんだよ」

「今が丁度いいかと思ってさ」

「え?」

 

 意味が分からない……。

 

「期待してるし、信頼してる」

「――? ああ……」

「僕が動いてる事は話したでしょ?」

「聞いたよ。でもそれが――」

「万が一のため、そう言ったね。万が一ってのは、僕が洗脳の手に落ちた時の事」

「――――」

「そうなった時、僕は敵になる。だから、この場を引き継げる存在にトワを選んだ」

「――は?」

 

 それこそ、意味が分からない。

 そんな事、トワにできない。

 ノエルに話すべきだ。

 わために、あやめに、ラミィに、話すべきだ。

 

「この事は他言禁止、いいね」

「……なんで」

「僕を使って情報搾取する可能性を考えて、だよ。わためとか鈍感だし、あやめちゃんはドジっ子だし、ノエルちゃんは僕に聞かれたら何でも答えそうだし、ラミィちゃんは酔ってる時に答えちゃいそうだし」

 

 テキトウに……理由をつけているように見える。

 

「――トワの才が、最も適してると思ったから」

 

 見透かしたようなトワの視線に、観念してかなたは本心を答えた。

 

「トワの才? 何にもできないトワに、才なんて……」

「たった数日で、あの4人と打ち解けて、ここまで仲良くなった。それは類い稀なる才だと思う」

「――――」

「ごめんね。黙ってて……良いように使ったみたいになって」

「それは……別に良い……」

 

 かなたの方を見る。

 その背後、窓の外に、満月が見えた。

 

「……」

 

 トワは黙って、ロッカーの番号一覧をかなたに押し返した。

 それを、番号ロック付きの引き出しにしまう。

 

「かなた……」

 

 トワが言葉を紡ぎかけた。

 だが、その言葉と被って――コンコン、とノックが鳴った。

 

 ノエルではない。

 誰だ?

 

「はーい。どうぞ」

 

 かなたは入室を許可した。

 

 かちゃっと、優しく扉が開き、キィーと音を響かせる。

 

「どうも」

 

 入室してきたのは、騎士団の誰でもない。

 トワは見知らぬ仮面にキョトンとしたが、かなたは敏速にトワの前へ飛び出た。

 

「うわあ、凄い反応速度」

「――ぇ? かなた?」

「誰だ、お前!」

 

 不法侵入者。

 最大限の警戒は、適切な判断。

 

「誰かなあ? 誰でも良くない?」

 

 顔を隠して名を名乗るアホはいない。

 だが、声に聞き覚えがない。

 

「何しにきた!」

「そりゃあ勿論、かなたちゃん。あなたを貰いに来たんだよ」

 

 

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