ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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68話 絶望へ

 

 トワの昔話を聞いて1時間ほど経った頃。

 

 牢屋の見張りにいたあやめが、通信機で会話をした後、血相を変えて飛び出した。

 結果、牢屋に見張がいなくなる。

 代役を立てる暇さえ惜しかったのか。

 

「見張り……いるか?」

「んーん、居ないみたい」

 

 ポルカが腹を押さえながら、外の様子を伺う。

 フブキも同様に確認するが、やはりいない。

 

「チャンスだな」

「え……まさか」

「ああ……ぅ、っ……脱出だ」

「「えぇーー‼︎」」

 

 ポルカの提案。

 フブキとおかゆは大声で叫んだ。

 

「デケェ声出すな、っつー……」

「で、でも……」

「逃げるにしても、大問題は出られない事。次なる問題は、お前と、この2人をどうするか」

 

 トワも会話に復帰できる程度に活力を取り戻している。

 ポルカに2つの壁を提示した。

 

 今回は、過去のように上手くいかない。

 ポルカは本物だし、鍵の複製もない。

 

「あたしらは出れんけど、約2名、出れる奴いるだろ」

「「…………」」

 

 フブキとトワはおかゆ、ポルカは更にこよりを見つめる。

 

「え……え! え⁉︎ ぼ、僕⁉︎」

「行けるか?」

「え、で、でもさ、船長待った方がいいんじゃ――」

「証拠が見つかるとは思えん。船長はトワ様の事すら知らなかったのに」

 

 マリンが無謀な賭けに出ている事は、誰の目から見ても明らかだった。

 フブキとおかゆはまだ、マリンが神のような存在と思っているようだが、そんな偉大なものじゃない。

 

「鍵を探してくるだけでいいんだ」

「うぅ……」

「――」

「うん……分かった。僕、行くよ」

 

 おかゆの首肯に3人は優しく頷いてあげた。

 続いてこよりとの交渉。

 コイツが動くかどうか……。

 

「こより、一緒に行ってやって」

「……分かった」

「――――」

「裏切っても文句言わないでよ」

「ああ」

 

 聞き分けの良さを気味悪がっていると、こよりは自ら裏切る可能性を示唆した。

 明確に仲間になっていないこよりは、献身的になる意味がない。

 目先の利や己の損得で動く事も、何をするも自由。

 

 それでも同行させるのは、こよりが少なくとも一味側に危害を加える可能性が低いと見ているから。

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

 おかゆとこよりが全身を流動化して檻の隙間を抜ける。

 

「おかゆ」

「ん、なぁに?」

「以前と変わってなけりゃ、入り口にキーケースがあって、4桁の番号でロックされてるはずだ」

「そうなの?」

「ああ、番号も、変わってなけりゃ1412で通るはずだ」

 

 過去にかなたから聞いた情報だ。

 トワが知っている事を他の人は知らないが、事件以降に変更した可能性は十分にある。

 

「変わってたら……」

「どうしようもねぇな」

 

 その時はその時と、割り切るしかない。

 2人は軽く合図して、入口の方へ駆けて行った。

 

 

 

 おかゆは周囲に警戒しながら進むが、こよりはまるでやる気がない。

 目を離せば、逃げそうなほどに。

 

「…………」

 

 こんな状況で堂々といられる肝の座り具合が少しだけ羨ましい。

 

「あ、あれ、入り口かな」

「どうみてもそうでしょ」

 

 コミュニケーションが上手く取れない。

 扉の向かい側に警戒するおかゆ。その努力も虚しく、こよりが勢いよく扉を開く。

 こよりの背後から様子を伺い、キーケースを探すと、それらしき箱が、壁に取り付けてあった。

 小さな錠も付いていて、トワの言う通り、4桁の数字で開くようだ。

 

 こよりは無警戒に数字を合わせる。

 その様子をチラチラと見ていたが、番号が違う。

 1412、ではなく、0104、と入れていた。

 

 でも、カチッと音が鳴る。

 

(開いた……。なんで知ってたんだろう)

「ほら」

「あわっ、わっ、と……」

 

 急に鍵を投げられて驚いた。

 落とし掛けて、ギリギリキャッチ。

 一度吐息を漏らして、鍵を見つめた。その後こよりも。

 

「ここまで送ってくれたお礼、一応ね」

「え、あ、えっと……船長に言っとくね」

「じゃあ、こよりは失礼するよ」

「行っちゃうの?」

「そりゃ、あんたらの仲間じゃないし」

「そっか、船長は、落ち込んじゃうけど……うん、皆に伝えとくよ」

「――――」

「またね」

「――――」

 

 おかゆは小さく手を振ったが、振り向きもせずもう一枚扉を開いて去ってしまった。

 

 恐らく敵……なのだろうが、悪い人には思えなくなった。

 アルメンドラや記憶の跡地で対面した時は、凄く嫌味な人だったのに。

 

 おかゆは早々に頭を切り替える。

 警戒は怠らず、周囲を見回しながら、牢屋まで戻った。

 

「……こよりは、逃げたか」

「うん、どこか行っちゃった」

 

 やっぱりか、と声が上がる。

 

「それで、鍵は?」

「はい」

「ナイス」

 

 手柄を横取りしてしまった。

 おかゆは顔を隠しながら、頬を赤らめた。

 

「それで、2人はどうする」

 

 軽く揺さぶったが、相変わらず2人は目覚めない。

 痛々しい傷を見ると、無理に起こしたくはない。

 

「お前ら、船長探して話してきてくれ」

「なんて?」

「……ってぇ……ああ……ふぅ……。逃げるか、交戦かの選択を」

「……分かった、けど、交戦はオススメしねぇ」

「そりゃ、分かってる……。けど、このザマじゃ……簡単に逃げれるかどうかな……」

「――――」

 

 現状の船内トップ2が動けない以上、戦った場合、勝機は無に等しい。

 1ミリでも生存確率を上げるのなら、迷う余地はない。

 だが、あのマリンがそれを理由に納得するかどうか。

 疑心渦巻く今でも、船長は変わらずマリン。

 船長の指示に、大方沿って行動する。

 

「あたしは、2人が起きるまでここで待つ」

「監視が戻ったら、殺されるかもしんねぇぞ」

「今更死にビビってちゃあ…………な」

 

 苦く笑った。

 

「もし起きたら、どうするの?」

「そうだな……起きたら場所は変えるだろうな」

「何処がいいかな?」

「……船にしよう」

「え、遠くない? それに、まだあるかどうかも……」

「無かったら、それでもいい。城の作りは……ぁ、知らんし、街も把握できてない。っ、収監の際に通った道くらい、覚えてんだろ」

「んー、ま、他に適所もねぇしな」

「じゃ、早く行け。多分、あんま時間、ねぇぞ……」

 

 トワ、フブキ、おかゆそれぞれが少し顎を引いた。

 先頭をトワにして、3人は地上へ駆けて行った。

 

「頼むぞ……」

 

 

 

 地下監獄を飛び出して、極力衛兵を避けて進むよう心掛ける。

 ……しかし、衛兵はほとんど倒れていた。

 攻撃を受けた者と、眠らされた者に二分している。

 

「やっぱ、何かあったんだな」

「みたいだね」

「船長、どこにいるかな」

 

 城or街、即ち島全域が捜索範囲。

 まずはそこから探索領域を絞ろう。

 

 あやめが通信機で緊急招集を受けていたから、きっとあやめの行き先にマリンもいる。

 ならあやめはどこへ向かったのか。

 相手側の声は聞こえなかったから、それも分からない。

 でも、城内の有り様を見るに、非常事態はこの中で起こっている。

 

 この状況で使用しやすい部屋、若しくは事件が起こりそうな部屋は――。

 

「会議室か、王室……あとは玄関辺りか」

「じゃあ、そこ行こう!」

「うん」

 

 真っ先に向かうは玄関、目の前の角を曲がれば目と鼻の先。

 でも、もし何かあればこの時点で気付けている。

 十中八九ハズレだ。

 

「――だろうな」

「次は?」

「上行って会議室」

「分かった」

 

 止まらず上階へ。

 階段を幾段も駆け上がる、途中でバッタリ鉢合わせた。

 

 

「――っ!」

「「――‼︎」」

「おやおや? 脱獄はダメだよ」

 

 鉢合わせたのはAZKi。

 

「なんで……お前がまたいんだよ」

「え、分かってて聞くの? 趣味悪いなぁ」

 

 さぞ嬉しそうに口角を上げる。

 

「AZKiちゃん、こっちは……あれ、取り込み中?」

 

 AZKiの背後からアキロゼが出てきた。

 3人に気付き、伝達は後回しにしようとしたが、AZKiは今言えと指示を出す。

 

「あとはマリンちゃんだけだよ。どうする?」

「マリンつったか⁉︎」

「「船長!」」

 

 飛び出す名前に肝を冷やす。

 マリンが敵に……捕まったのか!

 非常にマズイ。

 

「しばらくしたら下の監獄に場所を移そうか」

「分かった」

「おい!」

「――?」

 

 トワは勇気を振り絞って大声を張り上げた。

 2人の視線が怖い。

 

「船長を……どうする気だ」

「それは考え中なんだよ。困った人だからさぁ」

「…………」

「困った人……?」

 

 確かに変で困った奴だが……そうじゃない。

 どう言う、意味だ?

 

 

「ねえ、3人は知ってる?」

 

 何を?

 

「マリンちゃんって、異世界人、なんだって」

「――――??? なんだよ、そりゃ」

 

 イマイチ、言葉の意味が飲み込めなかった。

 3人揃って、頭に疑問符を浮かべる光景が愉快だったのか、AZKiは声をあげて笑った。

 

「フブキちゃん、おかゆちゃん」

「「――」」

「トワちゃんってね、皆に疑われてると思ってるんだって」

「は――? おい……」

「それを知りたくないから、人の心見たくないんだって。こんな大変な時なのにね」

 

 フブキとおかゆにはイマイチ響いていないが、トワには何かが思い当たる様子。

 

「ねえ、おかゆちゃん」

「――?」

「フブキちゃんってね、おかゆちゃんの事嫌いなんだよ」

「ぇ――――」

「え……? な、何言ってんの! そんな事ない!」

 

 そんなの嘘だ。

 フブキはおかゆの事が好きだ。

 

「フブキちゃんがおかゆちゃんを仲間に誘ったのは、自分より弱いから」

「ぁ――ちが……」

「なのに能力を得て、自分より強くなって、腹立ててるんだよ、知ってた?」

「そんな、こと……」

「嘘だと思う? 後ろみてごらん? ほら、フブキちゃんの顔」

 

 後ろ指を刺すように、フブキの顔を指した。

 トワは恐る恐る、おかゆは勢いよくその表情を目に焼き付けた。

 

 ヘッタクソに作った表情がピクピクと震えている。

 

「酷いよねえ、友達とか言っておいて、自分を評価する指標に使うなんてさ」

「あぁ…………ぢがう! ちがうちがう、ちがう! 違うのおかゆん! 本当に違うの!」

「う、ん…………」

「因みにねおかゆちゃん。フブキちゃんは――」

 

「うあああああ‼︎ だまレェええええ‼︎」

 

 AZKiの言葉を遮ってフブキの絶叫が木霊する。

 

 怒りと涙に苛まれる中、激情の波に任せてAZKiへ襲いかかった。

 

「ゔぐっ――」

 

 しかし、アキロゼが割り込み蹴り飛ばす。

 階段の1番下まですっ飛んで、地を滑った。

 

「フブキちゃん!」

 

 おかゆが叫んだ。

 そう、叫んだ。

 だけ。

 

「どうしたの? 大丈夫って、言ってあげないの?」

「ぅっ――!」

「ほら、痛そうにしてるよ。手を差し伸べてあげなよ」

「――――‼︎」

 

 おかゆが口から泥を吐き出した。

 弾丸のような泥の雨。

 

「ほんっとーにそっくりだねぇ」

 

 高らかに笑うAZKiに、泥は一つも当たらない。

 アキロゼがいるからだ。

 殆ど彼女が受けている。

 

 激昂するおかゆに突如、ブロックが激突した。

 泥化してダメージはないが、勢いで階下まで落とされた。

 

「……すいちゃん。見張りは?」

「アイツはどうせ何もできない」

「――――」

「それより、やめろ。そのやり方。不愉快だから」

「――」

「これ以上は約束無視してぶっ飛ばすよ」

 

 目の前で仲間割れが始まるが、それを隙と言えないほど、味方の精神バランスが崩壊した。

 マリン捜索の続行は不可能。

 最悪を免れるため、トワは階段を飛び降りる。

 

「おいお前ら! 逃げるぞ!」

 

 真っ赤にした顔を覆うフブキ、敵を睨み続けるおかゆ。

 その2人の腕を無理やり引いて離脱する。

 

「泣くなあ‼︎ 今だけは走れバカ‼︎」

 

 城内はもうダメだ。

 地下監獄の3人も諦める。

 一度城も街も離れて、船へ向かう。

 一旦、状態を立て直せる場所へ。

 

 トワは必死に頭に上る血を抑え、フブキは必死に涙を拭い、おかゆは延々とフブキにかける言葉を探りながら、その場を離脱した。

 

 

 離脱の寸前、トワはチラリと振り返る。

 そこには3人に加え、更にノエル、わため、あやめ、ラミィ、スバル、ちょこ、かなた、もう1人誰か(フレア)、と居て、メンバー目白押しだった。

 

 まさかとは思ったが洗脳がいる。この国の中に、今。

 

 

 トワの瞳には絶望が拡がっていった。

 

 

 

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