ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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6話 kids

 

 昔から仲のいい友達がいた。

 3人でよく遊んでいた。

 

「ラプラスは弱いなー」

「ずるいぞシオン、吾輩は能力者じゃないのに!」

「手加減なしって言ったのそっちじゃん」

 

 揶揄ってクスクスと笑うのは紫咲シオン。

 ラプラスの幼馴染。

 

 将来の為の稽古と称して、この浜で幾度も喧嘩のような勝負をしてきた。

 そして、数えきれないほどの敗北をラプラスは味わっている。

 

「じゃあ能力禁止!」

「しょうがないな〜」

 

 一般人のラプラスは、能力者のシオンには到底敵わない。

 元々シオンの方が強いのだから。

 

 現に、能力使用禁止の今回の勝負も、呆気なくシオンの勝利。

 

「またラプラスの負け〜」

「わ、吾輩は負けてない!」

「負けを認めてないからね、はいはい」

 

 2人の勝敗とその後のセリフ、その典型。

 いつものパターン。

 10連敗した辺りから、ラプラスが負けを認めなくなり、100を優に超える敗北が無かったことになっている。

 

「吾輩だって、能力さえあれば」

「能力があっても、ラプラスは一生私には勝てないけどね」

「じゃあ、シオンに勝てるような能力を見つけてきてやる」

「100年くらいかかるんじゃない?」

「1年もかけねえし」

 

 ラプラスが小さな目標を掲げた。

 シオンはニヤけて茶化すが、本人は意外と本気。

 ただ、恐らくこの島にはもう悪魔の実はないだろう。

 つまり、島を出る必要がある。

 しかし、正直ラプラスが一人で生き抜けるとは思えない。

 

「おーーい! 2人ともー!」

 

 稽古場と化した浜に1人の少女が大袈裟に手を振って駆けてくる。

 揺れる髪が、暖かい太陽光を反射して眩しい。

 片方の手には、何やら虫かごが提げられている。

 

「はぁ……またカブトムシか」

「クワガタはいつも隣に……」

「いねえし」

 

 カブトムシを連れて来ては世話をしている。

 家ですればいいものを、2人と知り合って以降、いつもこうだ。

 

「見てみて〜、この前言ってた幼虫!」

「コーカサスだっけ?」

「そう!」

「ねねさんもよく飽きないね……」

 

 ほぼ毎日虫のお世話。

 ラプラスは虫があまり好きではないが、カブトやクワガタはセーフ。

 でも、幼虫はちょっとキツい。

 

「ラプちゃんだって毎日懲りないよね」

「……それとこれは別」

「おなじだって〜」

「そう言えば、ラプラスってねねちには勝負挑まないよね」

「ねねちさんには敵わんから」

「えへへ〜」

 

 シオンの疑問にラプラスは素直な回答をした。

 素直すぎてねねも照れている。

 シオンも、実際のねねの実力は知らない。

 ラプラスの言葉が真実なら、強さは恐らく……

 ねね>シオン>ラプラス

 といったところだ。

 

 シオンも、ねねの実力には興味あるが、勝負を挑む気はない。

 機会があれば、是非とも拝見したい程度。

 

「ふーん……」

「ねえ、それより早く基地行こうよ」

「そうだな」

 

 ねねが急かすので、ラプラスは宥めつつ秘密基地への道に進む。

 秘密基地とは、例の小屋。

 この3人と1人以外、存在すら知らない小屋。

 小さな3人組の小さな隠れ家。

 建築者は不明で、基地にする以前から小屋自体は存在していた。

 

 小屋には3人の大事なものなどを寄せ集め、秘密基地っぽくしている。

 カブト、クワガタの標本。妙な書物。周期表。秘密組織っぽい資料。

 などなど……。

 

「いいか貴様ら、今日は客が来るぞ!」

「「おお!」」

「失礼のないように扱え」

 

 秘密結社の総帥のように指令を出すが、内容がまるで会社の上司。

 ねねもシオンもいつも通り趣味などに勤しんでいた。

 

「ねーえ……ラプちゃんも標本にならない?」

「怖いこと言うな! あと吾輩はクワガタじゃないって!」

「貴重な存在なのになぁ……」

 

 シオンと同じネタで擦られ怒っている。

 手作り木造建築の小屋は非常に狭く、少し騒げば足場がなくなる。

 物を壊さぬように、配慮しながら怒る姿に愛嬌を感じた。

 

「ラプラスー、お客さんって誰?」

「だれだれ?」

「それは秘密だ。来てのお楽しみ」

 

 ラプラスは鼻を鳴らした。

 少し威張っているのは何故だろう。

 

「誰かなあ、知ってる人かなあ?」

「あ! あの幽霊の人じゃない?」

「ええ〜、ねね、おばけやだ!」

「ゆ、幽霊って……なんの話?」

 

 シオンから飛び出たトンデモ発言に、ラプラスは少し怯えた。

 ねねも嫌がっている。

 

「知んないの? 数日前に、海の上に浮かぶお化けと人魂がいたって話」

「え……何だそれ」

「しかも、噂によれば、他の島とか国でも同じ目撃情報があるんだって!」

「もう! 怖い話やめようよ」

 

 まだ大して怖くなってないが、ねねには耐えられないらしい。

 深掘りすれば更なる恐怖へと繋がるが、それはねねのいない所で。

 

「それにしてもお客さん来ないね」

「いつ頃に約束したの?」

「昼の3時ちょっと前」

 

 持ち合わせの小さな時計を確認すると、15時20分だった。

 

「時間とっくに過ぎてるじゃん」

「まさか、事件!」

「なに⁉︎」

「大変だぁ! よーし、出動するぞ」

「勝手に事件にするな」

 

 ねねとシオンで勝手に盛り上がり、捜索に小屋を出ようとする。

 ラプラスは呆れて静止した。

 遅れる可能性は十分に考えていた。

 なんせ、今回の客人は、ただの多忙なんてレベルの忙しさでない。

 

「コンコンコン」

 

 そこへ、扉のノック音と、それを口から発した声が小屋に反響した。

 来客だ。

 

「この声は……!」

「よぅし……」

 

 ラプラスが扉を開くと、そこには彼女がいた。

 桃髪とオッドアイが特徴的。

 まるでこの3人よりも幼いような、かの姫様。

 

「お邪魔するのらよ」

 

 お菓子の国、国王(姫)。

 姫森ルーナ。

 3人以外でこの秘密基地を知る、唯一の存在。

 ニコニコと輪に混じるように見窄らしい基地へ。

 

「お客さんって、姫様かあ!」

「どうだ、驚いただろ!」

 

 歓喜する2人にラプラスはふんぞり返る。

 ルーナはその様子を微笑ましげに見つめて、豪華なドレスのどこかに手を突っ込む。

 

「あめちゃんあげるのら」

「ねねオレンジ!」

「じゃあグレープ」

「……どうも」

 

 速攻で頂く。

 ラプラスに余ったのはアップルだが、味はどうでもいい。

 味以前の話。

 

「ありがとー姫様」

 

 にへっと笑ってねねは飴を口に含んだ。

 シオンはラプラスを見つめている。

 

「姫様、ラプラスね、飴玉あまり好きじゃないんだって」

「お、おい……」

「そうなの?」

「う……ごめんなさい」

 

 謙譲するように飴を返却する。

 そんな大層なと、ルーナは苦笑した。

 姫だけあって、対応の良さは中々目を見張るものがある。

 

「次来る時はグミにするのら」

「へへ……」

 

 照れるように頭を掻いた。

 

「よぅし、ルーナは長くいられないから、あれを始めちゃうのらよ」

「ハイ!」

「「……あれ?」」

 

 ルーナがここへ来た本来の理由。

 ラプラスとルーナが示し合わせたスケジュール。

 実はこの2人、勝手にとんでもない事を画策していた。

 

 

「あなた方を王国の騎士として任命いたします」

 

 

 ルーナがラプラスの胸元に、小さなバッチを取り付けた。

 城でよくみる紋章が刻まれたバッチ。

 これは、衛兵として認められた者だけが持つ証。

 当然、国王や騎士団長などの権力者にのみ譲渡権がある。

 

「ラプラスちゃん、シオンちゃん、ねねちゃん」

 

 順々にバッチを与えて拍手を贈る。

 これにて、儀式終了。

 

 晴れて3人は王国の衛兵として認められましたとさ……。

 

「と言っても、みんなまだ城に仕えることはできないから、それまで無くさないように持っとくのらよ」

「「「はーい!」」」

 

 ルーナはしゅばとせんせーに怒られるからと言って、去っていった。

 嵐のように来て、過ぎ去った姫様。

 その姫から突如渡された騎士の証。

 

「いいか、吾輩たちは騎士になったんだ」

「「わー」」

 

 まばらに拍手が起こる。

 高々にラプラスはバッチを掲げた。

 そして、それを引き出しにしまう。

 

「吾輩たちはバッチをまだつけないが、騎士としてこれから国を守るのだ」

「ねぇ、何でラプラスが仕切ってんの?」

「そーだそーだ、ねねにもやらせろー」

「ここは吾輩の基地だぞ」

「みんなの基地だよ」

 

 団長決めで揉め始めた。

 だが、結局ラプラスに決定で落ち着いた。

 

「ラプちゃんは、何で姫様と仲良いの?」

「ルーナ姫が遊びたがってたから遊んだら、仲良くなった」

「「うっそだー」」

「ほんとだもん!」

 

 信用度ゼロ。

 まあ本来、王と市民が関わることなど滅多にない。

 ましてや子供?同士など。

 

「そんなことはいいんだよ」

「そうだね」

「そうだそうだ」

「……よし、衛兵として訓練に行くぞ!」

「「またぁ〜?」」

 

 小屋を飛び出し砂浜へ駆けるラプラスに、トボトボ付き添う2名様。

 稽古も訓練も面倒だ。

 ラプラスは無性に気に入って毎日励んでいるが、そのくせして弱い。

 練習量は結果に比例しないと証言できる。

 

 それでも張り切るラプラスに、2人は呆れつつも毎日付き合う。

 大きくなったら、騎士でなくても国を守る存在になって、この国を平和にすると、3人で決めた。

 騎士のバッチは、その誓いの証として、姫に授かった。

 

「まて」

「「わっ……もー、な……」」

「しっ!」

 

 浜に出る直前、ラプラスが茂みに身を潜めて2人を引き留めた。

 言葉を遮り、口を閉ざさせる。

 正面の浜、そこに一隻の船が停泊している。

 位置が悪く、人の姿は見えないが、甲板から声がする。

 だがそれも、波の音で上手く聞き取れない。

 

「下りてくる」

 

 船から計3名、降りてくる。

 全員が異なる仮面を被って、その素顔を隠す。

 

 ハテナマークの記されたダサい仮面。

 ハートマークの記された愛らしい仮面。

 全体が雑に赤く染まった仮面。

 

 きゅっ、きゅっ、と砂を踏み鳴らして向かう先は街の方角。

 明らかに、不審者。

 3人は対処に戸惑う。

 追い返すか、街へ走って衛兵に伝えるか。

 

「……」

 

 頷き合って意思疎通。

 以心伝心は完璧。

 満場一致で衛兵に知らせる、だ。

 3人揃ってその場を退こうとした。

 

「……」

 

 ハートの仮面が突然茂みを見た。

 何の前触れもなく、本当に突然。

 

「……っ」

 

 緊迫に心音がうるさくなる。

 必死に口を押さえて音を消し、恐怖を殺して黙り込む。

 忍び寄る足音。

 

「どうした?」

 

 ハテナの仮面が不思議そうに尋ねる。

 指を指して、ハートの仮面はこう指示した。

 

「撃って」

「……? 分かった」

 

 赤染の仮面が首肯して浜にある石を拾った。

 3人は、狙われていると知りながら、まだ堪える。

 動けば的になる。

 一発さえ外れれば、去って行くに……決まっている。

 

 右手を銃の形に構え、曲げた3本の指で石を握る。

 

「ッッ‼︎」

 

 無音だった。

 撃たれたことに気付いたのは、シオンの肩から血飛沫が上がる瞬間を見た時。

 勢いでシオンが倒れて脳が完全に理解した。

 

「やっぱいた」

 

 ハートの仮面が茂みまで来ていた。

 

「うわァッ!!」

 

 ラプラスは飛び上がって距離を取る。

 逃げ遅れたねねが次の標的となる。

 ハートの仮面がねねに触れようと手を伸ばし……バタっと倒れた。

 

「こっち来ないで!」

 

 能力全開で威嚇して他2人を睨む。

 あまり鋭くない目には怯まないが、ハートの仮面の気絶に怯んだ。

 ハテナと赤染は咄嗟に距離を取った。

 

「いったたた……今のは死ぬかと思った……」

 

 シオンが撃たれた肩を押さえて立ち上がる。

 付着した血痕は消えないが、受けた傷は癒えていた。

 

「強能力だ」

「……うん」

 

 ハテナがカメラを構えるポーズを取る。

 その枠からねねを覗き、シオンを覗く。

 

「どっちも遠距離に弱い、任せたよ」

 

 バトルを赤染に預けた。

 赤染は足元に石を乱射して、2人をハートから離す。

 その隙にハテナがハートを連れて街へ向かう。

 

「ラプラス! お城へ行って!」

「みんなに伝えて!」

 

 ねねとシオンが叫んだ。

 今度は2人を狙って石が乱射される。

 悉く外れた。

 

「2人は……⁉︎」

「早く!」

「……死ぬなよ!」

 

 ラプラスは茂みの奥へ潜り込み、最短ルートで城へ向かった。

 その道に涙を零しながら。

 自分は弱い。それを知っているから、今全力で城へ走る。

 悲しくて悔しくて、そして怖くて仕方がない。

 でも、出来ることがなくて……だから、泣いていた。

 

 

 

 街へ出て、城へ走って、門番に泣きついた。

 

「あっぢの浜に"っ! 変な奴らがぎて、ともだぢがッッ!」

 

 門番は困惑し、1人が一度城内へ入った。

 ラプラスの逸る気持ちも他所に数分時間を使い、やがて出てきたのは騎士団を束ねるスバルと、騎士育成の教官のちょこだ。

 

「どこだって?」

「裏の浜……」

「分かった……」

「待って!」

 

 場所を伝えるが、ラプラスは一度2人を止める。

 冷静になれ。

 2人を助けるために、1分1秒惜しめない。

 でも、だからといって、城を無防備にもできない。

 

「変なやつ、3人いて、えっと、2人はこっちに向かってた」

「こっち? 城のこと?」

「た、ぶん……」

「……曖昧だな」

「うぐっ……だっでぇぇ……」

 

 確定しない事実にスバルとちょこは不満げ。

 というか、疑心暗鬼にラプラスを見る。

 その視線に当てられ、一旦我慢していた涙が再び溢れてきた。

 この涙が、嘘だとは到底信じられない。

 証拠は十分だろう。

 

「ほかに情報はある?」

「3人ども……ずっ……能力者だった」

「厄介だな……」

 

 スバルもちょこも能力者だが、2人には守るものが多い。

 明白に不利だ。

 戦闘を控えるとするなら、城に残るべきは……。

 

「ちょこ先、この子と浜へ。こっちはスバルが何とかする」

「分かった、姫様を頼むわよ」

 

 二手に分かれ、それぞれ防衛線に向けて手を打つ。

 

 この密かな事件が、『彼女たち』の運命の歯車を狂わせた。

 

 

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