ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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70話 No.0 THE FOOL

 

 空気の読める女、それが常闇トワ。

 2人の争いに水を差さないよう、側の木陰に周り、静かに周囲を警戒していた。

 

 2人の会話が終わったところで、ゆっくり、足音を立てながら歩み寄って2人の肩に手をおいた。

 

「解決したか?」

「「――!」」

 

 配慮はしたのだが、それでもかなり驚かれた。

 

「う、うん……」

「ご、ごめんね、こんな時に」

 

 もう夕日はほとんど沈んでいて暗くなり始めているが、照れている事は分かった。

 

「いや、寧ろ解決してくれて助かるよ」

 

 あの破壊された関係のままなら、愈々一味は崩壊していた。

 この短時間で修復できたのは奇跡だ。

 2人が微妙に拗れた関係を保っていたからこそ、この速度で修復に漕ぎ着けた。

 

「あ、あの、トワちゃん――」

「ん?」

「その……あの……」

「――! まあ落ち着け。トワもずっと見張りについてて疲れてんだ、イマイチ頭が回んねえ」

「――――」

「船から軽く飯を拝借して、これからの作戦話そうや」

「「うん! ありがと!」」

 

 

 フブキとおかゆは、腫らした目を細めて笑うと、トワの後に続いて一度船の食卓へ向かった。

 

 

 サッと食べられるものをテーブルに並べて、雑に貪りながらこれからの計画を話す。

 

「今の状況は正直、過去最悪レベルだ」

「だよね。味方の総数と敵の総数の差が歴然だし」

「そもそも、数が同じだとしても、だよね」

 

 状況確認から入る。

 騎士団メンバーに加え、何故かこの国にいたスバルとちょこまでも洗脳下にある。

 そして、マリンも捕まった。

 

「多分みこちとあくあも、やられてんだろ」

「…………」

 

 フブキが黙り込む。

 おかゆは未だに理解できていないようだ。

 あの時暴露された秘密はフブキとトワ、マリンのもの。

 おかゆに実感はないのだろう。

 

「確か、フブちゃんの話聞きに行ってたよな、アイツ」

「う、うん……」

「――あいつ?」

「他に誰かに話したか?」

「んーん、誰にも」

 

 マリンの事も信じ難い話だが、初期メンツだけが知っていても不思議はない。

 

「間違いないな」

「……」

「――?」

 

 最も怪しかった存在だ。

 今更、どうとは思わない。

 

「裏切り者は、ポルカで決まりだな」

「……」

「え……ポルカちゃんが?」

 

 反論の余地はない。

 

「もし作戦中にポルカにあっても、作戦の内容は話すな」

「……うん」

「特にフブキ、お前はポルカにパワー負けしてるから、触られたら終わりだぞ」

「――! そっか、そう言えば」

 

 トワとおかゆが安心できる、とは言わないが、ポルカとの接触で、最も危険になるのはフブキ。

 

「さて、じゃあこれからの策だが……」

「「うん」」

「船長の解放、これに賭ける」

「――⁉︎ それだけ?」

「これだけだ」

 

 そう考える根拠は何だろうか?

 

「洗脳にかかった人間全てを相手にはできない。それに、トワたちにはそれを解除する術がない」

「そうだね」

「だから洗脳にかかった奴らは無視するしかないんだ」

「それは分かるけど、船長も捕まったって言ってたよ。もう洗脳にかかってるかも」

「いや、捕まっただけだ。恐らく洗脳にはかかってない」

「――?」

「どうしてそう思うの?」

 

 軽くリンゴをひと齧りして、飲み込むとトワは指を立てた。

 

「AZKiが言ってたろ。船長は困った人だって」

「あー、うん、言ってた」

「あの時の、困る、の意味は多分洗脳できなくて困るって事だ」

「「――‼︎」」

「船長は過去にフブちゃんの洗脳を解いてるし、洗脳への対抗手段だと、ルーナ姫も言ってた」

「洗脳が効かなくても、不思議は無いと!」

「そう言うこった」

 

 これなら話の辻褄が合う。

 マリンが厄介な存在だと知っていても、ずっと野放しにしてきた。

 それはきっと、洗脳できないからだ。

 だから、捕まえた後の処置に困っていた。

 AZKiが敵でも、もし人殺しを良しとしなければ、監禁を選択する。

 

「監獄に送ると言ってたから、トワたちがいた場所に向かったはずだ」

「そこなら丁度、鍵持ってる!」

「ああ」

 

 おかゆがポケットから鍵を取り出す。

 

「これからそこへ向かって、船長解放に全てを注ぐ」

「でも、見張り、すごい数いるんじゃ……」

「いる、絶対」

 

 当然、手練れどもの相手をしている暇はない。

 

「囮1人、隠密2人」

「「――」」

「誰が囮をやる?」

「僕がやるよ」

「だよな、頼む」

 

 配役も決まった。

 

「じゃあ、おかゆは一度監獄への通路を見張ってるやつに見つかって、極力多くの敵を惹きつけてくれ」

「分かった」

「でもいいか? 逃げるだけじゃ精々1人か2人しか惹きつけられない。だから、大人数をかけなきゃまずいと思わせるムーブをしろ」

「ん、頑張る」

 

 トワからのアドバイス。

 どう動くかは、その時を見て決めてもらう他ない。

 

「フブキはトワと一緒に、隙をついて監獄へ入る」

「うん」

「常に敵をスコープでサーチし続けろ」

「分かった」

 

 大方の流れは決まった。

 後は臨機応変と運が鍵だ。

 

 トワはリンゴの芯をゴミ箱に投げ捨てた。

 

「よし、鼻水は止まったか?」

「え、あ、うん!」

「うし、じゃあ行くぞ!」

 

 食卓を飛び出して、3人は浜へ降りた。

 

 10数分ぶりの砂の感触。

 軽く跳ねたり、準備体操をする。

 

 がさがさ……。

 

「「「――⁉︎」」」

 

 茂みがなった。

 暗くて木々の動きも見えないが、よくよく目を凝らして、3人は全神経を尖らせる。

 

「っ――て……くっそ!」

 

 何者かが、飛び出た。

 目が慣れず、顔の識別はできない。

 でも、腹を抑える姿勢、そして僅かに漏れた声。

 間違いなく、ポルカだ。

 

 怪我に対しての態度じゃない。

 

「ぁ? ああ、お前ら、よかった」

 

 かなり近くまで来て、ようやっと3人の存在に気付く。

 ポルカの他に人はいない。

 

「「「――」」」

「すまん。2人が起きるのを待つつもりだったけど、急にAZKiたちが来てよ……2人には悪いが、置いて逃げてきた」

「「「――」」」

「――? それと、そこに船長もいた、んだ……けど…………」

「「「――」」」

「お前ら……どうかしたんか?」

 

 ポルカとの再開に声一つあげない。

 それどころか、妙な視線を感じる。暗くて目は見えないのだが。

 

「なあ、もうやめようや」

「――あ? 何を?」

「信頼度を見るのが怖い。この話をしたのはお前だけだ」

「は? 何だよ急に……いやまあ、そうなんかもしれんけど」

「フブちゃんの話聞いたのも、お前だけだ」

「フブちゃんの……? 何の事だ?」

「とぼけんなよ。コンプレックスの事だ」

 

 ポルカは一度わざと惚けてみた。

 それは、燃料投下になる。

 

「……なんでそれ、トワ様が知ってんだ」

「お前だろ。AZKiに情報を漏らしたのは」

「は――? いやなんで……いや、は――?」

「裏切り者はお前なんだろ?」

 

 ポルカの頭の回転は早い。

 既に状況は飲み込めた。

 どんな経緯で3人がポルカを疑うのか。

 

「待て待て! AZKiにそれを聞いたんだな?」

「ああ、そうだ」

「確かにポルカが怪しい! でもポルカじゃねぇ!」

「――このデケェ証拠を持って、そう言うのか」

「そうだよ。違うもんは違う!」

 

 必死に否定するポルカだが、無理がある。

 他の人は知り得ない情報を、AZKiが知っていたのだから。

 トワにはもう、ポルカが裏切り者として映っている。

 

「そんなに否定するか」

「ああ、する!」

「なら、一つ提案がある」

「……なんだよ」

「これからトワたちは船長救出に向かう。その間お前はここに居ろ」

「――――」

「トワたちがここに戻った時にお前がいなかった時、若しくはここ以外の場所でポルカを見た時、その時点で裏切り者である事を確定する」

 

 妥当な条件だろ?と突きつけた。

 ポルカ自身、自分の発言の信憑性の低さは理解している。

 

「船長救出って……なんか策があんのか?」

「さあな、裏切る可能性が高い奴には言えねえな」

「――!」

 

 当然か。

 

「…………分かった、それでいい」

「――」

 

 ポルカはトワの提案を呑んだ。

 ここで、全員の帰りを待つ。

 

「決まりだな。この船で待ってろ。どこかで見かけたら、敵と見做す」

「――――」

 

 ポルカは黙って俯いた。

 

「――2人とも、行くぞ」

「うん」

「う、うん……」

 

 3人は城へと向かってしまった――。

 

 

 ――――――。

 

 

 浜に1人残されたポルカ……。

 

「ぅずッ……」

 

 痛みを堪えるように鼻を啜った。

 1番近い木まで歩いて、凭れ掛かりながら、腰を落とした。

 

「クッソ……」

 

 袖で目元を拭う。

 その部分だけ、夜風を強く感じる。

 

 天を仰いだ。

 

「結構……苦しいなァ……」

 

 我慢しても、じわりじわりと涙が滲む。

 

 これまで一味のために、ポルカは尽くしてきた。

 ……。

 でもそうだなぁ……。

 

「人を疑い続けた結果かよ……」

 

 散々人を疑って、結局最後は自分が切られる。

 

「あたしは……どうすればよかったんだよ……」

 

 正解なんて、あったのだろうか。

 

 

 夜風が冷たく、身体が震える。

 星と月が、空で輝いている。

 

 涙がよく流れた。

 

 顔を膝の合間に埋めて、ひっそりと嗚咽する。

 

「なァ……助けてくれよ……」

 

 ポルカだって女の子。

 悲しい時も苦しい時もある。

 1人で生きていけないから、人を頼る事がある。

 

「――フレアぁ」

 

 助けを求めて口から出た名前は、旧友だった。

 一体どこで、何をしているんだろう。

 困った時、助けてくれていたかつての友は、今はいない。

 たとえ名前を呼んでも――

 

 

「――ポルカ」

「――‼︎」

 

 

 呟くように小さく、でも確かに、その名を呼ばれた。

 弾かれるような素早さで、涙を散らして顔を上げた。

 

「ぁ……」

 

 ポルカの唇が震える。

 暗くて、よく見えなくても感じる。

 目の前にいるのは――。

 

「ふ、れあ……」

 

 震える口で名前を呼ぶと、首をコクリと動かした。

 間違い、ないんだな……。

 

「大丈夫、ポルカ?」

「ぁ……。ぅぁ――」

 

 何度か言葉を発しかけて、まるで喘ぐように喉を鳴らした。

 

「……大丈夫?」

 

 もう一度、問われた。

 

 大丈夫か、否かと聞かれれば……否。

 

「はぁぁぁ…………」

 

 深く……深く、ため息をついた。

 ポルカは自分の過ちを呪う。

 

「船長――」

「――?」

 

 違う名前が紡がれた。

 目の前にいない、あの人を瞼に映して――。

 

「アタシも結局、アンタと同じだったよ」

「――――」

「ごめんな」

 

 

 

 ――――――――――――。

 ――――――――――――。

 ――――――――――――。

 ――――――――――――。

 ――――――――――――。

 ――――――――――――。

 

 

 

「――それじゃ、行こっか。フレアちゃん、ポルカちゃん」

「はーい」

「ああ」

 

 

 

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