空気の読める女、それが常闇トワ。
2人の争いに水を差さないよう、側の木陰に周り、静かに周囲を警戒していた。
2人の会話が終わったところで、ゆっくり、足音を立てながら歩み寄って2人の肩に手をおいた。
「解決したか?」
「「――!」」
配慮はしたのだが、それでもかなり驚かれた。
「う、うん……」
「ご、ごめんね、こんな時に」
もう夕日はほとんど沈んでいて暗くなり始めているが、照れている事は分かった。
「いや、寧ろ解決してくれて助かるよ」
あの破壊された関係のままなら、愈々一味は崩壊していた。
この短時間で修復できたのは奇跡だ。
2人が微妙に拗れた関係を保っていたからこそ、この速度で修復に漕ぎ着けた。
「あ、あの、トワちゃん――」
「ん?」
「その……あの……」
「――! まあ落ち着け。トワもずっと見張りについてて疲れてんだ、イマイチ頭が回んねえ」
「――――」
「船から軽く飯を拝借して、これからの作戦話そうや」
「「うん! ありがと!」」
フブキとおかゆは、腫らした目を細めて笑うと、トワの後に続いて一度船の食卓へ向かった。
サッと食べられるものをテーブルに並べて、雑に貪りながらこれからの計画を話す。
「今の状況は正直、過去最悪レベルだ」
「だよね。味方の総数と敵の総数の差が歴然だし」
「そもそも、数が同じだとしても、だよね」
状況確認から入る。
騎士団メンバーに加え、何故かこの国にいたスバルとちょこまでも洗脳下にある。
そして、マリンも捕まった。
「多分みこちとあくあも、やられてんだろ」
「…………」
フブキが黙り込む。
おかゆは未だに理解できていないようだ。
あの時暴露された秘密はフブキとトワ、マリンのもの。
おかゆに実感はないのだろう。
「確か、フブちゃんの話聞きに行ってたよな、アイツ」
「う、うん……」
「――あいつ?」
「他に誰かに話したか?」
「んーん、誰にも」
マリンの事も信じ難い話だが、初期メンツだけが知っていても不思議はない。
「間違いないな」
「……」
「――?」
最も怪しかった存在だ。
今更、どうとは思わない。
「裏切り者は、ポルカで決まりだな」
「……」
「え……ポルカちゃんが?」
反論の余地はない。
「もし作戦中にポルカにあっても、作戦の内容は話すな」
「……うん」
「特にフブキ、お前はポルカにパワー負けしてるから、触られたら終わりだぞ」
「――! そっか、そう言えば」
トワとおかゆが安心できる、とは言わないが、ポルカとの接触で、最も危険になるのはフブキ。
「さて、じゃあこれからの策だが……」
「「うん」」
「船長の解放、これに賭ける」
「――⁉︎ それだけ?」
「これだけだ」
そう考える根拠は何だろうか?
「洗脳にかかった人間全てを相手にはできない。それに、トワたちにはそれを解除する術がない」
「そうだね」
「だから洗脳にかかった奴らは無視するしかないんだ」
「それは分かるけど、船長も捕まったって言ってたよ。もう洗脳にかかってるかも」
「いや、捕まっただけだ。恐らく洗脳にはかかってない」
「――?」
「どうしてそう思うの?」
軽くリンゴをひと齧りして、飲み込むとトワは指を立てた。
「AZKiが言ってたろ。船長は困った人だって」
「あー、うん、言ってた」
「あの時の、困る、の意味は多分洗脳できなくて困るって事だ」
「「――‼︎」」
「船長は過去にフブちゃんの洗脳を解いてるし、洗脳への対抗手段だと、ルーナ姫も言ってた」
「洗脳が効かなくても、不思議は無いと!」
「そう言うこった」
これなら話の辻褄が合う。
マリンが厄介な存在だと知っていても、ずっと野放しにしてきた。
それはきっと、洗脳できないからだ。
だから、捕まえた後の処置に困っていた。
AZKiが敵でも、もし人殺しを良しとしなければ、監禁を選択する。
「監獄に送ると言ってたから、トワたちがいた場所に向かったはずだ」
「そこなら丁度、鍵持ってる!」
「ああ」
おかゆがポケットから鍵を取り出す。
「これからそこへ向かって、船長解放に全てを注ぐ」
「でも、見張り、すごい数いるんじゃ……」
「いる、絶対」
当然、手練れどもの相手をしている暇はない。
「囮1人、隠密2人」
「「――」」
「誰が囮をやる?」
「僕がやるよ」
「だよな、頼む」
配役も決まった。
「じゃあ、おかゆは一度監獄への通路を見張ってるやつに見つかって、極力多くの敵を惹きつけてくれ」
「分かった」
「でもいいか? 逃げるだけじゃ精々1人か2人しか惹きつけられない。だから、大人数をかけなきゃまずいと思わせるムーブをしろ」
「ん、頑張る」
トワからのアドバイス。
どう動くかは、その時を見て決めてもらう他ない。
「フブキはトワと一緒に、隙をついて監獄へ入る」
「うん」
「常に敵をスコープでサーチし続けろ」
「分かった」
大方の流れは決まった。
後は臨機応変と運が鍵だ。
トワはリンゴの芯をゴミ箱に投げ捨てた。
「よし、鼻水は止まったか?」
「え、あ、うん!」
「うし、じゃあ行くぞ!」
食卓を飛び出して、3人は浜へ降りた。
10数分ぶりの砂の感触。
軽く跳ねたり、準備体操をする。
がさがさ……。
「「「――⁉︎」」」
茂みがなった。
暗くて木々の動きも見えないが、よくよく目を凝らして、3人は全神経を尖らせる。
「っ――て……くっそ!」
何者かが、飛び出た。
目が慣れず、顔の識別はできない。
でも、腹を抑える姿勢、そして僅かに漏れた声。
間違いなく、ポルカだ。
怪我に対しての態度じゃない。
「ぁ? ああ、お前ら、よかった」
かなり近くまで来て、ようやっと3人の存在に気付く。
ポルカの他に人はいない。
「「「――」」」
「すまん。2人が起きるのを待つつもりだったけど、急にAZKiたちが来てよ……2人には悪いが、置いて逃げてきた」
「「「――」」」
「――? それと、そこに船長もいた、んだ……けど…………」
「「「――」」」
「お前ら……どうかしたんか?」
ポルカとの再開に声一つあげない。
それどころか、妙な視線を感じる。暗くて目は見えないのだが。
「なあ、もうやめようや」
「――あ? 何を?」
「信頼度を見るのが怖い。この話をしたのはお前だけだ」
「は? 何だよ急に……いやまあ、そうなんかもしれんけど」
「フブちゃんの話聞いたのも、お前だけだ」
「フブちゃんの……? 何の事だ?」
「とぼけんなよ。コンプレックスの事だ」
ポルカは一度わざと惚けてみた。
それは、燃料投下になる。
「……なんでそれ、トワ様が知ってんだ」
「お前だろ。AZKiに情報を漏らしたのは」
「は――? いやなんで……いや、は――?」
「裏切り者はお前なんだろ?」
ポルカの頭の回転は早い。
既に状況は飲み込めた。
どんな経緯で3人がポルカを疑うのか。
「待て待て! AZKiにそれを聞いたんだな?」
「ああ、そうだ」
「確かにポルカが怪しい! でもポルカじゃねぇ!」
「――このデケェ証拠を持って、そう言うのか」
「そうだよ。違うもんは違う!」
必死に否定するポルカだが、無理がある。
他の人は知り得ない情報を、AZKiが知っていたのだから。
トワにはもう、ポルカが裏切り者として映っている。
「そんなに否定するか」
「ああ、する!」
「なら、一つ提案がある」
「……なんだよ」
「これからトワたちは船長救出に向かう。その間お前はここに居ろ」
「――――」
「トワたちがここに戻った時にお前がいなかった時、若しくはここ以外の場所でポルカを見た時、その時点で裏切り者である事を確定する」
妥当な条件だろ?と突きつけた。
ポルカ自身、自分の発言の信憑性の低さは理解している。
「船長救出って……なんか策があんのか?」
「さあな、裏切る可能性が高い奴には言えねえな」
「――!」
当然か。
「…………分かった、それでいい」
「――」
ポルカはトワの提案を呑んだ。
ここで、全員の帰りを待つ。
「決まりだな。この船で待ってろ。どこかで見かけたら、敵と見做す」
「――――」
ポルカは黙って俯いた。
「――2人とも、行くぞ」
「うん」
「う、うん……」
3人は城へと向かってしまった――。
――――――。
浜に1人残されたポルカ……。
「ぅずッ……」
痛みを堪えるように鼻を啜った。
1番近い木まで歩いて、凭れ掛かりながら、腰を落とした。
「クッソ……」
袖で目元を拭う。
その部分だけ、夜風を強く感じる。
天を仰いだ。
「結構……苦しいなァ……」
我慢しても、じわりじわりと涙が滲む。
これまで一味のために、ポルカは尽くしてきた。
……。
でもそうだなぁ……。
「人を疑い続けた結果かよ……」
散々人を疑って、結局最後は自分が切られる。
「あたしは……どうすればよかったんだよ……」
正解なんて、あったのだろうか。
夜風が冷たく、身体が震える。
星と月が、空で輝いている。
涙がよく流れた。
顔を膝の合間に埋めて、ひっそりと嗚咽する。
「なァ……助けてくれよ……」
ポルカだって女の子。
悲しい時も苦しい時もある。
1人で生きていけないから、人を頼る事がある。
「――フレアぁ」
助けを求めて口から出た名前は、旧友だった。
一体どこで、何をしているんだろう。
困った時、助けてくれていたかつての友は、今はいない。
たとえ名前を呼んでも――
「――ポルカ」
「――‼︎」
呟くように小さく、でも確かに、その名を呼ばれた。
弾かれるような素早さで、涙を散らして顔を上げた。
「ぁ……」
ポルカの唇が震える。
暗くて、よく見えなくても感じる。
目の前にいるのは――。
「ふ、れあ……」
震える口で名前を呼ぶと、首をコクリと動かした。
間違い、ないんだな……。
「大丈夫、ポルカ?」
「ぁ……。ぅぁ――」
何度か言葉を発しかけて、まるで喘ぐように喉を鳴らした。
「……大丈夫?」
もう一度、問われた。
大丈夫か、否かと聞かれれば……否。
「はぁぁぁ…………」
深く……深く、ため息をついた。
ポルカは自分の過ちを呪う。
「船長――」
「――?」
違う名前が紡がれた。
目の前にいない、あの人を瞼に映して――。
「アタシも結局、アンタと同じだったよ」
「――――」
「ごめんな」
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「――それじゃ、行こっか。フレアちゃん、ポルカちゃん」
「はーい」
「ああ」