ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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72話 出航

 

「どう言う事⁉︎」

 

 マリンの脱獄という澎湃(ほうはい)とした展開にAZKiは動揺を隠せない。

 檻から出てきたマリン、その背後にはもう1人、おかゆがいた。

 

「間に合ったか!」

「おかゆん‼︎」

 

「――! 通気口か!」

 

 おかゆの能力を踏まえて様々な可能性を探り、たどり着いた答え。

 泥化して、通気口を通り、牢屋内から解放を試みたのだ。

 

 当初はおかゆが囮の予定だった。

 だが、単純な作戦は通用しないと考え直し、役を逆転させてみた。

 それが功を奏したようで何より。

 

「……正直、驚いたよ」

「――――」

「まさか3人に出し抜かれるとはね」

 

 AZKiは平常心を取り戻そうと、言葉を弄した。

 案外、直ぐに心臓の音が和らいだ。

 

「それで、船長さんが脱獄して、どうなるのかな」

 

 と。

 

 トワもフブキもおかゆも、マリンに賭けただけ。

 解放して何ができるか、なんて知らない。

 もうコレしか、縋れる糸がなかったから。

 

 しかしAZKiは、やたらと何かを警戒している。

 誰にも見えない透明色の洗脳メンバーの殆どを自分より後ろに配置する。

 すいせい、アキロゼ、ポルカだけは前方へ。

 靉々(あいあい)とした空が徐々に晴れるように、すいせいとアキロゼが色を取り戻す。

 

「――3人とも、作戦を伝えます」

「「「――⁉︎」」」

 

 徒らに声を張るマリンに一味含めた全員が惘然とする。

 堂々と、作戦を話す奴がいるか?

 

「作戦番号、2番です」

「「――⁉︎」」

「えっ、でもそれは――」

 

 トワが主張しかけた。

 言いたいことは分かる。

 ポルカにもこの作戦は当然伝達されているため、その筋から敵にもバレている。

 しかも、作戦2番とは、「全員で頑張って逃げる」作戦。

 トワはそう聞いている。

 

 それに、今動けるのはマリンとおかゆだけ。

 みことあくあだって、(なげう)つのか。

 

「いいから! 合図したら動いてください」

 

 大声でトワの意見を捩じ伏せる。

 その間、AZKiが周囲に号令を出していた。

 逃げ道を塞ぐようにと。

 

 その動きを見て、トワは理解不能に苛まれた。

 敵のこの対応を見ても尚、その作戦で行くのか⁉︎

 一体、何を目論んでいる? ハッタリか?

 大した意味はないだろ。

 

 AZKiはマリンの一挙手一投足に感覚を(そばた)てる。

 

「3、2、1――ゴー!」

 

 マリンの大きな号令でおかゆだけが動いた。

 敵は警戒心を高めて構えている。

 

 しかし――

 

「「え……?」」

 

 おかゆの動きに、フブキ以外は大混乱に陥る。

 特にAZKiは目眩く変化に脳を焼かれていた。

 逃げる作戦の筈だが、マリンから距離を取って、まるで戦場を譲るよう。

 

「――――やられた!」

 

 焼き切れそうな頭でも、逸早く情報処理を終えたのはやはりAZKi。

 真意を察した脳内で警鐘が鳴り響く。

 

「やっぱり……そう言うことですよね」

 

 作戦内容そのものに、端から意味なんてない。

 コレはただの、裏切り者を炙り出すためのトラップだ。

 

「作戦を3つ作った、1番は全員で戦う、2番は全員で逃げる、3番は船長が単独で戦う。そう聞きましたか?」

「――――‼︎‼︎」

「え……え? どういう事⁉︎」

 

 フブキとおかゆは懊悩(おうのう)としてエンストするが、トワには伝わった。

 AZKiやポルカ程とは言わないが、トワも相当に聡い部類なのである。

 

「これはポルカと船長が考えた作戦です。提案者はポルカ」

 

 アルメンドラ出発前に、ポルカがマリンを探していた理由はコレだ。

 いざって時、裏切り者を特定できるようにしようと。

 

「きっと通信機に盗聴器でも組み込まれてたんでしょうね」

「――⁉︎」

 

 図星か。

 AZKiが冷や汗を流して、兢兢とする。

 今度はマリンが不敵に笑う番だ。

 

「ただ、うちの副船長はね、優秀すぎて困りもんでして。用心深くてですねぇ。もし、聞き取る能力があった場合、なんて有り得ない保険までかけてたんですよ」

「まさか――――‼︎」

 

 そう、紙面でのやり取り。

 口頭で会話を終えた時、ポルカは一枚の紙をマリンに渡した。

 そこに記されていた指示はこうだ。

 

 「6人全員、作戦の番号をシャッフルしろ」

 

 作戦は3つ。

 全部で丁度6通り。

 様子を見て作戦の合図を取り、裏切り者を炙り出せ、とそんな意を込めて。

 

 大変だった。

 誰にどう作戦を伝えたか覚えるのは。

 航海中、延々と紙を見て躍起になって記憶していた。

 

「ポルカが……そんな事を……」

 

 トワの瞳から怒りが消え失せ、フブキもおかゆも目に希望を宿した。

 

 マリンは真っ直ぐにポルカを見つめる。

 

「使いたかぁ無かったんですがね、やりますよ、今ここで!」

「――⁉︎」

 

 慄然とした。

 AZKiは瞳孔を強く開いてマリンを凝視する。

 両目が発光して、今にも吸い込まれそうな輝きを放つ。

 

 何故だかマリンの『才能』が弱まって行く。

 能力も何もかも、制限される感覚。

 まるで、ルーナの能力を受けた感覚。

 コレでは、何もできない。

 

 ――普通ならな。

 

「帰ってこい、みこち! あくたん! うちのクルーだろ‼︎」

 

 ポケットから梱包されたキャンディーを取り出す。

 桃色で、キャンディーとは思えぬ光沢を魅せる球だ。

 

「帰ってこいポルカ! お前はうちの――副船長だ‼︎」

 

 取り出したキャンディーを口に投げ込む。

 似非ランブル。

 

 カリっ。

 と、噛み砕くと、かつて無い力が溢れ出てきた。

 抑え切れない性欲が止めどなく心の奥底から押し寄せて、ピンクに塗れる。

 

「――なんで効かないの⁉︎」

 

 マリンの能力を抑えられず、AZKiが前代未聞に戦慄した。

 残念ながら、今のマリンは、例えルーナであっても能力を抑えられない。

 (みだ)りな力に憤慨した。

 

 マリンは力の全てを解放させる。

 

「――全員撤退‼︎」

 

 AZKiが緊急指令をかけた。

 すいせいたちは未だに何も状況を把握できておらず、判断が鈍い。

 特に、洗脳メンバーは心に異物が浸透し始め、動きも思考も一層悪い。

 

「いいから‼︎ 撤退‼︎」

 

 2度目の指令。

 漸く洗脳メンバー含め、動き始めた。

 

 トワもフブキも捨て置いて、全員が一斉に2方向に散る。

 

(まずい! 逃げられる! 折角使ったのに‼︎)

 

 マリンも追走すべく一歩踏み込んだその時――

 

「さッせねェよ‼︎」

 

 天井? 床? 壁?

 

 どこかからの怒号と共に、地形が変形する。

 大地が揺らぎ、突兀(とっこつ)と地面が持ち上がって数名の行手を阻んだ。

 しかし、数名は既に逃げている。

 

「やッちまえ! マリンさん!」

(この声は――! あいつ、無事だったのか!)

 

 気持ち良すぎて声が出ない。

 それでも歓喜と感謝は一入。

 

 透明で何人が内側に残ったのか分からないが、分断されたうち、内側にいたメンバーは全員、マリンが救ってみせる。

 

(あー……ごめん、トワ様、フブちゃん、おかゆ先輩、ラプラス、巻き込むけど、許して)

 

 爆発する性欲。

 マリンから漂う異様な香りが、全身を昂らせ――

 

「それではみなさん、行きますよ〜――」

 

 

「「しゅっこ〜〜ぅ」」

 

 

 

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