かなた城、医療室にて――
「あのー……」
「いいから黙って寝とく」
「いや、そうは言われましてもですねー…………これはその、見方によっては虐めに含まれるのではないかと……」
寝台に寝かされたマリン。
能力の強制的な解放により、あと1時間は動けない。
だからここへ
しかも、周囲には叢々とメンバーが。
大勢の視線が全身に突き刺さのり、
各々が違った態度を取っているが、皆一貫してマリンを守ろうとはしない。
「うるさい」
「あのー……」
マリンも含め、
マリンの主張は一切無視だ。
「じゃあ、だんちょから行くね」
「ね、ねえ待って⁉︎ コレでもみんなを救ったヒーローなの! 分かる⁉︎ 感謝が足りてないんじゃない⁉︎」
いの1番にマリンの真後ろに立ったのはノエル。
大きくメイスを振り上げて、マリンのケツを狙う。
「ねえ! ノエちゃん! リアルでケツメイスは死ぬと思う‼︎ 考え直して‼︎」
「騒ぐと外れるよ」
「ノエちゃん‼︎‼︎ 優しい気持ちを取り戻して‼︎‼︎」
無情にもメイスがマリンのケツを破壊した。
「ノォぉーッ‼︎」
刺さってはない。
でもね、死ぬほど痛い。
ヒリヒリするし、ジンジンする。
これでお尻が縮めば少しはありがたいけどさあ……。
「はい、次いいよ」
ノエルが一歩引くと、今度はわためが進み出た。
「そ、それでは失礼して……」
痛みに悶絶するマリンの背後から、わためが手を伸ばす。
何をする気だろう?
むにっ……。
「あっ」
「おぉ〜……」
「あぁん、わため、いい――‼︎」
「はいアウトー!」
ノエルがわためを引っ張って退場させた。
わためは引き剥がされても、感触を思い出すように両手をワキワキさせていた。
「ほら、ラミィも発散しときな」
「ん! うぉーやぁー!」
パシーん、とマリンのケツを引っ叩いた。
服を着ていても、いい音が鳴る。
「あ! なんか懐かしい!」
「――」「……」
周囲から軽蔑の眼差しが突き刺さる。
「キモい‼︎」
「あぎゃあ!」
ラミィが追撃として、ケツを拳で叩く。
今度は痛みで絶叫。
「ふぅ……こっちはいいけん、今度はそっち」
「おおおお、やっとけラプラスー」
「ねぇ……ぽるかぁ……」
ラプラスを煽って攻撃を止めるなと囃し立てるポルカに、マリンは涙目。
ラプラスも恥じらいつつ、進み出る。
「吾輩だって、恥ずかしかったんだからな!」
「あれはだって! 不可抗力じゃん」
大きく腕を引き――ぺち。
「――?」
「こ、コレで勘弁してやるよ」
「うおお! ラプラスぅ! お前ガキのくせに――ガキのくせに優しいじゃねぇかぁ!」
「ガキガキうるせえ!」
「痛い! 頭はやめろ! バカになるでしょうがァ」
ラプラスは別のベクトルから怒る。
しかし、それで気分は収まったのか、次の人へ譲る。
「よぉし、今度はポルカの番だな!」
「ええ! 一味もやんの⁉︎」
「あっははは……冗談だよ」
ぐわんぐわんと腕を回して肩慣らしするポルカに一瞬戦慄いた。
でも、笑って流してくれ――
「あてぃしはやるよ」
「ぇ――」
「あてぃしは本当にただの被害者だからね」
おかゆ以外の相手に、見せたくない感情だったのだろう。
忸怩たる思いでいっぱいだ。
逆にみこは照れ照れと、マリンをチラチラ見つめていた。
「反省しろ!!」
「あん! 娘のビンタが響く!」
「うっさい! 反省しろ! 喜ぶな! 変態!」
何度も何度も、マリンのケツを引っ叩く。
が、元々力が弱いのであまり痛くない。
寧ろ、マリン的にはご褒美になっている。
「あくあ、多分それ以上は逆効果だと思う」
おかゆに肩を掴まれて、漸くビンタが止まった。
「あー…………ケツがヒリヒリする」
コレで一旦、マリンしばき大会は終わり。
その雰囲気を察したのか、ノエルがわためとラミィにアイコンタクトを送る。
小さく首肯しあい、並んでマリンの視界に立つ。
「宝鐘マリンさん」
先刻ケツメイスを喰らわせたとは思えぬ態度の豹変に、マリンだけが困惑していた。
3人は俯せのマリンに見えるよう、床に両膝を付く。
「「「この度は、我々を救っていただき、ありがとうございました」」」
と、喉を破く勢いで感謝を述べた。
更に続けて――
「「「加えて、トワちゃん、及び宝鐘海賊団の皆さんには、あらぬ罪を被せて、多大なご迷惑をおかけしました事、心より、お詫び申し上げます‼︎」」」
マリンの能力で受けた精神的被害の鬱憤ばらしは今し方済ませた。
今度はマリンたちへの感謝と謝罪を述べるターン。
1年前の冤罪に始まり、加えて今日、シエロソニードに踏み入った一味を犯罪者集団として拘束した。
だが、マリンのお陰で、騎士団は窮地を逃れた。
深掘りすれば、マリンたちが呼んだ禍かもしれないが、それとこれは別問題。
あらぬ罪を被せた事を、騎士団メンバー代表として3人は陳謝し、深く深く頭を下げた。
「いやいや、そんな畏まらんくても……」
頭を上げろ、と身勝手に言いかけて、マリンは言葉を詰まらせた。
今回ばかりは本当に、マリンだけの問題ではなかった。
一味への被害は絶大だったし、ラプラスも関係者、そして何より1年前から冤罪をかけられ続けたトワがいる。
そうだ……。
全てがマリンの意向に沿うわけじゃないんだ。
「船長は、仲間が無事だったので、特にお咎めはなしです」
マリンはだらしなく医療用ベッドで伏せたまま、可能な限り優しい声色でそう伝えた。
「吾輩は……吾輩も特に、関係はないし」
マリンが視線をラプラスに向けると、ぶっきらぼうに答えた。
彼女は寧ろ、冤罪のお陰でトワに出会えて嬉しいのでは?
問題は最も害を被ったトワ。
彼女が騎士団に今現在好感を持たないであろう事は、最早容易く想像できる。
「損害賠償払え――って、言ってたよ、昔なら」
「「「――――」」」
「いや……昨日までなら言ってたな」
バツが悪そうに眉を寄せるトワの顔を、3人は誰も見ていない。
「でも、今は違う。そりゃあ最悪とは思ったし、今でも……うん。思う事はある」
この燻りは永遠に解消されない。
でももう、それでいい。
騎士団メンバーは誰1人悪くなかった。
今のトワはそう結論づけられる。
「だけどもう、いいんだ。顔上げてくれ」
「「「――――」」」
トワの許しを得て初めて、顔を上げた。
喜と哀の混同した朧げな表情だ。
「トワも、実感したんだ。お前らの立場」
「「「「――――」」」」
小さく頭を掻いた後、トワは屈託なく笑った。
「それに、お陰で最高の仲間に逢えたからさ」
マリンは静かに頬を緩ませて聴いていた。
「……なら、もう何度も謝ったりせんとくよ」
「ああ、そうしてくれ」
「……でも、本当に何もなしでいいの?」
「お詫びの話か?」
「そう」
そうだな。
天井分の詫び石でも要求すればいいのか……?
「お詫びってわけじゃないが、こっからの作戦にお前らも同行してくれよ」
「それは勿論させてもらう!」
「「うんうん」」
「なら、それで十分だ」
スバル達が連れ去られ、助力交渉は難航するかに思われたが、かなたの洗脳を知り、じっとはしていられない。
当然騎士団メンバーも作戦に参加する。
「――話は終わり、で、いいですかね?」
マリンが頭を捻って周囲の様子を確認した。
皆が頷く。
内輪の問題はまた後ほど。
今はまず、集合したメンバーで会議をしよう。
「なら一つ確認だけど、ラプラス・ダークネス」
「――ん?」
「お前、1人で来たんか」
マリンはラプラスに視線を向けた。
ルーナ達の船が襲撃に遭い、スバル達が追跡する際にはラプラスが消えていたと言う。
「いや、後3人いる」
「ほう。その3人は今どこに?」
「さあ」
「はえ――?」
何故、居場所を知らないのか。
「1人がここに来た途端迷子になって、2人が探してるから、国のどっかにいるんじゃね?」
「どういう事?」
「そのまんまの意味だよ」
意味自体は分かるよ?
でもさ、おかしいじゃん。来た途端に迷子って。
何やってんの。
「でも吾輩がここに来る事は話てるし、多分もう直来るんじゃね」
と、ラプラスが口にした完璧すぎるタイミングで、コンコンとノックが鳴る。
警備の一般兵が扉越しにこう、声を張る。
「ラプラス様の付き人と名乗る3名と1人が来られておりますが」
「あー、いれていーよ!」
ノエルが扉に近づいて返答した。
ん? 3名と1人?
ガチャリと扉を開き入室してきたのは――。
「え!」
入室してきた2人ほどを、一味は知っている。
「あ゛ーー、やっと着いたぁ〜」
「なぁ〜んであんなに迷うかなぁ」
心底疲弊した様相で倒れ込むように入室してきたのは――風真いろは。
やれやれと肩を竦め、いろはを小馬鹿にするのは――沙花叉クロヱ。
加えて背後より1人――鷹嶺ルイ。
傍には、不満そうにルイに従う――博衣こより。
「おお、来たかお前ら」
「ラプラスー、この人が変に街彷徨いてたから捕まえてきたんだけど」
「別に変じゃないし」
こよりを突き出す。
が、ラプラスは無頓着。
と言うより、面識が無さそう。連行した真意を問いたい程に。
「うげっ……なんであんた達いんの?」
一味を見るなり、こよりは気疎なげに眉を顰めた。
「え、あれっ? マリンさんの一味じゃないですか。何でこんなとこにいるでござるか?」
と、いろはも半歩遅れて一味の存在に気付く。
それはこっちのセリフだが?
「なんだ、貴様ら知り合いか」
「ええ、そうですけど……は! まさか風真いろは、我々の仲間になりに――」
「船長はややこしいこと言わんといて」
いろははまたしても笑って流した。
「よし、丁度集まったことだし、紹介しよう――」
ラプラスが大々的に仕切るが、3人は脱力しきっている。
それに釣られて周囲の気も漫ろになる。
「こいつらが遭難後に偶然出会った同志達。我々は――秘密結社holoXだー!」
その高らかなる宣言。
疑問符ばかり浮かべる一同の中、マリンだけは戦慄していた。
登場キャラ設定プロフィール13
「百鬼あやめ」
所属と役職……シエロソニード、傭兵
能力……ポヨポヨの実
能力名の由来……ぽよ余
出身……DC
好きな物……刃物、不運な人
嫌いな物……幸運な人、銃
「風真いろは」
能力……ジャキジャキの実
能力名の由来……ジャキンジャキン
出身……おもちゃの国
好きな物……料理を振る舞うこと、航海、ゼロ海賊団
嫌いな物……命令無視、仲間割れ、喧嘩