ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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75話 尾丸ポルカと常闇トワ

 

 各組織ごとに場所を分け、一味はマリンがいるので医務室に留まることとなる。

 

「皆」

 

 切り出しにまごまごしていると、ポルカが小さく口を開いた。

 開いた口を震わせて……珍しく感情的になっているようだった。

 

「ホントにすまんかった!」

 

 深く首を垂れる。

 言葉を探す一味。

 トワとフブキは、バツが悪そうに足元を見ていた。

 

「何言ってんのポルカ。お前の作戦のお陰で最後は何とかなった。ポルカが居なけりゃ一味全員はここにおらんって」

「あたしが居なけりゃ、あそこまで窮地に追い込まれはしなかった」

 

 マリンが許す事は目に見えていた。

 でもそれは、ポルカがさらなる罪の意識を得る材料になる。

 

「それに船長! あんたに謝りたい事はまだある」

「――?」

 

 心当たりがまるでないので、マリンは眉を寄せた。

 周囲のメンバーは静かに見守る。

 マリンとポルカの目が合う。

 

「船長が仲間を毎度身勝手に信じる事を、あたしは嗜めた。危険だから疑えと、言って聞かせた」

「――、――」

 

 それは記憶に複数マッチした。

 似たような言葉を何度も聞かされた。忠告された。

 小さく2回頷く。

 

「でもあたしも同じだったんだよ」

 

 唇を噛み、強く拳を握りしめる。

 全身わなわなと震わせて。

 

「頭の片隅には置いてたんだ。フレアが洗脳下にある可能性――」

 

「でもフレアを疑いたくなくて、無意識に…………いや、半分以上は意識的に可能性を除外してた。すまん」

 

 ひとしきり吐き終えるともう一度深く腰を折り、謝罪した。

 皆答えに考えあぐねている中、マリンはもう一度、優しく語りかけようとした。

 

「ぽ――」

「ポルカ」

 

 マリンを押し除けて、トワが声をかけた。

 マリンの声も聞こえたが、トワは自分を優先させる。

 

「トワが追放された話、覚えてるな」

「……ああ」

 

 牢屋内で語った昔話。

 まだ記憶にも新しい。

 マリン、みこ、あくあ以外は耳にしたはずだ。

 もう一度話す気は無い。

 

「あの時の騎士団の判断は酷すぎるし、杜撰だと話した」

「そう聞いた」

「……悪かった」

「――」

「トワも同じ境地に立ったはずだった……のに、お前を犯人と決めつけたら、もう疑う事をやめない――トワも、アイツらと同じだった。悪かった」

 

 騎士団が謝罪した時、トワは同じだと口にした。

 そして今、もう一度。

 ポルカほどではないが、トワもまた頭を下げて短く謝罪した。

 

「それから皆にも――嘘ついてた事と、隠し事について、謝る。ごめん」

 

 続けて一味全員に向けて、更に腰を曲げた。

 

「トワ様まで……」

 

 謝罪なんていらない。マリンはそう思っても、本人が許せない。

 その気持ちはマリンだって分かる。

 マリンにも、仲間に謝るべき事があるのだから。

 

「……あ、ぽ、ぽるちゃん」

「……どうした?」

 

 フブキが遠慮がちに、恐る恐る声をかけた。

 

「あ、あの……信じてもらえかもしれないけど、私……トワ様がぽるちゃんを犯人だって言った時、ほんとは、その……違うと思ったの。ほんとだよ?」

「「――――」」

「ほら言ったでしょ、結構前だけど。『みんなそんなもんだ』って」

「――、ん……言ったな」

 

 小さく何度か頭を振って答える。

 フブキのコンプレックスの話はよくよく覚えているさ。

 自分と他人を相対的に評価して、見下すような在り方を、ポルカは肯定した。

 それが普通だと、自論を述べた。

 

「その通りだった。私が思ってた事を、おかゆんも思ってた。だから冷静になると、ぽるちゃんの凄さが身に染みたの」

「……やめろよそんな――担ぎ上げんな」

 

 ほんのり頬を赤らめて、視線を逸らす。

 露骨に照れるポルカは新鮮で、マリンはニヤけた。

 

「んーん、ぽるちゃんは凄い」

 

 フブキは力強く断言して、一歩下がった。

 そのフブキに、おかゆが寄り添う。

 顔を見合わせてにっこりと笑っている。

 

 2人の進展した交友関係を恨めしそうに眺めるあくあ。

 そして全てを傍観するみこ。

 この2人は特に会話に割り込まない。

 一味ではあるが、この会話では敢えて蚊帳の外へ出ている。

 結局一味全員、細かな気遣いができてしまう。

 

 おバカもいれば、天才もいる。

 弱い奴がいれば、強い奴もいる。

 変態がいれば、純粋無垢もいる。

 

 似ている所と、似ていない所がある。

 

「――他に、ポルカやトワ様に言いたいことのある人は?」

「「――――」」

 

 マリンの問いに、皆さっぱりとした表情をした。

 

「無さそうですね」

 

 うんうんと満足気に頷く。

 

「じゃあポルカ、これからも副船長頼みますよ」

「え――いや、あたしよりも別の――」

「何言ってんの今更。ポルカの目があってこその一味でしょうが」

「アタシは人を疑い過ぎる。無実の人相手にばかり懐疑的で……」

「それでいいの。船長にはできないから、副船長としてポルカがやる」

「でもあたしのせいでこんな事態に――」

「ポルカだけのせいじゃない」

 

 身体が動かないから、言葉だけで強く出る。

 強まるマリンの語気に、皆動揺した。

 

「アルメンドラで裏切り者について言及しなければ、一味の内情はきっと今より酷かった。それに、毎度ポルカの頭脳には救われてる。この一味にはポルカの目と脳が必要です」

「ぁ……はは……分かってんなら、ちゃんとしてくださいよ」

「無理ですよ。船長はみんなを疑えない」

「……ぁ、か、勝手だなぁ……まったく……」

 

 視線を泳がせながら頰を掻いている。

 その際誰とも目が合わない。

 

「人に損な役回り押し付けて……」

「嫌、ですか?」

「いや……嫌じゃない」

「みんなも文句ないでしょ?」

 

 まだまだ笑いの硬いポルカ。

 マリンは周囲に賛同を求めた。

 

「他に適任がおらんしな」

「うん、ぽるちゃんが副船長だと安心できる」

「……船内じゃ、1番まともだしね」

 

 一味の中で最も感情に左右されにくく、あらゆる事象をフラットに観察、分析できるだろう。

 あくあからもそんな意見が出れば、流石に引けない。

 

「頼みましたよ。副船長」

「――しょ、しょうがないからやりますよ」

「ぽぅぽぅもそんな顔するんだにぇ〜」

「しますよそりゃあ」

 

 揶揄うようなみこの言葉を、何故かマリンが強く肯定した。

 フブキとおかゆは笑って顔を見合わせている。

 トワも苦笑を溢す。

 

「ただし! 就くからには、徹底しますからね!」

「そうでないとね」

 

 羞恥心を誤魔化すようにビシッと、力強く指差した。誰を特定するでもなく、虚空に向かって。

 その仕草を生暖かい目でマリンは見つめた。

 

 

 晴れてポルカは、全メンバー公認の副船長となった。

 

 

「なあ」

 

 その晴れ舞台に水を差すようにトワが小さく挙手した。

 注目がパッと集まるので、ポルカは徐に上げていた腕を下ろした。

 

「トワが裏切り者騒動の時、頭ん中見ないって話、あったろ」

「「――?」」

「……」

 

 表向きはポルカがそれを危険視したから。

 だが実情は違う。

 

「あの時、ポルカがトワを……思ってかは知らんけど、庇ってたんだ」

「――庇う? 何をどう?」

「……」

 

 フブキの純真な問いと眼が貫く。

 その端で、あくあはポルカを一瞥したが誰も見ていなかった。

 

「あん時の理由は建前で、本当はトワがそれを拒んだからなんだ」

「…………あ、AZKiちゃんが言ってたのは――」

「そう言うこった」

 

 おかゆとフブキは直近ながら僅かにしか残っていない記憶を巻き取り、リンクさせる。

 2人にとってはその後の発言が重過ぎて、トワの暴露話など戯言に過ぎなかったから。

 

「えっと……? みこ、分かんないんだけど、みこだけ?」

「大丈夫みこち、船長も分かってない!」

 

 ポルカとあくあがやけに冷静なので、置いてけぼりを喰らった気分になり、みこが珍しく会話を割る。

 その罪悪感を拭うように、マリンが親指を立てた。

 

「トワは人の頭ん中を見るのが怖かったんだ。あの騒動の中、トワは隠し事があったし、色々勘繰られてると思ったからな」

「……?」

「お前らが内心トワをどう思ってるか、そう考えたら怖くて見れなかったんだ」

「……そうだったの」

 

 あくあが忍びなさそうに目を伏せる。

 

「でも今回の騒動で多くを学んだ。一味へ隠し事をする罪深さ、仲間に嘘を重ねる無意味さ、そして――一味の温かさ」

 

 最後にほんのり、頬が赤く染まる。

 

「だからもし今後、似た状況に陥った時こそは、絶対に力になる。何か人の考えを見て欲しいことがあれば、理由を含めてトワに教えてくれ。必ず役に立って見せる」

「――――」

「次はもう、逃げないから」

 

 固く決意を表明した。

 明ら様に負の感情が蔓延している環境で、人の心境を見れば、自身に関するかなど関係なく、ダメージはのしかかる。

 それが言葉の刃。

 それでもトワはこの能力を得て、この船に乗船している。

 自分だけ気楽にいようなんて、もうできない。

 今回の事件で身に染みた。

 マリンも、ポルカも、他の仲間たちも、皆が仲間を、友を思って必死に行動し、各々の闘いを繰り広げている。

 トワだけが、呑気に平和だけを願って傍観者を気取ることは、自分が決して許さない。

 

 トワはjokerとしてかなたに見込まれ、島を追放され――この一味に辿り着いた。

 今はもう、かなたの切り札ではない。

 宝鐘海賊団の一員だ。

 他ならぬトワがそれを望んだのだから。

 

 かなたから受けた任務遂行の為の媒体ではなく、自分が全てを捧げ、命を賭してでも守りたい存在へと昇華された。

 

 トワはいつの間にか、宝鐘海賊団が大好きになっていた。

 

「いいのか?」

「ああ」

「――体感はできねえけど、辛いんだろ? 多分」

「いいんだ。今回みたいな思いをするより、大分楽だから」

「それに――何かあれば我々が支えますしね」

 

 交錯するトワとポルカの視線。その中央にマリンが立ち入った。

 一味全体を見回して、そうでしょ?と問いかければ、一様にそうだと答える。

 そう……この温かさが、トワにとって何よりも心地よい。

 冬の終わりに差し込む、春の日差しのようで。

 

「……なら早速仕事を頼みたい」

「――ああ、皆まで言うな。任せろよ」

 

 酷だと思うが、ポルカはトワに第一の仕事を依頼した。

 トワは右手でそれ以上の発言を止める。

 マリンとも目を合わせ、やるぞ、と告知した。

 他の面々も意図は汲み取れたようで、ぐっと全身を力ませる。

 

 空気はガラリと変わって、重く重く――空気の密度が変化したように重くなる。

 

 トワはマリンに歩み寄る。

 必要はないが、しっかりと目を合わせる。

 

 ああそうだ、これでいい。

 トワは自分を、こう使うべきなんだ。

 だってマリンが――我が船長がこんなにも、心優しいのだから。

 

 トワは1人目から早速涙ぐむ。

 だが、マリン以外は決して心に隙を作ることなく構える。

 トワの肩にマリンの手が迫っていた。

 その手に右手を合わせ、静止させる。

 大丈夫だと、目で訴えて、ポルカへと歩み寄る。

 小さな足音が、室内に広く響いた。

 

「「――、――」」

 

 視線を絡め、首肯し合い、互いに苦笑する。

 

 みこと目が合った。

 照れ臭そうに視線を逃がされたが、トワが見つめ続けると観念したように視線が交差した。

 

「「――!」」

 

 トワが赤面したので、みこも赤面した。

 

 おかゆの視線が背中に強く突き刺さり、振り返ると一瞬で視線が重なる。

 本当にいい子だな。

 おかゆの微笑みにトワは小さく答えた。

 

 隣のフブキがまじまじと見ていたので、ゆったりと目線を移した。

 真っ先に脳内に飛び込む感謝の言葉。

 トワは特段、何かこなした訳でもない。

 気にすんなよ。

 

「「――――」」

 

 自ずと視線は散りゆく。

 

 そして最後、あくあに視線をぶつけた。

 目つきが怖い。

 時折和らぐ視線がおかゆに飛ぶので、思考を見ずとも意思は読み取れた。

 恋する乙女は素敵だな。叶うか否かは別として。

 

「――――」

「……」

「――⁉︎」

 

 トワの意識が遠ざかる事を感じたのか、振向き際にあくあからの小さな信号が発信された。

 弾かれるようにあくあに向き直ると、ツンとした表情で視線を明後日の方向へ飛ばされた。

 

「――」

 

 トワはあくあとの距離をグッと縮めて髪をわしゃわしゃと撫でた。

 

「――‼︎ やめてよ!」

「何? どしたどした⁉︎」

 

 無言を打ち砕く衝撃に一同が反応する。

 集中する視線が恥ずかしいのか、あくあは紅潮しておかゆの背後に逃げた。

 髪がメチャメチャに乱れていても可愛い。

 

「安心してくれ、裏切り者はこん中にいねぇ!」

 

 あくあの件には一切触れず、トワは結果を公表した。

 相変わらずトワの潔白だけは証明のしようがないが、マリンが信じてくれるだけで心は軽い。

 だから安心して、答えを公表できる。

 

 あくあが必死に髪を直している姿を横目に、トワは両腕を広げた。

 

「ふぅ……これで結構安心感出るんじゃない?」

「ほんとだよ」

「へへへ……」

 

 裏切り者騒動は結局、敵に仕組まれた罠だったわけだ。

 アルメンドラ戦を起こした理由をAZKiは3つ挙げていたが一つをヒミツと言った。

 きっとあれは、一味に疑心を撒くことがそれだったのだ。

 もっと正確には、疑心を撒き、その流れでシエロソニードではポルカの精神を追い詰めて、最終的に洗脳にかける。

 

「……」

 

 ポルカはそう解析した。

 すると妙な点が生まれる……。

 

「いやー、これでトワ様も公認の諜報員ですね」

「――は? 諜報員? なんだよそれ」

「何って、情報を集めたりする人員ですよ」

「それは知ってる。なんでトワが諜報員なんだよ」

「それは船長がそう決めたからです」

 

 マリンの戯言が始まり、トワは肩を竦めた。

 

「ねえ船長、もしかしてみんなの役職を決めてるの?」

「そうですよ、一応ね」

「わ、私は? 私は何?」

「みこもみこも! 教えて!」

「ちょちょちょ! 落ち着いて――」

 

 船長と副船長以外は明確に役職を与えていなかったので、マリンが勝手に分配していたに過ぎない。

 しかしそれに食いつく一同。

 

 この際なので全員に役職を発表しちゃいましょう!

 

「はいじゃあー、発表します」

「――!」

 

 ワクワクとした輝かしい瞳がマリンの下に集う。

 

「トワ様が諜報員」

「――はいはい」

「フブちゃんは――ドゥルルルル、デン。狙撃手」

「――‼︎ 狙撃手! カッコいい!」

「おかゆさんは――ドゥルルルル、デデン! 見習い」

「あはは……ぴったりだね」

「ですけど、そろそろ別の役職考えときますね」

「…………」

 

 フブキは自身に与えられた役職名に恍惚としていた。

 おかゆは対照的な表情をしている。

 

「みこちは――ドゥルルルル、デン。戦闘員」

「お〜、頑張るにぇ!」

「そしてあくたんは〜――デデデン‼︎ 医者です」

「はあ? なんで医者⁉︎」

「だって他にないし」

「あるでしょもっと!――――何か!」

 

 理由は単に能力で傷を治せるから。

 みことあくあ、どちらを医者にするかは悩んだが、みこの戦闘力を考慮した結果こうなった。

 

「まあまあ、役職なんて飾りみたいなもんだし」

 

 この船に操舵手、船大工は必要ないので、以降仲間が増えた場合は与える役職決めに難航する。

 あまり必要ないが、航海士でもしてもらうか。

 

「みんな盛り上がってるとこ悪いけどちょっといい?」

「はいはい、どうしたポルカ副船長」

「やめろ」

 

 唯一輪に不参加だったポルカの号令で皆静まる。

 マリンのジョークを殴り飛ばすと、話を少し戻す。

 

「洗脳と裏切り騒動、それから船長の能力について、話したい事がある」

「「――――」」

 

 一味は再度気を引き締めて会話に臨んだ。

 

 

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