ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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76話 フネフネの実

 

「まずは裏切りについてだが、あれは結局、どうやってあたし達の情報を得てたんだ?」

 

 ポルカの疑問はマリン以外、共通のようだ。

 

「どうってそりゃあ、盗聴器ですよ。図星っぽかったし」

「――その、とうちょうきって、なんだ?」

「何って……言葉通りのもんですよ。盗聴する道具。めちゃくちゃちっさい機械」

「――知ってるか?」

「いや、知らん」

 

 カルチャーショック!

 いや違う、これは……。

 

「ジェネレーションギャップだぁ!」

 

 マリンには何故か異様に突き刺さる言葉。

 ジェネレーションのレベルが一、二段の比ではないが。

 

「そうかでも……通信機レベルだもんな、確かに出回ってないかも」

 

 マリンも今更になって時代背景を考慮して考察し直すと不自然さを感じた。

 しかし、AZKiのあの顔は間違いなく的中していた。

 

「アルマで開発されてるとか有り得ん?」

「無くはないけど……あー、でもロボ子さんならなぁ、そんなんも作れるかも」

 

 と、アルマ出身のポルカは可能性もゼロではないと答え――

 

「え、ロボ子さん知ってんの?」

「知ってるよそりゃあ。アルマの人はみんな知ってんじゃねぇの?」

「そんなに凄い人なんか」

「通信機発明したのはロボ子さんだし、ポルカにくれたのもあの人だから」

「っしぃ……早く言ってよポルカぁ」

「まさか関係あるとは思わんだろうが……」

 

 マリンの落胆具合にポルカは反発するがご尤も。

 マリン以外では名前のみでの判断など下せない。

 

「でもじゃあ、その盗聴器が仕組まれてたの?」

「そうなんじゃない? 多分通信機の内部にでもさ」

 

 だからポルカから情報が漏れた。

 通信中かどうかに依らず、通信機のある場所に耳がある、と言う事だ。

 実際、紙面で行われたやり取りは敵に漏洩していなかった。

 

「そんな高度なもの、マリンたんはどこで知ったの? アルマも知らなかったのに」

「あー……それはですねぇ――」

「異世界だってよ」

 

 トワがスッパリと吐いた。

 マリンの揺らぐ視線がトワを見つめ、ポルカに移る。

 

「AZKiから聞いた。ポルカは何も言ってねぇよ」

「あ、うん! そうだよ船長。私たちも……ね?」

「うん、聞いちゃったから」

 

 ポルカを擁護するように3人が口並を揃える。

 すんなりと諦めてマリンは事実だと残り2名にも白状した。

 

「変に鼻が利くことあっただろ? 異世界であたしらは……仲間だったらしい」

 

 仲間、とは表現し難いが、もうそれでいい。

 マリンは目を細めて頷く。

 

「その異世界では、盗聴器が市販されてるの?」

「市販はされてないと思うよ、流石に」

 

 実在はするが、実物を目にしたことはない。

 大抵がアニメやドラマで使用されるだけだ。

 店頭で見たこともない。

 

「――そっか」

 

 異世界に関して、殆ど触れずに会話が次へと進むのでマリンは安堵した。

 

「あ、身体が動く」

 

 ほっと胸を撫で下ろす事ができ、漸く自由が戻った事に気がついた。

 体は少し重たいが、体を起こして医療用ベッドに座った。

 

「ほんなら次いい?」

「ええどうぞ」

 

 マリンの姿勢が整うまで待つ。

 暫く下腹部を押さえてモジモジしていたが、やがて落ち着く。

 

「洗脳について一つ、ある可能性が浮かんだ」

「それってもしかして、倒す算段とか⁉︎」

「そこまでじゃないけど、洗脳されない方法を見つけたかもしれん」

「聞かせてくれ!」

 

 皆の逸る気持ちをモーションで抑えながら順序よく説明していく。

 

「まずアルメンドラの時のAZKiの言葉を思い返してほしい。あの戦いを起こした理由は3つあると言ってたの覚えてるか?」

「ええ、言ってましたね」

「こよりちゃんの追放とルーナちゃんの捕縛が理由だったよね」

「それであと一つがフブキちゃんと船長の拘束だったはず――」

「いや、それは違う」

「――え?」

 

 あくあの言った2つは正しいが、おかゆの物は違う。

 

「今おかゆんが言ったのはこよりが口にした理由だ」

「……そうだった、の?」

 

 そう言えば、あの時2人はねねの能力で倒れていたから。

 なら、アキロゼからでも聞いたのか。

 

「あとひとつは秘密って言ってたが、あれは多分あたしらに疑心を撒く為だ」

 

 ポルカの導いた答えに納得しか出てこない。

 あの時、態々裏切り者の存在を露呈させた上で行う戦闘にしては、欲が無さすぎた。

 しかも、こよりを切る事を考慮して裏切り者の存在を伝えてなかったようだった。

 

「それで、奴らは最終的に裏切り者があたしであると思わせる動きを見せた」

「――そうだな。そうとしか見えなかった」

 

 自責の念を押し殺してトワは肯定した。

 

「お陰であたしは精神的に参ってた。そこに洗脳をかけられたんだ」

「……回りくどいな」

「だろ?」

 

 ポルカを1人きりにする手段なら幾らでもあった。

 複製等で逃げることに長けてはいるが、それでも徹底すれば幾らでも機会はあったはずなんだ。

 

「精神に一定以上の隙が必要なんじゃないか?」

「成程……心の隙か」

 

 中々いい線だ。

 可能性としては高いが、それだとまた別で一部不可解だ。

 

「待って。あてぃしはそんな心の隙を見せた覚えはないよ」

 

 あくあは自分の心は強かったと言い張るがその真偽は定かでない。

 だが同様にみこもそうだと言う。

 

 あくあはまだしも、みこに関しては入国時の戦闘で倒れた際、強く精神を削られる事はなかったはずだ。

 そこから一度も目を覚まさずして洗脳をかけられている。

 精神面だけでは説明がつかない。

 

「心の隙なら、寝てても隙になるんじゃない?」

 

 フブキの鋭い意見に、ポルカが手を鳴らす。

 ナイスだ、と称賛して話を進めた。

 フブキはえへへと鼻下を擦った。

 

「それなら辻褄が合うな。みこちとあくたんに加えて、騎士団メンバーも」

「確かに、あの人たち全員が心にダメージを受けてたとは思えないし」

 

 残念ながら明確に現場を知る者はいないが、マリンは粉塵の中で人の倒れる音がしたと記憶している。

 マリンも何者かに触れられて眠ってしまった。

 

「じゃあ、洗脳に対抗するのに必要なのは、強い心?」

「強い心、ね……」

 

 口で言うのは簡単だ。

 でも、心は人の目に見えない。

 自分の知らぬ間に心は疲弊し、隙が生まれる。

 こよりが以前マリンにこんな事を言った。

 

『人は感情で動く生き物。だからこそ、それに干渉したり、操る能力は強い』

 

 と。

 

 自身の心を確実に守護する事などできないから、それに干渉できるなら確かに強力だ。

 

「自分の事を見失わない事、だな」

 

 ポルカが分かりやすく言語化してくれた。

 自分を見失った時、洗脳にかかるのだと。

 

「んー……でもさ、自分で言うのもあれだけど、船長は別に心が強いわけじゃないよ?」

 

 寧ろ滅茶苦茶弱い。

 クソ雑魚。ゴミ。ペラッペラ。豆腐メンタル。

 

「つーかあの時、倒れてたし」

 

 洗脳できる状況だった。

 でもしなかった。

 それはできない事の裏返し。

 

「それに関して最後。船長の本当の能力と、あの時のことについて教えて」

 

 マリンの大出航。

 当時の事を思い出して数名が視線を逃す。

 

「トワの言うセリフじゃないけど、何で隠してたんだよ」

「そうっすよ。異世界のことならまだしも、能力を隠すなんて、船長らしくない」

 

 本当にマリンのやるような事ではない。

 十中八九、入知恵した者がいる。

 

「……、……」

 

 マリンはキョロキョロと注意散漫になりながら、室内をぐるりと歩き回った。

 

「マリンたん?」

 

 挙動不審な様子に、気でも狂ったのかと憂うみこだがその心配はない。

 というか失礼だ。幾ら相手がマリンでも。

 

 扉越しや戸棚の中など、一味の他に耳が無いかを要確認し、ベッドに再度深く座った。

 そして一味に近くに寄れと、身振り手振りで指示した。

 

 全員の顔が近くて照れる。

 

「船長の能力はフネフネの実。そこに間違いはない。ただこの能力は覚醒する事によって――『出航』を起こす事ができるんです」

 

 全く言葉の意図が掴めない一味は顔を見合わせて困惑していた。

 ただ、ポルカはほんの少し時間を使って、随分前のしょーもない会話を思い出した。

 記憶の跡地にいた時だったか……。

 

「出航って、船のだよね?」

「うーん……まあ」

「――――」

「ここで言う『出航』は、今日の『アレ』の事を指します」

「「――――」」

 

 ぽかーんと口が開く。

 

「あれが、出航?」

「つまり……出航って……」

「簡単に言えば発情――」

「言うなアホ」

「言えって言ったのはトワ様でしょ‼︎」

 

 語り始めは主にフブキに配慮した言葉選びだったが、少し話が発展した途端ブレーキは利かなくなる。

 嬉々として変態用語を引き出そうとするマリンをトワが宥めるが、なぜか逆上された。

 

「いいから、真面目に話して」

「反抗期〜」

「いいからはよ!」

 

 直ぐ不要な話題へ脱線するマリンには慣れっこだ。

 だけど逸る気持ちは抑えられない。

 

「キャンディータウンでフブちゃんの洗脳を解けたのも、ルーナたんが船長を覚醒させてくれたからです」

「…………ルーナさんは、船長の能力を知ってたの?」

 

 ルーナがマリンの蠱惑的な能力の才を見抜いたからこそ。

 しかしあの時、ルーナは一味への協力に退嬰的だった。

 ポルカの脱獄の提案を拒否するほどに。

 そんなルーナが突然マリンに能力をかけて助太刀するだろうか?

 

「それは話を聞いた所、偶然の産物だったようですよ」

「それってもしかして、相手が私だったから?」

「はい、そうです」

 

 フブキだけが直感できた。

 

 ルーナの能力でも、相手の能力の仕組みは一切分析できない。

 当初は適度に洗脳下のフブキに従い、その側で彼女に力を貸しつつ、洗脳の対処法を探り続ける算段だった。

 しかしフブキとマリンが対峙した際、マリンの弱点をサーチしたフブキがひどく動揺した。

 本能的に弱点をつく事を拒絶した内のフブキと、洗脳の指示によりそれを実行に移そうとしたフブキ。あの時、フブキは外的要因によって心境が2分していた。

 実際の所、マリンの能力と弱点は一切関係がないのだが、洗脳が薄れる光景を前にして、マリンへの可能性を感じたのだ。

 

「弱点を見たフブちゃんの動揺から、船長を覚醒させてみると見事成功、って流れです」

 

 もしあの時対峙した敵がフブキ以外だったなら、ルーナはマリンと言う希望を見逃していた。

 

 また、当時のマリンの力は付け焼き刃の状態で、能力の扱いも含めてど素人だった。

 そのため、フブキの心が半分だけ『マリンを誘惑する』という妖術を企てたが故に、上手く能力が作用したとも言える。

 数多の偶然が重なって生まれた『希望』だったのだ。

 

「ん、半分くらいは理解した」

「んー……」

 

 キャンディータウンの事件に関わっていないメンバーは情報処理に難航しているようだが、これ以上の説明はできない。

 マリンの能力はそんなもんだと割り切って、ルーナが慧眼だったと心に留めておく程度でいい。

 

 だが分からないもう半分程度の理由は、流石に説明を要する。

 

「船長、覚醒してんの?」

「してるわきゃぁないでしょう」

 

 期待を微塵も感じさせない面を向けるので、キッパリと答えると、だよな、と言われた。

 

「覚醒時に使える能力なんじゃないの?」

「そうですよ」

「あー頭いてぇ」

「質問責めするから……。ちゃんと話すから落ち着いて」

 

 前後で会話が噛み合わず、頭を抱え始める一味にマリンが冷静になるよう言い聞かせる。滅多に口にしない正論が妙に腹立たしい。

 

「さっき覚醒できたのは、ルーナたんにキャンディーを貰ってたからです」

「「――キャンディー?」」

 

 一味全員が口を揃える貴重な瞬間だった。

 

「ルーナたんが能力で丹精込めて作った『才能キャンディー』です」

「『才能キャンディー』……」

 

 ルーナの能力で作った、とはつまり、「そう言う事」だ。

 

「いつの間にそんな物貰ってたんですか?」

「出航前に……あ、発情じゃない方の出航する前に――」

「島を出るって言え」

「とにかく! その前にフブちゃんを引き抜く交渉と一緒に話して、貰ったんですよ」

 

 出航、と言う単語のややこしさは捨て置こう。

 フブキが何故乗船しているのか、と聞かれて、マリンは話し合った結果と答えていた。

 その内容については言及しなかったが、色々と会議をしていたようだ。

 

「その時に口止めもされましてね」

「誰にも言うなって?」

「はい」

 

 仲間には共有するべきだとマリンは唱えたが、結果的にルーナの口止めは正しかった。

 仲間――特にポルカに話していれば、盗聴器から情報が漏れて、今回のような結果に繋がらなかった。

 

「洗脳と対面した時に使えって言われてたんですけどね」

「切り札にするつもりだったのね」

「ええ。緊急時以外は使うなと」

「で、そのキャンディーの在庫は――」

「もう無いですよ」

「だよね」

 

 フブキは自身に使用すれば覚醒が狙えると思ったのか、食い気味にマリンに顔を寄せた。

 可愛さが実に魅力的――なんて関係ないな。

 無駄な期待を膨らませる間も与えず答えた。

 

 『才能キャンディー』は1時間かけて1分の効果分を練り込む事ができる。

 マリンが貰ったキャンディーはなんと10分間。つまり、ルーナがマリンの為に夜通し10時間ほどかけて練り込んだ逸品。

 数より質を優先した結果だ。

 

「でもじゃあ、もう洗脳解除はぶっつけ本番?」

「……か、ルーナたんを解放するか」

「あー、ね……でもルーナさんも捕まってたし」

「AZKi先輩が能力を借りてるなら、ワンチャン洗脳されてないかも」

 

 望み薄だが、洗脳下にない可能性を提唱するが、その場合は前提の部分をどう対処するかの問題がある。

 AZKiの能力の性質を、誰も知らないのだから。

 

「期待できん可能性だな」

「ああ。それに賭けるよりかは、船長の覚醒にかけた方がいい」

 

 強制とはいえ、2度も覚醒を経験した身なら、1ヶ月足らずで自力の覚醒を行えるかもしれない。

 

 密談に区切りがついた為、寄せていた身を離して各々楽な体勢をとった。

 おかゆがちょっぴりセクシーな伸びをする。

 マリンが声に聞き惚れ、姿に見惚れていると、みこが真似て見せるが、可愛いだけだった。

 

「まあ……そうですね。船長自身、自分の覚醒が鍵なのは承知の上なので」

 

 どっと疲れが押し寄せた為、言葉の割に態度がだらしない。

 が、咎める者はいない。

 

「ああ、もうこんな時間か……」

 

 トワがふと時計に目をやれば23時半を超え、間も無く日付が変わる頃。

 明日が早い為、夜更かしはできない。

 

「そろそろ、船に戻りますか」

「ん。一緒に寝ようね、マリンたん」

「――! おかゆ。あてぃしたちも!」

 

 マリンとおかゆは苦笑する。

 

「それで明日頑張れるなら、いいですよ」

「そうだね」

 

 確約は出来ない条件提示。

 だが2人は大喜びして期待に応えると誓った。

 

「じゃあ戻るか」

「はい」

 

 立ち上がる瞬間、まだ体力の戻り切らないマリンは蹌踉めいた。

 まるでそれを予期したように、ポルカが肩を貸してくれた。

 

「トワは団長に知らせてくるわ」

「お願いします」

 

 トワは一足早く医療室を抜けた。

 

 ポルカに支えられて歩くマリンに歩幅を合わせて一味も部屋を出る。

 その際、ポルカとは反対側にみこがポジショニングし、倣うようにマリンに肩を貸した。

 光景が大袈裟すぎて少し可笑しくなった。

 

 マリンたち3人の背後にフブキがいて、更にその後ろでおかゆとあくあが手を繋いでいる。

 チラリと振り返ってフブキを見ると、前方も後方も見ておらず、敢えて散漫に視線を右往左往させていた。

 フブキなりの配慮の裏に、僅かな成長をマリンも実感した。

 

 シエロソニードでの出来事は一味を崩壊の危機まで陥れたし、マリン含めた一味各々の未熟や不審が招いた結果だ。

 それでもこの事件があった事で、結束は固まり、一味は大きく成長できたと思う。

 だから、自分の弱さや、一部を救えなかった事を呪いつつも、後悔はない。

 この事件は寧ろ、起きて良かったとさえ思い始めた。

 

 なので明日の夜あたり、心の底からそう思えるように努めるとしよう。

 

 

 洗脳討伐作戦を成功させて、今度こそこの戦いを終わらせることを、一味全員が誓った事だろう。

 

 

 





 登場キャラ設定プロフィール15

 「ロボ子さん」
 所属と役職……ゼロ海賊団、電工技師(船大工)
 能力……ネジネジの実
 能力名の由来……リルビ歌詞
 出身……機械の国アルマ
 好きな物……そら、開発、あるカレー
 嫌いな物……納期、特許、戦闘

 「角巻わため」
 所属と役職……シエロソニード、傭兵
 能力……ワキワキの実
 能力名の由来……わきぺぇ
 出身……CT
 好きな物……ポテチ、わたがし、人と話す事
 嫌いな物……非常食、権力
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