一味が眠りにつく頃、ハングリー島近海にAZKiたちはいた。
「今連絡があった。明日の朝6時に島を出るらしい」
AZKiは通信機片手に仲間に伝達する。
「じゃあ、到着は昼の12時くらいだね」
と、簡単に計算するアキロゼ。
すいせいも輪に入っているが、やけに機嫌が悪い。
「今まで沢山時間かけて、アンタの策に付き合ってんのに――ここまで来て失敗とか絶対に許さないからね」
「分かってるよ――! 一々言わなくても」
鋭い視線と言葉にAZKiが苛立ちを紛れさせる。
「じゃあなんであんな危険な奴を野放しにしてたの? 面白がってさ」
そこへ追い打ちをかけるような詰問。
AZKiもそうだが、すいせいにも随分余裕が無い。
作戦失敗の未来が少しずつ見え始めたからだ。
「どうしようもできないの! あの人だけは!」
静かな夜にAZKiの声が広がる。
「洗脳にかけて誤作動を起こした時、洗脳者全員が解放される可能性がある!」
「だからアンタの能力で奪えばいいんじゃん。同じ理由であのお姫様だってそうした」
「それもできない! 見たでしょ⁉︎ 自分自身も効果にかかったみたいに顔を艶やかに染めてた。私がそうなったら彌崩壊するんだから!」
仲間の中でも最も付き合いが長い2人が、正面から口論し、喧嘩するように火花を散らす。
船上の空気は最悪だ。
とは言っても、殆どが洗脳下にあるため自己主張は極めて少なく、2人の喧嘩を気に止むものは0に近い。
「今回であの人たちとはケリつけて、早く『記録』を探すよ」
「――分かってる」
2人の目的はいつまでもそこにある。
あの日から、2人は永遠に囚われている。
「でなきゃいろはに、合わせる顔がない」
「……分かってるって」
すいせいは輪を抜けて自室へ篭った。
扉の開閉は実にうるさかった。
「……」
AZKiはフブキに弱点をサーチされた時の事を思い出した。
「AZKiちゃん。何か作戦とかの情報はあったの?」
通常意識下にある自分が、とアキロゼがAZKiを現実に引き戻す。
「ああ、うん――」
現実へ帰還し、仲間から受け取った情報を思い出す。
「――敵が3人増えたらしい」
「3人も? 誰?」
「名前までは聞く時間なかったよ」
「そっか」
「うん。それで、従属半島の施設にいる事はバレてるみたい」
調べ込まれていた事に驚きを隠せなかった。
敵の増援も計算外だが、3人なら誤差の範囲だ。
「二手に分かれて、その不明の3人があくあちゃんの能力で不意打ちを狙ってくる」
「そっか。ならころねちゃんを当てないとね」
「そうだね」
ころねをマリンたちとは逆の方角に配置し、索敵として機能させる。
アジトに戻ったら、簡単な罠を考えておこう。
敵を一網打尽にする作戦を。
その作戦でこの戦いは終わりにする。
だが何より、AZKiはマリンの能力に警戒する必要がある。
突然の覚醒。更にヒメヒメの力を持ってしても抑えられないときた。
もう一度アレをされれば、敗戦となる。
少なくともAZKiは喰らえない。
だが、周囲に大勢の仲間が居るうちは使うまい。
制御ができず、仲間にも害があったから。
適度に有利を取りつつ動くとしよう。
「ぺこらちゃんも、何処かセキュリティの高い場所に隠さないと」
この先の事も踏まえると、ぺこらも絶対渡せない。
何としてでも死守する。
島外へ移す事は危険なためできないので、島内のどこかだ。
ポルカとフブキの能力はどうしても欲しかったが、これ以上欲をかけない。
あの2人は状況次第では諦める羽目になるな。
「……」
考え事が多い。
数年前にこの作戦を実行に移してから、日々の疲れが取れない。
それも全て『記録』に奪われたせいだ。
奪われたモノを全て取り戻して、きちんと皆を解放する。
そしていろはに、そらに――逢いに行くんだ。
*****
深夜。シエロソニードの「???」にて。
「全員確認した?」
「した」
「ならおっけい」
ある2人が密会をしているようだ。
夜闇に紛れて見えもしない本を一冊開く女性。
「……どうかした?」
「……約束、忘れないでよ」
もう一方の疑心を読み取って尋ねてみれば、そんな馬鹿げた質問。
「2人を繋げればいいんでしょ」
「それと、手を出さない」
「あー、そうそう」
態とらしく頭に手を当てて、てへっ、と。
信頼に値するのか、半信半疑だが、もうコレに縋るしかない。
自分の力では、望む愛が実らない。
「約束は守るから、早く戻って」
「……」
「見られるとまずいでしょ、お互いに」
「……」
――――――――。
女性は本を閉じる。
2人は戻るべき場所へと姿を眩ましたのだった。