ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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80話 突撃作戦

 

「マリリン」

 

 ――――?

 

「マリリン、起きなよ」

 

 ――――??

 ――、――――――!

 ――――、――――――――、――⁉︎

 

「何寝ぼけてんの」

 

 ――――――。

 ――――――。

 ――? ――――! ――――!

 

「嫌な夢見たぺこな」

 

 ――――――。

 ――――――、………………。

 

「でも夢だからさ、ほら。早く収録行くぺこよ」

 

 ――――! ――――! ――――!

 

「もう、分かったから、ほら」

 

 ――――、…………、――――、…………。

 

「行こ――マリリン」

 

 ――。

 

 

 

          *****

 

 

 

 勢い良く上体が跳ね上がる――!

 

「…………」

 

 目が覚めると周囲に人はいなかった。

 時折揺れるので、遅れてここが船だと思い出す。

 自分が今何処で何をしているのかも、電撃のように脳内で駆け巡る。

 その刺激のせいかは定かで無いが、一筋、二筋……と、雫が目元を伝った。

 

 覚醒後の眠気の名残りでは無く、液体で覆われたように視界が潤んだ。

 

「ぁぁ……」

 

 現実を痛感して寂寥感に苛まれた。

 

「ぅっ……ぐ……」

 

 胸元をグッと押さえ込む。

 ギュッと目を瞑り、ギュッと拳を握り、ギュッと心を締め付ける。

 

 

 

 多分数分間かかった。

 

 それで漸く気持ちが落ち着いた。

 掛け布団を捲り、布団から抜け出す。

 周囲の布団は乱雑に放置された物と丁寧に畳まれた物とに分かれていた。

 

 ごしごしと目頭に溜まった雫を拭い捨て、宝鐘マリンは扉を開いた。

 

 がちゃりこ、と。

 

「ああ……そうそう、こうだった」

 

 扉を開くと通路を通り抜ける潮風が目元を乾かす。

 この感触に最近は慣れたんだった。

 

 通路を進みみんなを探す。

 つもりだったが、酷く自分の顔が気になり、方向転換――洗面台へ。

 その途中には絶対、人に会いたくなかった。絶対に。

 しかし遭遇してしまう。

 

 対面から1人歩いてくるは、角巻わため。

 

「あ、船長さん起きたんだ。おはよう」

「わ、わため――! お、おはよぅ」

 

 上手く表情が作れているか不安で仕方がない。

 挙動不審になりながら、マリンは片手を挙げて軽く挨拶を返す。

 

「――? どうかしたの?」

 

 マリンのあたふたとした態度を疑問に思うのも当然。

 この世界では極めて珍しい事だから。

 

「――あのさ船長の顔、変じゃない?」

「え……と?」

「変じゃない?」

「う、うん、普通に美人だと思うけど……」

 

 諸々を包み隠すようなマリンの問いに困惑しつつ、わためは本心を述べた。

 初めてみた時から、魅力的な容姿だと思っていた。

 少々ケツがデカい、らしいが。

 

「そっかよかったあ」

「どうかしたの?」

「ほら、寝起きで変な顔とか髪とかしてたら嫌だからさ」

「なぁんだそんな事かぁ」

 

 勿論嘘だが、見破れないのが純粋ガール。

 

「わためこそこんなとこで、何してんの?」

「トイレ借りてただけ」

「おおそうか、使いな使いな、もっと使いな、じゃんじゃん使いな」

「そんな頻尿じゃないよ」

 

 丁度用を足した直後だ。いくら頻尿でもしばらく出まいて。

 

 マリンは誤魔化すように大きく笑った。

 腹の中も知らず、わためも一緒になって笑う。

 そのまま2人で仲間の下へ。

 

 

「おかえりわため。お、船長さんも、おはよ」

 

 出迎えの第一声はラミィだった。

 操舵席付近で一同が介している。

 誰1人として漏れはない。

 

「大寝坊だな」

「ごめんごめん」

 

 誰よりも早起きの筈が、誰よりも寝坊していた事に。

 マリンもノエルもその他も、野暮な事は口にせず笑って誤魔化す。

 

 ……大丈夫。もう大丈夫だ。

 

「それで皆して何話してたんですか?」

「船長のいいとこ」

「え〜、本当ですかねぇ――あ、ノエちゃん変わるよ」

 

 トワの雑回答に若干口角を上げつつ、ノエルを操舵席から立たせる。

 これで全員が綺麗に集った。

 話す事など特に無いが。

 

「あ、そうだ」

「ん?」

 

 マリンはポンと手を叩く。

 予てより考案していた面白作戦を思い出した。

 ただの思い付きで、実行する意味はゼロに等しいが、インパクトがあってかっこいいのでやってみたい。

 

「従属半島の施設がどれほどのもんかは知りませんが、一つ案があってですね」

「なになに?」

「なーんかやな感じ」

 

 一味とその他で大きく二分した。

 マリンの仕草や表情一つから、大まかな感情が伝わるのだろう。

 

「船長の能力で、船を施設に直撃させるのはどうでしょう?」

「「はあ⁉︎⁉︎」」「「ん?」」

 

 またしても、反応が分かれる。

 能力を知る者と知らぬ者で。

 

「カッコいいと思うんだけど」

「カッコよさは求めてない! 安全策を取って!」

「なんか分かんないけどやめて!」

「猛抗議する」

「異議あーり」

 

 異議申し立てが止まない。

 意味を理解しない騎士団からも、反対意見が飛び出す。

 

「え〜……カッコいいのに」

「船ぶつけて何の意味があんの」

「カッコいいのと、相手がビックリする」

「それで施設が崩壊したらどうすんの!」

「いや、それは……天任せでさ」

「論外」

 

 最悪多数の死者が出る行為だと、批判が相次ぐ。

 マリン以外は全員反対。みこも例外ではなかった。

 

「じゃあせめて、船で施設まで……」

「何でそんなに船を近づけたいの?」

「船長の自由航海能力を使いたいからです」

「――自慢かなんか?」

「違うの! 船長の能力だけ活躍が無さすぎるの! 悲しいの! 船長として!」

「活躍なら昨日したじゃんか」

「あれは皆が嫌がるからぁ!」

 

 端的に言えば、皆に褒められたい。

 最近少しだけ承認欲求に不満を感じている。

 序でにムラムラもやばい。

 

「み、みこは嫌じゃないよ」

「――――」

 

 艶かしく頰を染めないでほしい。

 可愛いけど似合わないから。

 

「とにかくそれは無し」

 

 断固拒否とポルカに力強く主張され、マリンの思惑は呆気なく散った。

 

「ほっ……」

 

 静かに安堵するラミィ。

 

「……いやタンマタンマ。割とガチでやるべきかも」

「ぅぇ⁉︎」

「今度は様子が違うね」

 

 しかし、刹那の思考を挟むとある問題が発生する。

 マリンだけが危惧できる問題が。

 

 雰囲気の変わったマリンに、先までと違った態度で一同も接する。

 ラミィはすごーく嫌そう。

 

「理由は言えんけど、目立つ必要がある」

「ちょっと、そんな理由で……」

「うーん……」

 

 理由を隠す様では、中々受け入れられない。

 マリンとて承知の上だが。

 でも、仲間たちは凄かった。

 マリンへの信頼が、絶大だった。

 

「……ホンマ、なんやな?」

「はい。結構マジで」

「――やれやれ。じゃ、それで行くか」

「ちょぉおおっと!」

 

 一味の手のひら返しにより、マリンの横暴な作戦が決定した。

 猛反対派のラミィが叫ぶ。

 

「どしたんラミィ。もしかして怖いんか?」

「当たり前でしょぅが! 下手したら死ぬって!」

 

 一味やノエル、ラプラス達が危険慣れしているだけ。

 それを一般人は許容できない。

 無論、ラミィやわためは一般人ではないが。

 

「その作戦で下手な負傷者が出たら――!」

「ラミィ。マリンの船じゃけん、一味さんが決めたなら覆せんよ。諦めよ」

「の、のえた〜ん……」

 

 両目を潤ませて情に訴えるが、心変わりはしてくれない。

 

「でも、そんな目立つ事したら、一般人が寄って来ない?」

「それなら、こっちで警備を派遣しとるから安心していいよ」

 

 あくあの素朴な疑問は既に対処済みだった。

 戦闘に参加させないシエロソニード一般傭兵達を、従属半島入り口の警備に回しているようだ。

 手際がいい。

 

「元々、無関係者の立ち入りは危険視しとったし」

 

 当初からある程度の暴動は想定されていた。

 ノエルの判断は完璧だったな。

 

「のえたん、危ないって! ね、考え直そうよぉ。船長さんも」

 

 可愛い。

 しかしマリンの決断は揺るがない。

 無慈悲だが、この作戦は決行だ。

 その方が勝率が上がる。

 

「ラミィ、今度一緒に晩酌しような」

「そ、そんなぁ〜……」

 

 ぽんと肩に手を乗せて、傍を通り抜けた。

 落涙して見せるが、やはり動じない。

 

「ラミィちゃん、諦めよう」

 

 わためも少々震えているが、彼女は最悪瞬間移動でどうとでもなる。

 ずるい奴め。

 

「うぅ……」

 

 ラミィはメソメソと何時迄も引き摺っていた。

 

 そんな最中、ノエルがマリンの背後に立ち、こう口を開いた。

 

「マリン船長さん。それから一味の皆さん、ラミィ、わため」

「……吾輩は?」

「…………」

 

 除け者にされてしまうラプラス・ダークネス。

 彼女だけは無関係のようだ。

 少し膨れていた。

 

「ノエ、ちゃん?」

「報告とお願いがあって」

 

 ノエルは騎士団長バッチを胸から外し、丁寧な歩みでわための下まで。

 当惑するわための手を掴み、その手の中にバッチを握らせた。

 

「え……」

 

 ノエルは振り返り、今度はマリンの目前まで。

 そこに跪く。

 

「私、白銀ノエルは今日を持って、シエロソニード騎士団団長の座を角巻わために託して引退し、宝鐘海賊団に入団させて頂きます」

 

「「「――――‼︎⁉︎」」」

 

 





 次回でシエロソニード編は終了です。
 「次章」の1発目投稿と同時に今のアンケートは締め切りますので、ご了承ください。
 ではまた。
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