「私、白銀ノエルは今日を持って、シエロソニード騎士団団長の座を角巻わために託して引退し、宝鐘海賊団に入団させて頂きます」
「「「――――‼︎⁉︎」」」
マリンを含めた船上の全ての者が愕然とした。
その中で真っ先に声を放つのは……
「の、ノエルちゃん……?」
辛うじてわため。
だが意味を持つ言葉は、その次に放たれたマリンのもの。
「ちょい、ノエちゃん。どしたの?」
跪くノエルの肩を掴み、頭を上げさせようとするが彼女は決して姿勢を崩さなかった。
船上は大混乱へ陥る。
「船長……も、訳分からんって感じか」
「もう、さっぱりよ」
「のえたん?」
「どうしたの団長」
ラプラス以外は状況整理に必死だった。
「ノエちゃんはこれから宝鐘海賊団に入る。騎士団をよろしくね」
「待ってよ、そんなの駄目だよ」
わためがノエルにバッチを突き返す。
その後ろでラミィは困り果てていた。
「――」
「ノエル。そう言ってくれるのは嬉しいけど、船長も流石に賛同できんって。せめて納得のいく説明をして」
「……」
ノエルは漸く体勢を崩し、立ち上がる。
「……ノエちゃんはずっとやりたい事を探してたの。そしてそれが見つかった。それだけ」
「説明不足だよ!」
「かなたんには、どう説明するの?」
「もう済ませちょる」
「「――――???」」
意味が全く飲み込めない。
「……あー、ね」
ただ1人、トワを除いて。
彼女の相槌にノエルを含めた全員の視線が集まる。
「見たんだ、団長のロッカーを」
「――⁉︎ どうやって!」
「かなたに番号を聞いてたんだ、全員分。悪いけど2人のも見た」
「――っ!」
「――ぁっ!……ぶぇ……つに、まあ、何も入れてないけど」
情報漏洩なんて堪ったもんじゃない。
わためもラミィも自身のロッカー内を思い出して少々冷や汗を流した。
「トワ様、見たって?」
「辞表だ。明らかに最近書いたもんじゃない」
「…………」
「入団時から、書いてたんじゃないか?」
「――うそ、でしょ?」
日付だけは空白にして用意していたのだろう。
相手がかなたなら、多少雑な書類でも受理しそうだ。
しかも、入団時からとなれば、かなたに相談しているはず。
この1年半は、かなたと対話する機会すらなかったのだから、それが最も辻褄の合う筋書き。
「トワ様の言った通り。かなたんが団長に誘ってくれた時、併せて話したんよ」
「……」
「いつ辞めてもいいって言われた。だから今辞める」
「ま、まま待った待った」
「ん?」
「今はかなたんが居ないんだよ?」
「これから助けて、全て話す」
わためが懸命に引き止めるが、ノエルはもう固く決心している。
どうにも揺るがない。
「あ、あやめちゃんは⁉︎ あやめちゃんはどうするの」
「勿論助ける」
「そうじゃないよ。あやめちゃん、かなたんと団長の指示以外聞かないでしょ⁉︎」
「ぇ……」
目玉が飛び出るような情報にマリンが驚愕する。
「トワ様、マジなん?」
「ああ、ホントだよ」
「っそ……」
傍で耳打ちするように尋ねると肯定されて一層驚く。
此方の世界でもATフィールド全開のようで。
「ノエちゃんがおらんくなっても団長はいる。今までと変わりはないよ」
「んーん、そんな事ない。ノエルちゃんだからこそ、指示が通ってたんだよ」
「……わため。何と言おうとノエちゃんの意思は変わらんよ」
わための肩を両手で掴み、視線を合わせた。
鋭い眼力に、弱々しいわための視線は呆気なく屈した。
ラミィにも一瞥をくれるが、彷徨く視線を捉えられなかったのでそのままにしておいた。
「マリン。ノエちゃんを仲間に入れてほしい」
今度は面と向かって頼み込まれた。
真摯な瞳に怖気付く。
「そりゃあさ、歓迎したいよ……? でも……」
奥から一つ、視線が訴えかけてくる。
断れと。
ノエルの「やりたい事」を否定する訳だが、今のわためはそれを理解できていない。
もし、団長の座をラミィやあやめに託したのなら、まだ心持ちは楽だった。
しかしノエルはわためを選んだ。
それが大きな負担と枷になっている。
「ポルカは……どう思う?」
「レアケースだなこりゃ」
一味加入の猛反対を受けるノエル。
彼女の加入を許可すれば、わためたちからの大バッシングが予想される。
ノエルの意思は当然汲みたいし、その他の意見も尊重したい。
思い悩むマリンから助言を求められ、ポルカは額に手を当てた。
マリンが答えられない問いに、残念ながらポルカは答えを出せない。
この船の船長は、マリンなのだから。
「あたしは船長が仲間にしたいんなら、いいと思うけども」
ポルカの回答もまた過去に無いケース。
マリンは一度帽子を取り、髪を乱した。
この世界では精神的疲労が大きい。
どうせなら、ホロメンの記憶を全て無くしてほしかった。
そうすれば、こんな苦悩も無くて済むのに。
目を閉じ、天を仰いで大きく息を吸った。
潮風が鼻を突き抜ける。
「分かった……仲間にします」
「――」
「そんな――!」
ノエルは小さく頭を下げ、わためは大きく後退した。
「但し、かなたんとあやめ先輩を助けて、騎士団全員で話し合う事」
と、加入条件を足して指を突きつける。
「船長から見ても、ノエちゃんの脱退は大損害だと思うし、いいね?」
「――ん。了解」
「…………」
「わためとラミィも、悩むのは全部解決してから、いい?」
「……はい」
「分かった」
わためは切り替えられない様子だが、その他は既に意識が切り替わった。
ノエルももう少しタイミングを考えてもらいたい。
作戦終了後でも良かったはずだ。
雑念を増やして作戦に支障を来しそうだ。
「……ラプラス?」
「…………何でもない」
「――?」
難しそうに頭を抱える姿に声を掛けたが、雑にあしらわれた。
「それより、準備はできてんのか?」
「そりゃあもうバッチリよ」
マリンの華奢なVサイン。
出航から既に5時間半ほどは経つ。
間も無く島も見えてくるに違いない。
「吾輩、先行するぞ」
「それは構やせんけど、迷子になるなよ」
「なんねぇよ、サムライじゃあるまいし」
「……」
「なんだ?」
「いや……風真いろは、迷子にならん、よね?」
「鷹嶺ルイもいるし、平気だろ」
「うん……」
下手な心配をしたせいで、余計に心配になった。
今マリンが、要らぬフラグを立ててしまった、そんな気配。
「そんな事言って船長が迷子にならんでくださいよ」
「それはもう! センサーがあるんでなりませんよ」
「ハイテクだね」
自称ホロメンセンサーを身に付けた女。
気の向くままに進路を取れば、その先に仲間がいるのだ。
と思い込んでいる。
「船長ー! 島が見えてきましたよ!」
見張り台に登り監視に移っていたフブキの張り上げた声が響く。
遠方を指差しているが、双眼鏡無しでは見えない。
「了解です。フブちゃん降りといで」
「はーい」
梯子を伝って降りてくる……。
あれ? 高所恐怖症は?
「皆さん準備はできてますか?」
「「うん」」「はい」「おう」
「トイレは済ませましたか?」
「――」
その言葉が皆の尿意を駆り立てる。
「ちょ、ちょっとトイレ――」
「私も」
続々とトイレへ向かった。
「……大丈夫かよ、こんなんで」
ラプラスが苦言を漏らすのも無理はない。
こんなヘンテコチームが打倒洗脳&ゼロ海賊団の残党だからな。
「戦闘中に漏らしたら困るでしょ」
「漏らさねぇし」
「本当かぁ〜?」
「……吾輩も一応、トイレ」
結局全員お手洗いへ。
マリン号の化粧室には過去に類を見ない長蛇の列ができた。
最後のポルカがお手洗いから戻ると、一同は船首に集う。
ハングリー島が目視できる距離まで届き、緊張感が冷や汗となって全身を纏う。
「ふぅ……」
マリンが深呼吸して気を引き締める。
ハングリー島に到着したら、従属半島まで船を回し、マリンの能力で船を施設に突撃させる。
その先は天任せ。
(来てるよな……。気付いてくださいよ……)
ルイ達とはタイミングを示し合わせておらず、完全に独断で動いてもらう手筈だ。
「船長」
「はい、どうしました?」
運否天賦な作戦の成功を祈るマリンを呼ぶ声が。
その声も引き締まっていたので、邪念を振り払って真摯に向き合う。
フブキがおかゆの隣で心を押さえていた。
強い握り拳と凜とした表情。
決意と成長の証。
「今度は――今度こそは、私も戦わせてください」
拳が一層固くなり、少し血管が浮き出ている。
瞳も鋭く、決して屈しない意思が見てとれた。
「ええ勿論。期待してますよ」
「――ぁ、え?」
「ん?」
「……いいの?」
マリンの期待が真っ向から突き刺さり、固めた拳と心が緩まった。
「そりゃあね。皆に頑張って貰わないと勝てる物も勝てませんから」
「でも今まではずっと――戦闘から遠ざけてたのに」
「それはフブちゃんの姿勢の問題です」
「私の、姿勢……」
「船長が言うのも無粋だとは思いますがね」
「…………」
フブキは本当に変わった。
会話を重ね、言動を見る度にひしひしと感じる。
ポルカやトワも変わったが、やはり比にならない。
今のフブキなら、感情が先行して己を見失う危険も無く、安心して全線に立たせる事ができる。
彼女の能力は後衛サポート向きだとは思うが、それはフブキを完全に護れる場合限定。
乱戦が予想されるこの戦いでは、寧ろ彼女に自由を与えた方が得策だ。
己の弱さと強さを知った今、逃げるべき時は逃げると信じて。
フブキの傍らで誇らしげに胸を張るおかゆ。
想い人の自慢げな顔にうっとりするあくあ。
「さあ、間も無く開戦です。いいですね」
「「はい‼︎」」
一丸となって呼応する。
「……わため」
「――な、何?」
「今は集中しよう」
「――ん」
ラミィが軽く背中を叩くと、わためも背筋が伸びる。
「ではいざ、従属半島へ」
宝鐘海賊団――従属半島南の海岸、到達。
*****
一方その頃、ハングリー島最北端の港に入り、島内から従属半島へ足を運ぶ奇襲組。
クロヱの視線がチラチラとルイを見上げ、落ち着かない。
その頭にポンと手を置いてやる。
「大丈夫、上手くいく。上手くやる」
「……ん」
クロヱは小さく顎を引いて正面を向く。
「2人は仲がいいでござるなぁ」
「いろはだって……あー……友達くらいいるでしょ?」
「え、あ、煽りでござるか?」
「そんな意味じゃないって」
ルイは乾いた笑いで流した。
小馬鹿にしたとも取れる言動を気に止む事もなく、いろはは一心に仲間を想うのである。
「――こより、どこ行くの?」
「どこだっていいでしょ」
3人を置いて先行するこよりを嗜めるように呼び止めた。
いろはからAZKiの能力を聞いて以降、彼女は気が気でない。
ルイだってその可能性を大いに感じている。
だからこそ今は下手に動かないでほしい。
「こよは協力するなんて言ってない。邪魔しないで」
「…………」
ルイがスッと目を細めた。
チラといろはを一瞥。
「……分かったよ。好きにすればいい」
「ふん!」
こよりは従属半島入り口より島へ侵入。そこから森を通って半島中央の塔のような施設へ向かって行った。
「いいの?」
「また後で」
「――?」
内輪で意思疎通を図る約2名様。
こよりの先行を許してしまった。
「追いかけないでござるか?」
「丁度いいから、あの子を囮にしちゃおう」
「え、可哀想じゃない?」
「言うこと聞かない方が悪い」
陰口をチクチクと刺しながら、3人もまた、従属半島へと踏み込んだ。
そして数分後に――大波乱が巻き起こる。
登場キャラ設定プロフィール16
「白銀ノエル」
所属と役職……宝鐘海賊団、操舵手
能力……マスマスの実
能力名の由来……まっする
出身……機械の国アルマ
好きな物……筋トレ、運動、遠征
嫌いな物……服従、警備任務
「ときのそら」
所属と役職……ゼロ海賊団、船長
能力……ホラホラの実
能力名の由来……ホラー
出身……おもちゃの国(GA)
好きな物……風真いろは、仲間、笑顔
嫌いな物……ホラホラの実、独り、GA