ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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81話 騎士の分岐路

 

「私、白銀ノエルは今日を持って、シエロソニード騎士団団長の座を角巻わために託して引退し、宝鐘海賊団に入団させて頂きます」

 

「「「――――‼︎⁉︎」」」

 

 マリンを含めた船上の全ての者が愕然とした。

 その中で真っ先に声を放つのは……

 

「の、ノエルちゃん……?」

 

 辛うじてわため。

 だが意味を持つ言葉は、その次に放たれたマリンのもの。

 

「ちょい、ノエちゃん。どしたの?」

 

 跪くノエルの肩を掴み、頭を上げさせようとするが彼女は決して姿勢を崩さなかった。

 

 船上は大混乱へ陥る。

 

「船長……も、訳分からんって感じか」

「もう、さっぱりよ」

「のえたん?」

「どうしたの団長」

 

 ラプラス以外は状況整理に必死だった。

 

「ノエちゃんはこれから宝鐘海賊団に入る。騎士団をよろしくね」

「待ってよ、そんなの駄目だよ」

 

 わためがノエルにバッチを突き返す。

 その後ろでラミィは困り果てていた。

 

「――」

「ノエル。そう言ってくれるのは嬉しいけど、船長も流石に賛同できんって。せめて納得のいく説明をして」

「……」

 

 ノエルは漸く体勢を崩し、立ち上がる。

 

「……ノエちゃんはずっとやりたい事を探してたの。そしてそれが見つかった。それだけ」

「説明不足だよ!」

「かなたんには、どう説明するの?」

「もう済ませちょる」

「「――――???」」

 

 意味が全く飲み込めない。

 

「……あー、ね」

 

 ただ1人、トワを除いて。

 彼女の相槌にノエルを含めた全員の視線が集まる。

 

「見たんだ、団長のロッカーを」

「――⁉︎ どうやって!」

「かなたに番号を聞いてたんだ、全員分。悪いけど2人のも見た」

「――っ!」

「――ぁっ!……ぶぇ……つに、まあ、何も入れてないけど」

 

 情報漏洩なんて堪ったもんじゃない。

 わためもラミィも自身のロッカー内を思い出して少々冷や汗を流した。

 

「トワ様、見たって?」

「辞表だ。明らかに最近書いたもんじゃない」

「…………」

「入団時から、書いてたんじゃないか?」

「――うそ、でしょ?」

 

 日付だけは空白にして用意していたのだろう。

 相手がかなたなら、多少雑な書類でも受理しそうだ。

 しかも、入団時からとなれば、かなたに相談しているはず。

 この1年半は、かなたと対話する機会すらなかったのだから、それが最も辻褄の合う筋書き。

 

「トワ様の言った通り。かなたんが団長に誘ってくれた時、併せて話したんよ」

「……」

「いつ辞めてもいいって言われた。だから今辞める」

「ま、まま待った待った」

「ん?」

「今はかなたんが居ないんだよ?」

「これから助けて、全て話す」

 

 わためが懸命に引き止めるが、ノエルはもう固く決心している。

 どうにも揺るがない。

 

「あ、あやめちゃんは⁉︎ あやめちゃんはどうするの」

「勿論助ける」

「そうじゃないよ。あやめちゃん、かなたんと団長の指示以外聞かないでしょ⁉︎」

「ぇ……」

 

 目玉が飛び出るような情報にマリンが驚愕する。

 

「トワ様、マジなん?」

「ああ、ホントだよ」

「っそ……」

 

 傍で耳打ちするように尋ねると肯定されて一層驚く。

 此方の世界でもATフィールド全開のようで。

 

「ノエちゃんがおらんくなっても団長はいる。今までと変わりはないよ」

「んーん、そんな事ない。ノエルちゃんだからこそ、指示が通ってたんだよ」

「……わため。何と言おうとノエちゃんの意思は変わらんよ」

 

 わための肩を両手で掴み、視線を合わせた。

 鋭い眼力に、弱々しいわための視線は呆気なく屈した。

 

 ラミィにも一瞥をくれるが、彷徨く視線を捉えられなかったのでそのままにしておいた。

 

「マリン。ノエちゃんを仲間に入れてほしい」

 

 今度は面と向かって頼み込まれた。

 真摯な瞳に怖気付く。

 

「そりゃあさ、歓迎したいよ……? でも……」

 

 奥から一つ、視線が訴えかけてくる。

 断れと。

 ノエルの「やりたい事」を否定する訳だが、今のわためはそれを理解できていない。

 もし、団長の座をラミィやあやめに託したのなら、まだ心持ちは楽だった。

 しかしノエルはわためを選んだ。

 それが大きな負担と枷になっている。

 

「ポルカは……どう思う?」

「レアケースだなこりゃ」

 

 一味加入の猛反対を受けるノエル。

 彼女の加入を許可すれば、わためたちからの大バッシングが予想される。

 ノエルの意思は当然汲みたいし、その他の意見も尊重したい。

 

 思い悩むマリンから助言を求められ、ポルカは額に手を当てた。

 マリンが答えられない問いに、残念ながらポルカは答えを出せない。

 この船の船長は、マリンなのだから。

 

「あたしは船長が仲間にしたいんなら、いいと思うけども」

 

 ポルカの回答もまた過去に無いケース。

 マリンは一度帽子を取り、髪を乱した。

 

 この世界では精神的疲労が大きい。

 どうせなら、ホロメンの記憶を全て無くしてほしかった。

 そうすれば、こんな苦悩も無くて済むのに。

 

 目を閉じ、天を仰いで大きく息を吸った。

 潮風が鼻を突き抜ける。

 

「分かった……仲間にします」

「――」

「そんな――!」

 

 ノエルは小さく頭を下げ、わためは大きく後退した。

 

「但し、かなたんとあやめ先輩を助けて、騎士団全員で話し合う事」

 

 と、加入条件を足して指を突きつける。

 

「船長から見ても、ノエちゃんの脱退は大損害だと思うし、いいね?」

「――ん。了解」

「…………」

「わためとラミィも、悩むのは全部解決してから、いい?」

「……はい」

「分かった」

 

 わためは切り替えられない様子だが、その他は既に意識が切り替わった。

 ノエルももう少しタイミングを考えてもらいたい。

 作戦終了後でも良かったはずだ。

 雑念を増やして作戦に支障を来しそうだ。

 

「……ラプラス?」

「…………何でもない」

「――?」

 

 難しそうに頭を抱える姿に声を掛けたが、雑にあしらわれた。

 

「それより、準備はできてんのか?」

「そりゃあもうバッチリよ」

 

 マリンの華奢なVサイン。

 出航から既に5時間半ほどは経つ。

 間も無く島も見えてくるに違いない。

 

「吾輩、先行するぞ」

「それは構やせんけど、迷子になるなよ」

「なんねぇよ、サムライじゃあるまいし」

「……」

「なんだ?」

「いや……風真いろは、迷子にならん、よね?」

「鷹嶺ルイもいるし、平気だろ」

「うん……」

 

 下手な心配をしたせいで、余計に心配になった。

 今マリンが、要らぬフラグを立ててしまった、そんな気配。

 

「そんな事言って船長が迷子にならんでくださいよ」

「それはもう! センサーがあるんでなりませんよ」

「ハイテクだね」

 

 自称ホロメンセンサーを身に付けた女。

 気の向くままに進路を取れば、その先に仲間がいるのだ。

 と思い込んでいる。

 

「船長ー! 島が見えてきましたよ!」

 

 見張り台に登り監視に移っていたフブキの張り上げた声が響く。

 遠方を指差しているが、双眼鏡無しでは見えない。

 

「了解です。フブちゃん降りといで」

「はーい」

 

 梯子を伝って降りてくる……。

 あれ? 高所恐怖症は?

 

「皆さん準備はできてますか?」

「「うん」」「はい」「おう」

「トイレは済ませましたか?」

「――」

 

 その言葉が皆の尿意を駆り立てる。

 

「ちょ、ちょっとトイレ――」

「私も」

 

 続々とトイレへ向かった。

 

「……大丈夫かよ、こんなんで」

 

 ラプラスが苦言を漏らすのも無理はない。

 こんなヘンテコチームが打倒洗脳&ゼロ海賊団の残党だからな。

 

「戦闘中に漏らしたら困るでしょ」

「漏らさねぇし」

「本当かぁ〜?」

「……吾輩も一応、トイレ」

 

 結局全員お手洗いへ。

 マリン号の化粧室には過去に類を見ない長蛇の列ができた。

 

 

 最後のポルカがお手洗いから戻ると、一同は船首に集う。

 ハングリー島が目視できる距離まで届き、緊張感が冷や汗となって全身を纏う。

 

「ふぅ……」

 

 マリンが深呼吸して気を引き締める。

 ハングリー島に到着したら、従属半島まで船を回し、マリンの能力で船を施設に突撃させる。

 その先は天任せ。

 

(来てるよな……。気付いてくださいよ……)

 

 ルイ達とはタイミングを示し合わせておらず、完全に独断で動いてもらう手筈だ。

 

「船長」

「はい、どうしました?」

 

 運否天賦な作戦の成功を祈るマリンを呼ぶ声が。

 その声も引き締まっていたので、邪念を振り払って真摯に向き合う。

 フブキがおかゆの隣で心を押さえていた。

 強い握り拳と凜とした表情。

 決意と成長の証。

 

「今度は――今度こそは、私も戦わせてください」

 

 拳が一層固くなり、少し血管が浮き出ている。

 瞳も鋭く、決して屈しない意思が見てとれた。

 

「ええ勿論。期待してますよ」

「――ぁ、え?」

「ん?」

「……いいの?」

 

 マリンの期待が真っ向から突き刺さり、固めた拳と心が緩まった。

 

「そりゃあね。皆に頑張って貰わないと勝てる物も勝てませんから」

「でも今まではずっと――戦闘から遠ざけてたのに」

「それはフブちゃんの姿勢の問題です」

「私の、姿勢……」

「船長が言うのも無粋だとは思いますがね」

「…………」

 

 フブキは本当に変わった。

 会話を重ね、言動を見る度にひしひしと感じる。

 ポルカやトワも変わったが、やはり比にならない。

 今のフブキなら、感情が先行して己を見失う危険も無く、安心して全線に立たせる事ができる。

 彼女の能力は後衛サポート向きだとは思うが、それはフブキを完全に護れる場合限定。

 乱戦が予想されるこの戦いでは、寧ろ彼女に自由を与えた方が得策だ。

 

 己の弱さと強さを知った今、逃げるべき時は逃げると信じて。

 

 フブキの傍らで誇らしげに胸を張るおかゆ。

 想い人の自慢げな顔にうっとりするあくあ。

 

「さあ、間も無く開戦です。いいですね」

「「はい‼︎」」

 

 一丸となって呼応する。

 

「……わため」

「――な、何?」

「今は集中しよう」

「――ん」

 

 ラミィが軽く背中を叩くと、わためも背筋が伸びる。

 

「ではいざ、従属半島へ」

 

 

 宝鐘海賊団――従属半島南の海岸、到達。

 

 

 

          *****

 

 

 

 一方その頃、ハングリー島最北端の港に入り、島内から従属半島へ足を運ぶ奇襲組。

 

 クロヱの視線がチラチラとルイを見上げ、落ち着かない。

 その頭にポンと手を置いてやる。

 

「大丈夫、上手くいく。上手くやる」

「……ん」

 

 クロヱは小さく顎を引いて正面を向く。

 

「2人は仲がいいでござるなぁ」

「いろはだって……あー……友達くらいいるでしょ?」

「え、あ、煽りでござるか?」

「そんな意味じゃないって」

 

 ルイは乾いた笑いで流した。

 小馬鹿にしたとも取れる言動を気に止む事もなく、いろはは一心に仲間を想うのである。

 

「――こより、どこ行くの?」

「どこだっていいでしょ」

 

 3人を置いて先行するこよりを嗜めるように呼び止めた。

 いろはからAZKiの能力を聞いて以降、彼女は気が気でない。

 ルイだってその可能性を大いに感じている。

 だからこそ今は下手に動かないでほしい。

 

「こよは協力するなんて言ってない。邪魔しないで」

「…………」

 

 ルイがスッと目を細めた。

 チラといろはを一瞥。

 

「……分かったよ。好きにすればいい」

「ふん!」

 

 こよりは従属半島入り口より島へ侵入。そこから森を通って半島中央の塔のような施設へ向かって行った。

 

「いいの?」

「また後で」

「――?」

 

 内輪で意思疎通を図る約2名様。

 こよりの先行を許してしまった。

 

「追いかけないでござるか?」

「丁度いいから、あの子を囮にしちゃおう」

「え、可哀想じゃない?」

「言うこと聞かない方が悪い」

 

 陰口をチクチクと刺しながら、3人もまた、従属半島へと踏み込んだ。

 

 

 そして数分後に――大波乱が巻き起こる。

 

 





 登場キャラ設定プロフィール16

 「白銀ノエル」
 所属と役職……宝鐘海賊団、操舵手
 能力……マスマスの実
 能力名の由来……まっする
 出身……機械の国アルマ 
 好きな物……筋トレ、運動、遠征
 嫌いな物……服従、警備任務

 「ときのそら」
 所属と役職……ゼロ海賊団、船長
 能力……ホラホラの実
 能力名の由来……ホラー
 出身……おもちゃの国(GA)
 好きな物……風真いろは、仲間、笑顔
 嫌いな物……ホラホラの実、独り、GA
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