ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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83話 策士は幾度も

 

「寝てんのか、こりゃあ」

 

 背後に庇う仲間たちの容体を確認するぼたん。

 皆、気持ち良さそうな寝息を立てていた。

 

「……」

 

 予期せぬ挟み撃ちを喰らい、怯むラミィ。

 アキロゼは態度が変わらず、戦闘に対する意欲の差が見て取れた。

 

「メルメル、起こせそう?」

「んーん。反応がない」

 

 メルがラプラスやトワを軽く揺すったり、噛み付いたりするが反応がない。

 血流も良好で異物は感じない。

 純粋に眠っているようだ。

 

「アキちゃん、ラミィを連れて退いて」

 

 戦況の変化を分析して最善を取る。

 演技でも座学の教授をするからには、判断力くらい備わっていなければ。

 

「えぇ……」

 

 一瞬渋る。

 その耳打ちを目にして、ぼたんは咄嗟に2人を糸――でなく麺で縛る。

 麺だが、人間の力では千切れない。

 

「アキちゃんでもジリ貧でしょ、退いて」

「もう、しょうがないなぁ」

 

 拘束されたアキロゼが、ふんっと一声上げて麺を引き千切った。

 

「うっそ!」

 

 容易く破られ面喰らうぼたん。

 ラミィを括る麺も腕力で引き千切り、ラミィを担ぐと、ノエル&わための間を通り抜け、勢い良く場を退散した。

 瞬発力に優れた者たちも、あの速度は警戒無しに凌駕、対処できない。

 

「団長」

「ん、一旦落ち着こう」

 

 ノエルはまつり達の側まで。

 次の瞬間メイスを掴んでぶん投げた。

 

 ガシャァ……。

 

 カメラが粉砕される。

 一先ず敵の視覚を潰す、出来うる限りの最善を。

 

「マリンのお友達?」

 

 まつりに優しい声で尋ねた。

 加勢に来たことは一目瞭然。

 しかしまつりは少々複雑な顔をした。

 でもきちんとそうだと答える。

 

「うん、まあそんなもん」

 

 ノエルは投函したメイスを拾いにゆく。

 

「ノエルとわためは? 新しい仲間?」

「え?」

「どうして……?」

 

 名乗っていない名を呼ばれ一瞬だけ警戒した。

 が、先の援助が演技なはずはない。

 冷静に、質問にだけ答える。

 

「ノエちゃんはマリンの仲間。わためは――」

「騎士、団、員です」

「――――」

「――?」

 

 わためが妙に力むので首を傾げる。

 メルとぼたんが変わらず眠った仲間を起こそうと肩を揺さぶったり、頬を軽く叩いたりするが、誰も目覚めない。

 

「わため、起こせる?」

「起こせるの?」

「……んーん、だめみたい」

「そっか」

 

 腹や頰、腕などに手を乗せるが、やはりただの睡眠状態。

 わための力では起こせない。

 

「じゃあ全員を運び出さないと、今度は大勢連れてくる」

「そうだね、ししろん行ける?」

「応援よろしく」

「分かった」

 

 ぼたんが倒れた一味とラプラスに麺を伸ばす。

 この人数を自力で動かすには、引きずる羽目になる。

 だからこそ、先の様にまつりが必要だ。

 

 麺が全員を絡めた事を目視で確認し、まつりは大きく息を吸い込む。

 

「ししろんがんばれぇ〜! ファイトぉ〜!」

「……これは何しとるん」

「まつりちゃんはチアチアの実の能力者。応援された人は強くなるの」

「面白い能力だねぇ」

 

 敵の陣営で無駄に声を出す謎の所業。

 メルが簡単に説明して理解できた。

 

「よし、行けます」

「じゃあ戻ろう」

 

 一同は一旦、船に引き返した。

 

 

 

          *****

 

 

 

 その頃丁度、離脱して一味から距離を取ったアキロゼとラミィ。

 背後から追走する者もおらず、アキロゼは担いでいたラミィを雑に下ろす。

 

「失敗だね」

「半分成功でしょ」

「どうかなぁ。北口側の3人はまだ現れてないし、南口にも動ける人が5人」

「だから半分くらいは寝かせたし、厄介な透明化、発情、複製が寝てる」

 

 通路で2人は状況を整理し、次の行動を思案する。

 

「あの子達はいつまで寝てるの?」

「スイッチを上げるまで」

「……あの子達が気付いて上げるかもよ?」

「スイッチはラミィにしか見えないし、触れないからそれはない」

 

 アキロゼもラミィとは指折り数える程度しか顔を合わせていない。

 ので、その実力を知らない。

 どれほどまで有能なのかを。

 

「何にせよ、そろそろ皆も集まる頃だし、AZKiちゃんの指示でも仰ごうか」

「そうね」

 

 ラミィが徐に懐から取り出すは通信機。

 ノエルに通じる物とは別の台。

 

 通信機のボタンを押して応答を待つ。

 その僅かな1秒。

 

 とん、と肩に手を当てられた。

 

「何?」

「ん、なに?」

「今肩叩いたでしょ、なに?」

「アキロゼは何もしてないよ」

「…………」

 

 小学生レベルの悪戯に呆れ果て……る訳がない。

 アキロゼは戦場でふざける人間ではない。

 なら今のは錯覚……?

 

 5秒、10秒、15秒と通信機の雑音を聴いて。

 …………。

 ――いや違う!

 

「――――まずい!」

 

 漏れた苦言と同時にAZKiが応答した。

 

『ラミィちゃん、そっち――』

「AZKiちゃんゴメン! 多分全員起きる‼︎」

『――⁉︎』

「アキちゃん、全力で戻って様子を見てきて!」

「――分かった」

 

 ただならぬ空気にアキロゼは素直に応じた。

 能力を活用し爆発的な速度でもう一度先の通路を行く。

 しかし、理解までに時間をかけ過ぎた。

 アキロゼ1人を行かせたが、早まらないだろうか……。

 

『何があったの?』

「見えない誰かに触られた。多分複製の人」

『ポルカちゃんに先手を打たれてたって事?』

「多分……ごめん」

 

 通信機越しに謝罪する。

 AZKiは少々唸っているが、怒ってはいなかった。

 

『仕方がないね。ラミィちゃんは牢屋の見張りに行って。他の子にはこれから指示を出すから落ち着いて』

「うん――」

 

 ラミィは駆け足で牢屋への道を進んだ。

 

 

 

          *****

 

 

 

 船の間近まで後退した一味組。

 これからどうするか、を話し合い始めたその時――通路の先から足音が響いてきた。

 ノエルが構える。

 

 ガッ――!

 

「戻りが早いね!」

「訳アリでね」

 

 アキロゼが闇の中から突進気味に拳を放った。

 メイスと拳の衝突でノエルがやや押し負け、後方へ滑走する。

 

 アキロゼは奥の者達を眺めた。

 寝た者はまだ誰1人起きていない。

 ラミィの直感が外れたのか……?

 違う。ラミィはきっと透明化の誰かに触られたんだ。

 その数秒後に動き出したから――今、この通路で何かを追い越したんだ。

 

 つまり――

 

「後ろか」

 

 振り向いた。チャンス。

 

 一瞬の隙を狙いノエルが飛び込んだ。

 力強い踏み込みで軸足を固め、メイスを大きく一振り。

 風圧で転がる小石。

 震撼する大気。

 

 気付けばアキロゼは天井に足を付け、さらに跳躍――拳を垂直に落とす。

 

「っ――!」

 

 バゴンッ、と石畳に右腕が手首まで減り込み、酷く裂傷する。

 腕を中心として半径3メートルほど罅が入り、砕けた。

 

 援護を試みる他4名。

 わためは瞬間移動のタイミングを探し、メルは援護方法を探す一方で、ぼたんは身体ではなく頭を使って援護する。

 

 援護する、それ即ちノエルを助ける訳ではない。

 アキロゼが再三接触を計った意図を読め。

 味方も引き連れずに単独で、自信があれど多勢に無勢。無謀だ。

 

 ならば理由は決まる。

 戻らざるを得なかった。

 ぼたんの脳内には一味の能力が巡る。

 マリン、ポルカ――

 

「複製か!」

 

 頭から数えて早速ぶち当たる。

 側に転がった一味を見渡せば、いつの間にかポルカの姿が無い。

 あれが複製だったのか。

 ならばいずれ、アキロゼの背後からポルカが出てくる。

 

 しかし――

 

「あの闘いの場を通り抜けれねぇな」

 

 通路をアキロゼとノエルが占拠しており、並の人間では通過は不可能。

 それを理解してアキロゼも派手に暴れている。

 

「まつりさん、応援頼む」

「うん!」

「メルは?」

「分が悪い、下がってて」

「ん!」

 

 ぼたんは前に進み出た。

 

「団長、合わせますよ」

「え、うん」

「ごめん違う、わためさん」

「あ、ああね」

「おーけい」

 

 混乱が渦巻くが、一瞬で統率が取れた。

 アキロゼとノエルの戦いに、援護として2人が上手く水を差す。

 

「騎士さんは思い通り動いて」

「あいよ!」

 

 2人の攻防からやや距離を置き、わためとぼたんが構えた。

 更にその背後より、まつりが声援を上げる。

 

「団長〜、わためぇ〜、ししろ〜ん――がーんーばーれー‼︎」

 

 3人に力が溢れ出す。

 漲る力が抑えられない。

 

「……団長、下手に掛からず、1秒でも動きを止めます」

「ん」

 

 懐からカチャリと拳銃を抜き取る。

 

「狙い目は任せます」

「あい」

 

 アキロゼとノエルの攻防は続く。

 

 拳が頬を掠める次の瞬間には回し蹴りが迫る。

 アキロゼの動きは俊敏なんて範疇にない。怪物だ。

 加えて一撃でノックアウトされそうな腕力。

 フブキの情報を聞いた限り、射的物は基本反射される始末。

 メイスでの攻撃は寧ろ、ノエルへの反動が大きく不利に働く。

 それでもメイスは握り続けた。

 

 天井、壁、床を地面にする様に縦横無尽に空間を飛び回る。

 あの時あやめから教わった技術が、早速実践で役立つとは。

 

 ノエルが予測と反射でガードを繰り返しているが、捌ききれていない。

 全身様々な箇所に、徐々にダメージを乗せられてゆく。

 

 その動きを背後から観察するぼたんがあるタイミング、ここぞとばかりに麺を伸ばした。

 何本も伸ばして命中率を上げたが、簡単に回避される。

 こんなの、目が4つは必要だ。

 

 わためが銃口をほぼノエルに向けて構えている。

 左目を閉じ、手の震えを最大限に抑制してトリガーに指をかけ、待つ。決定機を。

 

「ぶっ――ゔ――ぐ、ぅ……」

 

 甲冑が凹んできた。

 メイスが悲鳴を上げ始めた。

 足が床に埋まりそうな衝撃で、全身が重い。

 

 ぼたんはチラリとわためを一瞥。

 射角から彼女の狙う未来を察知し、その未来を近付ける。

 麺をもっと伸ばした。

 アキロゼに当てなくてもいい。とにかく撒けば、絡まる可能性が上がる。

 絡まらずとも行動域は制限されて、わための望む未来はより早く訪れる。

 

「ふぅ……」

 

 アキロゼの運動速度は目まぐるしい。

 望んだ瞬間の到来はいずれ来る。

 だが五感のみで撃ち抜けるほど甘くない。

 要求されるのは第六感。そして予測能力。

 動きをよく見ろ。

 どのルートで動くのか。

 彼女に癖はあるか。

 隙の中で最も決定打に近い物は、どのタイミングか。

 

 見極めろ。

 どの瞬間が――

 

「――‼︎」

 

 パァンと銃声。

 

 アキロゼとノエルが重なった瞬間の射撃。

 正面でノエルのメイスと拳が交差したその一瞬こそ欲しかった時。

 この弾速は音速の約169/170。

 聴いて躱せる速度じゃない。

 

「っ――ィ゛――」

 

 アキロゼの右肩を見事撃ち抜いた。

 弾は身体を貫通して壁に衝突、地に落下。

 

 僅か1秒、動きが止まった。

 たった1秒でポルカはこの距離を走れないが、走る必要は無い。

 

「来い!」

 

 ぼたんが伸ばした一本の麺を最速で収縮させた。

 人1人分の重量がある。

 間違いない。

 

「のぁああああああ!」

「「んがっ‼︎」」

 

 ぼたんの顔面に何かが衝突した。

 見えない何か。

 勢いでひっくり返る。

 唇に何か生温かく、柔らかい感触の物が触れる。

 

 その感触が離れ、ぼたんの身体への負荷が消えると、透明が「すまん」と謝罪して何処かへ。

 何処かと言っても、十中八九マリン達の下だ。

 

 突如マリンの間近に人が現れる。

 ポルカではない。

 

「全員を起こせ」

「はい」

 

 透明が現れたラミィに命令すると、口答えなく能力で全員のスイッチを上げていく。

 

「――くっそー」

 

 アキロゼが肩を押さえて歯軋りする。

 ノエルと小さく距離を開いて。

 

 もう全員が目覚めてしまう。

 

 ラミィ達の作戦は大失敗に終わった。

 

「うぁっ――」

 

 唐突に床が抜けた。

 ノエルの足元が崩落し、彼女と併せてアキロゼも消える様に下階へ転落。

 わためが慌てて駆け寄り、穴に向かって叫んだ。

 

「ノエルちゃん!」

「……」

 

 パラパラと崩れる瓦礫の音だけが虚しく響く。

 

「――ノエちゃんは大丈夫! それより、みんなは早く先へ」

 

 遅延してノエルも叫んだ。

 声がよく反響し、無事そうな声だと分かった。

 わためが振り向けば、一味とラプラスは全員起き上がり、事態の説明を受け終えていた。

 

「サンキューあくたん」

「――」

 

 透明に礼を言われ能力を解くと、コクリと頷いた。

 透明化が解け、ポルカの姿がようやく現れる。

 既にラミィの複製は消した。

 

「ノエルは?」

「大丈夫だから先に行けって!」

「了解です」

 

 ノエルの意思を汲み、マリンは迷わず通路へ。

 空いた大穴を避けて、全員で先を目指す。

 

 一本道なので分かれようがない。

 そう思っていたが、2階の中央ホールに到達した。

 

 上下階に続く階段と、広い空間。

 敵は1人もいない。

 

「……よし、ここで分かれます」

「どうやって?」

「まちゅりは捕まってるルーナたんを探して」

「分かった」

「船長は上にいるであろう、ぺこらを追います。ポルカは一緒に」

「あいよ」

 

 配置を固定するのはこれだけ。

 それ以外のメンバーは――

 

「皆さんは成すべき事を。自分の信じる事をし、大切な人を守ってください」

「「了解」」

 

 凛々しい返答が木霊する。

 

「ししろんはまつりと来て」

「あいよ」

 

 まつりとぼたんは地下に当てをつけて、早速降りて行った。

 

「それでは解散。各自ノルマクリアを目指して」

 

 こうしてそれぞれの戦いが始まる。

 

 

 

          *****

 

 

 

 数分前……。

 

「――! AZKiちゃん、北口に1人」

『誰か分かる?』

「……こよりさん」

『……通してあげて』

 

 ころねは道を開け、こよりを北口より侵入させた。

 

 

 





 皆様どうも作者でございます。

 次回から恐らく、怒涛の戦闘回が来ます。
 マッチアップと結果、是非予想してみてください。少なくとも一味は全員1人以上とマッチングしますよ。
 まあ、1マッチは今回でほぼ確定でしょうがね。

 ここで一つ余談を。
 実は「あやめ」という花にも「希望」と言う花言葉があります。しかしながら、お嬢は正真正銘の騎士団員なので、洗脳をされた者なのです。
 お嬢の話だけに「余」談でした。

 では次回以降もお楽しみに。
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