ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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86話 混戦へと

 

 2階の中央ホールで解散を指示した後、マリンは真っ先に最上階へ向かった。

 理由は当然打倒ぺこらとAZKi。

 

 他の仲間には選ぶべき道を選べと指示したのだが、マリンの周りには意外と人が多かった。

 指示したポルカ、好意を寄せるみこは当然として、フブキ、トワも。

 マリンが先頭を駆け、背後から護るように4人が追走する。

 

 解散直後、一向は3階へ突入しそのまま迷わず更に上へ――向かおうとした。

 しかし……。

 

「ぶぅえっきしゅ!」

 

 みこの大きなくしゃみが火切だった。

 皆の鼻をくすぐる粉塵が舞い、目も鼻も刺激に体液を噴出させる。

 目と鼻がヒリつき、赤らみ痒くなる。

 

 くしゃみの大連鎖。

 

「うげぇ……こ、ごののうどょくわ……」

 

 マリンは過去に一度だけ体験した。

 あの時は正体不明だったが、やはりコイツ。

 

「がなだ……!」

 

 中央ホールにかなたが佇んでいた。

 遠距離から粉で攻撃を仕掛けてくる卑劣さ。

 握力あるならもっと正々堂々と戦え。

 との思いは、マリンの心のうちに秘めておく。

 

「ぶでぃず・ぶだんだにぇーる」

 

 鼻水ずびずびに加えて、元からの舌ったらず。

 言語として認識できないが、詠唱などは飾りだ。

 みこの能力で風が巻き起こり、粉を吹き飛ばした。

 薄く白んだ視界が元の薄暗さに戻る。

 

「放ってはいげないっずよ」

 

 ポルカも少し鼻水を垂らしている。

 が、お構いなしに進言。

 最低でも誰か1人を残す事になる。

 

「なだみごが――」

「トワが残る、先に行げ!」

 

 他の案には耳も貸さず階段を飛び降り、かなたと正面から対峙する。

 

「まがぜまじだ!」

 

 涙と鼻水を汚くも袖で拭って、マリンは迷わず上へと進んだ。

 

 ずずずずーっ、と大きく鼻を啜って赤らんだ目を少し擦って――はい健康。

 

「なあかなた」

「――? なに?」

「……トワの事、覚えてねぇんだな?」

「……ん? 覚えてるよ」

「…………」

 

 遠慮がちに問いかけたトワの質問を平然と肯定しやがる。

 まさか、と混乱する脳を整理してもう一度、次は言葉を変えて――

 

「トワと過ごした記憶、覚えてねぇはずだよな?」

「覚えてるよ、全部」

 

 言葉の綾で巧みにトワを翻弄しているのかと思えば違うらしい。

 あり得ない話だ。

 実はかなたは洗脳ではありませんでした、なんて。

 馬鹿げている。

 そう信じて能力を使用した。

 

「……ノエルたちに当たらんくて良かったよ」

 

 かなたの思考を覗いて心底安心した。

 やはりトワと過ごした記憶は無い。

 トワの質問に起点を利かせて有利に運んだだけ。

 つまり嘘だ。

 実際はトワが何を言っているのか全く理解できていない。

 

 やはり洗脳下でも、ある程度の才能や素質、クセは健在らしい。

 良くも悪くも。

 

「――」

「――」

 

 さて……。

 

 トワは構えた。

 無防備なかなたに懐かしき格闘術の構えを向ける。

 

 かなたに接触攻撃は基本効かない。

 だからかなたの攻撃に合わせて帯電し、気絶させることが最終目標。

 その策に勘づかれぬ様立ち回る技術が、あるだろうか?

 

「行くぞ?」

「うん」

 

 立ち合い稽古の様に軽く挨拶を交わす。

 

「――!」

 

 石畳を蹴り込み前方へ飛び出した。

 かなたとの距離が真っ直ぐに縮まる。

 

 まずは敵の思考と動きを見るだけ。戦闘は分析から。

 何気にかなたと戦うのは初めてだ。

 

「――⁉︎」

 

 トワの不用心且つ不恰好な一撃を躱した。

 想定外の動きと思考に怯むも、もう一撃放って動機の確認。

 どうやら間違い無い。

 が、その奥が見えない。

 

 かなたは東の通路へ後退するように2撃とも回避。

 思考を読み取ったところ、かなたは中央ホールで戦いたくないらしい。

 相手のフィールドは歓迎するべきでないが、ここで見逃せばまたいずれ弊害となる。

 思惑に乗る……しかない。

 

 思考が読めても打破できない自分がもどかしい。

 

 一味の大半がそうだが、皆能力に頼り過ぎている。

 マリン、フブキ、おかゆ、みこ、あくあ。

 トワとポルカはそこそこ身体能力が高いが、やはり歴戦の猛者に比べれば半歩以上劣る。

 新規加入のノエルのみが能力に頼らない戦闘が可能と言う、薄氷の上を渡る様な航海。

 一味の越えるべき壁や関門はまだまだあるな。

 

 そんな私情はさておき、トワはかなたを追い詰める様に東通路へ進む。

 敵の退路を断っている光景に見えるが、実は追い込まれていたなんて展開もあり得る。

 少しずつ照明が弱くなるが、目を凝らして危険を見逃さぬ様努めよ。

 

 

 そうこうする内に東通路の階段付近まで辿り着いてしまう。

 階段を一瞥しトワは増援への危機感を募らせたが、かなたはそこで立ち止まって構えた。

 場所を変えたと言う事は仕掛けがあるはず。

 要注意――。

 

「ふぅーー……」

 

 かなたが手のひらに息を吹きかけ粉を吹き飛ばす。

 手の平から無限に粉が生まれ、視界を曇らせてゆく。

 しかも、胡椒のように鼻や目を強く刺激して、涙と痒みがとめどなくトワを襲う。

 

「おいがなだ、やでぃ方が……卑怯やぞ」

 

 涙と粉でぼやける視界。

 その視界の奥でかなたが懐から何かを取り出す光景が……。

 

 ぱちっと何かを擦る音、そして燃え上がる炎――。

 

「――バッ!」

 

 反射的に逃げ出すトワ。

 しかし無情にもその炎は舞う粉へと放られて……

 

 ババババっ――!

 

 と、小さな破裂音から始まり、一瞬で爆発は拡大。

 トワの周囲が爆破した。

 

「ッッ――‼︎」

 

 全身が爆発の熱と風に当てられ、激しいダメージを負う。

 爆風で地面に転がり、その態勢のまま身を包めて守るべき部分を守った。

 身体の正面は外傷が少ないが、背中は服がやけ、皮膚も焼け、飛んだ瓦礫が突き刺さったりと痛々しい傷ができた。

 しかしそれでも、爆破の威力を意図した抑えたのだろう。

 トワが生きていることがその証拠。

 

「クッソ……」

 

 背中全体がズキズキと痛むが、トワは鞭打って立ち上が――

 

 ガラガラ……

 

「ぇ……」

 

 床が唸り声を上げた途端――抜けた。

 地が崩壊し、足場を失ったトワが瓦礫と共に真っ逆さま。

 

「どぁあああ!」

 

 絶叫が階下の闇へと消えて行く。

 かなたはにっこりと笑ってトワを見送った。

 

 

 

 落ちる落ちる。

 3階から2階へ。下手に落ちても死にはしないが、確実に痛い。

 最悪だ。

 かなたの奴、中央ホールを崩落させないために移動したのか。

 jokerなんて体よくトワを焚き付けておいて、自分がjokerを潰しては元も子もない。

 

「ぁあああ! ああ⁉︎」

 

 落下中に下を見た。

 既に血の気が引いているが、更に鳥肌が立ち、全身がブルっと震えた。

 下階の床が無いのだ。

 2階にあるべき床が無く、このままでは1階まで落ちる。

 1階分は軽傷で済むかもしれない。だが2階分は痛いで済まない。

 痛いを通り越して遺体になるかもしれない。

 

「あああああふ――」

 

 全身を襲う浮遊感が忽然と消えた。

 風圧が消えて人肌の温もりが、血の気の引いたトワの体を温める。

 背中の傷に手が触れて痛みが響いても、露ほども気にならない。

 

「大丈夫すか⁉︎」

 

 ズザーっと着地した少女の声がトワのほぼ耳元から聞こえる。

 聞き覚えは当然あった。

 何故だろうか、とても懐かしい。

 

「あ、ああ助かっぅわっ⁉︎」

 

 爆上がりした心拍数が徐々に静まり始め、相手の顔を見上げかけたその時――トワを抱えてその人は大きく飛び退いた。

 2人の元いた壁付近が破損し崩れる。

 更に追撃に何者かの拳が床を砕く。

 それも躱してトワを抱える少女は床を力一杯踏みつけた。

 

 床が波のように盛り上がり、敵2人に押し寄せるので、どう回避しようとも距離を取る事となる。

 その隙にトワを一度手元から下ろして状況を尋ねた。

 

「トワさん、どうしたんすか」

「すまん助かった。かなたに床ぶち抜かれたんだよ。お前は」

「吾輩は、アイツらと絶賛喧嘩中っす」

「その腹のマークは?」

「これは……まあ、軽い怪我みたいなもんです」

 

 トワを助けた少女はラプラス・ダークネス。

 つまり2人の前にいるのはねねとシオン。

 ラプラスがその戦いの最中に受けた刻印を、彼女はテキトーに誤魔化した。

 トワに余計な心配をかけたくなかったから。非常時で無ければ寧ろオーバーに悶絶でもして助けを乞うのだが、今は生憎そんな舞台ではない。

 トワに軽く腹を触れられ頬を赤らめるが、本人もそれに気付かず話は進む。

 

「そうか、大丈夫そうだな。したら悪いけどトワは上へ戻る」

「はい、気を付けて」

 

 ピチャっ……。

 

「……?」

 

 トワの足元に雫?が垂れてきた。

 水道管でも壊れたか? にしては放水の規模が小さすぎるな。

 視界が悪いのでトワはその液体に触れてニオイを嗅ごうとしたが、触れただけで物質の正体は判明した。

 一応匂いも嗅ぐがやはり。

 

「これは――」

 

 トワは抜けた穴を見上げ、闇の中の3階を見つめた。

 いるのか、そこに――。

 

「ラプラス、予定変更だ」

「え……?」

「お前に加勢する」

「ま、マジすか⁉︎」

「ああ……かなたは別の奴に今任せた」

 

 トワの助力の申し出に有頂天になる。

 しかしトワの怪我やラプラスに刻まれた印など、懸念点は多い。

 

「ならトワさん」

「ん?」

「5分で片付けてやりましょう」

「頑張るわ」

 

 

 1階東通路――ラプトワvsシオねね。

 3階東通路――???vsかなた。

 

 

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