ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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8話 見方を変えて

 

 波打ち際……から少し離れて。

 

 一通りの、過去の出来事。

 この国とラプラスの身に起きた厄災を聞いたマリン。

 

 現国王と旧国王の正体、そしてラプラスの友人の正体。

 それは、全てがホロメンであった。

 

 情勢を把握した上でも、マリンの考えは変わらない。

 ついさっき、1人になって考えてみたのだ。

 

 記憶のないホロメンの中には、きっと凶悪な思想へと変化した者もいる。

 それでも、その全員を仲間にできずとも、言葉で分かり合えるようにすると。

 戦ってでも、悪事を働くホロメンを止める。

 それが、記憶を持ってこの世に訪れたマリンの使命だと、そう思った。

 

「ありがとうございます、話してくれて」

「……悪かった」

 

 マリンの素直なお礼に、ラプラスは目を伏せて、悪びれた様子を見せた。

 マリンたちを追い出そうとした事、ポルカが攫われた事。

 この2点において、責任や罪悪感を覚えている。

 

「気にしないでください。結局島には入れてもらえましたし、ポルカなら大丈夫だと思うんで」

「……うん」

 

 砂の上で体育座りして、顔を埋めた。

 その頭にトワが手をポンと置いて優しく撫でる。

 

「てぇてぇ……幻想か?」

「あ? てぇてぇってなんだ?」

「あー気にせんでいいよ、独り言」

 

 トワラプ……。

 一方的に愛が重いカップリング。

 トワは、慕われて嬉しそうだが、こちらでは……まるで母や姉のよう。

 

 しかし、回想を耳にした所、トワの登場が気がかりだった。

 偶然の遭遇ではあるだろうが、城の裏側の海岸は一般市民が足を踏み入れる領域でない。

 船を止める時、そして島を巡った時に察した。

 

「衛兵……いや、トワ様ってもしかして、外国人まである?」

「変な言い回し……でも、まあそう。トワはこの国の人間じゃない」

 

 珍しく勘のいいマリン。

 ピンチに才覚を発揮するタイプか。

 

「今はあまり深く探りませんけど、この島に来た理由って、なに?」

「島流しにされた」

「……追放?」

「そう、で、転々として辿り着いた感じ」

 

 強烈な理由だ。

 トワが罪を犯したのか、国が冤罪を被せたのか。

 正直後者はそう易々と起きない。

 前者の可能性が高いが、ラプラスへの態度を見るに、黒く染まった心は持ち合わせていなさそうだ。

 そうなると、色々と見方が変わる。

 

 丁度いい。

 

「トワ様、いつまでこの島にいんの?」

「まあ、ラプラスはほっとけんし、姫様に……あ、前任のルーナ姫には会いたいんよな」

「そっか、じゃあさ、それら完遂したら、仲間になってくださいよ」

「……」

 

 マリンに冷たい視線が届いた。

 ラプラスのものだ。

 気に入っている上に、唯一の心の拠り所だからだ。

 トワも、ラプラスの件についての悩みが大きい。

 

「条件を変えるならいいよ」

「どんな風に?」

「今すぐ仲間になる。その変わり、ラプラスと国王を何とかするの手伝え」

 

 交換条件の変更。

 内容自体に変化はあまり見られない。

 仲間になるのが、今か解決後かの話。

 

「……? 何で先に仲間になるんですか? いや、ありがたいですけど」

「あ? 次会えるのがいつか分からんし、どうせすぐ島出るつもりやろ?」

「いや、端から全部解決して行く気だったけど……」

「え……」

 

 ラプラスが埋めた顔を上げて、マリンの横顔を見つめた。

 少し眩しそうに、少し嬉しそうに、少し安心したように。

 

「なんで……」

「なんで、って……難しいこと聞きますね。困ってるから、だと説明不足?」

「意地悪したし、関係ないし、面倒ごとなのに」

 

 意地悪はラプラスの事情を鑑みれば寛容になれる。

 面倒さはマリンにはどうでもいい。

 関係性は、公にできない、巨大な関係がある。

 

「ならトワ様も関係なくない?」

「トワはまあ……境遇に既視感あったから」

「へぇ……」

 

 トワを使って説明を回避しようとしたが、失敗。

 気まぐれで助けたんじゃないんかい。

 

「でも、まあ、いいじゃないですか、助けたって。どうせポルカ連れ出さなきゃいけませんし」

 

 最後の盾はポルカ。

 いい感じに誘拐されてくれた。

 これで、色々口実ができて、危ない橋を渡らずに済む。

 

「そっか、そんじゃあ、乗り込むか」

「ぇ?」

「城へ!」

 

 片腕に力を込めパワーで押し切る意志を見せつける。

 脳筋だった。

 

「トワ様待って、バカな船長でも正面突破はまずいと思うんですよ」

「バカって言いたいんか」

「まあ、簡略化すればそうなりますね」

 

 無策はまず論外。

 ラプラスの話からちょこ先生は『ガチガチの実』の能力者。

 シンプルな強さだが、トリッキーな能力と違い、無能力でも頭を使えば勝てるはず。

 スバルとフブキは不明で、対策はできない。

 

 ……。

 

 可能なら隠密行動でフブキだけを捕らえ、綺麗に国を解放したい。

 まあ、残念ながら、隠密系能力者はいないため、無理だろう。

 いつか仲間にしたい。

 

 それと、トワとラプラスにすれば、一般兵も強敵。

 

 なら、マリンを囮に2人を城へ潜入させるか。

 だが、フブキは融通が効くとは思えない。

 となると、フブキはマリンが受け持つことになる。

 ポルカの捕まっている場所も不明で城を詮索する必要がある。

 

「……船長がやけにハードになるけど」

 

 段違いの負荷。

 体力に見合わない気もするが、仲間を得るため、ひいてはホロメンのため。

 

「よし、単純な策ですが、船長が表で騒ぐので、2人が忍び込んでください」

「簡単に言うな……」

「勿論大変ですけど、頑張ってください」

「感情論と根性……」

 

 作戦の軽薄さに愚痴をこぼすトワだが、強行突破よりマシだ。

 他人の策をどうこう言える立場でない。

 

「でも、囮、できんの?」

 

 ラプラスが心配そうに眉を寄せた。

 強く見えない。

 敵は強く見えた。

 

「まあ、何とかしますって」

 

 相手が一般兵なら、何とかできる。

 先日徹夜で能力の使い方を考えた。

 残る問題はスバル、ちょこ、フブキをどう対処するか。

 まあ、なるようになる。

 

「それじゃあ、トワ様は船長と、ラプラスさんは色々抜け道とか知ってそうなので、ソロで」

「いや待て、トワとラプラス別行動は……」

「目を分散させた方がいいんで。城の内部、知らないんでしょ?」

 

 表からトワを、裏からラプラスを侵入させ、姫の居場所を探る。

 姫さえ解放できれば、ちょことスバルも寝返るはずだ。

 

「……分かった」

「……」

 

 ラプラスの納得は早い。

 

「騒ぎが起きれば声が聞こえるはずです。合図はそれで」

「「ん」」

 

 3人は、それぞれの配置へ向かった。

 

 それと、トワがとても奇妙なタイミングで仲間になった。

 

 

 

          *****

 

 

 

「あたしを捕まえるなんてバカだなー」

 

 薄暗い洞窟の中、ポルカは牢屋に入れられている。

 両脚に錠がかけられ、檻にもロックが掛かっている。

 実に不自由。

 小さな灯りで、視界も極めて悪い。

 

「しっかし……あたしだけか?」

 

 暗がりの中、目を凝らして見える範囲の牢屋を見るが、どれも空席。

 隣の檻の中は見えないが、5人も人はいないだろう。

 ポルカだけの可能性もあるほど静かだ。

 

「まあいっか……船長も来てるっぽいし」

 

 マリンの位置が城へと近づいている。

 救助に来るつもりだろうが、その必要はない。

 どちらにせよ、トワとラプラスのために王を引き摺り下ろそうと画策しているだろうから、それを目的に動こう。

 

「船長は隠密行動できんのかな……? あたしが騒ぐか、潜むか……」

 

 正面突破か、潜伏活動か、どちらのプランを立てているのか。

 マリンと反対のプランで動きたい。

 

「船長ならチキるよな」

 

 自分は弱いと卑下している。

 あの性格で正面突破はしないだろう。

 と、予測したが残念ながらハズレ。

 しかし、正否は分からないので、暴れて騒ぐことに決めた。

 

「さてと」

 

 手に握った錠の鍵で足枷を外し、檻を開ける。

 

 この場へ連行される際、少し暴れて衛兵の手にした鍵に触れ、複製しておいた。

 能力者だと知られて連行されたが、能力を縛る手段がないのだから。

 

「……」

 

 柵に囲まれた通路を歩く。

 極力靴音を消して。

 

「……お前、どうやって出たのら?」

「おっ……と、ビビった……」

 

 牢屋の内から声をかけられ、肩を跳ねさせた。

 少し距離を取って脈を落ち着かせ、柵に近づく。

 

「……誰?」

「元国王なのらよ」

「へえ、顔見えんけど、あんたがそうなのか」

 

 声だけの判別。

 少し幼い声色だ。

 

「どこ行くのら?」

「ん? ポルカの船の船長が、多分今の王をぶっ倒しに行くと思うんで」

「それは、オススメしないのら」

「そのこころは?」

「バックにでっかい組織が絡んでるから」

「……なんか知ってんの?」

「これでも王様なのらから、世界の情勢くらい知ってるのらよ」

 

 檻の中の王、ルーナは足枷の音すら立てず話す。

 ポルカは難しい顔をして頭を抱えた。

 

「……そこから出したら、教えてくれたりする?」

「悪いけど、とある情報を得るまでは、今の王に協力しつつ国を守るのら」

「つまり、出る気はないと」

「そう言うことなのらよ」

 

 強制的に囚われたと言うより、この王の意志でここにいるようだ。

 どちらにせよ、その黒幕に喧嘩を売ることにはなるだろう。

 

「因みに、その情報って?」

「…………」

「そっすか、じゃ、いいや」

 

 黙秘なら待つだけ無駄。

 ポルカは王、ルーナを檻に残して地下牢を出た。

 

 地下牢を出て一階までは簡単に辿り着いた。

 しかし、一階からは一般兵達が平然と歩いている。

 ポルカは身なりで脱獄者or侵入者とバレる。

 騒ぎを起こすにしても、一階の広間では意味がない。

 一階の隅か、二階以上。

 でなければ、マリン達に隠密行動の余地を残せない。

 

 一先ず、上階へと進もう。

 

「わっ!」

「あ……」

 

 曲がり角、間もなく階段という所で、現国王、フブキと鉢合わせてしまう。

 

「どうもー……では、失礼しますぅ……」

 

 驚いて飛び上がり、唖然としたフブキの横を何度も会釈しながら通る。

 何事もないように。

 

「待てーい!」

「ですよねぇ!」

 

 我に帰った途端、走って追いかけてきた。

 ポルカは全力で逃げる。

 城内某所より、追いかけっこが始まった。

 逃走者はポルカ、追跡者は集まる衛兵全て。

 

 予定外の方法で騒ぎが起こり始めた。

 

「うわっ、何してんですか!」

 

 逃げ回るポルカと追い回すフブキ。

 そこへスバルも遭遇。

 

「そいつが逃げた! 捕まえて!」

「え⁉︎」

「私用事あるから!」

「ちょっと! ふざけんなよォォ!」

 

 身勝手にスバルに丸投げし、フブキは別方向へ。

 スバルは憤慨しながらポルカを追った。

 

 チラッとポルカは背後をの様子を確認……

 

「オラ待てヤァ!」

「怖っ!」

 

 フブキへの怒りが全てポルカへ向けられている。

 矛先を間違えた怒りが恐ろしい。

 

 しばらく逃げ続け、3階までやってきた。

 気がつけば、衛兵が複数人でポルカを囲っていた。

 

「観念してお縄につけ」

 

 大空警察の如く、スバルは錠を片手にポルカに躙り寄る。

 他の衛兵も、逃げ道を与えぬようにガッチリと道を塞ぐ。

 

「ちょっと想定外だけども……」

「っ!」

 

 ポルカは退路を断たれ、逃げの手段を捨てる。

 そして、スバルへ突撃。

 手錠を狙って手を伸ばすが、正面からの行動は回避される。

 

「何のつもりだよ」

「何のつもりって、抵抗」

「エアボール!」

 

 ポルカの周囲の空気が球型に固定された。

 ある程度の硬度を誇る空気の壁。

 その内に閉じ込められる。

 

「悪いけど、あんま乱暴はしないでくれ」

「うへぇ〜、何だこの壁」

 

 不可視の空気壁をノックして硬度を確認。

 パワーでの突破は不可能。

 

「オーバークラッシュ」

 

 バンっ、という破裂音が炸裂した。

 ポルカ以外には、状況整理ができない。

 スバルはかろうじて一つ、エアボールが破壊されたとだけ直感した。

 

「こんなことなら、能力名くらい聞いときゃよかったよ」

「あたしも聞きたいなぁ」

 

 互いに能力を知らない。

 ラッキーとアンラッキーでプラマイはゼロ。

 

「……お前ら、ここはいい、城の警備を強化しろ」

 

 スバルはポルカを1人で受け持つ事を覚悟し、他の衛兵にそう指示した。

 ポルカの心境変化に不審感を覚えたのだろう。

 的確な予測と指示、それは騎士団を束ねるものに相応しい。

 

「能力者との戦い方を学ぶべきだな、スバルは」

「あたしも正直、能力者とのタイマンはキツいんですよ」

 

 どちらの能力も、小細工を得意とし、攻撃には中々転化できない。

 いかに応用力があるかが鍵となる。

 

「気が合うじゃん」

「さあ、どうかな」

 

 微笑を浮かべ、牽制を断たない。

 それが破られる時……

 

「「……!」」

 

 巧みな技術で敵を翻弄する、2人の戦いが幕を開ける。

 

 

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