ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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89話 早斬り

 

 2階中央ホールで分かれた際、わため、まつり、ぼたんは下階へと向かった。

 まつりとぼたんは地下牢へルーナを救出に、わためはノエルへの助力に向かう為だ。

 

 1階へ降りるとわためと2人は別々の道を行く。

 

「わためは団長の所へ行くね」

「うん、気を付けてねわためぇ」

「――」

 

 まつりからの配慮を受け取り、ちらとぼたんに視線を流すと軽く腕を上げていた。

 同じく気を付けて、との事らしい。

 先程は即興で共闘したが、2人にはまだ僅かな亀裂がある。

 それは団長と言う職を放棄した件に大きく関わる。

 冷静になると上手く言葉を紡げないが、それが戦場だからだと信じてここは一度合図を返し先を急ぐ事に。

 

「ししろん、行こ」

「はい」

 

 2人が下階に消えるまで立ち止まり見送った。

 完全にその声も足音も聞こえなくなると静寂が広がる。

 

 わためは改めて気を引き締めて、来た道を戻るように南口へ駆け出そうとした。

 いや、3歩ほどは駆け出していた。

 しかし……新たなる足音を聞き分けて踏み止まる。

 

 聞き覚えがある足音。

 極々稀に耳にしていた緊迫感のある足音。

 この音の主を、わためはよくよく知っている。

 

 恐る恐る振り返ると、身も竦むような気迫が全身を襲った。

 

 かちゃっ……しゅー……っと刀を引き抜くような金属音が2つ、重なる様に耳を擦る。

 

 冗談じゃない――。

 ノエルの救援に向かうはずが、逆に救援を求める羽目になりそうだ……。

 

「あやめ、ちゃん……」

 

 わための記憶に残る中で、誰よりもずば抜けた戦闘の素質を持つ者。

 百鬼あやめ――その人だ。

 

 ごくりと大きめの空気を飲み込むと、喉が鳴る。

 

 あやめをノエルの下へ引き連れては行けない。

 ならば逃げるか?

 いや、洗脳下にあるあやめを野放しにできない。

 

「……ふぅ、大丈夫」

 

 わためには瞬間移動がある。

 最悪、回避を続けるだけでも凌げる。

 そう、だから落ち着け。

 

「――――‼︎」

 

 1階中央ホールにて、あやめvsわため、勃発。

 

 

 

          *****

 

 

 

 地下牢へと足を進めたまつりとぼたん。

 勢い良く入り口の扉を押し開くと小さな牢屋が複数個。

 そして通路の中央に1人。

 

「……あんただけか」

「ラミィ!」

 

 刀二本だけという軽装備で佇むラミィがいる。

 その真横の牢屋にも1人、見覚えのある人間が。

 

「――! ぼたんちゃん……」

「……お久しぶりです」

 

 およそ1年越しの再会は鉄格子を介してだった。

 

「まつりちゃも……」

 

 想定外の救援にルーナは目を見開いた。

 その瞳を見るに、能力は宿っていない。

 マリンに聞いた通りの状況となっているようだ。

 

「ラミィ、鍵ちょーだい」

「……は?」

「ルーナを解放したいから、鍵ちょーだい」

「……は?」

 

 物は試しと素直に頼み込んでみるが、疑問符一点張り。

 冷たい視線が突き刺さり少々心が痛い。

 

「無理矢理吐かせるしかないっすよ」

 

 ぼたんが肩を回して骨を鳴らす。

 勇ましい態度だが、まつりは不安げな目をした。

 

「大丈夫?」

「信じてないんっすか?」

「だって相手……ラミィだよ?」

「――? そうですね」

 

 まつりの円な瞳をきょとんとして見つめ返す。

 しばし視線を交差させていたが、まつりが諦めたように首肯して向き直った。

 

「じゃあ、任せた」

「うっす」

 

 まつりは数歩下がる。

 

「ししろーん、ガンバレ〜!」

 

 そして応援。

 自ら戦場に立つ勇気は無いが、応援ならいくらでも出来る。

 ぼたんの身に溢れる力。

 ラミィには一先ず、接触されてはならない。

 

 ししらみの激突が始まる、かと思いきや。

 

「ルーナ、この建物って放送室あるよね?」

「え?」

 

 まつりが戦場を跨いで会話を図るので、飛び出しかけた2人の動きが止まる。

 

「何処にあるか知ってる?」

「えっ……んなたんも詳しくは……。あ、でも3階よりは上にある筈」

「じゃあ4階から調べるしか無いね。ありがと」

「何する気なのら?」

「色々!」

 

 まつりは来た道を引き返す。

 

「ししろん、ここは任せるね」

「うっす! 気を付けて!」

 

 ぼたんに応援効果を残して場を立ち去った。

 各々ができる仕事は限られている。

 まつりは己の活用方法を理解しているつもりだ。

 

 ぼたんに全幅の信頼を預けて地下牢を後にし、階段を駆け上がる。

 

 そして1階へと戻ると――

 

「――――」

 

 衝撃の現場に言葉を失った。

 

「――!」

 

 腹から流血して倒れるわため。

 大至急駆けつけて呼吸を確認――息はある。

 

「わため! わため!」

 

 わためと分かれて5分も経っていない。

 この僅かな時間に、一体何が……。

 

 まつりの呼びかけにも応答はなく、軽く応援してみるが意味はなかった。

 流血は腹の傷からだが、その傷口は非常に大きい。

 一筋の斬撃痕と見られる。

 

 わためを斬った犯人はもう、この場にはいない。

 わためが憂いていたノエルの戦いの行方も気掛かりだが、まつりは自分の任務を優先して4階へと向かい、放送室を探したのであった。

 

 

 

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