2階中央ホールで分かれた際、わため、まつり、ぼたんは下階へと向かった。
まつりとぼたんは地下牢へルーナを救出に、わためはノエルへの助力に向かう為だ。
1階へ降りるとわためと2人は別々の道を行く。
「わためは団長の所へ行くね」
「うん、気を付けてねわためぇ」
「――」
まつりからの配慮を受け取り、ちらとぼたんに視線を流すと軽く腕を上げていた。
同じく気を付けて、との事らしい。
先程は即興で共闘したが、2人にはまだ僅かな亀裂がある。
それは団長と言う職を放棄した件に大きく関わる。
冷静になると上手く言葉を紡げないが、それが戦場だからだと信じてここは一度合図を返し先を急ぐ事に。
「ししろん、行こ」
「はい」
2人が下階に消えるまで立ち止まり見送った。
完全にその声も足音も聞こえなくなると静寂が広がる。
わためは改めて気を引き締めて、来た道を戻るように南口へ駆け出そうとした。
いや、3歩ほどは駆け出していた。
しかし……新たなる足音を聞き分けて踏み止まる。
聞き覚えがある足音。
極々稀に耳にしていた緊迫感のある足音。
この音の主を、わためはよくよく知っている。
恐る恐る振り返ると、身も竦むような気迫が全身を襲った。
かちゃっ……しゅー……っと刀を引き抜くような金属音が2つ、重なる様に耳を擦る。
冗談じゃない――。
ノエルの救援に向かうはずが、逆に救援を求める羽目になりそうだ……。
「あやめ、ちゃん……」
わための記憶に残る中で、誰よりもずば抜けた戦闘の素質を持つ者。
百鬼あやめ――その人だ。
ごくりと大きめの空気を飲み込むと、喉が鳴る。
あやめをノエルの下へ引き連れては行けない。
ならば逃げるか?
いや、洗脳下にあるあやめを野放しにできない。
「……ふぅ、大丈夫」
わためには瞬間移動がある。
最悪、回避を続けるだけでも凌げる。
そう、だから落ち着け。
「――――‼︎」
1階中央ホールにて、あやめvsわため、勃発。
*****
地下牢へと足を進めたまつりとぼたん。
勢い良く入り口の扉を押し開くと小さな牢屋が複数個。
そして通路の中央に1人。
「……あんただけか」
「ラミィ!」
刀二本だけという軽装備で佇むラミィがいる。
その真横の牢屋にも1人、見覚えのある人間が。
「――! ぼたんちゃん……」
「……お久しぶりです」
およそ1年越しの再会は鉄格子を介してだった。
「まつりちゃも……」
想定外の救援にルーナは目を見開いた。
その瞳を見るに、能力は宿っていない。
マリンに聞いた通りの状況となっているようだ。
「ラミィ、鍵ちょーだい」
「……は?」
「ルーナを解放したいから、鍵ちょーだい」
「……は?」
物は試しと素直に頼み込んでみるが、疑問符一点張り。
冷たい視線が突き刺さり少々心が痛い。
「無理矢理吐かせるしかないっすよ」
ぼたんが肩を回して骨を鳴らす。
勇ましい態度だが、まつりは不安げな目をした。
「大丈夫?」
「信じてないんっすか?」
「だって相手……ラミィだよ?」
「――? そうですね」
まつりの円な瞳をきょとんとして見つめ返す。
しばし視線を交差させていたが、まつりが諦めたように首肯して向き直った。
「じゃあ、任せた」
「うっす」
まつりは数歩下がる。
「ししろーん、ガンバレ〜!」
そして応援。
自ら戦場に立つ勇気は無いが、応援ならいくらでも出来る。
ぼたんの身に溢れる力。
ラミィには一先ず、接触されてはならない。
ししらみの激突が始まる、かと思いきや。
「ルーナ、この建物って放送室あるよね?」
「え?」
まつりが戦場を跨いで会話を図るので、飛び出しかけた2人の動きが止まる。
「何処にあるか知ってる?」
「えっ……んなたんも詳しくは……。あ、でも3階よりは上にある筈」
「じゃあ4階から調べるしか無いね。ありがと」
「何する気なのら?」
「色々!」
まつりは来た道を引き返す。
「ししろん、ここは任せるね」
「うっす! 気を付けて!」
ぼたんに応援効果を残して場を立ち去った。
各々ができる仕事は限られている。
まつりは己の活用方法を理解しているつもりだ。
ぼたんに全幅の信頼を預けて地下牢を後にし、階段を駆け上がる。
そして1階へと戻ると――
「――――」
衝撃の現場に言葉を失った。
「――!」
腹から流血して倒れるわため。
大至急駆けつけて呼吸を確認――息はある。
「わため! わため!」
わためと分かれて5分も経っていない。
この僅かな時間に、一体何が……。
まつりの呼びかけにも応答はなく、軽く応援してみるが意味はなかった。
流血は腹の傷からだが、その傷口は非常に大きい。
一筋の斬撃痕と見られる。
わためを斬った犯人はもう、この場にはいない。
わためが憂いていたノエルの戦いの行方も気掛かりだが、まつりは自分の任務を優先して4階へと向かい、放送室を探したのであった。