ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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90話 鈍器――打撃

 

 床が抜けて1階南口前へと落下したノエルとアキロゼ。

 天井の穴から声も聞こえなくなり、一同は其々の戦いに赴いたようだ。

 

 アキロゼから受けたダメージは蓄積されているが、まつりの応援もまだ効果が残っている。

 そしてアキロゼも、わための一発で肩を撃ち抜かれて負傷中。

 先程まで防戦一方だった戦いも、攻めに転じられるだけの舞台へと変化した。

 

「ひとつだけ、聞いても?」

「何?」

 

 お互いの休息時間としてノエルはとある話題を切り出した。

 既に2人とも呼吸が乱れている。

 

「洗脳でも、昔馴染みでも無いのに、どうしてそっちについとんの?」

「特に大した理由は無いよ。戦いたい、強くなりたいって思いの中、偶然出会っただけだから」

「誰に?」

「AZKiちゃんに」

 

 その返答にノエルは既視感があった。

 想起に数秒を要してリンクしたのは、あやめの語った経歴だ。

 強さを求めて。

 その志を同じくした者が、邂逅の違いにより全く異なる道を歩んでいる。

 

「AZKiちゃんの目的を知ってやっとるん?」

「さあね。アキロゼはあまり、そう言うのに興味無いから」

 

 あやめとアキロゼの所属が逆の未来を想像しかけたが、その発言で妄想は潰えた。

 強くなりたいという思いが根底にある事は同じだが、芯が全く異なっている。

 アキロゼの心が真っ黒とは言わない。

 きっと環境に順応し、強くなる為騎士になれと言われれば、正義を振り翳して戦うのだろう。

 それでも2人の明確な違いを発見できた気がするので、もう十分。

 

「そんな事より決着つけようよ」

「そうじゃね」

 

 アキロゼが催促する様に構えた。

 現在のパフォーマンスならば、ノエルにも勝機はある。

 

 アキロゼは拳、ノエルはメイスを突き出して牽制する。

 

「ふっ!」

 

 飛び出しから物凄い速度。

 一直線に空中を飛んでアキロゼが迫り来るので、拳を貰う覚悟でタイミングを見計らい、メイスを振るう。

 バキッとノエルの甲冑に更なる凹みを与える強烈な拳が直撃。

 それと同時にアキロゼの頰にメイスが衝突――する直前に逆方向へ跳ね返る。

 急な反作用のみの挙動に右腕が持っていかれそうになるが、タダでは転ばない。

 身体を反作用に合わせて倒す様に右方向へ流しながら、静かに足を払った。

 視覚外の動作に対応が追いつかず、アキロゼがひっくり返った。

 

 飛び込む様に両足が地を離れ、あわや顔面から床に着地といった所で右手を力強く地面に付け、倒立で着地。

 

「部位分割」

 

 床一面に均等なマス目が所狭しと割り振られた。

 アキロゼが倒立するマスは……。

 

「早すぎ!」

 

 アキロゼは天井まで跳ね上がっていた。

 休みも何も無い。

 そして天井で跳躍し、頭上から一撃。

 ノエルの元いた床が割れてマス目に歪みが生じた。

 

 床にめり込んだ拳を抜き取りまたノエルを捕捉する。

 

「――?」

 

 ノエルの右手に握られていたメイスが消滅していた。

 どこに消えたのだろうかと、一瞬意識を割いたのだが、その隙にノエルからモーションが。

 

「プッシュアップ!」

「っぐ!」

 

 ノエルが指をパチンと鳴らせて0.5秒ほどでアキロゼの顎に衝撃が走った。

 下から上へ、鉄の硬度を持った何かが直撃したらしい。

 

 仰け反ったアキロゼが勢いのまま後方に倒れ込む。

 やはり視覚や意識の外からの攻撃は通る。

 跳ね上がって地に転がるメイスをノエルは拾い上げた。

 

「ったた……妙な技を使うんだね」

「結構脳筋なんじゃけどね」

 

 ノエルは戦闘においては頭が硬い方である。

 その為基本的にパワーでゴリ押すタイプ。実を言えばアキロゼのようにパワーで押し勝てない相手は大の苦手なのだ。

 

 アキロゼにも少しずつ疲弊が目立ってきた。

 撃ち抜かれた肩の出血は止まっているが、まだ傷は痛むようで時折気にする素振りを見せる。

 先刻の攻撃も上手く顎に当たって相当響いたはずだ。

 メイスを手放すのは危険だが、この戦法でいこう。

 

 ノエルがあやめ級の反応速度を持っていれば、こうも苦戦しなかったが。

 

「……」

 

 いや、無い物ねだりも仮定の話も無しだ。

 できない事はできない、出来ることをやる。

 

 再びアキロゼが飛び込んできた。

 やはり早い。

 真正面からの攻撃でも、回避の手が選べない。

 拳が眼前に迫るので咄嗟に左手を上げた。

 

「うぶっ‼︎」

 

 鼻先への直撃は免れたが、軌道の逸れた拳が左手越しに頬を撃ち抜く。

 瞬く間に腫れ上がって、口内に血の味が広がる。

 連続して鎧の剥がれかけた腹部に一撃。

 

「うっぐ⁉︎」

 

 バキン、と鈍い音を立てて甲冑が砕け、破片がパラパラと落下した。

 腹からインナーが剥き出しになる。

 

 攻撃は止まない。

 アキロゼは全身隈なく攻撃を連打して強襲する。

 ノエルが捌けた打撃は2割にも満たない。

 致命傷となる攻撃と意識を割かれそうな攻撃に重点を置いて手やメイスを合わせるのだが、それでも威力減程度。

 甲冑はみるみる砕けていき、打撃に押されたノエルは壁際まで。

 一度ハマると抜け出せなかった。

 

 ダダダダダダッ、と拳の嵐に血を散らす。

 次第に意識も薄れていく。

 もう勝機を感じ取れなかった。

 ここからの打開は浮かばない。やがてノエルは暗い闇の底に意識を落とすこととなるだろう。

 なら――!

 ラスト一撃に賭ける。

 勝って兜の緒を締めよと。騎士団でも、以前の職でも口を酸っぱくして言われたし、言ってきた。

 この強敵が、勝って兜を脱ぎ捨てることを願う。

 

 ドンッ!

 と、最後の衝撃はどの一撃よりも重く響いた。

 壁と拳に挟まれて腹が捩れる。

 口から吐き出た物の中に血も混じっていた。

 

 アキロゼがそっと拳を引き抜くと、支えを失ったノエルの身体がずるりと滑って床に倒れた。

 

「……ふぅ」

 

 顔は血で汚れ、全身の打撲痕も酷い。

 ノエルはもう動けない。

 

「いっ……」

 

 右肩をぎゅっと押さえ込んだ。

 左手に赤々とした自身の血が付着する。

 どうやら傷口が開いて再出血したらしい。

 が、今後の行動に大きな影響はない。それに、運良くシオンと出会えば傷は治る。

 

 アキロゼは最後にもう一度ノエルの様子を確認した。

 本当に意識は無いのか。本当に勝利したのか。

 

 ……血に溺れるような呼吸音だけが聞こえる。

 

 ぴくり、と右手が痙攣した。

 

「――!」

 

 一瞬驚いて構えるが、それからは動かない。

 ――ぱちん。

 

 血で滑って良い音は出なかったが、ノエルの指が鳴った。

 その瞬間、アキロゼの顔面に強烈な一撃が放出された。

 

「っぐ――!」

 

 唐突な攻撃は回避も反射も間に合わず、綺麗に顔面を撃ち抜く。

 

 壁からメイスが飛び出して、顔面に直撃したらしく、ゴロンとメイスが床に転がった。

 

「ぅっ――!……!……ぅあ」

 

 ダメージの入り方が悪く、アキロゼの意識がぼやけ始める。

 数秒間を喘ぎながら耐えるも、意識は闇の中へと消えた。

 

「ぷっ……しゅ、あっ……ぷ」

 

 ノエルの頭が数センチ持ち上がり、何やら技名を懸命に口にした。

 ラッキーアタックに気持ちが昂り、こんな状況でも格好つけたくなったようだ。

 血液を飲みながら小さく微笑を浮かべて――ぱたりと気絶したのであった。

 

 

 1階南口の戦い、ノエルvsアキロゼ――引き分け。

 

 

 

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