ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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92話 風雪

 

 施設の何処よりも照明が薄い場所――それが地下牢。

 点々とランタンが吊るされており、牢屋の内側には照明一つない。

 地下なので当然、太陽光も月明かりも差し込みはしない。

 

 そんな視界の悪い通路上で睨み合う者が2名。

 雪花ラミィと獅白ぼたんだ。

 ぼたんと同行したまつりは、ルーナの解放に時間を要すると感じるや否や地下牢を後にした。この場をぼたんに丸投げして。

 

 牢屋内には1人だけ、ルーナが幽閉されている。

 

「鍵はあんたが持ってんの?」

「いーや、持ってないよ」

「そっか」

 

 事実であれ嘘であれ、ぼたんには戦う以外の選択肢が無い。

 人を眠らせる得体の知れない能力者だが、無条件で発動できるほど能力は万能ではない。また、ラミィはぼたんの能力を深く知らない。

 

「ま、どの道こうなるわけだし、どっちでもいいけど」

「同感」

 

 ラミィは両手に持つ剣の先端をぼたんに向けた。

 特有の金属光沢も、この薄明かりでは煌めかない。

 

「手綱」

 

 正面を切っての不意打ちが成功した。

 ぼたんの両手から伸びた麺がラミィの四肢を拘束、更に全身も巻き付けて雁字搦めに。

 これで終われば楽なのだが……。

 

「サンザシ」

 

 しゅっ、とぼたんの両手にかかる負荷が消滅し、後方によろめいた。

 一瞬何が起きたのか把握できなかったが、空中を漂う2本の剣を目にして収拾がつく。

 伸びた麺を浮遊する剣に絶たれたようだ。

 

 見せびらかすように3回ほど剣が回転した。

 

「便利だな、それ」

「いいでしょ」

「なんて能力だよ」

「そっちこそ、変な糸出して」

「糸じゃない、麺だ」

「硬すぎじゃない?」

 

 ラミィの能力を見るだけではその実力を測り辛い。

 ぼたんは見た通りの能力なのだが。

 

 ラミィはクスリと笑って左の腰に携えた短刀を抜き取った。

 ニヤけたラミィの歯のように、きらりと小さく光る。

 

 突撃するラミィに呼応して2本の剣もぼたんへと飛来する。

 どうしたものか悩ましいのだが、悩む暇がない。

 

 しかし冷静になれば何も脅威は無かった。

 3方向から刃が迫れど、ぼたんの麺は四方八方への伸縮が自在。

 刃に触れれば千切れる麺も、柄を捕らえれば動きを封じられる。

 なのでその通りにした。

 

 ぐっ!と力一杯3つの刃を拘束した。

 所が、想像以上に浮遊する剣の自由が効いており、自力で脱出しやがる。

 

 先の思いは訂正――やはり脅威だった。

 

「きっ!」

 

 一度全ての麺を解き、適度な隙間を探す。

 その隙間から近場の檻に向かって麺を伸ばし自身の身体を檻まで引き寄せる。

 

 ぼたんの残像に2本の剣が刺さっていた。

 

 自爆でもしてくれれば助かるのに。

 

「いい動き。ラミィももっと運動能力が高ければなぁ〜」

「今から更生するか?」

「更生? ラミィはぺこらちゃんが間違ってるとは思ってないよ」

「そうかい!」

 

 会話を切り捨てる様に言い放つとぼたんは再び麺を伸ばした。

 左右から四肢を縛る様に接近させれば対処を迫られる。伸びる面の速度に人の足は間に合わない為、対処法は剣で切断。

 浮遊する2本の剣が麺を断ち切ろうと動き出した瞬間に、ぼたんは空いたラミィへの直線通路を駆ける。

 

「っ!」

 

 ラミィが右手を振り上げたので一瞬ナイフ投げを危惧したが、折角のアドバンテージをぼたん相手に捨てまいと思い至り、対処は保留。

 あと半歩で互いに手が届く位置まで来ると、麺を切断した2本の剣がぼたんに牙を剥く。

 

 しゅるっとラミィの股下に麺を通し、奥の鉄格子に巻き付けると自身を引っ張った。

 物凄い勢いで収縮しラミィの脚を全身で掻っ攫う。

 

「のぅわっ!」

 

 転倒直前、戦いやすい短パンであるにも関わらず、ラミィはパンツを隠す様な仕草を見せていた。

 なので転倒時は手を着くことに失敗し、見事に顔面を床にぶつける。

 

 この好機をぼたんは絶対に逃さない。

 ラミィの転倒に合わせて一時的に機能不全を起こす2本の剣を近場の鉄格子に押さえ付け、麺でぐるぐる巻きにしてしまう。

 いくら自在に操れるといえど、ここまで束縛されれば自力での脱出は不可能だ。

 

 更に倒れたラミィの背に跨り小刀を取り上げると、両腕を背中に回させて拘束した。序でに麺で巻き付ける。

 

「い゛ったぁ〜い! 痛い! 顔痛い! 片手、片手でいいから離してぇ〜!」

 

 鼻を打ったのか涙目で振り返り訴えるが、生憎ぼたんは敵に同情するほど優しくない。

 そのまま引き摺って鉄格子に括り付けようかと思案していると――。

 

 パチンと音がした。

 弱い鎖や釣り鉄が切れた様な音。

 そして直後より迫る灯り。慌てて視線を送れば外れたランタンが飛んでくるではないか。

 反応が間に合わず、飛び退く羽目になった。

 

 パリン、とランタンのガラスが割れて中の炎がラミィの背中に撥ねた。

 

「アッツ! あつっ、あっあっ! あついあつい!」

 

 四肢を束縛されているのでゴロゴロと床を転げ回って消火。

 

「ふぅ……んっ!」

 

 鎮火した後は熱で脆くなった麺を引きちぎって復活。

 まだ距離の近いぼたんを無視して懐から短刀を取り出す。

 

(何本仕込んでんだよ……)

 

 操る物を常に装備している抜かりの無さに敵ながら感心した。

 その短刀で2つの剣を解放し、ラミィは再び万全の状態に。

 いや、万全以上だった。

 

「パンツ覗こうとして、ラミィを縛って、火までつけたの、もう許さないから」

「……いや待て、2つは誤解だ」

 

 ラミィを縛った事以外は意図したことではない。

 特に着火は自業自得だ。

 

 ぼたんは小さく突っ込んでラミィの動向を伺う。

 すると――

 

 かちゃっ。

 

(――⁉︎)

 

 片手を牢屋の錠に当てると鍵が開いた。

 その牢屋の中にはルーナがいる。

 

「おい! お前――」

 

 ルーナもぼたんも全てを理解した。

 迅速に動き出すも2本の剣に阻まれ時間を食っている間に……。

 

 ラミィは枷で繋がれたルーナに真っ直ぐ歩み寄る。

 ルーナがぼたんに儚い視線を向けた。

 

「んなたんの事は気にしないで」

 

 表情と言葉が悪かった。

 それはぼたんの桎梏となってしまう……。

 

 ルーナの頭に手を置き、ラミィは微笑を浮かべる。

 じゃらじゃらじゃらじゃら。

 四肢に繋がる枷にも触れてルーナを解放、牢屋からルーナが出てきた。

 

 ぼたんを遠ざけていた2本の剣がルーナの手元へゆっくりと納まり――

 

「じゃあ、2対1ね」

 

 ルーナとラミィがぼたんへ刃先を向けた。

 

「ンっ……! てンめッ……!」

 

 ギリギリと歯を軋らせて怒りを露わにする。

 額と拳に血管が浮かび上がり、瞳が血走る。

 

「ごー、ルーナ姫ぇー!」

「――!」

 

 ラミィの号令に呼応して肉薄するルーナ。素早さは無く回避は容易い。

 ルーナはかなたと違って、戦えない王族だ。

 ぼたんであれば赤子の手を捻るように呆気なく片付けられるが……。

 

 ザキんっ――。

 

 剣は地面に直撃し反動がルーナの手に。

 後退したぼたんに迫り来るラミィの短刀を先程奪い取った短刀で受け止める。

 ラミィの背後からもう一度ルーナが襲い来るがその身体を麺で縛り上げる事で動きを止めて――

 

「カルミア」

 

 ピュン、とルーナの手を離れて、剣が1本ぼたん目掛けて飛来する。

 避け切れない!

 

「い゛っ――」

 

 力一杯ラミィの小刀を弾いて右側へ跳ね退くが、剣は脇腹を掠め小さな切り傷を作る。

 しかも、そこから軌道を修正してもう一度狙ってきやがる。

 

 柄を巻き取って一時的に行動を封じ他の攻撃に意識を割く。

 ラミィが肉薄していたので咄嗟に回避するとその先をルーナが狙っていた。

 ひとつの長身の剣を短刀で受け止めている間にルーナの全身を麺でぐるぐる巻きに。

 

 次の瞬間には浮遊する剣がぼたんを1突きにと差し迫るので回避を――

 

「――っ‼︎」

 

 剣の軌道上にぼたんとルーナがいる。

 ぼたんは回避できるがルーナは出来ないし、恐らくさせる気もない。

 ぐるぐる巻きのルーナを左方向へ倒して転ばせながら、ぼたんも同方向へ飛び込んだ。

 

 そこへラミィの追撃が迫るが、地面に倒れる瞬間2、3度転がってナイフを回避。

 勢いのまま立ち上がる。

 諦めの悪い浮遊剣が再三ぼたんを狙い直進。

 後方からはラミィ。

 上手く衝突させようと画策しギリギリまで引き寄せる。

 

(まだ……まだ……まだ……今――!)

 

 ここぞ!と言うタイミングで躱した、つもりだった。

 

「ふっグッ……」

 

 正面の浮遊剣でも、後方のラミィでもない。

 新たなる横槍――ならぬ横剣に腹を貫かれた。

 

「…………」

 

 ルーナを巻いていた麺がいつの間にか切り裂かれていた。

 先刻の攻撃を回避させた時、浮遊剣が麺だけを切っていたのだ。

 

 ザシュッ、と剣が独りでに抜き出るとびしゃっと血飛沫が舞う。

 

 血反吐を撒き散らして膝をつくも、まだ意識は手放さない。

 まつりの応援の名残りかは不明だが、まだ倒れない。

 傷口に速攻で麺を巻きつけて強引な止血をすると、力を振り絞って立ち上が――

 

「はいカチッと」

 

 ラミィがぼたんの脇腹付近に触れた途端、眠ったように意識を失った。

 

「よしよし、流石ラミィ、完璧」

 

 自信過剰に鼻を鳴らして1人ふんぞりかえると、剣を仕舞い、ルーナとぼたんを檻の内に閉じ込めたのだった。

 

 

 

 地下牢の戦い、ぼたんvsラミィ。

 勝者、ラミィ。

 

 

 

         *****

 

 

 

「ねぇ、まだ行かないの?」

「今確認したけど、まだばらけ過ぎてる。もう少し全体的に上の階に押しあがってからかな」

 

 森の影から北口を観察するふたつの影。

 沙花叉クロヱと鷹嶺ルイだ。

 ルイは先まで開いていた本を閉じる。

 

「いろはちゃんは? 放っといていいの?」

「1番欲しいけど、隙がなさすぎるよあの子」

「ルイ姉が指示をくれたら捕まえてくるよ」

「沙花叉は強いと思ってるし信頼してる。だけどあの子の強さも異常だからさ。今沙花叉を下手に負傷させられないんだよ」

「――ん、分かった」

 

 切り株に横並びで座る。

 クロヱの頭に手を乗せてルイは優しく撫でた。

 

「にしてもやっぱり妙なんだよなぁ……」

「何か変な事でもある?」

 

 ルイは一度本を開き、すぐ閉じた。

 クロヱの円な瞳を見つめ返して答える。

 

「今この場所にそらちゃん以外のJPホロメンが全員集まってんだよね……」

「ほへぇ〜、確かに凄いかも」

 

 確率としてはほぼ発生し得ない。

 それが現に起きてしまっている不思議。

 4大能力を調べる者として、もはやここにあの能力が関わっていないとは思えない。

 

「最後の1人『魅惑』の能力者がこの中に居るっぽい」

「『魅惑』……」

「しかもその人には、ホロライブの記憶があると見られる」

「じゃあ、見つけやすいんじゃない?」

「ふふっ……実はもう、既に1人目を付けてる人が居るんだよね」

 

 ルイの不敵な微笑にクロヱが流石と褒めちぎる。

 

「シエロソニードで私たちの組織名を聞いて、唯一驚いてた人――宝鐘マリンが怪しいと思う」

「宝鐘マリン……は、えっと……3期生の先輩!だったっけ?」

「正解。覚えれて偉いねぇ」

「えへへへ」

 

 ルイはクロヱの頭を撫で回して褒めてやった。

 クロヱはとても嬉しそう。

 

「全体的に押し上がったら、仲間を増やしつつ上を叩きに行くよ」

「うん」

 

 ルイとクロヱの野望が水面下で蠢き始めていた……。

 

 





 登場キャラ設定プロフィール18

 「鷹嶺ルイ」
 能力……プロプロの実
 能力名の由来……シナリオライター
 出身……???
 好きな物……壮大なストーリー、尊敬、ダジャレ
 嫌いな物……退屈、仲間、無関心

 「沙花叉クロヱ」
 能力……マタマタの実
 能力名の由来……#またまた沙花叉
 出身……???
 好きな物……鷹嶺ルイ、戦闘任務、化学
 嫌いな物……任務失敗、読書、ルイの敵
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