3階から4階へ。
マリン、ポルカ、フブキ、みこが到達した。
ここまでで既に多くの仲間が分散したが、一体どれほどのメンバーが戦っているのだろう。
皆の無事と勝利を祈りつつマリンはまだまだ駆け上がる。
そこへ1人の女性が現れる。
「ミオ!」
誰よりも早くフブキがその名を呼んだ。
そのミオが中央ホールのど真ん中で両腕を構えて一味に向ける。
「ニエベ!」
みこが素早く氷を生成して防壁を完成させた直後、ミオが発砲した。
パリパリパリ……と氷塊が砕けて床に散らばる音がしつこく聞こえる。
硬くないこの壁は一瞬で破られるだろう。
「みこが残る! みんなは先に行ってて!」
3人に背を向けて氷塊が割れる時を待つ。
マリンに同行しろと指示を与えられたのはポルカのみ。それ以外は各々が正しきことを成すだけである。
だからマリンからすれば、誰が誰を相手しようと構わない。
それでも躊躇するような表情でフブキを一瞥したのは、やはりここまでの航路での彼女の成長を実感したいと期待したからだろう。
「みこちこそ先行ってて」
「――んにゃ?」
半ば強引にみこの肩を引いて立ち位置を入れ替えた。
もう間も無く薄氷は砕ける。
「まだあの人と出会ってない。私たちじゃ勝てない」
「――確かに!」
みこはギリギリまで温存すべき戦力だ。
3人からの改まった評価に頬を赤らめて「しかたにぇなぁ!」と叫ぶと、戦場をフブキに譲った。
「よーし、任せた!」
3人はフブキを置いて階段を更に進む。
パリンと崩壊して消滅する氷塊たち。
「もっかい、ニエベ!」
もう少しだけ時間稼ぎと、みこは置き土産に助力して階段の上へ。
フブキがそちらに視線を向けるとマリンと目が合った。
「フブちゃん。ん‼︎」
最後の最後、死角へと潜る直前。
マリンは拳を握り、ガッツポーズをフブキに送った。それはもう、最高の笑みと力で。
背後でポルカもニヤリと笑っていた。
(大丈夫だフブちゃん。あんたはあたしに勝ってる。船長とあたしは知ってんだ……お前の強さを)
そうだ、フブキの強さは精神だけに留まらない。
誰もが尊敬し憧れる不屈の魂に加えて、彼女自身もまだ知らない、真の力を有している。
あとはたった一つだけ。
(自分を信じろ、フブちゃん‼︎)
最後尾のみこまで姿が見えなくなった。
フブキは小気味良くなって小さな笑みを浮かべる。
その笑みは戦場で不要だ。なのでそっと口角を下げて一度無心になる。
小さく深呼吸するとお腹と胸の辺りが僅かに膨らんだ。
みこの残した氷から漂う冷気を吸い込んでしまい、喉が冷えた。
その間も射撃は幾度となく氷を削っている。
「……よし!」
心の整理がついた。
間も無く氷が破られる。
開戦は氷解と共に――――。
パキンっ。
砕けた途端、撒き散る氷に紛れて石ころの弾丸も飛翔していた。
どれもフブキには命中しないが、今度は視界が開け、確実に狙って放ってくる。
「ラブスコール」
フブキの声にミオの眉毛がぴくりと動いた。
しかしそれだけ。
指先という銃口を向けて、手中にプラスチックや石ころを装填する。
折角の再会もミオには敵対意識しかない。
語りたい事は山ほどあるが、それは洗脳が解けてから。そしてフブキに解く手段はない。
だから一度ミオをノックアウトする。そう決めている。
「
装填完了を視認したフブキが右方向へ駆け出す。ほぼ同時にミオは攻撃を再開した。
フブキの周囲に石やプラスチックが突き刺さるが幸いにも命中はしない。
やはりおかゆの言う通り射撃性能は高くない。
只管幸運を願って、フブキはミオの周囲を駆けながら徐々に距離を詰めてゆく。
心的距離は物的距離に比例する。
フブキが接近するにつれてミオの射撃の勢いが弱まっていった。
「ミオは私が好き! 好きな人は撃てない!」
ミオの心に無理矢理割り込んで、身勝手な好意を押し付ける。
初めて実践したが想像以上に効力が低い。物的距離が遠いからなのか、洗脳による心の侵蝕で効き辛いのか。
何にせよフブキは武器を持っていない為、距離を詰めなければならない。
ミオの威勢が弱まっているうちに距離をもっと詰めた。
「
「えっ⁉︎」
距離を詰めるにつれミオの動きは鈍くなったのだが、技を変えて攻撃範囲を広げてきた。
何を握り込んでいたのやら、発砲した直後に球が空中で小さな爆発を起こす。
想定に無い攻撃手段にフブキは少し後退させられた。
「ミオー……危ないよ」
冷や汗を流して笑いかけて見るがやはり好感を持ってくれない。
そうやってミオの目を見つめていると、突然瞳の奥が発光を始めた。
ポルカとトワからの情報によればアレは――
「
「ひぃー!」
情け無い叫び声を上げて左へと飛び込んだ。
フブキの残像のお腹付近を光線が貫く。
「――――」
ミオが両手を前に突き出し、かめはめ波を放つようなポーズを取った。
いや、ミオならそれも出兼ねない。
ばちばちばちばち……
ミオの構えた手中で放電が発生。
次第に電気が蓄積されて――
「
(話と違う――‼︎)
技のレパートリーが豊富すぎる。
仲間から得た情報は岩石銃、古式銃、星の光線銃のみ。
爆破銃も電撃銃も完全に意識外。
全てが銃系統の技である事に違いは無いが、攻撃範囲や威力差が大きく対処法も異なる為見極めが大変だ。
ミオの両手から広範囲に拡散される電撃。
電流を回避できるはずもなくフブキの全身には瞬く間に電気が巡る。
「ッ――!」
空気中と体内の微弱な電気を元に発しているからか、威力はスタンガンにも及ばない。
それでも全身に電気が巡れば体は一時的に麻痺する。
感電なんてフブキの人生では初めて。
足が痺れたような感覚が全身を襲い、立ち上がる事もままならない。
舌も痺れて声が出ない……。
フブキにミオの眩い眼光が突き刺さる。
コレばかりは――避けれない!
「
「っ――‼︎」
腹に瞳サイズの穴が空いた。
小さな穴だが火傷以上の熱さを感じて悶えそうだ。
否、悶絶したかった。でも身体が言うことを聞かない。
絶句するように声を詰まらせてその心情を必死に表現した。
目元に雫が浮かぶ。
しかし、人体への被害は少ない方だ。
痛みはあるが、この程度なら痺れさえ取れれば動ける。
「ぅっ! くっ……!」
フブキが右手を地についた。
ぷるぷると子鹿のように震えていて、今にも倒れそうだがその態勢を保つ。
更に左手もついて、右膝を立て……と過程を経て立ち上がる。
「
「っ!」
フブキの復帰を易々と見逃したりしない。
迫る追撃に反応して右手に飛び込むが左肩にビームを喰らう。
「イッ……」
左肩を動かすと痛みが走る。
左手を動かせない。
ミオが再び視線を向ける。
光の吸収を始めた。
「…………」
刹那――フブキの脳内で渦巻く数多の感情。
次攻撃を受ければ、勝算は絶望的なまでに下がる。
流石に倒れ込んだこの状況からでは、溜め時間があるにしても躱しきれない。
結局、負けるのか。
――いや、ダメだ。諦めるな!
それが取り柄だと皆から教わった。
――――。
フブキは海賊になりたくて海に出た。
宝鐘海賊団に入ることもできた。
ところが、フブキの戦いには一度も白星がついていない。
おかゆは、弱くても心の強いフブキをいつまでも尊敬していると、そう言ってくれた。
だからあの時は、いつまでもそう有りたいと思った。
でも――やっぱり嫌だ。
いつまでも心は強く有りたい。けれど、いつまでも弱いままでいたくない。
ミオ、ころね、おかゆを海賊の道へ誘ったのは誰だ?
フブキだ。
フブキは船長になりたかったはずだ。皆を導き、護りたかったはずだ。
今の自分を見つめ直せばどうだ?
一味の中の最弱ポジションで、守られる役じゃないか。
そんなの海賊じゃない。
昔夢見た海賊は――勇敢に大海原へ飛び出して、襲いくる敵を薙ぎ倒して、山のような財宝を抱えて――。
立ちはだかる敵1人に苦戦していてどうする。
将来、ミオを守るんだろ?
そのミオに負けてどうする。
将来仲間を守り、敵を撃ち倒すんだろ?
仲間より弱くてどうする。
敵より弱くてどうする。
お前はこのままでいいのか、白上フブキ。
――――。
(よく……ない!)
このままで、いいものか‼︎
「
「ッ――!」
放たれたレーザーガン。
飛び退いたフブキの右脚を穿つ。
強烈な痛み。
痛い、痛い――痛いけど――!
不屈の精神!
傷口は小さくとも、フブキの負傷はかなりの痛手。
左手は上がらないし、歩く事もままならない。
それでも――痛くても――フブキは立ち上がった。
「ミオ――。私は弱いままでいたくない。この先ミオも、ころねも、おかゆも、そして一味のみんなも守れる様な存在になりたい!」
「――」
「だからミオ。この先皆を守るために、今はミオを倒す」
ミオの瞳に再三集まる光。
フブキは凛々しく表情を引き締めた。
「私は――強くなる‼︎」
刮目してフブキも能力を展開。
いつも通りそこにはミオの弱点が映し出される。
「サーチスコー――――⁉︎」
何だろう、この感覚は。
力が漲っている。腕力も脚力も体力も、何一つ変わらないのに――全身を果てしない力が駆け巡る。
こんな体験は記憶に一度も無いが、直感した。
そうか――これが白上フブキの才能――。
スコスコの実の、覚醒!
「――ラディカルスコープ‼︎」
バチン――――。
「――⁉︎⁉︎」
勝利宣言のような一声で全ての照明が落ちた。
ブレーカーダウンではない。
フィールドは暗闇に包まれた。
光の喪失でミオの瞳から輝きが消滅する。
転がる石も見えず、手元にある残骸しか弾がない。
だがどの技を使うにも、標的が見えず攻撃できない。
無闇に撃って弾を浪費するなんて愚かな事。
「
撃てる技が限られた結果最も殺傷能力の低い技を放つ。
ただの空気砲だ。
口からぽんぽんと連射するが軽く後方へ押し返す程度の威力しかない。
負傷してバランスの悪いフブキにはまだ効くが。
しかし中々命中しない。
この停電の恐ろし所は、本当に光がなくなった事。
窓の無い空間、上階下階からの光も何故か遮断され、本当に何も見えない。
「ミオはその技が嫌い! 嫌いな技は使いたくない!」
暗闇からフブキの声が届いた。
四方八方を見回すが何も見えない。
しかも、何故かその言葉通り空気砲を撃ちたくなくなった。
「
深く考える事もなく爆発する銃撃を放つ。
ばばばばばっ!
(見えた――‼︎)
フブキの誘導は成功。
ミオの目前で軽い爆発が起こり、敵の位置が破れる。
しかもミオはフブキの位置が分からないまま。
「ィッ――‼︎」
フブキは一歩踏み込んだが、右脚に強烈な痛みが走る。
目頭に涙を浮かべて――我慢!
一瞬の記憶を頼りにミオとの距離を詰めるが、ミオも流石に察知して闇雲に走り出す。
足音でそれが分かった。
なら――
チカッ!
「っ――⁉︎」
照明が元に戻り世界に光が注がれると、お互いの姿も露わになる。
突然の点灯にミオは目が眩み動きが止まる。
しかしフブキは目を細めていたために瞳へのダメージは弱く、走り続けることができた。
ミオの姿を小さな視界の中で捕らえて急接近。
不屈の精神――脚の痛みなんて無視しろ!
根性は、誰にも負けないだろ!
「――!」
ミオが薄らと目を開くと眼前にはフブキの右腕が――
(ごめんねミオ、殴るよ――1発!)
「りゃぁあああ‼︎」
フブキ渾身の一撃が顔面に直撃。
勢いのままミオの身体をひっくり返して地面に叩きつけた。
「ッぶ――ぐ!」
拳と床に顔を板挟みにされた。
後頭部への衝撃と顔面への衝撃が同時に脳を震わせ、ミオの意識が歪む。
フブキが拳を引くと鼻血が噴き出ていた。
その血がフブキの拳に少し付着している。
「…………」
「ぅ……ぁ」
フブキの見つめる中、ミオは意識を手放した。
「うっ……」
まさか一撃でノックアウトとは、フブキ自身予想していなかった。
入り方が良かった。
引き締めていた力が抜けると右足の激痛も我慢できなくなり、ぐったりとミオの隣へと倒れ込んだ。
同じ天井を見上げ、隣で気絶するミオを横目に見つめた。
「っ……ごめんね。もうこんな事……絶対にしないから」
この先2人が敵対することなんてない。
何故ならミオはフブキが守るから。
もう昔のような失態はない。
仲間はフブキが守るんだ。
意識のないミオの手を握り、フブキは仲間の到着を願った。
4階中央ホールの戦い、フブキvsミオ。
勝者――フブキ。