フブキを4階に残して5階へと抜けたマリン、ポルカ、みこの3人。
5階中央ホールには誰もおらず、そのまま6階へと進もうとしたその時、とある一室からある2人が現れた。
「――!」
1人は皆の記憶にも強く残る存在。
執拗に一味の前に現れては、航路を妨害してきた――星街すいせい。
もう1人はマリンだけが知る存在、兎田ぺこら。
2人はマリン達の存在を認識した上で部屋から出てきたようで、すいせいが肩を鳴らしながら3人に歩み寄る。
逆にぺこらは北通路の奥へ逃げるように駆け出した。
「――ぺこら」
マリンは迷わず後を追う。
すいせいの横を素通りして。
ポルカもその後に続くが、やはりすいせいは見逃す。
「……マリンたん達、行かせていいの?」
「あの変態はあたしの手に負えにないし、お前を2人同時に相手する余裕はない」
「――?」
「それなりにお前のこと評価してんの。かなり強いってね」
2人が本気で対決した事は一度もないが、互いにその実力を認め合っている。
「さて、じゃあ道は塞ごうか」
すいせいが壁にそっと触れると、壁の一部が外れて中央階段の出入り口を封鎖した。
みこめっとだけの戦場が完成する。
「負けたからって泣くなよ?」
「安心しなー! みこがしっかり泣かせてやっから!」
「いいじゃん、やってみろよ」
すいせいの手元に数多のブロックが集まって1本の斧を形作る。
みこは自身の服をはためかせ、軽く能力の具合を確認する。
両者、能力心持ち、ともに良好。
――――――。
哀しき決闘の開幕である。
*****
5階北通路を走り抜け、マリンとポルカは北側の階段へ到達。
ぺこらはどうやら更に上へと逃げたらしい。
「船長、罠っすよこれ」
「分かってますよ」
ポルカはその時点で口を閉ざす。
万が一マリンが敵の思惑を理解していなければ、と思ったが、流石に理解していたので。
2人は躊躇いなく階段を駆け上がり6階へ。
階段はここで途切れているが、それが本来の設計の様に思う。
ここが最上階なら、6階中央ホールに向かったのか。
「……」
通路の先に視線を向けると、薄明かりの中ぺこらが佇んでいる。
まるでマリンを待つ様に。
「――」
マリンが飛び出すとぺこらも合わせて逃げる。
マリンとポルカ、たった2人の戦力でぺこらを追うが……。
突如ビュン、と駆けるマリンを鉄の棒が襲う。
ポルカは抑えていた速度を上げて一気に攻撃との間に割って入ると、鉄の棒を蹴り飛ばして軌道を変えさせた。
地面に鉄が突き刺さる。
「――――」
ポルカはここで立ち止まり、マリンは黙ってぺこらを追走する。
「悪いなフレア。船長は今忙しいんだ」
「――うん」
とある一室の扉を吹き飛ばしてフレアが現れた。
派手な登場にも誰1人突っ込まず、やがてぺこらとマリンの姿は闇に消えた。
「フレアの能力。あたしはよく知らないけど、フレアもあたしの能力知らねぇだろ」
「複製なら知ってる。ミオちゃんと、アタシと――ラミィちゃんかな?」
「それは正解だけどさ、それじゃない」
「――?」
「フレアくらいサクッと倒せる、最高の力があるんだよ、まだ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
こんな表情、人生で初めてしたかもしれない。
複製でも、マーキングでも、数珠つなぎでもない力。
まだ誰も知らない、ポルカだけの隠し玉。
シエロソニードでの事件が起きるまで、ポルカは一味の利益を考えつつも、一部の力をセーブして行動していた。
万が一の事態が発生した時、自分だけでも助かる様にと。
だが、少なくとも仲間に隠す必要は無くなった。
そして今この場でも、出し惜しみをする理由がない。
能力に加え、激しく脳を使用する為、体力の消耗量は凄まじいが、性能は抜群。
フレア相手に梃子摺る事態には陥らない。
「アタシをサクッと? じゃあ、是非見せてよ」
フレアの足元がバキバキをと異音を発生させて変形する。
変形した床はまるで剣の様な形となり、フレアの手元へ収まった。
その様を目に焼き付けた後に、ポルカはそっと目を閉じた。
「すぅー……はぁー……」
深呼吸して集中力を高める。
1つのミスで未来は大きく変わるから。
「――よし」
開眼。
途端に脳内に流れ出す膨大な数たち。
演算するだけで脳が焼き切れそうになる。
能力なしでは到底捌き切れない数値。
無論、能力がなければこんな数字が脳に溢れることはないのだが。
さあ、いつ動く?
「よっ――」
見兼ねたようにフレアが迫る。
両手剣と化した床を握り締めて力強く。
その剣はポルカの左肩から斜めに切り裂く――予定。
「っ」
鮮やかに身を翻して剣を躱すとそのまま流すように右手をフレアの頰へ当てる――ように見せかける。
対応する為にフレアは能力を発動し床を凹ませるので跳躍して更に躱す。
ポルカの神業的回避に目を疑うフレアを尻目に拳を1発撃ち込んだ。
フレアの脇腹に見事な一撃が炸裂した。
しかしダメージは浅い。
まだまだ畳み掛ける。
「スピアトラップ」
床から計5本、ポルカを狙った槍が飛び出すので上手くステップを踏んで回避。
まさか全てが掠りもしないとは、夢にも思わないだろう。
「ホネブーメラン」
右手に骨を生み出して投函したが頭を右へ倒すと後方へ飛び去る。
ポルカはそこで駆け出した。
フレアが微笑を浮かべて駆け出すから、それに合わせたのだ。
ほら――肉薄してきた。
「――っ!」
ポルカは次の瞬間驚愕した。
そんなことも出来るのか、と。
左手に掴んだ剣を振るって追撃を仕掛けるが回避。
それを見越したようにフレアが右手を突き出すと、彼女が身に付けた上着が変形して右手に収まり、細長くポルカの瞳を狙う。
材質は上着なので硬くはないが、目に当たれば痛い。
勿論当たらないが。
そしてポルカはきちんとタイミングよく身を屈めた。
「――⁉︎」
背後からフレアの元へ帰還するブーメランを喰らわない為に。
ポルカに命中すると思われたブーメランがフレアの眼前に迫り、慌てて上着を着直して掴み取る。
その瞬間が狙い目だ。
最も有効打となるのは――足払いか。
「んっ⁉︎」
防御が疎かになったフレアの両足を引っ掛けて転倒させる。
転倒した所に追撃を仕掛ければ刺さる、と錯覚してはいけない。
フレアはここで床を変形させて迎撃してくるのでそれを回避してから。
「――、――――」
地面から飛び出す槍や剣、更には飛翔してくるナゾのホネ。
押し寄せる攻撃の嵐の合間を縫って、ポルカは悉く躱してみせる。
幾ら鈍感な奴でも、ここまで偶然は続かないと気付くだろう。
――そう、ポルカは未来を見ている。
「――――どうやって!」
攻撃の意味が無いと悟ったフレアは苦し紛れに叫んだ。
その叫ぶ行為すら、ポルカは目に見えていたがきちんと言葉を待った。
「ポルカの能力はカズカズの実。全ての物質を数値として捉えることが出来れば、その動きを計算する事によって、小範囲内の未来くらい導き出せる」
「全てを数値化――⁉︎」
フレアは周囲を見回した。
いつもと同じ薄暗い通路が前方と後方に伸びて、幾つかの扉があって……。
本当に何ひとつ変わりない景色があるだけ。
「一部の能力は覚醒する事により、自分以外の物質にも影響を及ぼす。あらゆる物質に数値を与えた所で、直接的に攻撃や防御へは転化できない」
今フレアが景色を見て変化を感じ取れないように、数値を与えるだけでは何の意味もない。
「だけど、この能力によってパワーアップした計算力で未来演算を行えば、最高の矛と盾になるんだ」
ポルカが構えていれば、の話ではあるが、この力を展開している間はもはや無敵――ではない。
一味内にも、ポルカの力を突破できる者は多い。
しかしフレアには、ポルカを倒すことは出来ない。
戦いはここまで。
「――――」
トドメだ。
「――――」
……2人の視線が絡み合った。
――――――――――
「スッゲェ……」
「えっへへ。アタシが作ったんだ〜……ロボ子さんに手伝ってもらって」
「でもスゲェよ。1人で乗るには大き過ぎる」
「――――」
「フレア、ほんとに来ねぇの?」
「うん。アタシは船とかを作るのが好きだから。まだこの国で、今の仕事で、やりたい事があるし」
「そっか……」
「コレ――!」
「おっ、とと……。あ、通信機か」
「防火防水機能付き。肌身離さず持ってろよ〜。時折連絡すっから」
「ああ」
「泣いたりすんなよ〜。泣いてもアタシ、慰めてやれないからね」
「わぁってるよ」
…………。
「ポルカ――!」
「――」
「……いってらっ‼︎」
「――そっちもガンバ‼︎」
――――――――――
右手を震わすポルカの前に、左頬を赤く腫らし、微笑を浮かべるフレアが一雫を垂らして倒れていた。
「夢から醒めたら、あたしの話聞けよな」
ポルカvsフレア。
フレア――滞在。
ポルカ――その先へ。