ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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97話 ビックバン

 

「ブリズ・プランタニエール」

「リゲル」

 

 吹き荒れる刃風から身を守るすいせい。

 パズル化した環境がすいせいを囲うので、風の刃程度は無効化される。

 

「アルデバラン」

 

 遠距離攻撃を仕掛けて遠くから眺めるみこに、今度はすいせいから攻撃。

 ブロックを現出して猛スピードで突進させる。

 みこの身体能力はすいせいの半分にも及ばないので、近接に持ち込まれてはならない。

 距離を詰められないように意識しながら浮遊で颯爽と躱した。

 

 通過するブロックと浮遊時の風でふわっと髪と服が浮き上がる。

 

「スピカ」

 

 すいせいの周囲にパズル化した床や壁の破片が集まり、()を構成する。

 気休め程度のオート防御装備。

 これで多少の反応遅れならカバーできる。

 

「そんな小細工関係にぇ! シュジョウオニエ」

 

 地に足をつけるすいせいを見下ろし居丈高に手を翳す。

 足元が赤々と変色し今にも溶けそうになったので、すいせいも生み出したブロックに乗り空中へ逃げる。

 直後、遅れて太い炎の柱が一本立ち上がる。

 側に居たすいせいに熱風が押し寄せ、一瞬で汗が溜まっては蒸発する。

 肌がベタベタして気持ち悪くなった。

 

「カウス・アウストラリス」

 

 右手に装備した一本のバルディッシュを力任せに投函。

 物凄い回転と速度でみこを強襲するが、回避できる。

 空中を自在に移動する敵に、一点狙いの攻撃はそう当たらない。

 桜が舞うような華麗さで回避。

 

「バカだにぇ!」

 

 みこが左手を天井に翳した。

 

「ナカザーニエ・スヴィシェ!」

 

 初めは何もなかった。

 だがみこの頭上に雲が生まれ、成長を始める。

 室外なら即打ち可能だが、室内では溜めが必要な大技。

 すいせいの獲物を危険視していたが、手放した今なら。

 

「バカはお前だよ!」

 

 先ほど振り抜いた後、隠していた右腕をみこに突き出して見せつける。

 そう、右手首より先が無い。

 パックリと切り取られたような断面がみこに向いている。

 先程すいせいが投げたのは斧ではなく、自身の右手。

 外れた腕にも指示は通る。

 

「――ッ⁉︎」

 

 思考が追い付き、みこは勢いよく振り返った。

 蓄えた雲が霧散してゆく。

 

 ザシュッ――

 

「にぃ゛ッ――」

 

 そして右腕に走る激痛。

 気が付けば、バルディッシュに右腕を持っていかれていた。

 

 どさっ、とみこの吹き飛んだ右腕が床に転がり、切り口からは激しく出血する。

 すいせいの右手と同じ状態にされた。

 

「――んに……!」

 

 悶絶するみこを尻目にすいせいは右腕を嵌め直した。

 そして後方の床に突き刺さった武器を掴み直す。

 

 その隙にみこは自身の腕を拾った。

 

「ザクリ……ナーニエ」

 

 傷口とピッタリ合わせて治癒を行うと、見事に接合完了。

 全身に脂汗が伝った。

 

「何だよ、治んのかよ」

「おめぇとは格が違うからにぇ」

「涙残ってんぞ」

「っ――うっせぇ!」

 

 激痛によって滲み出た涙を揶揄われ、みこは大慌てで目元を拭い隠蔽。

 しかし、傷口から流れた血液を目元に塗りつけてしまった。

 

「うぇ……血腥い」

 

 顔に付着した血の臭いが鼻に突き抜ける。

 

「――ピーコック」

「おい――待てよっ!」

 

 すいせいの周囲を衛星のように回っていた破片が、孔雀の飾りのように周囲に広がり、流星のようにみこを襲う。

 お互い小休憩の時間だと思っていただけに、不意打ちとなる。

 

 咄嗟に風を巻き起こして切り裂きつつ、速度を殺す。

 そして氷の障壁を生み出し防御。

 隕石が止むと、能力を解いた。

 

「――おめぇにひとつ、聞きたいことがあるんだよ」

「トイレの場所か?」

「ちげぇよ!」

 

 質問するにはタイミングが微妙すぎる。

 消耗した体力を回復する思惑もある。

 すいせいは獲物を構えつつ耳を傾ける姿勢を見せた。

 

「お前、はあとちゃんに会ったことはあるか?」

「はあと――? ああ、あいつか」

 

 AZKiに捜索を依頼された存在。

 結果としてすいせいの偽物とこよりが遭遇している。

 写真の顔が頭に浮かぶがイマイチ特徴を覚えていない。

 

「会った事ねぇし、寧ろ会わせてほしいね」

「……そっか」

「話は終わり?」

「ああ、これで終わりだよ! ヴァン・セゾニエ!」

 

 冷気を纏った風が吹き荒ぶ。

 露出した肌が、瞳が、鼻が、口が……凍り付くよう。

 

「ポルックス」

 

 巨大ブロックを出現させて壁として機能させる。

 視界が塞がるが、一先ず風を凌げる。

 この強風では小物を飛ばしても跳ね返されるので、手を出し辛い。

 

「ニエベ!」

「――っ!」

 

 みこが床に手を付け冷気を放つ。

 瞬く間に凍てつく冷気が床に氷を張り、すいせいもブロックも氷漬けにした。

 焦燥を瞳に浮かべて氷に囚われたすいせい。

 巨大ブロックは消滅したが、みこは驕る事なく猛攻を止めない。

 右手を天に翳し、今度こそ落雷を。

 天井付近に雲を生成し、ばちばちと放電現象を起こす。

 

 ぴきっ……。

 

「ナカザーニエ・スヴィシェ‼︎」

 

 ぱきぃっん――。ドガァッ――。

 

 ――――。

 

 落雷の衝撃で煙が立つ。

 氷漬けからの落雷はほぼ必中。

 回避不能だと思っていたが、みこは妙な気配を感じ自衛の技を放つ。

 

「ブリズ・プランタニエール」

 

 汎用性の高い風技。

 煙を吹き飛ばしつつ、万が一奇襲があれば迎撃できる。

 

 ピシピシピシっ――。

 

「――⁉︎」

 

 ガラスに亀裂が入るような音が四方八方から聞こえる。

 晴れる煙幕から飛び出してきたのは――

 

「ミラク‼︎」

 

 バラバラに分解されたすいせいのピースたち。

 氷ごと身体をパズル化し落雷を回避したようだ。

 そのまま煙に紛れて全方位からの物理攻撃。

 しかも、氷を纏ったままでいる為、数発の風の斬撃はダメージにならない。

 

 体術勝負に持ち込まれては、みこに勝ち目はない。

 

「ゔっ、ぐっ、げっ……」

 

 飛来するパンチ、キック。

 計3発は回避せず受け止めた。

 腹、顔面、腹と食らうが根性で耐え切る。

 何よりも喰らってはいけない一撃があるから、それだけを警戒する。

 そう、先刻みこの右腕を切断したあの武器――バルディッシュ。

 

 だから空中を旋回して再度拳が迫っても、薄氷の装甲が剥がれる迄はこのままだ。

 

 ピシピシッ――。

 

 殆どの装甲が砕けた。

 そう思われるタイミングで攻撃の嵐が止んだ。

 みこも一度風の矛を仕舞う。

 

 みこの背後にすいせいの欠片が集約され、人を形作る。

 

「ビビってたっしょ、コレに」

「――――」

 

 バルディッシュのギラつく刃を見せつけて不敵に笑った。

 みこの格闘能力の低さは完全にバレている。

 弱点は看破されていると見ていい。

 

「海賊始めて半月ほどのみこと互角って、お前弱いんじゃにぇのぉ〜?」

「――」

 

 ガンっ。

 

「ひゅー、おこってんにぇ〜」

 

 安直な煽りに単調な一撃で返す。

 みこは跳躍に浮遊を合わせて大きく後方へ退いた。

 

 床に亀裂を入れた斧を肩に掛けると、すいせいはみこを睨む。

 

「――――?」

 

 すいせいが眉を寄せた。

 その視線はみこの背後を捉えている。

 

「みこち――?」

「バカっ――‼︎」

 

 みこが勢いよく振り返る。

 その視界に飛び込む2人。

 まつりとこよりだった。

 

「みこち! すいちゃん!」

「――! まちゅり!」

「……こより」

 

 三者三様の反応を示す。

 こよりだけがとある部屋への侵入を試みていた。

 そこは、すいせいとぺこらが現れた部屋。

 

「んっ! こっ! こんの‼︎ ロボ子さんか――!」

「こより、そこに何があるの?」

「うるさい! 黙ってて‼︎」

 

 こよりの周りで茶々を入れるようなまつり。

 2人は共謀中……なのか?

 珍妙なコンビに困惑しているとすいせいが飛び出していた。

 

「待てよ星街ー!」

「――っ! チッ」

 

 進路を妨害したがすいせいが床に触れて一部を剥がすと、それらをみこの後方へ飛ばしてきた。

 

「ニエベ、からのヴァン・セゾニエ」

 

 氷の壁を生成して後方の2人を守りつつ、今度は熱気の籠った風を発生させる。

 風で勢いを落とした飛来物がみこの周囲に転がり、勢いを殺しきれないものは壁にぶち当たる。

 

「――ハッ、随分贅沢じゃんか」

「オメェだって、そろそろ限界なんじゃにぇか?」

 

 どちらも能力の使用量が激しく、エネルギーは枯渇気味。

 最早外野に気を配る余裕は無く、ほぼ無視している。

 後方で何か喋っていても、言葉として認識していない。

 

「赤ちゃんと一緒にすんな。基礎パラメーターはお前の3倍はあるから」

「そこまで言うならこの手、捻ってみろよ。簡単だろぅが!」

 

 ぐっと拳を突き出すみこの勇ましさは中々様になる。

 しかし、彼女は拳で戦えない。

 

「いいよなら。そのちっちゃい脳で着いてこいよ、あたしの速度に」

 

 消費エネルギーは膨大だが、すいせいはここで全力を出すことを宣言する。

 挑発の言葉と同時に環境が崩壊するように剥がれる。

 まるでみこの挑発に乗ったようで気が進まないが、監視室に敵が侵入した事を鑑みると、そろそろ本当に戦況がヤバい。

 ここでチンタラしていられない。

 

「アトリア」

「な、なんだ……おっつ……」

 

 天井が、壁が、床がその身体の一部を手放して宙へ浮き始める。

 みこの足元もいくつか剥がれ、周囲に瓦礫の様な立体パズルのピースが漂う。

 更に複数のブロックまでもが出現。その一つにすいせいが飛び乗り、高くからみこを睥睨する。

 

「死ぬなよ。あたしは人を殺しちゃいけないから」

「へっ……気に病まなくても、おめぇじゃみこを殺すなんてできにぇ」

 

 刹那――数多のピースが衝突と反発を繰り返し宙空で荒れ狂う。

 まるで原子の運動を可視化したような規則的で自由な動き。

 その中で唯一自我を持って動くすいせい。

 ブロックからブロックへ、ブロックからピースへ、ピースからピースへ、と猛スピードで空中を疾駆する。

 みこが風を起こしてもすいせいには当たらず、例え瓦礫に当たって砕けてもパズルのように再生してしまう。

 他の技を放とうとすれば、瓦礫がみこを撃ち抜くので、八方塞がりな状況。

 

 初めはすいせいの動きを目で追っていたが、恐ろしい速度に加え、時折目前を通過する瓦礫のせいで見失ってしまう。

 視界から外れた次の瞬間、すいせいは意識的に攻撃を仕掛けた。

 それはたったの一撃。

 どれだけ弱くてもいい。

 みこを一押しするだけの容易い作業。

 

「んに゛ゃっ――!」

 

 背後に回ったすいせいの強烈な蹴り込みで、みこは軽く浮き上がった。

 直後――

 

 ダダダダダダッ――

 

 激しい瓦礫の嵐に全身を打ち砕かれる。

 

「お゛っ、ぶっ、っ、っ、っ、っ――――」

 

 全身に満遍なく、ランダムに衝突するピース。

 みこの吐血が飛散する度に、床の赤い面積が広がる。

 

 能力制御の限界に達したのか、これ以上は殺し兼ねないと思ったのか、すいせいが能力を解いた。

 その途端に瓦礫がバラバラと床に撒き散り、ブロックが消滅する。

 数瞬遅れてみこも地に落ちた。

 反動で一度跳ねて仰向けに転がる。

 

 血みどろでピクリとも動かないし、傷が癒える気配もない。

 確実に気絶していた。

 

 もう数手技を蓄えていたすいせいは、予想より早い決着に暫し呆然としていたが、気絶したみこを10秒ほど眺めると我に帰った。

 

「あいつら――」

 

 監視室に侵入したまつりとこより。

 2人を押さえる為に監視室へと足を進める。

 と言ってもたったの数十メートル。

 

 ものの数秒で辿り着くのだが、その数秒の内に戦況は大きく変わる。

 

 

『みんなァァァァーーーー‼︎ がァァんーーばァァれェェーーー‼︎ ッゲッホ、ゴッホ……』

 

 

 スピーカーから甲高いノイズと共にまつりの応援が施設内に響いた。

 

 

「ッ――――‼︎」

 

 耳から伝わって脳を震わす程の音。

 すいせいは思わず両耳を塞いだがそれでも頭が痛んだ。

 

「……ったく、うっせぇな」

 

 非対象者にとってこの声はただの騒音でしかない。

 すいせいは悪態を吐いて歩みを再開――

 

「…………」

 

 ずざっ…………。

 

「ゾンビかよ――‼︎」

 

 立ち上がったみこに戦慄する。

 相変わらず全身血塗れだが、傷自体は全て回復していた。

 だらだらと血を流し、朦朧とする意識の中でもすいせいの姿を頑として捉える。

 虚ろな瞳と戦慄の瞳が交わった。

 

 がちゃっ、と扉の開音がしてこよりが監視室から出てくるが、2人はその気配を感知できないほど相対する敵に全意識を集中させていた。

 

「ドM野郎」

 

 すいせいが再度バルディッシュを構えて環境に能力を付与する。

 

「……」

 

 みこ自身、もう意識がこの場にあるのか定かではない。

 それでも漲る力が彼女に戦う事を強制してくる。

 

 マリンたんにいい所見せないと……。

 

 仲間にはその能力の汎用性の高さを評価されて、戦闘員なんて役職まで貰ったが、振り返るとみこは仲間に誇れる活躍をしていない。

 これ以上期待を裏切る結果を残したくない。

 勝たなくては。

 

 みこの想いが力に変わる。

 

「ジャルディニエ」

 

 ニエニエの力が、パズル化した環境に更なる変化を与えた。

 人工的に作られた施設の第5階層。決して緑の侵入できる余地などない。

 それだと言うのに――

 

「植物――」

 

 肥えた土壌など1グラムもないこの床一面に茂ってゆく草木たち。

 みこの足元から雑草が広がって人工天然芝生を形成し、その芝生が茂みとなり、凛とした花となり、天井まで届く木となり。

 その植物は宙を漂うピースさえ絡め取り、四方の通路をツルで塞ぎ、完全な人工天然林を室内に生成した。

 

「……ハッ、自分の墓に添える花か」

「――生け贄の園」

 

 戦場が林に変貌したから何だと言うのか。

 すいせいはこの環境の変化に危機感を覚えない。

 確かに植物を操作できるなら、ある程度は強いだろう。

 だがその程度能力で幾らでも――

 

「――! マズイ――!」

 

 全方位が植物に覆われ、コンクリートに触れられない。

 覚醒状態とは言えすいせいが影響を及ぼせるのは自身と無生物のみ。

 生のある植物にすいせいのパズル化能力は適用されない。

 それが発覚した時、己のピンチを理解した。

 

(いや……能力自体は生きてる。まだ、慌てる時じゃない……)

 

 焦燥にブレ始める思考を纏めようと自分に言い聞かせる。

 

「みこの領域に踏み入れたお前は、逃げられない。神は全能なる者。神は獲物を逃さない」

「――――」

 

 口がペラペラと勝手に喋る。

 神は人智を超える存在だ。

 

「グニェーヴ」

 

 みこが両腕を天に翳す。

 また落雷か、とすいせいは放電のタイミングを見計らってパズル化する方向性で回避を目論む。

 まずは溜めが――

 

「――――⁉︎」

 

 コンマ2秒ほどで落雷が発生。

 光に反応してパズル化したが、一部のピースに電撃が走り身体が麻痺した。

 

「ッッ」

 

 分裂した全身に電撃が迸り、電流が弱まると握っていた斧を手から溢してしまう。

 

「アトチェーヤニエ」

 

 園の内側が急速に冷え込み――刹那ですいせいのピースが全て凍り付いた。

 

「――――」

 

 全てのピースを掻き集めるように植物を操り、1箇所に纏めると植物で覆い拘束した。

 パリッと氷の砕ける心地よい音が小さく響いたが、植物が破られることは無い。

 

「グニェーヴ」

 

 最後の力を振り絞って両腕を天へ突き出した。

 天には雲一つできない。

 今まで通りの無の空間で、突如として放電現象が発生。

 その電流は束となり、拘束されたすいせいへ直下――。

 

「――――――‼︎‼︎」

 

 成す術なく雷撃を諸に喰らった。

 

 

 ――――。

 

 

 植物がそっと縮んですいせいが生まれるように現れると、パタン、と芝生の上に仰向けで倒れた。

 受け身もなかったが、柔らかい芝生の上なのでそれによる怪我はない。

 が、既に感電によって気絶していた。

 

「…………」

 

 地に伏すすいせいの姿がみこの両目に映り込む。

 間も無く途絶する意識の奥で何かがみこに訴えかけて来る。

 

(何……?)

 

 分からない。

 正体不明の感情が心の奥底で燻っている。

 

「――――」

 

 その時――みこの目に涙が映った。

 自身のではない。

 伏したすいせいの両目から、微量の涙が頬を伝って、芝生に微かな栄養を注いでいた。

 

「……」

 

 みこの瞳孔が広がり彼女の目頭も湿ってきたかと思えば……。

 

「すいちゃ――ん――?」

 

 記憶にない記憶が刹那だけ脳を支配して、懐かしいあだ名を口走る。

 そして――ぱたりと限界に達した身体をすいせいのように、草の上に倒したのだった。

 

 

 

 5階中央ホールの戦い、みこvsすいせい。

 勝者――みこ?

 

 

 

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