ホロメンと悪魔の実   作:炎駒枸

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98話 勝ち負け

 

 スピーカーから大音量で放たれるまつりの声援が、敵の耳を刺激し、味方の心を鼓舞する。

 

 ぴくっ……。

 

「「――ぇ」」

 

 ずっ……。

 

 勝利を確信し、次はどこへ向かおうかと思案していたシオンとねね。

 ラプラスとトワの手が、足が、まつりの声援に呼応して一瞬だけ痙攣し、手放していた意識を再び手にした。

 勝利を確信した為にラプラスの刻印は消え、距離もそこそこ空いている。

 

 覚醒したてで視界はぼやけているが、正面で同じように立ち上がろうと力むトワが見えた。

 更にその背後から駆けてくる……ねね。

 

「ぉあああ‼︎」

 

 己を奮起させる怒号に共鳴する地面がねねを後方へ押し返し、トワの立ち上がりの時間稼ぐ。

 シオンが後方から裂傷波を放ち、ねねは天井を走る事で応戦し、逸早く2人の意識を刈り取ろうとする。

 しかし、想像を遥かに超える速度でトワとラプラスが立ち上がり、戦況は数分前へと巻き戻された。

 

「トワさん!」

「助かった」

 

 横並びで敵から目を離さず軽いコミュニケーションを取る。

 復帰の理由については不鮮明だが、意識の片隅で謎の声を聞いた気がする。

 恐らくそれが2人を呼び覚ました。

 だが一先ずそちらは放置して、敵に集中する。

 

 この奇跡――逃せない!

 

「余力はあるか」

「そこそこ。トワさんは」

「トワもそこそこ」

 

 どちらもねねの能力で無理矢理意識を削がれたが、トワは全身にシオンの攻撃を喰らっている。

 所々に乾き切っていない血が付着しているし、服もかなり破れている。

 トワは自分の格好を一瞥すると――

 

 ビリビリビリビリッ

 

「た……とたたっ……と、とあさん⁉︎」

 

 はだけるなどして邪魔くさい服を破り捨てた。

 戦場でなければ決してしない行為。

 ラプラスはかみかみで叫び、紅潮しながら露出した肌を見つめた。

 シャツ一枚と短パンと言うオシャレさのかけらもない新たな装い。

 

「ラプラス、行くぞ」

「――はい、どこまでも‼︎」

 

 トワは自身のギアを上昇させる。

 全身に熱が籠り、感情もヒートアップ。

 パワーの上昇も感じるが、何故だろう? それとは違う高揚感。

 意識の端で耳にした、あの声のお陰だろうか?

 

 チラリと隣を一瞥。

 どうやら、ラプラスもその高揚感は得ているようだ。

 彼女の感情の昂りはトワ以上で頼もしい。

 

「アバドンdevilエンジン」

 

 エンジン点火。アクセル全開。

 発進――。

 トワの身体能力がブーストされ、初速からかなりの速度。

 だが着地したねねと真っ向からぶつかればまた同じ運命を辿る。

 それを遠隔サポートするのがラプラスの役目。

 

「ひっくり返れ!」

 

 ラプラスの右足がドカンと床に減り込む。

 ぐらぐらと床が震撼し大きく歪曲、そしてねねとシオンの足元が突出した。

 ねねはひっくり返って天井に足を付ける。

 シオンは均衡が取れずその場にひっくり返る。

 

「――――」

 

 トワは意識内からシオンとラプラスを除外すると、ねね1人に力の全てを一度集約させる。

 その脳内に回線を繋ぎ、彼女の思考を読む。

 

(真っ向勝負か、おっけー)

 

 回避が最も楽だったが、そう上手くはいかないか。

 トワは床に亀裂を生む脚力で飛び上がり、ねねも天井から跳躍して落下速に乗って迫る。

 手か足か。

 

「大角‼︎」

 

 ねねがトワへと向けたのはどちらでもなくその頭。

 急降下の頭突きだ。

 少しばかり予想外だが威力は手足と大差ない。

 トワは変わらず左脚を回し上げてねねの頭骨に衝突させた。

 天と地の中央で激しくぶつかり合う両者。

 

 一方地に立つ2名様。

 シオンは厄介と知りつつラプラスを無視。ねねに加勢しようとトワへと裂傷波を放つのだが、それをさせまいとラプラスが大地を隆起させ、軌道を逸らせたり床に受けさせたり。

 無視し切れなくなり、シオンが両腕を構えてラプラスに迫る。

 両腕に念を込めるようなポーズだ。それは数分前にラプラスが喰らった技。

 

()の刻印」

 

 ラプラスの腹を両腕で抉った、つもりだったが残念ながら空気を抉る。

 ラプラスは床へ溶けるように逃げ込んでいた。

 たったの1秒も掛けずシオンの足元から飛び出して――

 

「二度と喰らうかよ!」

 

 シオンの顎に鉄拳が炸裂。

 衝撃で歯がガチンと鳴りシオンの前歯が欠ける。

 その破片は床に転がり石ころに紛れてしまった。

 シオンの脳内に甲高いノイズが響く。

 

 ――――。

 

「ぱーぅ」

 

 朦朧とした視界の先に映るトワとねねの衝突へ、裂傷波を放った。

 ラプラスのカバーは間に合わず、トワの右脚に直撃。

 

「いッ――⁉︎」

 

 生足への直撃となり、大量の切り傷ができた。

 その瞬間、トワのギアが緩みねねのパワーに押し返される。

 

「っ――‼︎」

「トワさん‼︎」

 

 弾かれるトワの落下先に土砂のクッションを生成して僅かでもダメージを和らげる。

 土砂の中にトワが突っ込み……出てこない。

 

「――――」

「トワさん――っ!」

 

 ねねがラプラスの行手を塞ぐように着地する。

 妨害に歯軋りし、トワの埋まった土砂を注視する。

 気付けばシオンが立ち上がり、欠けた歯を完治させていた。

 

「――――!」

 

 ばらばら……と土砂の山を崩しながら、トワが這い出てきた。

 右脚は真っ赤だ。

 

「――――」

 

 距離があり、テレパシーは使えないのでアイコンタクト。

 以心伝心。

 その瞳を見つめ、ラプラスは全てを理解した。

 

「最後にもっかい、ひっくり返れ!」

 

 地面を隆起させねねを打ち上げた。

 シオンは意図的に避けて、地上へ残す。

 ねねに狙いを定め、再三トワが宙へ飛び出した。

 天井に足を付け、ねねも跳躍。

 

 ――――。

 

「どこ見てんだよシオン!」

 

 トワへの遠隔攻撃を企むシオンに土砂を流して圧迫する。

 

大災害波(カラミティパールス)

 

 既にズタズタな床に更なる負荷を与える一撃。

 地盤にもダメージが入る。

 ラプラスの土石流が裂傷の衝撃で勢力を落とし、軌道を変える。

 

雨破傷槍(アマランス)

 

 空へと手を伸ばすとラプラスに雨が降る。かまいたちの雨。

 攻撃を受け流すせいで、手足の自由が効かなくなり転倒した。

 止まない雨。駆け出すシオン。倒れたまま逃げないラプラス。

 

 

 

 ――――――。

 

 

 

 天と地の中央でねねとトワが最後の激突――――をしない!

 

「――⁉︎」

 

 ねねの構えた拳がトワを貫通し、トワの全身はそのままねねの全身を通り越して――天井に行き着く前に消滅した。

 面食らったねねは天と地のどちらに着地するか逡巡する。

 

「これで終わりダァ‼︎」

 

 叫ぶラプラス。

 飛び出した床がねねの鳩尾に突き刺さる様。

 勢いのままねねは天井と突出した床に圧迫され、口から吐瀉物を撒き散らし、そのまま気絶した。

 

 

 

()の刻印」

 

 シオンの攻撃を受けながらねねへのトドメを決めたラプラスだが、シオンの攻撃が迫っていた。

 それはラプラスの攻撃がねねに炸裂したのと同じタイミング。

 

(エンジン点火。オーバーブースト)

 

 高熱に高鳴る鼓動に堪えながら、土砂を吹き飛ばしてトワがシオンへ迫る。

 目で追える速度にない。

 シオンが咄嗟に振り返った時、それは腹に直撃していた。

 

「ルシフェルワンショット」

「っぶぇ――」

 

 電撃と火花を散らすトワの一撃がシオンを壁まで吹き飛ばす。

 

「…………」

 

 ねねは天井から、シオンは減り込んだ壁から地に落ちる。

 どちらも意識は飛んでいた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 身体から湯気を発するトワ。

 帯電帯熱した左脚をそっと地に着けた途端、右脚のバランスが崩れて転倒した。

 

「――! トワさん!」

 

 手を伸ばしたが届かず、床に転んだトワの頭を持ち上げる。

 

「わりぃ……右脚が、動かん」

 

 シオンの攻撃を諸に喰らった足を軸として片足立ちしたのだ、傷口は広がるに決まっている。

 傷一つ一つは深くないが、数が多く出血量が多い。

 寧ろあの一瞬でもよく直立できたものだ。

 

「しかしお前……テレパス無しでよく分かったな」

「目を見れば分かりますよ! 偽物かどうかなんて!」

「はは……そうか」

 

 ラプラスの頭をそっと撫でて笑う。

 

「トワさん。これからどうしますか」

「当然、船長んとこへ行く」

「――分かりました。なら、吾輩が連れて行きます」

「わりぃな、頼む」

「いえ! 任せてください‼︎」

 

 ラプラスはトワを背負う。

 重たい……なんて言えない。

 だが幸運な事に、この場所は吹き抜けとなっている。

 ラプラスの能力を使えば3階まで直通。

 

「捕まっててくださいね」

「ああ」

 

 ぎゅっと背中から抱擁され、どきりとする。

 この鼓動の速さ――トワにバレたくないが密着しているので隠せない。

 下心塗れの運送役だ。

 

 床を山の様に持ち上げて、自分たちと序でにねねとシオンも3階まで運ぶ。

 

「じゃあマリンさん探しましょう!」

「ああ、頼む」

 

 ラプトワは屋上に当てをつけて、中央階段へ向かった。

 

 

 

 1階東通路の戦い、ラプトワvsしおねね。

 勝者――ラプトワ。

 

 

 

          *****

 

 

 

 その1階東通路、戦場跡地にて――

 

「誰もいないじゃん」

「ね、どこ行ったんだろうね」

「上、見てこようか? いいよわざわざ。既に2人は引き込んだし」

「そう? ならいいけど……次はどこ行くの?」

「ちょっと待ってね」

 

 ルイとクロヱが会話していた。

 ルイが念入りに周囲を確認するので、クロヱも真似る様に警戒する。

 作動しているカメラは無く、人の気配も無い。

 

「今どんな感じ?」

 

 問いかけながらルイが一冊の本を開くと、本から1人の人が飛び出す。

 

「……5階へ行って」

「えぇ、一気に?」

「5階でみこちとすいちゃんが戦ってて、多分もう直ぐ決着するの。こよりちゃんの使った道を教えるからそこを使って。約束したはずよ」

「はいはい」

「急いだら、おかゆちゃんとこよりちゃんもいるから」

「じゃあ……プラス2人か。うん上々だね」

 

 戦況を俯瞰している様な口調で答える協力者に、ルイは数度頷いた。

 彼女曰く、北口付近の部屋に隠し扉があるらしいので、一度施設を出てそちらへ。

 

 カメラに映らないように細心の注意を払って北口へ向かった。

 3人は北口1階へ入り周囲を見回す。

 もう誰も居ない。

 

「それで、はあとちゃん、隠し通路はどこ?」

「こっち」

 

 2人の助言者――赤井はあと。

 彼女の指示に従い隠し通路を通って3人は5階中央ホールへと向かった。

 

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