迷宮都市にて咲く菖蒲   作:にがりって…美味しいよね。

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そして画戯丸さん、誤字報告ありがとうございます!


飛翔(タッグマッチ)

 

 

 

神聖な雰囲気のドームの下で、寝具(ベッド)一つ挟んだ先で向かい合った。

 

 

 

「はじめましてだな。“クエム”。」

 

 

 

「そうね、はじめまして。“フルルドリス”。」

 

 

 

「その名で呼ぶか。…俺は本物の最強の聖女(フルルドリス)みたくはなれなかったよ。」

 

 

 

俺の言葉に心底辟易した表情になるクエム。

 

 

 

「まぁ、私が知ってるアレは私から見ても化け物よ。殆どフルスペックの呪われた鎧(クエリティス)を使ってなお不意打ち以外の手立てがないんだもの。」

 

 

 

「それも、そうか…」

 

 

 

クエムに祝福(侵食)される度に思い知った力の差。

この身に宿る記憶が正しければ、これでも“フルルドリス”に手も足も出ない。

 

 

 

だから、死んでしまった今、一つ聞いておきたい事があった。

 

 

 

「なぁ、クエム。“俺”は何者だったんだ…?」

 

 

 

その質問に、クエムはクスッと微笑んで答えた。

 

 

 

「どこにでもいる凡人。かしら。死んで、記憶領域以外の殆どを欠損した凡人の魂。それが貴方。それが偶然、この世界に降りたって私という存在を生み出した。」

 

 

 

「じゃあ、お前は…?」

 

 

 

「残念な事に、偽物よ。私は“始まりの聖女”クエム。そのレプリカ。貴方の妄想と世界を構成する因子から生まれた。一個の存在(イマジナリーフレンド)なのよね〜」

 

 

 

「…なんというか、ずっと、お前のことを敵だと思ってたよ。」

 

 

 

「別に、貴方の味方でもないのよ?今から残るのは一人だけなんだから。」

 

 

 

そう言って微笑むクエムに苦い顔をする。

 

 

 

「お決まりの展開だな。欲しいのか?俺の身体。」

 

 

 

「私も意思があって願いがある。生まれたのなら自由になりたいと願うのは罪かしら?まぁ、どちらにしても貴方のターンは終わり。私がもっと上手く使ってあげるわ。」

 

 

 

クエムはそう言って、ドームの隅を指差した。

そこには、壊れかけの扉がある。

 

 

 

「………」

 

 

 

「この期に及んで、嫌だ、と駄々こねたいのかしら?」

 

 

 

「……………そうだな。ヴァレッタの指す一手を読み切れなかった。仲間は守りきれたかも分からない。ここから出ても剣術も魔法も未熟だ。それでも、なんだかんだ、俺は死にたくないと思っている。涙も出たしな。生きたいと願うのは、罪か?」

 

 

 

「……私の倫理観は貴方の記憶に準拠してる。と言えばわかるかしら。」

 

 

 

「それは、また…困ったな。俺の価値観で考えると俺とお前、()()()()()()()。」

 

 

 

優柔不断で、無責任極まりないが、これが俺の考え方だ。自分と皆と、両方が幸せで、不足のない場所を夢見る。

子供の思考だ。叶うはずもない。

 

 

 

「その通り。だからこの『盤面』は千日手。私達はどちらもここから出られない。どちらかが身体(勝ち)を譲らない限りはね。………さて、答えは決まった?」

 

 

 

でも、だからこそ。

 

 

 

お断りだ。俺がお前に譲るのも、お前がまた我慢を強いられるのも俺は認めない。」

 

 

 

俺はまだ、“夢”を見ていたい。

 

 

 

瞬間、ドームに亀裂が入った。

 

 

 

「なっ…!馬鹿げた事を…ここから出るには一方を屈服させなければ…!」

 

 

 

「お前も知ってるだろ?“トロッコ問題”。少し、似てないか?この状況に。」

 

 

 

クエムは驚愕に染まった顔を更に歪めて、こちらを睨んでいる。

 

 

 

「トロッコ問題の命題は、“誰かを助けるために誰かを犠牲にすることは許されるか”だったかしら。そうね。確かに似ている。だから?アレは問いに“分岐器の切り替え”以外の手段を使うことはできないと明記されていたはずだけれど。」

 

 

 

「ここに、トロッコはない。分岐器もない。犠牲は、確定した事象じゃない。」

 

 

 

「は…?異世界(こっち)でまた思春期の病に罹患したの?冗談も大概に…」

 

 

 

「俺達が、、!共に生きる事は悪か?!許されないことなのか?!」

 

 

 

「……ッ!」

 

 

 

「俺は、生きることは悪ではないと思ってる。お前の本質だって、悪じゃない。そう思ってる。」

 

 

 

「いつの時代のギャルゲーの台詞よ…ソレ。」

 

 

 

「さぁな。恥ずいことを口走ったとは思ってるが、思いに嘘はねぇよ。で?どうする?伸るか、反るか。」

 

 

 

クエムは唖然とした顔を元に戻して、俯く。

 

 

 

「…確度は?」

 

 

 

数秒して帰ってきた答えにこう返した。

 

 

 

「“思いつきを数字で語れるものかよ”。」

 

 

 

「…ハァッ!?バッカじゃないの?」

 

 

 

「そんなに叫べるなら、もう思い詰めてなさそうだな。」

 

 

 

「………」

 

 

 

「与えられた命題?クソ喰らえだ。俺はまだ生きていたい。お前も死なせたくない。そして、考えてみれば簡単なトンチだ。俺達はそもそも身体の制御権を争う必要が無い。」

 

 

 

「は?それは、どういう…」

 

 

 

「俺達は謂わば溶質の違う水溶液だ。記憶やら、人格やらの溶質が精神という溶媒に溶け込んでる。元々混じってて問題なかった物だ。もう一度混ぜても問題ないはずだ。」

 

 

 

「じゃあ…なんで…」

 

 

 

「お前が言った通りだ。俺達は譲り合ってたんだよ。無意識の内に。俺もお前も、心のどこかで死を受け入れつつも、もう一人まで死ぬことに納得がいかなかった。その遠慮が、俺達を個々の人格にまで乖離させた。」

 

 

 

「そんなッ、ことは!私は、ただ…」

 

 

 

「誰に似てかは大体察するが、優しすぎんだよお前。もっと俺が罪悪感を抱くよう言葉も選べたはずなのに、そうしなかった。今だって俺は遠慮するのをやめたのに、お前の意思がこの場所を維持してる。」

 

 

 

「…ッ!」

 

 

 

「あの扉に、黙って駆け込むことも出来たはずなのにな。」

 

 

 

「あっ…」

 

 

 

「いい加減、やめにしないか?俺達は、死んだ。でもまだ一人だけ生かせると言われて、行儀良く一人に絞るのは。できるんだから。二人で生きてやろうぜ。」

 

 

 

クエムは俯き、しばらくして、こちらに手を差し出した。

 

 

 

「三流の台詞ね。でも、いいわ。乗ってあげる。」

 

 

 

「そりゃどうも。」

 

 

 

握手した瞬間、壁も床も崩れて…

 

 

 

 

 

 

 

 

Take2 Restart

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた。瓦礫を退かして立ち上がり近くの建物の屋根まで登った。辺りを見回す。

 

 

燃えている街。

状況は最悪に近い。

恐らく大量の『自決装備』を用意した闇派閥(イヴィルス)が一斉蜂起している。

 

 

地獄のような景色だが、思考は止めない。

そのまま屋根伝いにダイダロス通りに出る。遠くに防衛線が見えた。それを確認して、彼らが戦う闇派閥に向けて吶喊した。

 

 

 

一人を背後から、斬る。気づいた三人を【断罪(パニッシュメント)】で撫で斬りにする。

4人制圧。残り、367人。

 

 

それから乱戦が始まった。1対367。いや、今4人斬ったから363か。そして一人、二人斬ってから自決装置を【断罪】で誘爆させて一気に数を減らす。残り331人。

 

 

ここで防衛線の中にいた冒険者達から一斉射撃の援護が来た。

その間を掻い潜って斬り、払い、誘爆で吹き飛ばす。

 

 

301、282、この辺りに割り振られた闇派閥の数をかなりの速度で減らしている。

それでも、足りない。

 

 

(どうするのかしら?ジリ貧よ。)

 

 

(押し切るんだよ。無理矢理な!)

 

 

 

クエムの疑問に端的に答え、【断罪】のチャージを開始する。

今までの斬撃は発生した電撃をそのまま振り回しただけのもの。

 

 

ここで出力を上げていく。

が、全方位から『自決装備』の点火音。

 

 

 

爆炎で焼け死んだ。

 

 

 

Take3 Restart

 

 

 

 

 

 

瞬間、火傷のような怪我の類が全て()()()()された。

 

 

 

「【断罪】。」

 

 

 

蓄積された雷鳴が前方に群がっていた闇派閥を『自決装備』ごと焼き尽くした。

 

 

大剣の召喚を解除して、頭部の鎧も解除した。

 

 

 

「ここ、任せてもいいですか?【勇者(ブレイバー)】の所へ行きます。敵の企みがここで打ち止めとも思えないので、最も早く情報が届く場所に居たいんです。」

 

 

 

防衛線を敷いていた冒険者の一団に近づいて、事情を伝えた。

 

 

 

「…アンタは俺達を助けてくれた。だから一応聞かせてくれ。所属ファミリアは?」

 

 

 

「【アストレア・ファミリア】です。」

 

 

 

「そうか…あの女神様の…わかった。行けよ。」

 

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

 

アストレア様の名前に反応した…まさか、陣頭指揮を取ってたりしないよね?少し不安だけど…

行くしかない。

 

 

 

【断罪】に精神力(マインド)を過供給。

足に蓄積し、解放。

街の上へと跳躍した。

 

 

見える範囲の闇派閥を焼く。

焼け石に水かもしれないが、最低限の援護は出来た。

【勇者】が居るのは間違いなく都市中央。『中央広場(セントラルパーク)』。盤面を整理しつつ立て直すにはここしかない。

何より最重要な施設があの辺りにはズラリと並んでいる。

 

 

 

跳躍を繰り返し、あと少しで『中央広場』というところで、降りて闇派閥を丸焼きにする。

 

 

唖然とする冒険者達に一言。

 

 

 

「神ロキに取次ぎをお願いしたい。」

 

 

 

 

急がなければ。どうにも嫌な予感が収まらない。

 

 

 

 






めっちゃ難しかった…
オリジナル回、キツイ…


序盤の謎空間はお互いに「自分は死んでもコイツだけは…」と焦ってスキルの発動が待機状態で止まってたためです。
詳細が明かされるのはまだ先の話ですが…


それでは最後に、


どうだったでしょうか?


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(水鏡)

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