迷宮都市にて咲く菖蒲   作:にがりって…美味しいよね。

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大抗争まで行くと言ったな。アレは嘘だ。
(訳:アストレア・レコードの中でも重要なシーン忘れていました。本当に申し訳ないです。)


そして、お気に入り登録が300件を突破しました!
本作を読んでいただきありがとうございます!


決戦前日(トワイライト)

 

 

 

 

『掃討作戦』まであと一日。

そんな日だからこそ、いつもと変わらず巡回を続ける。

 

 

嫌な予感が拭えない。そう思い、闇派閥の考え…【殺帝】にすら指示を出す『超越存在(デウスデア)』の思考を追いかける。

 

 

しかし、何ら成果もなく大通りで起きた喧嘩の一件を仲裁。また巡回を開始した。

…路地裏に入って【白骸(アルバスセイント)】を詠唱する。

 

 

そんな時、後ろから声がかかった。

 

 

 

「やぁ、ルリスちゃん。」

 

 

 

「こんにちは、まずその顔面(ツラ)を一発殴っていいでしょうか、神エレン。」

 

 

 

「ええっ!暴力反対!」

 

 

 

握り拳を作ると、目の前の男神は即座に土下座を始めた。

罪状は色々とある。まぁ情状酌量の余地はないだろう。

 

 

 

「貴方の“ちょっかい”でうちのリオンが不快感を覚えました。これってセクハラですよね。」

 

 

 

「えっ、ちょ!」

 

 

 

取り敢えず宣言通り一発殴った。

神エレンの頭部には喜劇(ギャグ)補正かデカイたんこぶができた。

まぁ、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。

 

 

 

 

 

「なるほど“セクハラ”ね。君はこの局面での十七番目の白駒(イレギュラー)という訳だ。」

 

 

 

たんこぶをさすりながら雰囲気を変えた神エレンは口を開いた。

 

 

 

「そうですね。と言っても、私の存在そのものが局面に与える影響は殆どないでしょう…どんなに頑張っても私はLv.1。自分の足だけでは前に進めない弱者です。」

 

 

 

それに私も諦観を込めた言葉を返した。

 

 

 

「助けられるかもしれないのに諦めるのは『悪』じゃないのか?」

 

 

 

「私の悪いクセですよ。全てを諦めた人生でしたから。“守る”ために戦うことを決めました。、けれども…ね。それにできないことをできると宣うのも、それはそれで醜悪でしょう。」

 

 

 

投薬と手術を繰り返し、入院を続けた“俺”は結局人生の3分の1近くを白い箱庭(病室)で過ごした。

退院しても、学校では針のむしろ。そりゃそうだ。体力はない。勉強が出来ても話題を共有できない。

 

 

そのうち再発して、折角築いた関係も消えてなくなった。

 

 

 

「それに、人を守れるなら『悪』と罵られてもいいと、そう思っています。」

 

 

 

これは…もう強迫観念の類だ。「この身、誰かの為にならねば」と。

“俺”の残りカスがそう叫んでいる。

 

 

“私”は、その願いを叶えたい。

 

 

 

「それは、世界の全てを敵に回しても?」

 

 

 

「私が下界の共通の敵になって、それで下界の民が争いをやめるならそうしますよ。でも、下界の民(彼ら彼女ら)はそんなに単純じゃない。だから手が届く範囲を助けるんです。そして、誰かと手を繋げば手は更に遠くへ届く…“人が手を取り合い繋がること”それが私の『正義』、です。」

 

 

 

「理想論だね。」

 

 

 

「はい。理想論です。」

 

 

 

食い気味に言い返してやると神エレンは可笑しそうに笑った。

 

 

 

「これは一本取られたなぁ…面白い答えが聞けたよ。ありがとう。」

 

 

 

ふと、期待を込めて口を開く。

 

 

 

「止めては、くれませんか?」

 

 

 

「何をだい?」

 

 

 

「貴方達がこれから行う凶行を。」

 

 

 

「それは無理だね。というか、君は僕が闇派閥を指揮してると思っているみたいだけど、元凶が目の前にいるなら捕えないのかい?」

 

 

 

「『正義』は誰かを害するのに相応の理由が必要です。そして、貴方を裁くのは“人”ではないと思っています。それに、貴方には“暗黒期”の終わりを告げる象徴になっていただきたいので。」

 

 

 

瞬間、敵意が発される。

これは…18階層で遭遇した【顔無し】と呼ばれる男…しかも他にもかなりの闇派閥がいる。

 

 

 

「……迂闊でした。人質を取られましたか。」

 

 

 

「君のご高説の間に展開させてもらったよ。素晴らしい言葉だったが…それも『無意味』になる。まぁ、この場は引くさ。また会おう。イレギュラー。」

 

 

 

神エレンはそのまま私の横を通り過ぎて何処へか去っていった。

そして、闇派閥の気配も消える。

【白骸】を解除する。ストラテジー・ドラグマは維持するが…

 

 

本当に、迂闊だった。

私も、どこかで油断していたということか…

 

 

気を引き締めねばならない。

“決戦”は、すぐそこだ。

 

 

 

 

 

 

風が路地の合間を抜けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は…

 

 

 

 ‌言葉が頭を突き抜ける。

 

 

 

[君達の『正義』とは、一体何なんだ?]

 

 

 

決まっている…私達の『正義』は…私達が胸に抱く、ものとは…

 

 

そう呟いてどれだけ経った?何度考えても乱される。

確たる答えに辿り着けない。

 

 

 

「リオーン!見つけた!」

 

 

 

「ア、アーディ?いきなり抱きつくのはやめてくださいっ!危険だ。」

 

 

 

「ごめんごめん、どうしても抱きつきたくなっちゃって…今は一人?」

 

 

 

「ええ…街の巡回中です。『作戦』を気取られないようにいつもと同じことをしようと…アリーゼ達と決めて…」

 

 

 

「そうなんだ。私もね、さっきまで仕事をやってたんだ!制圧した『悪人共の違法市(ダークマーケット)』の調査書(リスト)の作成!やっと終わったよ!」

 

 

 

相変わらず、アーディは凄い…揺らいだ今の私では…

 

 

 

「ねぇ、聞いてよリオン押収した品の中にリオンの里の『大聖樹の枝』が…

 

何か、あったの?」

 

 

 

「いいえ、何も…ただ、考え事をしていただけで…」

 

 

 

アーディの言葉に目を伏せ、ゆっくり首を横に振る。

 

 

 

「そういうのはいいから!リオンは嘘がつけないし、隠し事も下手なんだから!」

 

 

 

その言葉を聞いて反論出来なかった私は、炊き出しの日の夕刻に『重傑(エルガルム)』から齎された助言に従ってアーディに全てを話した。

 

 

神エレンのこと、問われた『正義』の意味。

返した答えと、それを『孤独』だと言われたこと。

闇派閥が炊き出しを襲撃した際、告げられた『正義』の代価。

正義を弄されたと激昂するばかりで、何も言い返せなかった自分。

 

 

その全てをぽつりぽつりと、語った。

 

 

 

「炊き出しの日にそんなことがあったなんて…ごめんね。力を貸してあげられなくて。」

 

 

 

「いえ、あの日貴方達は【勇者(ブレイバー)】の指示で敵の別部隊を叩いていた。罪悪感を感じる必要はありません。」

 

 

 

「んーそっか…それにしても、エレン様って…なんだか思ったより、意地悪な神様?」

 

 

 

「意地悪で済むのでしょうか…下界を楽しむ神の酔狂と言われれば、そうなのでしょうが…」

 

 

 

「私は好きな女の子にちょっかいを出す男の子!みたいに感じたけどな。リオンの話を聞いたら。」

 

 

 

「どうしてそうなるのですか?!」

 

 

 

アーディの素っ頓狂な言葉に声を荒らげてしまった。

そして思い出されるのはあの神との一幕。

 

 

 

「あれは…決してそんなものではない…そんなものでは…」

 

 

 

何度も声が響く。

 

 

 

[ーーもし、答えられないのなら、君達が『正義』と呼んでいるものは、やはり歪で、悪よりも醜いものだ。]

 

 

 

だから、アーディに尋ねてしまった。

 

 

 

「……アーディ。真の『正義』とは、なんだと思いますか?」

 

 

 

「ん〜……難しいなぁ。答えは人それぞれだと思うけど神様は違うのかな?」

 

 

 

確たる答えのない中で、それでもアーディは言葉を紡ごうとしている。

 

 

 

「私はお姉ちゃんより頭が良くないし、こういうのって、考えれば考えるほど沼にはまっちゃうような気がする。」

 

 

 

「…」

 

 

 

今までならアーディの言い分も納得出来た。

でも今は、形のある『正義』が欲しい。『正義』は『悪』のように醜いものではないのだと胸を張って言いたい。

 

 

 

「だからさ、こんな正義はどうかな?『全ての武器を楽器に』!」

 

 

 

「武器を…楽器に?」

 

 

 

アーディは目を輝かせて言った。

 

 

 

「剣や槍は吊るして金属鐘(ツリーチャイム)、盾は二枚揃えて打楽器(シンバル)代わりに!大砲なんかは空砲で太鼓にならないかな?」

 

 

 

アーディが身振り手振りを交え、一生懸命に話す言葉には、希望と情熱があった。

 

 

 

「誰かを傷つける武器も、みんなを笑顔にできる何かに変えちゃう。リオンもそのくらい簡単に考えればいいんだよ!私みたいにさ!」

 

 

 

「アーディ…それは、嘘だ。

 

貴方の方が、私なんかよりずっと深く、重く、『正義』について考えている。…あの時もそうだった。」

 

 

 

思い返すのは7日前、暴漢が神エレンの財布を奪った時、彼女はこう私を諭した。

 

 

 

[さっきのおじさんが言ってたことも、間違いじゃない。私達が“正論”を言えるのは、私達が力を持っているから。]

 

 

[だからじゃないけど…リオン、赦すことは、『正義』にはならないかな?]

 

 

 

「私が杓子定規の正義を盲信していた中、貴方は普遍の『正義』の拠り所をずっと…探っていた。」

 

 

 

すると、アーディのおちゃらけた雰囲気が少し沈んだ。

 

 

 

「そうだね、『正義』って難しいよ、リオン。」

 

 

 

彼女は寂しそうに、笑った。

 

 

 

「押し付けてはいけない、背負ってもいけない。そして、秘めているだけでも何も変えられない時がある。……本当の『正義』なんてないんじゃないかって、そう思っちゃう。」

 

 

 

その言葉に、私は静かに彼女の名前を零した。

虚空を見つめる彼女は、見た目より、大人びていて。

 

 

 

「難しいことなんか考えないで、みんなが笑顔で幸せになればいいのに。」

 

 

 

彼女の望みは子供じみていて、何より…尊かった。

とても簡単で、それでいて難しいものだった。

 

 

アリーぜは何と言うだろう。

 

 

  ーー案外、わからないわ!と大声で言うかもしれない。

 

 

 

アストレア様はなんと言うだろう。

 

 

  ーー静かに、見守ってくれるような気がした。これは、眷属(あなたたち)の物語なのだから、と。

 

 

 

そして、私はそれに、納得できるだろうか。

 

 

 

「ーでもね、こんな風に立ち止まっちゃう時は、自分に正直になるようにしてる。」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「今、自分は何をやりたいんだろうって。

 

ーーだから、今の私の『正義』はやっぱり、リオンを笑顔にすることかな!」

 

 

 

少女は破顔して、私の手を取った。

 

 

 

「リオン、踊ろう!ここで!」

 

 

 

「ア、アーディ?!いったい何を…!」

 

 

 

通りの真ん中へ躍り出て、指を絡め、即興で踊り始めた。

今は夕暮れ、夜に備える多くの人々の目に、当然留まる。

 

 

 

「なんだ、なんだ?」

「道の真ん中で、エルフとヒューマンがいきなり…」

「冒険者様が踊ってるー!」

 

 

 

顔が赤くなるのが自分でわかる。同時にアーディの思惑が分からなかった。

 

 

 

「ア、アーディ!待ってください!どうしてこんなことを?!」

 

 

 

「昔の英雄は言ってたらしいよ!『アルゴノゥト』に書いてあった!

 

『さぁ、踊りましょう、麗しいお嬢さん。愉快に舞って私に笑顔を見せてください』って!」

 

 

 

「は、はぁ?!」

 

 

 

こればかりは素っ頓狂な声を上げても許されるはずだ。

 

 

 

「私の好きな物語!みんなみんな笑顔になればいい!そうさ、これが私の『正義』の実践!」

 

 

 

一人の少女の言葉(思い)が、動き(願い)が、人々の意識を変えていく。

 

 

 

「変なやつら…なんて思ってたけど…!」

「あぁ…なんか…いいな!」

「冒険者さま…きれー!」

 

 

 

「ほら!みんなも笑いだした!手拍子、足拍子、どんどん盛り上がる!」

 

 

「しゅ、衆目に晒されている!あられもない姿を!こんなもの、私にはただの辱めです!やめてください!アーディ!」

 

 

「だーめ、リオンが笑うまで踊っちゃうもんね!」

 

 

「そ、そんな…」

 

 

 

もうどうしようもないのかと、そんな時差し込む希望の光…

 

 

 

「やけに賑やかな声が聞こえると思ったら…何をやっているのですか、貴方達は。」

 

 

 

「あ、アスフィ!君もどう?リオンと一緒に踊ってるんだ!」

 

 

 

「私は遠慮しておきます。舞踏は故郷の王城で散々踊ったので。」

 

 

 

「アンドロメダ!助けなさい!」

 

 

 

「無理です。私にはアーディを止められません。それに…珍しい貴方を見たいので、じっくり見物させてもらいます。」

 

 

 

「アンドロメダ~~~~~~~~!!」

 

 

 

舞踏は続く、人々の喜びの声を旋律として。

 

 

 

「ーリオン!正義は巡るよ!」

 

 

「えっ…?」

 

 

「たとえ真の答えじゃなくたって、間違えていたとしても、姿形を変えて、私達の『正義』は巡る!」

 

 

 

そこで、気づいた。アーディの『正義』。その源流。

 

 

 

「柔らかいものが頑固なものになってたり、優しいものが冷たいものに変わってしまうかもしれない!それでも、私達が伝えた正義は、きっと違う花になって咲く!

もしかしたら花じゃなくて、星の光になってみんなを照らすかも!」

 

 

 

彼女の思い(『正義』)の発露は続く。

この思い、果てまで届けと。

 

 

 

「私達が助けた人が、他の誰かを助けてくれる!今日の優しさが、明日の笑顔をもたらしてくれる!

 

ーーー私は…そう信じたいんだ!」

 

 

 

「アーディ…」

 

 

 

「だから、笑おう!リオン!巡っていく『正義』のために、今日を笑おう!」

 

 

 

羞恥はない。抱いた諦観も、もう晴れた。

だから…

 

 

 

「ええ!」

 

 

 

覆面を外し、笑顔をアーディに見せる。

 

 

 

 

舞踏は、日が暮れるまで続いた。





一時間遅れの投稿。申し訳なく思います。
そして、アーディの名シーン。これを完全に忘れていたことをお詫びします。


さて、今回ではルリスのみが“神エレン”の本性を知った形になります。


そして、アーディとリオンの舞踏。いいシーンですね。
(忘れてたやろがい)
再履修して思ったのですが、“正義失墜”以降のリオンの精神の基軸はここだと思います。


道に迷っても、歩き続ければ戻ってこれる『原点』とでも言いましょうか。


とりあえず、てぇてぇ。


さて、最後になりますが…


どうだったでしょうか?


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(新古今和歌集)
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