迷宮都市にて咲く菖蒲 作:にがりって…美味しいよね。
大抗争まで行くと言ったな。アレは嘘だ。
(訳:アストレア・レコードの中でも重要なシーン忘れていました。本当に申し訳ないです。)
そして、お気に入り登録が300件を突破しました!
本作を読んでいただきありがとうございます!
『掃討作戦』まであと一日。
そんな日だからこそ、いつもと変わらず巡回を続ける。
嫌な予感が拭えない。そう思い、闇派閥の考え…【殺帝】にすら指示を出す『
しかし、何ら成果もなく大通りで起きた喧嘩の一件を仲裁。また巡回を開始した。
…路地裏に入って【
そんな時、後ろから声がかかった。
「やぁ、ルリスちゃん。」
「こんにちは、まずその
「ええっ!暴力反対!」
握り拳を作ると、目の前の男神は即座に土下座を始めた。
罪状は色々とある。まぁ情状酌量の余地はないだろう。
「貴方の“ちょっかい”でうちのリオンが不快感を覚えました。これってセクハラですよね。」
「えっ、ちょ!」
取り敢えず宣言通り一発殴った。
神エレンの頭部には
まぁ、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
「なるほど“セクハラ”ね。君はこの局面での
たんこぶをさすりながら雰囲気を変えた神エレンは口を開いた。
「そうですね。と言っても、私の存在そのものが局面に与える影響は殆どないでしょう…どんなに頑張っても私はLv.1。自分の足だけでは前に進めない弱者です。」
それに私も諦観を込めた言葉を返した。
「助けられるかもしれないのに諦めるのは『悪』じゃないのか?」
「私の悪いクセですよ。全てを諦めた人生でしたから。“守る”ために戦うことを決めました。、けれども…ね。それにできないことをできると宣うのも、それはそれで醜悪でしょう。」
投薬と手術を繰り返し、入院を続けた“俺”は結局人生の3分の1近くを
退院しても、学校では針のむしろ。そりゃそうだ。体力はない。勉強が出来ても話題を共有できない。
そのうち再発して、折角築いた関係も消えてなくなった。
「それに、人を守れるなら『悪』と罵られてもいいと、そう思っています。」
これは…もう強迫観念の類だ。「この身、誰かの為にならねば」と。
“俺”の残りカスがそう叫んでいる。
“私”は、その願いを叶えたい。
「それは、世界の全てを敵に回しても?」
「私が下界の共通の敵になって、それで下界の民が争いをやめるならそうしますよ。でも、
「理想論だね。」
「はい。理想論です。」
食い気味に言い返してやると神エレンは可笑しそうに笑った。
「これは一本取られたなぁ…面白い答えが聞けたよ。ありがとう。」
ふと、期待を込めて口を開く。
「止めては、くれませんか?」
「何をだい?」
「貴方達がこれから行う凶行を。」
「それは無理だね。というか、君は僕が闇派閥を指揮してると思っているみたいだけど、元凶が目の前にいるなら捕えないのかい?」
「『正義』は誰かを害するのに相応の理由が必要です。そして、貴方を裁くのは“人”ではないと思っています。それに、貴方には“暗黒期”の終わりを告げる象徴になっていただきたいので。」
瞬間、敵意が発される。
これは…18階層で遭遇した【顔無し】と呼ばれる男…しかも他にもかなりの闇派閥がいる。
「……迂闊でした。人質を取られましたか。」
「君のご高説の間に展開させてもらったよ。素晴らしい言葉だったが…それも『無意味』になる。まぁ、この場は引くさ。また会おう。イレギュラー。」
神エレンはそのまま私の横を通り過ぎて何処へか去っていった。
そして、闇派閥の気配も消える。
【白骸】を解除する。ストラテジー・ドラグマは維持するが…
本当に、迂闊だった。
私も、どこかで油断していたということか…
気を引き締めねばならない。
“決戦”は、すぐそこだ。
風が路地の合間を抜けていく。
私は…
言葉が頭を突き抜ける。
[君達の『正義』とは、一体何なんだ?]
決まっている…私達の『正義』は…私達が胸に抱く、ものとは…
そう呟いてどれだけ経った?何度考えても乱される。
確たる答えに辿り着けない。
「リオーン!見つけた!」
「ア、アーディ?いきなり抱きつくのはやめてくださいっ!危険だ。」
「ごめんごめん、どうしても抱きつきたくなっちゃって…今は一人?」
「ええ…街の巡回中です。『作戦』を気取られないようにいつもと同じことをしようと…アリーゼ達と決めて…」
「そうなんだ。私もね、さっきまで仕事をやってたんだ!制圧した『
相変わらず、アーディは凄い…揺らいだ今の私では…
「ねぇ、聞いてよリオン押収した品の中にリオンの里の『大聖樹の枝』が…
何か、あったの?」
「いいえ、何も…ただ、考え事をしていただけで…」
アーディの言葉に目を伏せ、ゆっくり首を横に振る。
「そういうのはいいから!リオンは嘘がつけないし、隠し事も下手なんだから!」
その言葉を聞いて反論出来なかった私は、炊き出しの日の夕刻に『
神エレンのこと、問われた『正義』の意味。
返した答えと、それを『孤独』だと言われたこと。
闇派閥が炊き出しを襲撃した際、告げられた『正義』の代価。
正義を弄されたと激昂するばかりで、何も言い返せなかった自分。
その全てをぽつりぽつりと、語った。
「炊き出しの日にそんなことがあったなんて…ごめんね。力を貸してあげられなくて。」
「いえ、あの日貴方達は【
「んーそっか…それにしても、エレン様って…なんだか思ったより、意地悪な神様?」
「意地悪で済むのでしょうか…下界を楽しむ神の酔狂と言われれば、そうなのでしょうが…」
「私は好きな女の子にちょっかいを出す男の子!みたいに感じたけどな。リオンの話を聞いたら。」
「どうしてそうなるのですか?!」
アーディの素っ頓狂な言葉に声を荒らげてしまった。
そして思い出されるのはあの神との一幕。
「あれは…決してそんなものではない…そんなものでは…」
何度も声が響く。
[ーーもし、答えられないのなら、君達が『正義』と呼んでいるものは、やはり歪で、悪よりも醜いものだ。]
だから、アーディに尋ねてしまった。
「……アーディ。真の『正義』とは、なんだと思いますか?」
「ん〜……難しいなぁ。答えは人それぞれだと思うけど神様は違うのかな?」
確たる答えのない中で、それでもアーディは言葉を紡ごうとしている。
「私はお姉ちゃんより頭が良くないし、こういうのって、考えれば考えるほど沼にはまっちゃうような気がする。」
「…」
今までならアーディの言い分も納得出来た。
でも今は、形のある『正義』が欲しい。『正義』は『悪』のように醜いものではないのだと胸を張って言いたい。
「だからさ、こんな正義はどうかな?『全ての武器を楽器に』!」
「武器を…楽器に?」
アーディは目を輝かせて言った。
「剣や槍は吊るして
アーディが身振り手振りを交え、一生懸命に話す言葉には、希望と情熱があった。
「誰かを傷つける武器も、みんなを笑顔にできる何かに変えちゃう。リオンもそのくらい簡単に考えればいいんだよ!私みたいにさ!」
「アーディ…それは、嘘だ。
貴方の方が、私なんかよりずっと深く、重く、『正義』について考えている。…あの時もそうだった。」
思い返すのは7日前、暴漢が神エレンの財布を奪った時、彼女はこう私を諭した。
[さっきのおじさんが言ってたことも、間違いじゃない。私達が“正論”を言えるのは、私達が力を持っているから。]
[だからじゃないけど…リオン、赦すことは、『正義』にはならないかな?]
「私が杓子定規の正義を盲信していた中、貴方は普遍の『正義』の拠り所をずっと…探っていた。」
すると、アーディのおちゃらけた雰囲気が少し沈んだ。
「そうだね、『正義』って難しいよ、リオン。」
彼女は寂しそうに、笑った。
「押し付けてはいけない、背負ってもいけない。そして、秘めているだけでも何も変えられない時がある。……本当の『正義』なんてないんじゃないかって、そう思っちゃう。」
その言葉に、私は静かに彼女の名前を零した。
虚空を見つめる彼女は、見た目より、大人びていて。
「難しいことなんか考えないで、みんなが笑顔で幸せになればいいのに。」
彼女の望みは子供じみていて、何より…尊かった。
とても簡単で、それでいて難しいものだった。
アリーぜは何と言うだろう。
ーー案外、わからないわ!と大声で言うかもしれない。
アストレア様はなんと言うだろう。
ーー静かに、見守ってくれるような気がした。これは、
そして、私はそれに、納得できるだろうか。
「ーでもね、こんな風に立ち止まっちゃう時は、自分に正直になるようにしてる。」
「えっ?」
「今、自分は何をやりたいんだろうって。
ーーだから、今の私の『正義』はやっぱり、リオンを笑顔にすることかな!」
少女は破顔して、私の手を取った。
「リオン、踊ろう!ここで!」
「ア、アーディ?!いったい何を…!」
通りの真ん中へ躍り出て、指を絡め、即興で踊り始めた。
今は夕暮れ、夜に備える多くの人々の目に、当然留まる。
「なんだ、なんだ?」
「道の真ん中で、エルフとヒューマンがいきなり…」
「冒険者様が踊ってるー!」
顔が赤くなるのが自分でわかる。同時にアーディの思惑が分からなかった。
「ア、アーディ!待ってください!どうしてこんなことを?!」
「昔の英雄は言ってたらしいよ!『アルゴノゥト』に書いてあった!
『さぁ、踊りましょう、麗しいお嬢さん。愉快に舞って私に笑顔を見せてください』って!」
「は、はぁ?!」
こればかりは素っ頓狂な声を上げても許されるはずだ。
「私の好きな物語!みんなみんな笑顔になればいい!そうさ、これが私の『正義』の実践!」
一人の少女の
「変なやつら…なんて思ってたけど…!」
「あぁ…なんか…いいな!」
「冒険者さま…きれー!」
「ほら!みんなも笑いだした!手拍子、足拍子、どんどん盛り上がる!」
「しゅ、衆目に晒されている!あられもない姿を!こんなもの、私にはただの辱めです!やめてください!アーディ!」
「だーめ、リオンが笑うまで踊っちゃうもんね!」
「そ、そんな…」
もうどうしようもないのかと、そんな時差し込む希望の光…
「やけに賑やかな声が聞こえると思ったら…何をやっているのですか、貴方達は。」
「あ、アスフィ!君もどう?リオンと一緒に踊ってるんだ!」
「私は遠慮しておきます。舞踏は故郷の王城で散々踊ったので。」
「アンドロメダ!助けなさい!」
「無理です。私にはアーディを止められません。それに…珍しい貴方を見たいので、じっくり見物させてもらいます。」
「アンドロメダ~~~~~~~~!!」
舞踏は続く、人々の喜びの声を旋律として。
「ーリオン!正義は巡るよ!」
「えっ…?」
「たとえ真の答えじゃなくたって、間違えていたとしても、姿形を変えて、私達の『正義』は巡る!」
そこで、気づいた。アーディの『正義』。その源流。
「柔らかいものが頑固なものになってたり、優しいものが冷たいものに変わってしまうかもしれない!それでも、私達が伝えた正義は、きっと違う花になって咲く!
もしかしたら花じゃなくて、星の光になってみんなを照らすかも!」
彼女の
この思い、果てまで届けと。
「私達が助けた人が、他の誰かを助けてくれる!今日の優しさが、明日の笑顔をもたらしてくれる!
ーーー私は…そう信じたいんだ!」
「アーディ…」
「だから、笑おう!リオン!巡っていく『正義』のために、今日を笑おう!」
羞恥はない。抱いた諦観も、もう晴れた。
だから…
「ええ!」
覆面を外し、笑顔をアーディに見せる。
舞踏は、日が暮れるまで続いた。
一時間遅れの投稿。申し訳なく思います。
そして、アーディの名シーン。これを完全に忘れていたことをお詫びします。
さて、今回ではルリスのみが“神エレン”の本性を知った形になります。
そして、アーディとリオンの舞踏。いいシーンですね。
(忘れてたやろがい)
再履修して思ったのですが、“正義失墜”以降のリオンの精神の基軸はここだと思います。
道に迷っても、歩き続ければ戻ってこれる『原点』とでも言いましょうか。
とりあえず、てぇてぇ。
さて、最後になりますが…
どうだったでしょうか?
よろしければ評価・感想よろしくお願いします!
(新古今和歌集)