ウマソウル"に"見えるウマ娘   作:罠ビー

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ウマソウルに見えるウマ娘

「ねえ聞いたことある?ラインオブサイト先輩の話」

「なんでも彼女に気に入られると強くなれるって噂の」

 

「でももし彼女の機嫌を損ねるとトレセン学園にはいられなくなっちゃうんだって」

 

 

◆◆◆◆

 

 トレセン学園。トゥインクルシリーズに挑むウマ娘達が勉学にレースに励む青春の場である。個性的な、問題児ともとれるウマ娘は多くそれが生徒会や学園上層部を悩ませたりもしているが大きな事件や問題はなく運営されている。否、それは表面上であり問題が無いわけではなかった。

 ラインオブサイト。栗毛のボブをした、一見すると普通の目立たないウマ娘である。強いて言えば目の焦点がわかりづらく無感情な印象を与えがちであるくらいだろうか?背丈、体格も特段目立つ様子もない。学業成績は比較的ほどよいウマ娘が多い中明確に優秀であり、競争成績は出走数こそ少ないものの成績自体は優秀で重賞への出走用件を満たしている。コミュニケーションは積極的に行うタイプではないが表面上は悪くはなく人当たりも良い。

 総じてアグネスタキオンやゴールドシップ、シリウスシンボリやナカヤマフェスタといった問題児達とは比べるまでもないくらいの優等生のように思われる。ただ一点を除いて。

 

 彼女と練習を行ったウマ娘のうち複数人が自分を見失い何かに怯え走れなくなってしまうのである。

 

 しかし当の本人は悪気なんてモノはなく、練習相手を悪く扱う様子もない。原因が解らず生徒会も手出しは出来ないのである。ただ一部の生徒やチームでは彼女との接触は控えるようにと新入生には言い聞かせているようだ。しかしまだ若い少女達。好奇心や肝試しといった感覚で彼女に近づく子達があとをたたない。

 しかし彼女にコミュニケーションや練習の禁止を求めるということはあまりにも正統性がない。それに彼女に気の毒である。

 その為この問題は生徒会および学園上層部にとっては頭の痛い問題となっている。

 

 

◆◆◆◆

 

「ラインオブサイト先輩」

 

 東京都府中市トレセン学園。今日も今日とて昼食後に中庭で紅茶を飲んでいると目の前にウマ娘が現れて私に話しかけて来た。イマイチ私は顔を覚えるのが得意ではない。どちらかというと存在感みたいなものでその姿を認識している節があるため自信はあまり無いが多分初対面であろう。

 

「どうしたのかな?多分私と貴方ははじめましてだと思うんだけど」

「はい。はじめまして。私はスローモーションと申します」

 

 スローモーション君というらしい。黒鹿毛で一本の白い筋が顔に入っている。そしてこういう時は次の言葉も決まっている。

 

「私と並走トレーニングをしてくれませんか?」

 

 

 食堂がにわかにざわめき始めたのを感じる。アイツやりやがったとか、大丈夫なのとかヒソヒソと話す声が煩わしい。しかしそれを断る理由もないので了承する。何故か友人のマンハッタンカフェからは止めるように言われるが彼達は思い悩んでその上であまり良い噂のない私の所まで来てくれているのだ。そんな彼の意思を尊重したい。

 しかし誰も彼も私と並走をしたあとに再び私に会いに来てくれる子は中々いない。寂しく感じるが私もあまり他のウマ娘の事を覚えていないのだから仕方ない。

 スローモーション君は周りのウマ娘に止められたりとかやめとけよとか思い直せとか色々言われながら私の前から去っていった。約束をしたが来ないなら来ないで構わない。来るなら一応期待に応えられるようにしておこう。

 

 放課後。スローモーション君は約束通り私の前に現れた。緊張しているのだろうか?耳がピンと立っており呼吸も浅いように感じる。

 

「緊張しているの?スローモーション君」

「いえ、そんなことないです」

 

 明らかに緊張している。とりあえずほんのりと流しながらまずは走ってみよう。

 

 ……やはり、なんでこんなにも走りにくい走り方をするのだろうか?私たちの脊椎はそのように立てて走るのに向いていないはずだ。脊椎を寝かせて前傾姿勢をとって、手は4足では走るなとは言われているがそうではない範囲で倒して走れば速いだろうに。私たちの身体はそうできているはずだ。

 そう思い手本を見せるように前に出る。

 

 

「あの、先輩?」

「どうしたのかな?」

「先輩はどうしてそんな走り方なんですか?私の事をからかっているの!?本気の私を嘲笑っているの?」

「そんな気はないのだけど……知りたいのならもう少し私と走ってみない、それとも少しお話しする」

 

 

 ………ほらやっぱりその反応だ。走り方が利に叶ってないのはそっちだというのに。そう思いながら私は彼に話しで理解して貰うか走りで理解して貰うか聞いてみる。

 

 並走を継続するようなので直線で私の領域を発動しようとする。これが理解して貰うには一番速いから。だから

 直線に入る。完全に4足で走る私たち以外の私達の姿が直線の後方からあがってきて

 

 

「サイトさんっ!!」

 

 

 いつの間にか来ていたのかマンハッタンカフェが私達を制止する。マンハッタンカフェ。私の友人にして青鹿毛の美丈夫。物静かな友人だが私が誰かと走っているとこうやって声を荒げる。

 

「大丈夫ですか?今見えそうになったものと自分に起きそうになった事は忘れた方がいいです。私の顔は……大丈夫そうですね」

 

 マンハッタンカフェに声をかけられたスローモーション君はカフェの姿を見て、声をかけられた内容に首をブンブンと立てに振ると逃げるように私の前からいなくなってしまった。

 

「君の言伝てを破った事は悪いと思うけど覚悟を持ってきた彼の願いを無下にするのも悪いと思うわ」

「……サイトさん、これが彼女の為だと思ってるのですか?」

「私は彼の為を思ってるんだけど厳しいなぁ」

 

 私達の身体は4足で生活するようにできている。それなのに2足で生活している。レースで勝ちたいなら四足かそれに準ずる姿勢で走れば良いのに。だから私は才能がこれっぽっちも無いのに重賞で走る事が出来ている。

 

 そもそもロバが四足なのにウマ娘が四足でない理由や合理性が解らない。言葉を話すし二足で歩くことは可能だ。だけれど身体つきがロバ種とそう変わらないのだから二足である事の方が違うのではないか?そう何度も母に問いかけると母は私を病院に連れていき、度々入院させられた。あげく家を追い出すに近い形で私はトレセン学園に来ることになった。

 

 

 

 ラインオブサイトは魔女である。彼女に一番近しい友人のマンハッタンカフェはそう言っていた。彼女にはウマソウルが見えている。またその事が当然であると捉えている。故に異常性と危うさに気づいていないのだ

 ドッペルゲンガーに二度逢うと死ぬ。……というわけではないが人間には自我というモノがある。自分と同じ姿の何かが自分の前に現れると自分というモノを人は保てるのだろうか?自分が相手のコピーなんじゃないだろうか?と思わないでいられるだろうか?

 

 人間の自我は思ったより脆い。鏡に移る自分に「お前は誰だ」と言い続ければ自分の顔が自分のモノで失くなる瞬間が来るように。それをウマソウルというナニかに突きつけられたりするとしたら。

 

 それはとても恐ろしい事なのだと感じる。しかし彼女は成育の過程でそれが見えていたからかそうではない。だから彼女は請われればその事を簡単に教えてしまう。

 

 私達は本来四足歩行をするロバに近いナニかであるという彼女の妄想、彼女にとっての現実を。そして今の二足での走りや生活は本来の私達の在り方からは離れているのだという設定を。

 

 




ラインオブサイト
栗毛のボブで目の光が無い以外は凡庸なウマ娘。基本的には善意で自分のように走れば速く走れるのにと思っている。ウマ娘のウマソウルが見えるではなくウマ娘がウマソウルに見えている(手は人間の手。ウマなり1ハロンをリアルにした感じに見えている)
ちなみにウマ娘以外は普通に見えている。

余談、カフェって人界の魔王にビジュアル似てるよね
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