ウマソウル"に"見えるウマ娘   作:罠ビー

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 思い付いた哲学系とウマ娘世界の考察を投げてるだけなのではと思ったけど続きました。
 お前サンデー産駒としか絡んでねえな


サイレンススズカと走行欲求について

 

 獣は理由もなく走るだろうか。そんなことはない。獣は食らうため、生きるため走るのである。ではウマ娘の走る理由は何だろうか。ロバ面の私たちが走る理由は何なのだろうか?

 

 ウマ娘はなぜ走るのだろうか?

 

 まるで小学生レベルの話だ。あなたはなぜ走るのですか?あるウマ娘は名誉のため、あるウマ娘は勝利のため、あるウマ娘はお金のため。そう答えるかもしれない。

 

 それは厳密には『なぜレースを走るのか』であると考える。ではなぜレースの道を志すウマ娘が多いのだろうか?幼い頃から足がヒトに比べて速いから?幼い頃の成功体験、快体験は走る動機にたり得るだろう。もっともヒトとより獣に近いウマ娘とを比べるのはナンセンスであると思うが。

 

 反証を挙げるとウマ娘という種族は敏捷性以外にも力という面でヒトより優れている。しかし格闘技や土木作業などはファーストチョイスになることは非常に少ない。敏捷性に優るから走るという理由づけは些か弱いもののように感じられる。

 

 また中央で負けて心を折られ、志半ばでトレセン学園を去ったとしても、就職してレースとは関係ない職についたとしても走る事から完全に足を洗うウマ娘はいない。

 

 ウマ娘には間違いなく走行に対する欲求があると思われる。仮にこれを走行欲求と仮定する事にしよう。走行欲求はウマ娘において原始的な欲求であると考えられる。

 

 そうするとこの走行欲求にも疑問が湧いてくる。

 

 なぜロバ面の私達は原始的走行欲求を持つのだろう?多くの獣の持つ食欲や睡眠欲などの欲求は種の保存、生存から湧いてくるモノである。

 

 私達の走行欲求の源泉はなんなのであろうか?

 

 私は意外かもしれないが走る事は好きである。何故好きなのかと自己洞察をしてもそこに由来を見つける事はついぞ出来ずこのような主語の大きい話で己を納得させているのかもしれない。そして取り留めもなくこの走行欲求を消費しているとよく一緒になる事があるウマ娘がいる。

 

 私と同じ栗毛のそのウマ娘は私と同じように淡々と走る。走行の間目が合えば軽く会釈などはするが、お互いに比較的物静かな性分の為言葉を交わす事もない。互いに互いを邪魔しない。ただその場にあり走る。そのため友人というには縁遠いが私の事を避けないというだけで私に好意的なウマ娘なのだろう。

 

 

「ラインオブサイトさん」

 

「知られていたんだね。ごきげんようサイレンススズカ君。朝露の湿り気と夜を惜しむ寒風が肌をつんと刺す良い朝だね」

 

「ええ、そうね」

 

 

 その日はたまたま同じタイミングで足を止めたサイレンススズカ君が私に話かけてきた。私とサイレンススズカ君の距離感はこのパラレルな併走をするだけの関係性だったのだが……彼女から言葉を交わして来るとは思いもよらなかった。

 

 

「話かけて来るとは珍しいね。私はサイレンススズカ君の邪魔にならないように心がけていたのだけれど」

 

「私もラインオブサイトさんの邪魔をしないようにしていたわ。でも私が気にしていなかったようにあなたも私の事を気にしていなかったでしょ」

 

「もちろんそうだね。互いに走りたいから走っていた。ただそれだけだね」

 

 

 互いに軽く足を動かす。なんとなく止まっているのは私たちの性質的にも関係的にも、この場面では会わないと思った。私の走行姿勢は軽く走るようなときでも低く、彼女の走行姿勢は私には不合理に感じるほど高いため目線は合わなくなる。それでもその点には互いに干渉はしない。

 

 

「ラインオブサイトさんは少し意外だったわ。走っていると何となく走るのが好きなのはわかったんだけど、普段の学園でのイメージと違うなと思ったから」

 

「私自身もそう思うよ。私もこの走行欲求の根源を理解してないからね。生理的欲求というには合点がいかないね」

 

「難しそうな事を考えてるのね。走りたいから走っていたんじゃないのかしら」

 

 

 サイレンススズカ君と走りながら、段々と走る速度は上がっていくがまだ会話の妨げにはならない速度を維持する。サイレンススズカ君は私にそんな事を考えながら走っているのかとでも言いたげな語調である。走りたいから走る、誤ってはいないが。

 

 

「走りたいから走ってるよ。でもなんで走りたくなるのか気になってるんだ。眠たいや食べたいは生きるためよね。動物は逃げるため、食らうため、生きるために走るわ。私たちは極論走る必要性は無いはずなの。だけれど走るわよね、何かに駆られるように」

 

 

 私は特に答えが返ってくることは期待せずにサイレンススズカ君に言う。この並走とと同じだ。会話をしているようで別に互いに意識しての発言じゃない。ただ考えを音に乗せて風と一緒に流しているだけ。互いに景色の一部にたまたま相手がいる。その程度の関係。だから「ラインオブサイトさんの話にのっとるなら」と続けて彼が返してきたことに私は驚いた。

 

 

 

 

「私たちは走らないと死ぬのよ」

 

 

 多分、きっとね。と、ある種抽象的で投げ槍のような、やはりただ走っている自分の頬を撫でて置き去りにされる風にただそっと置いただけのような、それでいてすとんと腑に落ちる答えをサイレンススズカ君は答えた。それがきっと彼女にとっての普通とでもいうようにこともなげにそう答えた。

 

 この場合の『死ぬ』はどういうことだろうか?回遊魚のように走っていないと生理的に死ぬのだろうか?しかし、私たちは常に走っていないといけないわけではない。

 

 エネルギーはどうだろうか。大食らいの多いウマ娘では走行を行わないと産生するエネルギーと消費するエネルギーのバランスが取れずに肥満等の疾患リスクが爆発的に上昇する……と仮定すると走行以外の代謝手段でそれらは代償できるため走行の優先度が上がる理由にはならない。

 

 となると内分泌や精神的な影響なのだろう。しかし私たちと外見上近い野生生物であるロバはそのような様子は見られない。

 

 そんな事を考えてる私に比べて彼の足は止まらずに早くなる。G1級ウマ娘の足に私は追いつけないし気を使う仲ではない。しかし置いて行かれる直前、邪魔をしては悪いと思うがつい聞きたくなった。

 

 

「サイレンススズカ君はどうして走るの?」

 

「走りたいから……というのもあるけれど、景色を見ていたいの。自分だけの、景色を」

 

 

 振り返らずに私の質問の答えを風に残して彼は、そのまま私を含んだ景色を置き去りにして先に行ってしまった。その後ろ姿に羨望も嫉妬も、策略も思考も、理性すらも風と共に邪魔だと言わんばかりに捨て去ってただ原野を美しく四つ足で走る彼の様を幻視する。彼は二つ足で、私からすると不合理なフォームで走っていたというのに。

 

 彼が去った跡を私はまた考えながら走り始めた。確かにサイレンススズカ君が言うようにウマ娘は走らなければ死ぬという理由で身体から急かせるように欲求として昇ってきてるというのは私は今まで考えた事のない視点だ。それにしてもサイレンススズカ君も走らないと死ぬなんてある種荒唐無稽な論理を疑いもなく口にできるとは⋯⋯。四六時中走っている姿を見かけるし走行欲求が強く、意外な事だが社会性よりも野性が強く獣に近いタイプなのかもしれない。

 

 そう思いながら自分の走行欲求を慰める作業に戻る。そろそろ陽も昇りきり昼の社会が起き出す頃だろう。私とて無駄に寮長に怒られたいわけではない。

 

 

 

「おはようございます、スズカさん」

 

「おはよう、スペちゃん」

 

 私が寮に戻ると何事もなかったようにスペちゃんが起きていて何事もなかったように朝の挨拶をする。そしていつものように1日が始まる。

 

『走らないと死ぬ』

 

 ラインオブサイトさんと話してる時に何事も無いように出てきた言葉。確かに私は走る事が好きで先頭の景色を見ることが好き。でも改めると、私が死ぬという非常に強い言葉を使った事に少し驚く。

 

 確かに私は走れなくなると死ぬ程苦しいかもしれない。だからこの死ぬは比喩表現の筈だ。だけれど口から出たときはそれは比喩だとは思ってない熱量で、まるで別の意思が私の声門を操って溢れ出たような気持ちを覚えた。

 

 走っていると気分がふわふわと浮遊しているような感覚を覚える事がある。多幸感から来る物だと思ってたけど……

 

 そういえばラインオブサイトさんを置いていってしまったわ。あとで謝りに行こうかしら。

 

 

 




 サイレンススズカ
 根源的走行欲求が高いウマ娘。cocで秘匿ハンドアウトがある奴。ある意味個人主義で本人はその気は無いがラインオブサイトの事は風景の一部くらいの認識していない。ところでウマソウルは……

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