ぼっちの兄もまたぼっち   作:差六

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評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

九千字超えたので二分割して投稿します。

前回のあらすじ
「陽キャには勝てなかったPart2」



第十二話「夏休みの生存戦略」

 激動の一学期だった。十七年弱の人生で、一番多くの変化があった三か月だ。

ひとりに、妹に友達が出来て、バンドを組めて、来月にはライブまで開く。

これ以上ないほど、喜ばしい変化の、成長の日々だった。

 

 明日は終業式。

学校に行かなくてもよくなるから、ひとりの機嫌もきっと今日は最高潮だ。

期末テストも、無事に赤点無しで通過させてあげられた。今回は駄目かと思った。

そういう訳で、僕の機嫌も今朝からとてもいい。

今日用意した山田さんの弁当も、いつもよりちょっと気合を入れて作った。

 

 明日で学校も終わりだからか、珍しく教室の空気も緩い。平和だ。

早く山田さんの席に弁当を置いて、のんびりしよう。僕は彼女の席に近づいた。

 

 そしてその時、視線を感じた。見られている。ありえない。

確かに教室の空気は緩い。だけど僕への恐怖心が抜けきった、という訳でもない。

依然として皆前か机を見て、僕を視界に入れようとしていない。

 

 では誰が僕を。ぐるっと周りを見渡しても、こちらを向いている人はいない。

怪しいのは近くにあるダンボールだけ。ダンボール。まさかね。中に人がいるとか。

いや、自分が入ったことあるんだから否定できないよ。

 

「あ、ご、後藤くん。おはよう」

「……おはよう」

 

 ダンボールを見つめていると、伊地知さんが来た。あれから朝挨拶してくれる。

相変わらずの百面相だけど、前のように怯えられてはいないと思う。

僕がダンボールを見ていることに気付くと、彼女も視線を移した。

そして、眉を下げた。たまに見る呆れた時の伊地知さんだ。

 

「……リョウ、何やってんの?」

「今の私は空気。誰にも気づかれない」

「いやほんとに何やってるの?」

 

 山田さんの声がした。山田さん入りダンボールだったらしい。

伊地知さんじゃないけど、何やってたんだろう。

無情にも伊地知さんにダンボールを剥ぎ取られ、あーと情けない悲鳴を上げていた。

何故かカメラと虫取り網を持っている。少し早い夏休み気分?

山田さんは意外と怖がりみたいだから、気づかれない内に移動しておこう。

 

「くっ、虹夏、今私は生きるための作戦中。邪魔しないで」

「生きるためって、それが?」

 

 直前までダンボールを被っていた人が出来る表情じゃなかった。

顔がいい、とひとりがこの間言っていたけど、確かに絵になる。

言ってる内容と状況を除けば、凛々しい騎士のようにも見えた。

 

「私の机の上を見て」

「何もないけど」

「そう。ない」

 

 重々しい頷きだった。

 

「最近の私は、お供え物を当てにして生きてきた」

「毎日楽しみにしてたよね」

「でも多分、土日と同じく夏休み中はもらえない」

「きっと同じ学校の子だからね」

「そうなると私は夏休みを越えられない……!」

「家でご飯食べなよ」

 

 僕の弁当は思ったより当てに、楽しみにされていたみたいだ。作り手としては嬉しい。

ただ、流石に夏休みの間のことは考えてなかった。

いくら金欠でも、家にいればご飯は食べられると思う。複雑な家庭環境なのかな。

 

「やだ。面倒」

「お父さんとお母さんに絡まれるだけでしょ?」

「面倒」

 

 あの感じだと反抗期か何かだろうか。そこまでは気を配れない。

 

「で、ご飯の心配してたのは分かったけど、何してたの?」

「捕まえようと思って」

「は?」

 

 山田さんは手に抱えたカメラと虫取り網を、誇らしげに掲げた。

掲げられても分からない。伊地知さんも斜めになっている。

 

「お弁当の子捕まえて、夏休みも作ってもらう」

「恩を仇で返してる!?」

 

 表情を変えずに、ふふっと山田さんは笑っていた。

その笑みはどこまで本気か、いやあれ全部本気だ。飢えた獣の目をしてる。

だからああやって、自分の机を監視していたんだ。

 

 なんにせよ捕まるわけにはいかない。夏休みのことは後で考えよう。

今の錯乱した山田さんに見つからないよう、今日のご飯をお届けしないと。

 

「ファンの子にそんなことしちゃ駄目だよ!?」

「ファンなら私に尽くせて満足。私もお腹いっぱいで満足。ウィンウィン」

「べ、ベーシストだ……」

 

 話に夢中で、二人とも山田さんの机に背を向けていた。これはチャンスだ。

漫才で気が逸れている最中に、弁当セットを置いて離脱。

無事に今日の弁当も置けた。よし。

 

 僕が離脱して少しすると、山田さん達が弁当に気付いた。目を丸くしている。

ひとりがバンドを組んでから、隠れるの上手くなってきたな僕。

 

「もしや忍者……?」

「そんなわけないでしょ」

 

 

 

「リョウ、今日バイトでしょ。遅刻するとお姉ちゃん怒るよ」

「怒られてもいい。大義のためだから」

「大義?」

「命は大義だよ」

 

 放課後、弁当箱を回収しようとしたところ、山田さんと伊地知さんが待ち伏せしていた。

隠れて様子を見る。伊地知さんは付き添いで、山田さんだけが本気で待ち伏せてるようだ。

今朝と同じくカメラと虫取り網を構えている。カメラは何に使うんだろう。

 

 今朝一瞬の隙を狙われたからか、山田さんは弁当箱から、まったく目を離そうとしない。

これだと出し抜くのはちょっと難しい。置いて帰ろうかな。

でも今夏だし、一晩放置すると酷いことになりそう。持って帰って洗いたい。

しょうがない。ここは僕と山田さんの我慢比べだ。

今のところ、バイトの予定が入っている山田さんが不利なはず。

 

「リョウ、やっぱりやめた方がいいって」

 

 僕と山田さんの不毛な戦いが始まって数分、伊地知さんが切り出した。

 

「こんなに会わないようにしてるってことは、きっと何か事情があるんだよ」

「……」

「その子のためにも、夏休みは自活しよ。ね、リョウ」

 

 伊地知さんの提案に山田さんは少し考えて、黙ってこくりと頷いた。

そして弁当箱へ歩いて行った。あれ、食べ残しとかあったのかな。

伊地知さんも分からないようで、一緒に近づく。

弁当箱にたどり着いた山田さんは、何かをそこに差し込んでいるようだった。

 

「リョウ、これって」

「今日までのお礼」

「……こういうところがずるいよなぁ」

 

 そんな会話をして、彼女たちは立ち去った。念のためしばらく待つ。

部活動の声、音しか聞こえない。廊下で誰かが潜む気配もない。本当に帰ったみたいだ。

よかった。これで回収できる。

 

 安心して弁当箱を回収しようとした僕は固まった。ある物を見つけてしまったからだ。

そこにはチケットがあった。今度行う結束バンドのチケット。

なるほど、確かに弁当の作者が山田さんのファンなら、これ以上のお礼はない。

でも、僕これ二枚目。僕は分身出来ないから一枚しか使えない。

 

 

 

 ライブのための審査、オーディションは無事に終わった。

オーディション前になんやかんやあったけど、それも過ぎた話だ。

問題なのは、今目の前で謎の物体になろうとしているひとりだ。

 

「ノルマ五枚、の、ノルマ五枚、の、のるののののるまっまま」

「おにーちゃーん、おねーちゃんがこわれたー」

「あとで直しとくね」

 

 ノルマ、つまりチケットノルマだ。それぞれ各五枚ずつ売るよう言われたらしい。

ノルマを課された当初は、父母兄妹犬、と繰り返し安心していた。

僕は全然安心できないことに気付いていた。まず犬は、ジミヘンは無理がある。

だけど帰宅途中に指摘すると、家に帰れなくなると思ったから黙っていた。

 

 ご機嫌に、父母兄妹犬と唱えていたひとりだったけど、家に着くとすぐ父さんに言われた。

ジミヘンは流石に入れないと。続けて母さんに、ふたりも年齢的に無理と追撃を受けた。

家族でノルマはこなせない、そう気づいてしまったひとりは当然のように壊れた。

たった二枚、されど二枚。高い高い壁だった。

 

 これを見ると、僕も行かない方がいいかな、とは言えない。

もの凄く身バレの危険性が高いと思うけど、お客さんの一人としてなら行けるはず。

お客さんとして行けば気付かれても、何故か魔王がライブに来た、で済むだろう。

 

「その、ひとりちゃん。渡せるような友達は」

「おかーさん、おねーちゃんだれもおともだちいないよ」

「いるよ」

 

 ふたりの言葉にひとりが復活、復活してる? あれ復活って言っていいの?

起き上がったひとりがふたりに詰め寄った。ゾンビのような動きだった。

なのに滑らかだった。妹ながら不気味だった。

 

「おっお姉ちゃん話さないだけで学校に沢山友達いるよ家で話してないだけだよ

冗談でもそんな事言っちゃだめだよ」

 

 速かった。圧が強かった。あんな目でものを言われたら、何も言えないだろう。

人に向けていいものじゃない。

 

「人の痛みが分かる子になりなさい……」

「ご、ごめんなさい、おねーちゃん」

「そこまで」

 

 ひとりの頭にチョップを入れて緊急停止。

ふたりもデリカシーがなかったけど、怖がらせすぎ。人のしていい顔じゃない。

チョップの甲斐あって、ひとりは止まった。というか固まってる。

壊れたまま再起動したからバグったかな。

 

「もちろんだけど、僕もいないよ」

 

 母さんが何か言いたげだったから、先に言っておいた。

友達0人。多少話せる人はいるけど、それもひとりのバンドメンバー。販売元だ。

学校で、買ってね、と適当に声をかければ売れる気はする。でもこれ脅迫だ。

あと、自動的に結束バンドと僕が関係者になってしまう。

今までの努力が水の泡だ。だからこれはできない。

 

 予想していたのか、母さんも父さんも特に反応しなかった。

ひとりの友達出来た発言にもまだ半信半疑なくらいだ。当然の反応だ。

どうかと思うけど、今までの生活を思うと何も言えない。

 

 父さんと母さんは、自分たちで何とかしようと考えたようだ。

犬友に相談しようかとか、会社の同僚を誘おうかとか、ひとりに提案している。

聞こえてるのかどうか、ひとりは石像のままだった。時間かかりそうだ。

部屋で勉強して待っていよう。

多分自分で売るって言いだすから、いざという時のために準備だけはしておこう。

 

 

 

 それから今日に至るまで、ひとりから相談は受けていない。

暇さえあれば唸っているから、どうにかしようとはしているみたい。

もちろん行動に移してはいない。一応まだライブまで日にちはある。

あるけど夏休みに入ると人と接する、接してないけど、機会は激減する。大丈夫かな。

 

 僕は部屋で、山田さんからもらったチケットを見ていた。僕も僕でどうしよう。

もらうだけもらって行かないという手もある。

だけどそれだと、当日結束バンドを見に来るお客さんが一人減ってしまう。

きっと皆多くの人に聞いてもらって、ファンになってほしいはずだ。

 

 じゃあ僕は山田さんのチケットで行って、ひとりにもう一枚売ってもらうとか。

進捗確認も兼ねて、ひとりに聞いてみよう。

 

「ひとり、僕がチケット返すって言ったらどうする?」

「……………………ぇ」

「あ、いえ、すみませんなんでもないです」

 

 多分死ぬな。僕かひとりか、もしくは両方。

まだ死ねないから、このチケットは山田さんに返すしかない。

お礼としてもらったのに申し訳ないけれど、誰も死なないためにはこれしかない。

 




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