ぼっちの兄もまたぼっち   作:差六

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感想、評価ありがとうございます。

前回のあらすじ
「魔王捕獲作戦」

当初の予定から少しルート変更しました。
その影響で三千文字ほど増えました。


第十三話「求められると弱い男」

『山田リョウ様へ お心遣いありがとうございます。ですが大変申し訳ございません。

私情都合のためライブへ行けません。応援しています。夏休みなんとか生きてください。』

 

「リョウ、大丈夫?」

「……」

 

 次の日、弁当に添えるように置いてあったチケットと手紙を見て、山田さんは黙り込んでいた。

ただじっとチケットを見つめて動かない。

プレゼントを突っ返されて落ち込んでるのかな。悪いことをしてしまった。

罪悪感が沸く。だけど、あれは受け取れない。

 

「ファンなのにライブにも来れないってことは、よっぽどの事情があるんだね」

「……」

「おぉ、今日のお弁当重い。中身はなんだろな~」

 

 俯く山田さんを励まそうと、伊地知さんはわざと明るく振舞っていた。

あの人にもどんどん貸しが積み重なっている。全て返せる日が来るんだろうか。

 

「虹夏」

「おっとごめんごめん。お弁当、ちょっと気になっちゃって」

「おかしいと思わない?」

 

 山田さんが顔を上げて、伊地知さんに問いかけていた。

その目に浮かんでいるのは落胆じゃない。疑念と知性だった。

ついこの間、テスト期間でしか見ることのなかったものだ。

 

「おかしい?」

「このチケット、返す理由が無い」

「えっ、行けないから返すってのは普通じゃない?」

「普通ならそう。だけどこの子は私のファンだよ。私からの贈り物というだけで価値がある」

「自分で言うか。……でも、確かにそう言われるとそうかも」

「それに私はこの子の顔も名前も知らない。黙ったままでもライブに来たかどうかは分からない」

 

 山田さんに釣られて、伊地知さんも考え込みだした。

そんなこと考えなくていいよ。なんか返されたで流してほしい。

 

「考えられる可能性は二つ」

 

 山田さんは指を二本立てた。

 

「そもそも私のファンじゃないか、もうチケットを持っているか」

 

 どっちも合っている。僕は別に山田さんのファンじゃない。

演奏を聴いたことも無いから、ファンになりようもない。

そんな僕の気持ちも知らず、彼女は、前者はありえないと指を折った。

伊地知さんも同意して頷く。

 

「ファンじゃないなら、こんな風に毎日お弁当用意しないよね」

「お弁当とメモを隠れて毎日供える。この子はきっと真面目で、自分の考えに素直な子」

「それがどうして、もうチケットを持ってるってことになるの?」

「発想を逆転させて考えてみた。返す理由じゃなくて、返さないといけない理由はあるのか」

 

 両手を使って、ひっくり返す手振りをしながら山田さんは推理を続けた。

 

「チケットの所在が曖昧になって起こるのは、観客が一人確定で減ることだけ」

「そう、だね。お金も、この場合はリョウが出すし」

「だからそこは問題ない。問題なのは」

「私たちの演奏を聴く人が、一人減る?」

 

 山田さんは頷いた。

それは確かに、僕が山田さんにチケットを返すことを決めた理由の一つだ。

まさか察せられるとは、それも山田さんにされるとは思ってもなかった。

 

「そんなことに気づくのは、気にするのは重度の真面目なファンだけ」

「なるほどー。……あれ? でもそれは返す理由で、元々持ってる理由にはならないよね」

「観客のことに気づいても、私からの贈り物だから一枚だけなら、って取っておくと思う。

でも、もう一枚となると気が引けるから、こうして返した。だからもう持ってるはず」

「うーん、推理にしては願望混じり過ぎな気がするけど」

 

 伊地知さんはあごに手を当てて考えていた。

そして山田さんはお腹に手を当てて、顔を青くしていた。

 

「……そう思わないと、胃が」

「あー、よしよし」

 

 伊地知さんが背中と頭を撫でていくうちに、山田さんも回復した。

それを確認した伊地知さんは、両手を握って気合を入れるように言った。

 

「じゃあ、リョウが売った相手の中にいるかもしれないね。心当たりある?」

「まったく覚えてない」

「そこは覚えてないの!?」

 

 気がついたらなんか売れてた、そう山田さんは言う。なんか売れてた。強者の発言だ。

日々ノルマ妖怪として着々に進化しているひとりに、その力を少しでも分けてほしい。

あの子本当に大丈夫かな。最近はチケットに謎のエネルギーを感じることがある。

気のせいか鳴き声もあげているような気もする。僕も疲れてるのかもしれない。

 

「覚えてないけど、ライブには必ず来るはず。そこで捕まえる」

「その計画まだ続いてたの……?」

 

 最後に山田さんが暗い笑みをして、虫取り網とカメラをどこからか取り出した。

そんなものどこに隠してたんだろう。伊地知さんじゃないけど、まだ諦めてなかったんだ。

僕が弁当の子だって気づかれるはずもないけど、ライブ当日はちゃんと気をつけないと。

 

「それにしてもどうしちゃったの、リョウ。こんなに頭使っちゃって」

「生きるためなら、私は何だってやる」

「うわー、かっこわるいー」

 

 

 

 終業式、HRも終わり放課後になった。これで夏休みだ。

ひとりの高校生活も、無事に九分の一が終わった。

四月頃は卒業出来るか怪しいところもあったけど、今はもうあまり心配してない。

これからもこの一学期のように、慌ただしいけど楽しい毎日が続くはずだ。

 

 ひとりは今日もスターリーで練習だ。帰りで合流するまで時間はある。

弁当箱を回収して、どこかで時間を潰そう。図書室で宿題やるのもいいな。

 

 僕は油断していた。今朝山田さんが思ったより落ち込んでなかったこと。

彼女の推理ショーで、ライブの時に捕まえると言っていたこと。

学校が終わって、もう他人と会わなくてもいいこと。

理由はたくさんあった。その分だけ、気が抜けていた。だから周囲への警戒がおろそかだった。

 

 僕が弁当箱を取った時、何かが開く音がした。

普通の扉の音じゃない、金属音。ロッカーか何かが開いた音。

振り向いた先に見えたのは、勢いよく開かれた掃除用具入れと転がる山田さん。

 

 まだ、諦めてなかった。

彼女はあんなことを言いながら、今日も弁当の子を捕まえようと網を張っていたようだ。

 

ようだとか言ってる場合じゃない。

幸い、勢いが良すぎたせいか彼女は転がり出て、うつぶせの状態だ。

こっちを見ていない。震えてもいないから、多分ここにいるのが僕とも気づいてない。

 

 この隙に逃げる、それは難しい。

掃除用具入れから飛び出した山田さんは、教室の出入り口付近に倒れている。

どこも打ってないし、僕と目も合ってない以上すぐに起き上がるはずだ。

だから教室を出て立ち去るまでに、必ず姿を見られる。

僕ほど髪の長い男子もいないから、後ろ姿だけでも絶対に特定される。

 

 じゃあベランダから飛び降りようか。ここは三階だ。このくらいならいける。

途中途中で手すりを使って減速すれば、怪我無く降りられる。

逃走経路を頭の中でイメージする。これも駄目だ。降りた先はグラウンド。

グラウンドにいる他の生徒は皆ジャージや練習着だ。制服姿の僕は悪目立ちする。

山田さんがベランダから下を覗けば、走り去る僕がよく見えるだろう。

 

 迷っている間に山田さんが動き出した。起き上がる、首が動く、こちらを向こうとする。

逃げる、隠れる、立ち向かう。どれを選ぶにしても、もう悩む時間は無い。

僕は一瞬で周りを見渡して、決断した。

 

「とらえた」

 

 僕が決断してすぐ、シャッターを切る音がした。同時にフラッシュも焚かれる。

弁当を確保する瞬間、弁当の子という証明、カメラはそのためにあったらしい。

あと一瞬躊躇していたら、そこに僕は映っていただろう。

ファインダー越しに見た光景に、山田さんは首を傾げていると思う。

 

「……ダンボール?」

 

 そう、ダンボールだ。昨日山田さんが被っていたダンボールがまだあった。

誰も片づけてない。夏休み前だし、捨てる場所ここから遠いし、面倒だったのかな。

今週の掃除当番のサボりに助けられた。僕は今、そのダンボールに隠れている。

まさか人生で二回も、それも同じ人を理由にダンボールに隠れることになるなんて。

 

「……」

「……」

 

 隠れて間一髪難を逃れた。でもそれだけだ。危機的状況なのは変わらない。

どう考えてもこのダンボールは怪しい。山田さんの席の横で、堂々と直立している。

変な人がここに入ってますよ、と全身で主張している。僕は不審者だ。

 

「……なにこれ」

 

 僕もそう思う。思わず同意してしまう呟きをして、山田さんは僕に近付いてきた。

そのまま確認するように周囲をぐるぐると回る。そして、ノックしてきた。

 

「もしもし、入ってる?」

 

 返事、すべきかな。このまま黙ってたら、なーんだただの空き箱かーってならないかな。

 

「入ってないなら、開けるよ」

 

 当然無理だった。山田さんがダンボールを掴んだ衝撃が、もろに伝わる。

少しずつ、持ち上げられる。このままだと御対面だ。きっと彼女はまた意識を失うだろう。

この間は突発的な出会いだった。だから記憶も曖昧だったみたいだけど、今日は段階を踏んだ。

目が覚めた時に弁当の子=魔王ということを、覚えているかもしれない。

 

「は、入ってます」

 

 彼女の問いに答えると、ダンボールの動きが止まった。そして下げられた。

そのまま滑るように山田さんが後ろに下がっていくのが、足音で分かった。

逃げられた、まさか、この声だけで僕だと気づかれた?

 

「男の子だったんだ」

「あっ」

 

 山田さんはここにいるのが男だと思ってなかったらしい。

薄々そんな気はしてた。ファンの子って言い方には、なんとなく女の子っぽい響きがある。

弁当を隠れて渡すというのも、男というよりも女の子がするイメージがある。

それなら女声に調整してから返事をすればよかった。

 

 しばらくの間、僕達は何も喋らなかった。

やりづらい。この状況の原因がほぼ僕にあるのは分かってるけど、何か反応してほしい。

出来れば早く立ち去ってほしい。僕の思いとは裏腹に、彼女はまた僕に近付いてきた。

そのまま自分の席に、僕の隣に座る。そして手をダンボールの上に乗せた。

 

「君がお弁当をくれた子?」

「あっはい」

 

 認めざるをえない。何も無いのにこんなことしてたら本当に不審者だ。

山田さんがこの箱を剥ぎ取らないのは、弁当の子が正体を隠したいことを知ってるからだろう。

そうじゃなければ問答無用だ。すると箱から魔王が飛び出してくる。とんだトラップだと思う。

 

「どうして隠れてるの?」

「色々あって」

「色々」

「はい。なんやかんやで」

「そっか。開けるよ」

「話します。話しますから、少し待ってください」

 

 誤魔化そうとすると、力技に出られた。今僕は圧倒的に弱い立場だ。

求められるままに話すしかない。話すにしても、どれを話そう。

当たり前だけど全部は無しだ。仮に全部を話してみたらどうなるか、想像してみた。

 

『実は君のバンドのギター、後藤ひとりは僕の妹なんだ。

妹がお世話になってるから、そのお礼として今まで弁当を用意してたんだ』

『ぼっちは、魔王の妹だったのか。そんな危険物はバンドに置いておけない。クビ』

『新しいギター、探さないとですね』

 

 多分こうなる。せっかく上手く回り始めたひとりの生活を、僕で壊す訳にはいかない。

かといって全部嘘も駄目だ。最近知ったことだけど、僕は嘘が下手な上に口が軽い。

誤魔化そうとしている内に、ポロッとひとりのことを話しかねない。

 

 ここは実践してみるしかない。

喜多さんに敗北し、伊地知さんに口を滑らせてから、僕は嘘の吐き方を勉強した。

本や論文からだから、机上の空論に過ぎないかもしれない。それでもやらないよりいい。

それらによると、全てが嘘というのはバレやすい、とのこと。

本当に隠したいことだけ嘘を吐いて、他は妥協して事実をそのまま話す。

これが嘘のコツらしい。まだ検証もしてないけど、やってみるしかない。

 

「その、僕は学校で浮いてて、そんな僕が表立って渡すと迷惑がかかると思って」

「そう。でも安心して、私も浮いてる」

 

 励まされた。他人に励ましてもらうなんて数年ぶりだから、少し嬉しい。

だけどこの励まし、大丈夫だから普通に弁当渡しに来て、って意味だよね。

それは認められない。やった時のことを想像もしたくない。

 

「ありがとうございます。でも、ごめんなさい」

「……分かった。もう一つ聞かせて」

 

 励ましを無下にされても、山田さんは特に気にしていなかった。

それ以上に聞きたいことがあるみたいだ。

僕が言うのもなんだけど、不審なところばかりだからね。何回聞いても足りないと思う。

 

「どこで私のファンになったの?」

「いえ、別にファンではないです」

「えっ?」

「あっ」

 

 またやってしまった。適当に何か言えばよかったのに。それこそスターリーでとかなんとか。

箱の中にいるのに、山田さんから変なプレッシャーを感じる。

ダンボールを掴まれた。実際に箱への圧力がどんどん増している。

 

「……開けるね」

「ごめんなさい、勘弁してください」

 

 誠心誠意謝ると許してもらえた。箱にかかる圧力が消える。

そっとその部分を内側から撫でてみる。へこんでる。

 

「じゃあどうして?」

「弁当を作ってた理由ですか?」

 

 そう、と短い返事だった。彼女からしたら、今全ての前提条件が崩れてしまった。

訳が分からなくて当然だと思う。それでも、全部は話せない。

 

「詳しくは話せません。ただ、お世話になったからです」

「お世話、私が?」

「はい、僕と、僕の大切な子が」

 

 ひとりから聞いただけ、その話だけでも僕は彼女に恩を感じている。

生まれて初めてあだ名を付けてもらった。

初ライブの緊張でどうしようもない時に励ましてもらった。

作詞を通じて、暗くて後ろ向きなところも個性として認めてもらえた。

これだけじゃない。僕が知らないところで、もっとお世話になってると思う。

そうだ。僕は伊地知さんだけじゃない。山田さんにも数えきれないほどの恩がある。

 

「だから、せめてもの恩返しです」

 

 そう伝えると、彼女は黙ってしまった。急に恩返しと言われてもピンとこないのかな。

ピンと来ない方がいいんだけど。あ、ぼっちのことかぁ、なんて言われたら僕の心臓は止まる。

 

 しばらくダンボールを触りながら、山田さんは考え込んでいた。

分からなくて手持ち無沙汰なんだと思うけど、怖いから触るのはやめてほしい。

彼女がその気になれば、一瞬で僕は外に出てしまう。真綿で首を締められているような気分だ。

やがて考えがまとまったのか、ダンボールから手を放し、山田さんが話し始めた。

 

「お願い聞いてくれたら、今日はこのまま帰るね」

「分かりました。どんなお願いですか?」

 

 夏休みも弁当を作ってほしい、とかかな。

僕も色々とあるから、毎日は難しい。山田さんのご飯のために、毎日下北まで来るのはつらい。

それでもたまになら、ひとりの送り迎えのついでになら大丈夫だ。

そう思っていたけれど、山田さんの要求は僕の想像を超えていた。

 

「連絡先教えてくれる?」

「連絡先、ですか。どうして?」

「夏休みもご飯作ってほしいから。お腹空いたら連絡する」

 

 冷静に考えると、かなり乱暴な発言だ。

秘密は聞かないでやるから、これからもご飯は作ってこい、みたいな。

そのはずなんだけど、なぜか僕は安心していた。

 

「ロインは事情があって使えないので、メールアドレスなら」

「うん。連絡取れるならなんでもいいよ」

 

 喜多さんとの戦いの結果、僕のロイン上の名前は魔王だ。

変えた当初は家族みんなにとても心配された。

魔王を自称し始めて、このまま世界征服に乗り出すんじゃないかとまで言われた。

そんなことしません。多分。

 

 下北沢高校で魔王なんて呼ばれているのは僕くらいだ。

他の高校ならともかく、この高校の生徒でふざけて魔王を自称出来る人はいない。

自ずと、こんな名前を付けているのは魔王本人ってことになる。

だからメールならと言ったところ、受け入れられてしまった。

 

「これ私のアドレスだから、あとでメールして」

「はい。ありがとうございます」

 

 ダンボールの隙間から、ちぎられたノート片を入れられる。

暗くてよく読めないけど、英数字がいくつか書かれているのは分かる。

山田さんのアドレスだろう。言われた通り、あとで空メールを送ろう。

 

 連絡先を受け取ると、山田さんは宣言通り立ち上がった。

ほっとする僕に、帰る準備をしながら彼女は声をかける。

 

「今度やるライブのチケットは持ってる?」

「持ってます」

「ちゃんと来てね」

 

 元々行くつもりだった。行くつもりだったけど、この分だともっと対策しなきゃ。

どんな変装をすればいいんだろう。最悪着ぐるみかな。夏場だし死にそう。

 

 ライブを思って憂鬱な僕を置いて、山田さんは教室のドアへ向かった。

戸に手をかける音がする。その時、思い出したように口を開いた。

 

「言い忘れてた、今までごちそうさま」

 

 そして僕の方へ振り返った。

 

「全部美味しかったよ」

 

 隙間からかすかに見えたのは、笑顔の山田さんだった。

その言葉を残して彼女は教室を去った。

伊地知さんが昨日言っていた、ずるいの意味が、なんとなく分かったような気がした。

 

 

 

 

「お兄ちゃん、それ何?」

「……僕のお昼?」

「えっ、こんなに?」

 

 夏休みが始まって数日、早速山田さんから連絡があった。メールにはたった一文のみ。

 

『そろそろカロリーゼロになる』

 

 とだけ書かれていた。もしかして、あれから何も食べてないのかな。

流石にそれは、いやまさかね、そんなわけとは思う。

思うけど、初めて校舎裏で見た山田さんの姿が目に浮かぶ。

お小遣いを使い果たして、草を食べる人だ。僕の想像をいつも超えてくる。

……最悪を想定しよう。何も食べてないかもしれない。

 

 そんな風に考えていたら、たくさん用意してしまった。

多分一週間分くらいある。保存も考えて、クーラーボックスで持ってきてしまった。

ひとりが不審に思うのも無理はない。僕だって、若干何してるんだろうって思ってる。

 

「ほら、その、僕、成長期だから」

「……そっか?」

 

 納得したような、してなさそうなひとりと一緒に下北沢へ向かう。

電車に揺られ、ぼーっと景色を眺めるひとりを見ながら、僕は考え事をしていた。

 

 あの日僕のことがバレても、そのままひとりが妹だとは分からないはず。

ただ山田さんが気絶して、今後弁当を渡すことがなくなるだけ。

彼女が不健康になるかもしれないけど、それだって究極を言えばどうでもいいことのはずだ。

なのにどうして、僕はあんなに必死になって隠そうとしていたんだろう。

電車に乗っている間なんとなく、ずっと考えていた。

 

 




今週の掃除当番は山田です。

次回のあらすじ
「魔王」
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