ぼっちの兄もまたぼっち   作:差六

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最初に二話くらい投稿したほうがいいと聞いたので、二話です。

前回のあらすじ
「妹に置いてかれた」


第二話「脱ぼっち対策委員会が終わった日」

「思ったより時間かかっちゃった」

 

 コンビニへ向かってから二十分くらいして、ようやく僕は公園に戻ってこれた。

まさか僕の前に並ぶおばあちゃんが急に振り向くなんて。また気絶させてしまった。

なんとか現世に戻せてよかった。習っておいてよかったカムバック現世。

 

「あれ、いない」

 

 駆け足で公園に戻ってすぐ、ひとりがいないことに気がついた。

どこか、公園の外へふらっと出かけて行った、とは考えられない。

今日のひとりは重症だ。とっておきの策と一緒に自信も打ち砕かれた。

多分応急処置のために、自分の動画でも見てると思ってたんだけど、いない。

 

 今のひとりが自分から動けるとは思えない。

だから、外部によって動いた、動かされたという可能性が一番高い。

ぱっと思い浮かぶのは、妖怪みたいな言い方で失礼だけど、陽キャの類だ。

仲良しグループやカップルなんかが公園に近づいたら、本能のままひとりは逃げる。

 

 ただ、今公園には誰もいない。僕一人だ。

僕も陽キャやカップルの生態には詳しくないから、断言は出来ない。

だけどこんな短時間で、公園に出たり入ったりするのかな。

というか、こんなブランコとベンチくらいしかない小さい公園に来る?

 

 根拠が薄い。通りすがりの陽キャ説は違う気がする。

それじゃあ誰かに声をかけられたとか。誰かって誰。ひとりに声をかけるような知り合いはいない。

そんなのが出来たらすぐ僕に自慢してくれるはずだ。

 

 ナンパとか。いやありえないな。

確かにひとりはよく見ると、とても綺麗な顔立ちをしている。

小動物のような、時たまUMAのような、振る舞いだって可愛らしい。

でもいつも猫背で俯いてるから顔は見えず二重あごだし、知らない人の前だと大体UMAだ。

特に今日は大失敗したから暗黒オーラを纏っている。

声をかけられるならナンパじゃなくて珍獣ハンターか何かからだろう。

 

 声をかけられるもなし? じゃあ最悪誘拐とか。いやこれもないな。

さっきも思ったけどひとりはぱっと見の魅力に乏しいし、今日はギターを持ってて重装備だ。

無理やりどこかへ連れ去るのは難しい。というか、いざとなればあの子は物理的に爆発する。

公園に何の痕跡もない以上、物騒なことは起こっていない。

 

 何も分からないな。なんでもいいか、推理ごっこはもうおしまいだ。

頭の体操で冷静になった。とりあえず電話して、繋がらなかったらその時考えよう。

通話履歴の最新から、ひとりの番号を呼び出す。ワン、ツーコールの途中で無事に繋がった。

 

「も、もしもし」

 

 耳慣れた、控えめで可愛らしい声がした。

体から力が抜ける。自分でも思った以上に、相当動揺していたみたいだ。

ちょっと離れたぐらいでこれだ。自分でも心配性が過ぎると思う。

 

「よかった繋がった。ひとり、今どこ?」

「ど、どこって」

 

 あっ、と漏れた声が聞こえる。この感じは多分、連絡忘れてたな。

続けて置いていったことを謝られた。そこは別に気にしてない。本当だよ。

でも変に心配しちゃうから、メッセージくらいは送って欲しかったかな。

 

「ううん、大丈夫。それで今どこ?」

「い、今すたーりーってとこに向かってるみたい」

「向かってるみたい?」

 

 そんな、まるで誰かと一緒に行動してるみたいな発言。

どういうことだろう。まさか大穴のナンパ説が当たりだったのか。

 

「うん。それで、そこでららライブ、あれ、に、虹夏ちゃん?」

「えっ、ひとりちゃん、誰かと公園で待ち合わせしてたの!?」

「あっやっ、待ち合わせというか、お兄ちゃんが戻ってくるの待ってて」

 

 

 ひとりがしどろもどろに説明をしようとすると、女の子の声が電話から聞こえた。

本当に誰かいた。にじかさんというらしい。どこかで聞いたような気がする。

そんなことより、ひとりが人を名前で呼んでる。僕は腰を抜かしてベンチに座り込んだ。

 

「あっ、お兄ちゃん。に、虹夏ちゃんがお話ししたいって」

 

 そのにじかさんが、色々と説明してくれるそうだ。

助かる。ひとりはお話が苦手で、僕の理解力不足もあるけど説明が覚束ないことも多い。

スターリーという店名とライブという言葉で、大体事情は把握出来たつもりだ。

それでも答え合わせのためにも、詳しいことは聞いておきたい。

 

「も、もしもし。ひとりちゃんのお兄さんですか?」

「はい、もしもし」

 

 少ししてひとりとは違う、明るさと緊張の混じった声がした。

なんだろう、名前だけじゃない。声も、なんだか最近聞いたことがある気が。

 

「私、下北沢高校二年の伊地知虹夏です。ごめんなさい、ひとりちゃんのこと連れてっちゃって」

 

 いじちにじか、いじちさん、いじちさん………うーん。

 

「あっ」

「ど、どうしました?」

「あー、いえ」

 

 クラスメイトだ。覚えがあって当然だ。しかも先月話しかけて気絶しなかった貴重な人だ。

確かにあの伊地知さんなら、あの状態のひとりに話しかけられても不思議はない。

 

「えっと、それでですね」

 

 伊地知さんが言うには、今日彼女と友達の三人でバンドデビューの予定だった。

だけど当日にギターの子に連絡がつかなくなり、このままではライブができなくなるらしい。

それでサポートギターをしてくれる人を探している途中、公園でひとりを見つけたそうだ。

 

「凄い」

「え?」

 

 ひとりはお願いを断れないタイプだけど、そもそもお願いするのが難しい。

下手な人が近づけば逃げるか、文字通り破裂してしまう。言葉にすると意味が分からない。

そんなひとりが初対面の伊地知さんに、お願いされるままついて行っているなんて。

想像出来なかった偶然、奇跡だ。いや、感心しててもしょうがない。

 

「それで、ひとりにギターを?」

「はい、急な話で申し訳ないんですけど」

「ひとりがやると言ったのなら、僕からは何も」

 

 音楽に関して、僕がひとりに出来ることはほとんどない。

中学生の頃、ひとりがバンドを組みたがっていたことはよく知っている。

でも僕には何の手伝いも出来なかった。気絶キルスコアを伸ばしただけだった。

 

「あの、伊地知さん、妹は結構人見知りで、その、緊張しいです」

「あー」

 

 納得された。道中一度も目が合わなかったり、独り言を聞いたりしたんだろう。

 

「だけどそれ以上に頑張り屋なんです。だから、よろしくお願いします」

 

 だからどうしたって言うんだろう。自分でも何を言ってるのか分からなかった。

妹は、なんて言ったけれど、僕も立派な人見知りでコミュ障だ。妹のことを言えない。

 

「…ふふっ。はい! こちらこそよろしくお願いします!」

 

 僕のヘンテコな発言も気にしない様子で伊地知さんは返事をくれた。

今も心配は心配だけど、これなら期待してもいいかもしれない。

 

「やったねひとり、チャンスだよ」

「う、うん。頑張る」

 

 挨拶もそこそこに伊地知さんに電話を代わってもらう。

戻ってきたひとりの声には力があった。不安もプレッシャーも感じる。

でもそれ以上に、前に進もうとする気持ちを見せてくれた。

公園で纏っていた暗黒オーラはどこかにいってしまったようだ。

安心する僕に、それでね、とひとりは続ける。

 

「お兄ちゃんも来てくれる?」

「あ、僕は行けないよ」

「え、なな、なんで」

 

 一瞬で断る僕にひとりが絶句していた。

妹の晴れ舞台だ。僕も行っていいなら行きたい。でも行かない方が絶対いい。

 

「伊地知さん、多分クラスメイトなんだ」

「あっ」

 

 まったく自慢出来ないことに、僕は周囲にとんでもなく恐れられている。

視線があれば怯えられ、声をかければ震えられ、目が合えば気絶される。

今まで生きてきて、家族以外とまともに話せたことは数えるほどしかない。

誰かを怖がらせる振る舞いを自分からした覚えはないけど、小学校の頃からずっとこうだった。

 

 そんな僕が同行してしまえば、ライブどころではなくなってしまうかもしれない。

今日はひとりが主役だ。妹の邪魔なんて、何があってもしたくない。

それに伊地知さんがクラスメイトなら、当然僕を知って、僕を恐れている。

彼女も泣きも気絶もしなかったけど、膝が笑っていたのは今も記憶に新しい。

ひとりが僕の妹だと知られたら、降って湧いた奇跡的な関係は崩れるかもしれない。

 

「着いたよーひとりちゃん。あっそういえばうち地下だから電話通じづらいんだよね」

「えっ、ちょっ」

 

 スターリーに着いたようで電話が切れた。ツーツーと虚しい音がする。

 

「……大丈夫かな」

 

心配になって携帯を見つめてしまう。今からでも向かうべきだろうか。

首を振って心配を追い出す。終わったら連絡して、とだけメッセージを飛ばし携帯をしまう。

この心配もきっと杞憂だ。だって僕の妹は、あのギターヒーローなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひとりが伊地知さんとともにライブへ向かってしばらく。

暇になった僕は近くの図書館で勉強をして時間を潰していた。

持ってきていたテキストも終わった。適当に本でも読むかなと立ち上がった時、携帯が震えた。

僕の連絡先を知っているのは家族だけだから、父母妹の誰かからだ。

多分妹、ひとりからだ。外はいつの間にか暗い。ライブも終わった頃だろう。

 

 やっぱりひとりからだった。スリープを解除すると同時に携帯が震える。珍しい。

ひとりはメッセージを一つ送るのにも通常の十倍くらいエネルギーを使う。

それなのに連続で来るなんて。そんなに元気いっぱいになれたのかな。

 

『終わりました』

『限界です』

『完熟マンゴー』

 

 意味不明だった。一級ひとり検定持ちの僕でもちょっと時間がかかる。

この感じ、失敗した? いや、ひとりの実力でそれは考えにくい。あの子はプロ並みだ。

じゃあバンドの人と何かもめたとか。ひとりはちょっと大変な子だからあり得る。

でもそんな風に誰かを傷つけたとしたら、ひとりはもっと焦っているはずだ。

今頃その人のために必死になっていて、僕へメッセージを送る余裕なんてないだろう。

悩みながら、僕は図書館を出てスターリーに向かった。住所調べといてよかった。

 

 

 

 スターリーに向かう途中、ピンクジャージがふらふらしているところを見つけた。

ひとりだ。頼りない足取りで駅の方へ歩いている。夢遊病者のようだった。

疲れ切った心では下北沢のお洒落な雰囲気に耐え切れなくて、本能で駅に向かっているのだろう。

ひとり、と声をかけた。

 

「っ、お兄ちゃ、あっ、すみっ、すみません」

 

 驚いて猫のように飛び上がり、目の前を歩く女の人にぶつかりそうになった。

女の人は気にせずひとりを一瞥するとそのまま立ち去った。

 

「お疲れ様、ひとり。ライブはどうだった?」

「うん、凄い楽しかった!」

 

 疲れを滲ませながらも、ひとりの笑顔は今年見た中で一番晴れやかだった。

僕もつられて嬉しくなる。その気持ちのまま、ひとりの成功を褒め称えた。

 

「よかった、大成功だったんだ」

「…………」

 

 笑みが凍る。ついっと目を逸らされる。あれ?

 

「ぜ」

「ぜ?」

「ぜ、ぜんぜんだめだった……!」

「えっ」

 

 

 

 なんでも、とんでもなく下手な演奏になってしまったらしい。

 

「ひっ、一人で弾くのとバンドで合わせるのって感覚が全然違くて」

「加えて人前だったから?」

「う、うん。だ、だめだめだった」

 

 例えるなら、そうだな、二人三脚が近いのかな。

一人ならどれだけ速い人でも、二人だと呼吸を合わせられないと走れすらしない。

ずっと一人でやってきたひとりでは、呼吸を合わせるなんて考えすらなかったのかもしれない。

この例えは言わないでおこう。ひとりが体育祭を思い出してまた失神しちゃう。

 

「それで。伊地知さんは?」

 

 誰かと合わせる経験不足と人見知りが合わさって、実力を全然発揮できなかった。

ひとりのことだから、上手ですよアピールとか演奏前にしている気がする。

その上で失敗したから、もっとダメージが大きくなってしまったってところだろうか。

 

「み、ミスりまくっちゃったーって笑ってた」

「それだけ?」

「う、うん。リョウさん、もう一人の人もMC滑ってたねーくらいで」

 

 やっぱり伊地知さんはいい人だった。もう一人のりょうさん? も器が大きい。

今度菓子折りとか送るべきかな。手渡しだと殺すことになるから、方法を考えないと。

なんて思ってるとひとりの爆弾発言に、僕は腰を抜かしかけた。

 

「だ、だから、次までにはクラスの人と挨拶できるようにしてきますって言ってきたよ」

「……つぎ?」

「う、うん、次」

 

 つぎ、すぐあとに続くこと。また、そのもの。

ひとりが、人とまた会う約束をしている。それも自分から。

 

「そっか、次か」

「えっ、なな何か変?」

「ううん、全然。全然変じゃない。素敵な目標だと思う」

 

 次また会おうねって約束は、ぼっちじゃできないことだよ。

気づいてないみたいだから、本人には伝えない。

時間を置いて自分で気付いた方が、喜びもきっと大きいはず。

 

「それでね、はじめてろいんこうかんして」

 

 もう脱ぼっち対策委員会なんていらないかもしれない。

結局ひとりは訪れた幸運を、自分の手でをつかみ取った。

あれこれやりながら、何一つ成果を出せなかった僕ではもう力不足だ。

ぼっちの僕が、非ぼっちの妹の人間関係に口を出すのはおこがましい。

 

「……ぅぇへへ、ドーム、アリーナ、武道館」

 

 肩の重みに、つい沈んでしまった思考から帰ってくる。

ひとりが可愛らしい寝言を漏らしていた。寝ちゃったみたいだ。

今日は色々、本当に色々あった。寝落ちするぐらい疲れちゃうよね。

 

「おやすみ、ひとり。今日はよく頑張ったね」

 

 起こさないよう、柔らかくひとりの頭を撫でる。

この子に明日も、今日みたいにいいことがたくさんありますように。

 

 

 

 

 

 

 次の日の夕方、帰り道の途中僕はひとりにしがみつかれていた。

ひどい顔をしていた。とても世間にお出しにしていい顔じゃない。

 

「何かあったの?」

「お、お兄ちゃ、ば、ばばっばばっ」

 

 なんて?




お読みいただきありがとうございました。

次回は二日後19日(木)になると思います。

次回のあらすじ
「修行」
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